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13.懇願
しおりを挟む「じゃあ練太郎くんに、家の中にあがってもらいましょーよ」
いつの間にか後ろにケラトが立っており、気の抜けた悲鳴を上げる。
「け、ケラト! そんなことしたら……」
「大丈夫ですよ。組長も莅戸さんたちも話を聞いて別室に移動しましたから。鉢合わせしなければ疑われませんよ」
耳元で告げられる提案に僕は更に不安になる。そう言う問題じゃないんだけれどなぁ。
幸い僕らの会話は聞こえてない様で、練太郎くんはケラトに向けて「ですが、それは迷惑かと」と謙虚になる。
しかし、ケラトは「良いんですって。外は寒いでしょー? 風邪でも引いたら大変ですし」と押せ押せだった。
練太郎くんは暫く考え込んだ後、観念した様に「では、お言葉に甘えて……」と礼儀正しいお辞儀をする。
「はーい! どうぞ~~」
ケラトは快い返事と共に居間へと案内した。
本当、ケラトの柔軟な対応にはあんぐりとしてし
まう。
やっぱり、ケラトって僕のお母さん……?
「坊、今失礼なことを思ったでしょー?」
「いや?! そんな事はない!」
「本当ですかー? てか、早く準備しないと学校には遅刻しちゃいますし、練太郎くんのことあまり待たせ過ぎない様にして下さいね」
「わ、分かった!」
◇
ブレザーに腕を通し、鞄を持って階段を降りる。廊下を早歩きで進むと練太郎くんがケラトと世間話で盛り上がっていた。
ケラト凄いなぁ、昨日知り合ったばかりの練太郎くんにここまでフレンドリーだなんて。
「あ、墨怜。終わりましたー?」
この時だけ違う呼び方にドキッとしながらも「お、終わった」と何とか返す。練太郎くんが立ち上がり、鞄を手に取る。
「じゃ、墨怜。そろそろ行くか」
「うん。分かった」
「二人とも気を付け行ってらっしゃいー」
ケラトに玄関まで送ってもらい、二人一緒に外に出る。ふと後ろを振り返ると、玄関側で手を振るケラト、
その後ろには猿喰がいた。
猿喰は今までに見たことのないくらいの真顔で僕たちを見つめている。美人の顔の怖さに怯みそうになったが、その顔付きさえ麗しいと思った僕はきっと重症だ。
僕が一方的に固まっていることに気付いたケラトが後ろを振り返る。
「あれ、猿喰さん?! 居たなら声をかけて下さいよ。びっくりするじゃないですか」
「伏見、坊の隣にいる人は誰ですか」
「誰って坊の友達ですよー。随分と仲が良いみたいでホッと安心しましたよ。てか、猿喰さんは別の仕事があるでしょー? 行きますよー」
猿喰をくるりと後ろに向かせ、早く行けと促した。
「……墨怜?」
「……」
「墨怜」
「あ! な、何?! 練太郎くん……」
「ぼーっとしてたら遅刻するぞ。早く行こう」
「う、うん!」
僕は彼の大きな背中を急いで追いかけた。道のりの途中、小さな祠を見つけ練太郎くんを呼び止める。
「僕、いつもここでお参りしているの」
「何か願い事でもあるのか?」
「うーん。特にはないんだけれど、今日良いことがありますようにとかそんなものだよ」
僕はしゃがみ込んで合掌する。
今日も一日何も起こりません様に。
……あとは。
猿喰から嫌われませんように。
別に窮地に陥ってるわけではないが、僕からすれば好きな人に嫌われることが余程重大な問題だ。何より、昨日のことがある。
もしかしたら、僕に愛想を尽かしてしまったのかもしれない。そう思うだけで息が苦しくなりそうだ。
目を瞑って心の中で唱えていれば、瞼裏が更に影を指す。ちらりと盗み見れば練太郎くんも一緒に手を合わせていた。
てか、練太郎くんって鼻が高くて横顔が綺麗だなぁ。肌もツヤツヤしている。睫毛も長い。
クラスのみんながイケメンだというのも納得がいく。どうして練太郎くんは、僕に告白したんだろう。そもそも、僕のどこを好きになったんだろう。
