5 / 41
探偵の門
よく食う人
しおりを挟む
久能は採用が決まると、すぐさま事務作業へと投入された。
なにもかもがわからないなか、睦美の指示を頼りに、必死に書類の山と向かい合った。
そして今日六杯目になるコーヒーに口をつけたところで、昼を迎えた。
「久能くん、出前とるけど、君はどうする?」
睦美は伸びをしながら、外の景色を眺めている。都市の外れとあって、この建物より背の高いビルはない。
「そうですね……」
まさかこんなことになるとは思ってもいなかったので、久能はなんの用意もしていなかった。お寒い懐事情もあって、即座に出前に食いつくこともできない。
そんな久能の内心を察したのか、「採用祝いでおごるわよ。遠慮しないで選びなさい」と、睦美は机の上にあったメニューを久能に向かい放り投げた。
「いいんですか?」
「しつこい人は嫌われるわよ。ほらほら、ちゃっちゃと決めなさい」
久能はメニューを手に取ると、ざっと目を通す。
ここ最近まともな食事をとっていなかったので、口のなかに唾液が広がり、腹が鳴った。
「一人暮らしでしょ、自炊はしてるの?」
「滅多に。いつもカップラーメンで済ませてます」
睦美は「おいおい」と呆れたように首を横に振った。
「ま、その年頃はそんなもんかもしれないけどさ、これからは栄養のあるものをとりなさい。身体がもたんよ」
「そうですね。あ、俺、月見うどんにします」
「それだけでいいの? 遠慮しないでいいのよ」
その言葉に、久能はジッとメニューを見下ろす。
「じゃあ、ナポリタンも」
「飲み物は?」
「じゃあ、サイダーで」
「それでいい?」
「はい、これ以上は。睦美さんは、なんにします?」
その問いに、睦美はなぜか胸を張り、「私はね、牛丼にかつ丼、後はバニラアイス、コーラにするわ」といった。
「い、意外に食うんですね」
「意外に食うわよ、私」
睦美は勝ち誇った笑みを浮かべた。
それにしては細くもなく、太くもなく、スカートから覗く脚はしなやかで。久能の頬が赤くなる。
「ほらほら、ぼさっとしない。注文を頼みましょう」
「あ、はい」
久能は飛びつくように受話器を手に取り、メニューにあった番号をプッシュした。
「はい、こちら『游来軒』です」
聞こえてきたのは、気だるげな男の声だった。
「あ、出前、頼みたいんですけど」
「はい、かしこまりー」
なにやらすれる音がして、男の「はい、注文どうぞー」という言葉。
久能はちらちらと睦美の方を盗み見ながら、「えっと、かつ丼と牛丼と……」と覚えた品名を口にした。
なにもかもがわからないなか、睦美の指示を頼りに、必死に書類の山と向かい合った。
そして今日六杯目になるコーヒーに口をつけたところで、昼を迎えた。
「久能くん、出前とるけど、君はどうする?」
睦美は伸びをしながら、外の景色を眺めている。都市の外れとあって、この建物より背の高いビルはない。
「そうですね……」
まさかこんなことになるとは思ってもいなかったので、久能はなんの用意もしていなかった。お寒い懐事情もあって、即座に出前に食いつくこともできない。
そんな久能の内心を察したのか、「採用祝いでおごるわよ。遠慮しないで選びなさい」と、睦美は机の上にあったメニューを久能に向かい放り投げた。
「いいんですか?」
「しつこい人は嫌われるわよ。ほらほら、ちゃっちゃと決めなさい」
久能はメニューを手に取ると、ざっと目を通す。
ここ最近まともな食事をとっていなかったので、口のなかに唾液が広がり、腹が鳴った。
「一人暮らしでしょ、自炊はしてるの?」
「滅多に。いつもカップラーメンで済ませてます」
睦美は「おいおい」と呆れたように首を横に振った。
「ま、その年頃はそんなもんかもしれないけどさ、これからは栄養のあるものをとりなさい。身体がもたんよ」
「そうですね。あ、俺、月見うどんにします」
「それだけでいいの? 遠慮しないでいいのよ」
その言葉に、久能はジッとメニューを見下ろす。
「じゃあ、ナポリタンも」
「飲み物は?」
「じゃあ、サイダーで」
「それでいい?」
「はい、これ以上は。睦美さんは、なんにします?」
その問いに、睦美はなぜか胸を張り、「私はね、牛丼にかつ丼、後はバニラアイス、コーラにするわ」といった。
「い、意外に食うんですね」
「意外に食うわよ、私」
睦美は勝ち誇った笑みを浮かべた。
それにしては細くもなく、太くもなく、スカートから覗く脚はしなやかで。久能の頬が赤くなる。
「ほらほら、ぼさっとしない。注文を頼みましょう」
「あ、はい」
久能は飛びつくように受話器を手に取り、メニューにあった番号をプッシュした。
「はい、こちら『游来軒』です」
聞こえてきたのは、気だるげな男の声だった。
「あ、出前、頼みたいんですけど」
「はい、かしこまりー」
なにやらすれる音がして、男の「はい、注文どうぞー」という言葉。
久能はちらちらと睦美の方を盗み見ながら、「えっと、かつ丼と牛丼と……」と覚えた品名を口にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる