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探偵の門
こちら、朝霧探偵事務所
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古びた三階建てのビル。窓には『朝霧探偵事務所』の文字が見える。
今まさに、そのビルに入ってゆく青年が一人。大きなリュックサックを背負い、一枚のビラを手にしている。
一階に入ってすぐのところには、三十代くらいだろうか、女性がくわえ煙草で床を掃いていた。
「あの、すいません」
青年はおどおどした様子で、その女性に声をかけた。
「ん? なんだい、あんた?」
女性の声は、酒か煙草の影響かかすれていた。そしてそれが切れ長の目、シャープな顔立ちによく合ってた。
綺麗な人だな。青年はそんな邪な感情を抱きながら、「探偵事務所にいきたいんですけど」といった。
「ああ、むっちゃんとこのお客さん。うちはエレベーターがないからね、そこの階段使ってちょうだい」
女性は腰をトントンと叩きながら、薄暗い廊下の先にある階段を顎で示した。
「あ、ありがとうございます」
うちということは、このビルはこの女性のものなのか。青年はそんなことを考えながら会釈をし、女性の脇を通り抜け、廊下を進んだ。
「バイチャー」
背後でけだるげな女性の声。青年はその声にちょっと胸をざわつかせながら、階段を上ってゆく。
数分で、目的である三階へとたどり着いた。
相変わらず薄暗く、廊下の先にあるドアに『朝霧探偵事務所』の看板が掛けられているのが見えた。
青年は、額の汗を拭いながらそちらに向かう。
途中、『甦れ、明日原市再生委員会』『眉唾工房』というプレートの掛かった部屋があった。青年はそれらをちらりと一瞥し、廊下を進む。
「ここか」
青年は呟いた。その顔には、緊張の色が窺える。
「すいませーん」
ノックをし、消え入りそうな声で青年はいう。その音と声が、薄暗い廊下によく響く。
数秒の沈黙。反応はなし。
「すいませーん」
繰り返すが、結果は同じ。
青年は少し逡巡し、ゆっくりとノブを握った。回してみるが、鍵が締まっているのがわかった。
留守か。青年はなぜかホッと息を吐き、腕時計を見た。時刻は午前十時三十分を過ぎたところだった。
そうだな、今日のところは帰るとするか。青年がそう自分にいい聞かせた瞬間、カツン、カツンという足音が。
青年は生唾を呑み込んだ。
それは一定のリズムでこちらへと近づいているのがわかる。二階から三階、もうすぐ見える。
「あら、お客さん?」
白のスーツ姿の女性が、きょとんとした顔で立っていた。その手には、コンビニ袋がぶら下がっている。
「すいません、ちょっと買い出しにいってたもので」
栗色の髪に大きな瞳。理知的な女性だ。青年は焦る頭で、そんな感想を抱いていた。
女性は青年の脇に立ち、鍵を開ける。ほのかに漂う甘い香りに、青年の身体がふるりと震えた。
「どうぞ、お入りください」
ドアが開き、いかにも事務所といった部屋が見えた。青年は「失礼します」と促されるままに部屋へと入った。
今まさに、そのビルに入ってゆく青年が一人。大きなリュックサックを背負い、一枚のビラを手にしている。
一階に入ってすぐのところには、三十代くらいだろうか、女性がくわえ煙草で床を掃いていた。
「あの、すいません」
青年はおどおどした様子で、その女性に声をかけた。
「ん? なんだい、あんた?」
女性の声は、酒か煙草の影響かかすれていた。そしてそれが切れ長の目、シャープな顔立ちによく合ってた。
綺麗な人だな。青年はそんな邪な感情を抱きながら、「探偵事務所にいきたいんですけど」といった。
「ああ、むっちゃんとこのお客さん。うちはエレベーターがないからね、そこの階段使ってちょうだい」
女性は腰をトントンと叩きながら、薄暗い廊下の先にある階段を顎で示した。
「あ、ありがとうございます」
うちということは、このビルはこの女性のものなのか。青年はそんなことを考えながら会釈をし、女性の脇を通り抜け、廊下を進んだ。
「バイチャー」
背後でけだるげな女性の声。青年はその声にちょっと胸をざわつかせながら、階段を上ってゆく。
数分で、目的である三階へとたどり着いた。
相変わらず薄暗く、廊下の先にあるドアに『朝霧探偵事務所』の看板が掛けられているのが見えた。
青年は、額の汗を拭いながらそちらに向かう。
途中、『甦れ、明日原市再生委員会』『眉唾工房』というプレートの掛かった部屋があった。青年はそれらをちらりと一瞥し、廊下を進む。
「ここか」
青年は呟いた。その顔には、緊張の色が窺える。
「すいませーん」
ノックをし、消え入りそうな声で青年はいう。その音と声が、薄暗い廊下によく響く。
数秒の沈黙。反応はなし。
「すいませーん」
繰り返すが、結果は同じ。
青年は少し逡巡し、ゆっくりとノブを握った。回してみるが、鍵が締まっているのがわかった。
留守か。青年はなぜかホッと息を吐き、腕時計を見た。時刻は午前十時三十分を過ぎたところだった。
そうだな、今日のところは帰るとするか。青年がそう自分にいい聞かせた瞬間、カツン、カツンという足音が。
青年は生唾を呑み込んだ。
それは一定のリズムでこちらへと近づいているのがわかる。二階から三階、もうすぐ見える。
「あら、お客さん?」
白のスーツ姿の女性が、きょとんとした顔で立っていた。その手には、コンビニ袋がぶら下がっている。
「すいません、ちょっと買い出しにいってたもので」
栗色の髪に大きな瞳。理知的な女性だ。青年は焦る頭で、そんな感想を抱いていた。
女性は青年の脇に立ち、鍵を開ける。ほのかに漂う甘い香りに、青年の身体がふるりと震えた。
「どうぞ、お入りください」
ドアが開き、いかにも事務所といった部屋が見えた。青年は「失礼します」と促されるままに部屋へと入った。
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