視線に気付いたのか、「ジロジロ見過ぎだ」と赤面された。僕の頬も釣られて火照り始める。
「れ、練太郎くんも願い事あるの?」つい、僕は彼に聞いてしまった。
「んー。墨怜の願いが叶います様にってのと、墨怜とずっと一緒にいられますようにって願った」
「んな、練太郎くん?!」
「さぁ、行くぞ。早くしないと本当に遅刻する」
さり気ない返事が聞き捨てならず、急かす彼にどういうことかと詰め寄りたくなった。しかし、練太郎くんは歩いたかと思いきやピタリと立ち止まった。
「返事」練太郎くんはそれだけ呟く。
「返事……? あっ」
告白の件を思い出し、僕は斜め下を向く。
「いつでも待ってる」
「……」
僕は猿喰が好きな筈なのに、練太郎くんにときめいてしまうのは一体どうしてか。理由を言語化するのも恥ずかしくなった。
◇
何とかチャイムが鳴る前に教室へと辿り着き、僕は内心ほっとする。と言うより、登校の途中から早歩きで来たため息切れが治らない。
反対に練太郎くんは十分に鍛えられているのか、浅い呼吸をすることはなく平然としていた。教室に着くとすでに霧雨くんがスマホを片手に挨拶する。
「おはよー。すみちん、れんれん」
「おはよう。霧雨」
「二人ともなんやー? もうくっ付いたのか?」
僕と練太郎の顔を交互に見つめて揶揄する霧雨くん。僕は「ち、違うよ!」と必死に訂正する。しかし、霧雨くんは嘘だと茶化してピシッと指を差した。
「だってそんなに距離が近いんやもん。誰だって気になるやろ」
「これはその……」
ボッと顔が赤くなり、僅かに練太郎くんから距離を取る。霧雨くんのせいで余計に意識してしまうじゃないか。どうしてくれるんだ。
練太郎くんが僕を守るように左手で制する。
「霧雨。墨怜を揶揄うのはよせ」
「なんやー? そう言うれんれんが一番気にしとると言うのに」
「な、俺は別に……」
「バレバレよー? オレには何でもお見通しや」
霧雨くんはスマホを持つ手でポーズを取る。ドヤ顔を添えて、テレビに出てくるヒーロー戦隊のビジュアルでも真似てるのだろうか。
そこで霧雨くんのスマホロック画面が表示され、霧雨くんと女性のツーショット写真が出てきた。
「き、霧雨くん……。彼女いたの?」僕は話をそっちのけて問い出す。
「突然何の話をするんよ。あ、この画面を見て言ったのか。違うよ、これはオレの姉さん」
「霧雨くんってお姉さんがいるの?」
「おん。ちょっと年が離れているけれどな。結構元気やったんよ。仲も良くてさー」
「そうなんだ……」
霧雨くんたちとは大分仲良くなったと思っているが、未だ知らない部分を知ると、どうしてか分からないが僕のことを信頼してないのかなと考えてしまう。
……そんなこと言ったら、僕の方もか。
二人には、僕の家が極道一家であることを知らないのだから。
「そういや、すみちんにはお兄さんがいるんやっけ?」
「え? あ、うん。僕も年の離れた兄がいてね。もう社会人なんだ」
「きっとお兄さんも、すみちんに似て可愛い顔をしてるんやろなぁ」
「か、可愛いって……」
僕は全然可愛くないんだけれど。
兄さんは井戸口組の組長をやっているだけであってカッコいいけれど。
表現するなら、セクシーと言う言葉が合うかもしれない。
「確かにそうだったな。だけど、家には居なかったな」練太郎くんは顎に手を添える。
「家に居なかったって……。れんれん、すみちんの家にお邪魔したん?! ずるいーー!」
「今日は墨怜に用があったんだ。仕方ないだろ」
駄々を捏ね始める霧雨くんに対して、呆れた表情で見下ろした。
……あれ、僕って兄さんがいることを二人に話したことあったっけ。
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