血染めの世界に花は咲くか

巳水

文字の大きさ
10 / 69

9話:地穿鹿を解体する

しおりを挟む
 いったん家に戻った俺は、さっそく地穿鹿グロヴェリンの解体を始める。俺の解体方法は人目に付くとまずいため、家の隣に建てた「農具倉庫」兼「解体部屋」で行う。
 普通なら大きい獲物は仕留めたらその場で解体をするものだが、俺はもろもろの都合で丸ごと持って帰る。
 初めの頃は村の皆に驚かれたが今ではすっかり見慣れたもので、帰りの時も地穿鹿グロヴェリンを担いだ俺よりも冒険者の方に目が向いていたくらいだ。

「血抜きは終わっているから、まずは頭を落とすか――【血織刃けっしょくじん鎌首れんしゅ】」

 部屋に置いてある血染めのローブで大鎌を作り、そのままひと息に首を落とす。野盗討伐で大量の血液を採取できたおかげで威力も上がり、首はほとんど抵抗を感じずにきれいに切り落とされた。

「すげえ切れ味だな。夜狩熊ハンターベアと野盗十六人の血を吸わせると、【血濡魔術(ブラッティー・マジック)】の威力も上がるな」

 その分消費魔力もやや上がってしまったが、布を用いた【血織刃けっしょくじん】はもともと消費魔力も少ないためこの程度なら誤差みたいなものだ。
 流石に野盗の血を全部抜くのは見つかった時に吸血鬼騒ぎにでもなりそうだったから、血はひとりから全体のがこれで充分だったな。

「これなら予想よりも早く解体が終わりそうだ。明日の朝には皆に渡せそうだな」

 そうとなれば今日は少し張り切ることにする。
 肛門を切り離して腹を裂いたら、内臓を順に取り除いていく。心臓と肝臓は食用で肉とは別で保存しておく。体内に残っていたわずかな血も、【渇紅紋かっこうもん】が付与された布を被せておけば、布が触れた部分を起点に体中から血が集まってくる。

 わざわざ血の布を介せず直接血を抜けと思わるかもしれないが、【血濡魔術(ブラッティー・マジック)】に血液を直接動かす能力はない。
 一見すると血液自体を動かしているように見えるから勘違いされがちだが、俺の魔術の肝はあくまで血に濡れた「核となっている物体」であり、血とはあくまでその物体に付与効果を持たせるための強化パーツなのだ。

 かみ砕いて説明すると、物に「切断能力」や「浮遊能力」、それから「巨大化」や「圧縮」などといった機能を持たせるのが【血濡魔術(ブラッティー・マジック)】の権能だ。ただ血がついてないと魔術を発動できないという制限があるだけだ。
 体内の血液に直接干渉できればいろいろと速いのだが、これが俺の固有魔術ユニークマジックなのだから仕方ない。

「頭はどうしようか。角は薬になるし脳には魔石もあるから、取り出して売れば金になるし……そのまま剥製にするのも悪くないか? 剥製を村の酒場のホールに飾れば箔が付きそうだし、上手くいけばダリオンの心象アップにもつながるかも」

 しばらく悩んだが決められず、とりあえずそのまま放置しておいた。明日誰かに相談しよう。

 【血濡魔術(ブラッティー・マジック)】のおかげで解体も掃除も早く終わり、外が完全に暗くなる前にはすべて終わらせることができた。
 この日の夕食は贅沢に地穿鹿グロヴェリンの肉をステーキにして食べ、今日狩りに使った弓と血染布の整備をして眠りについた。

 そして翌日。地穿鹿グロヴェリンの肉を実家に届けると、期待通り喜んでもらえた。果実の類を渡せなかったのは少し心残りだが、その分美味い部位を多めに渡すことでカバーした。
 それから地穿鹿グロヴェリンの頭は相談した結果、剥製にして酒場の主人に送ることにした。完成したらダリオンに頼んで届けてもらおう。
 色恋沙汰に関して俺は未経験ではないものの、良いアドバイスができるわけでもない。ぜひ兄には頑張っていただきたいものだ。

「いやアゼル。他人事ひとごとのように言っているが、お前もいい歳だろ。好きな女性の一人や二人くらい見つけろ」

「じゃあミレーヌ酒場の娘で……冗談だ冗談。そんなショックを受けたような顔で凝視すんな。でもそんくらいの焦りは持っておいたほうがいいぞ?」

 固まってしまったダリオンを放置してその場を離れる。さあて、兄のささやかなきっかけ作りのために、ちったあ良い物でも作ろうかね。

 そこから数日の間、俺は剥製作りに没頭した。製作途中で地穿鹿グロヴェリンの目を潰してしまいかなり焦ったが、魔石を取り出し球体に加工して眼孔に嵌めて目の代わりにした。
 【血濡魔術(ブラッティー・マジック)】も駆使して完璧な球になるよう拘ったが、思いのほか出来がよくまるで生きた瞳のように輝いていた。
 完成品をダリオンに渡して酒場に届けさせると、主人は大層気に入ったらしく帰ってきたダリオンの手には手土産に渡された酒瓶が握られていた。
 ふむ、将来は剥製で生計を立てるのもありかもしれないな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」  ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が転生時に願ったのは、たった一つ。「誰にも邪魔されず、絶対に安全な家で引きこもりたい!」 その切実な願いを聞き入れた神は、ユニークスキル『絶対安全領域(マイホーム)』を授けてくれた。この家の中にいれば、神の干渉すら無効化する究極の無敵空間だ! 「これで理想の怠惰な生活が送れる!」と喜んだのも束の間、追われる王女様が俺の庭に逃げ込んできて……? 面倒だが仕方なく、庭いじりのついでに追手を撃退したら、なぜかここが「聖域」だと勘違いされ、獣人の娘やエルフの学者まで押しかけてきた! 俺は家から出ずに快適なスローライフを送りたいだけなのに! 知らぬ間に世界を救う、無自覚最強の引きこもりファンタジー、開幕!

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...