血染めの世界に花は咲くか

巳水

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31話:決着 喰血哭

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「た、退避しろ! 陣形を立て直すんだ‼」

 バルドルさんが必死に指示を飛ばすが、喰血哭ブラッドハウルの咆哮と兵士たちの悲鳴によってかき消されてしまう。
 俺の目の前で顔見知りの兵士たちが無残に宙を舞う。ひしゃげた身体が、引き裂かれた四肢が、恐怖と苦悶に歪んだ首が、俺の目に焼き付けられる。
 俺は傍にいる治療師の肩を乱暴に掴み、その眼前に自身の右腕を差し出す。

「俺を治療しろ! 早く!」
「は、はい! いえ、でも、右腕はどこも怪我していないようですが……」
「折れた骨がまだ治りきっていないんだ! 骨さえくっつけば他はどうにでもなる! 急げ、このままじゃ皆が死ぬ!」

 俺の鬼気迫る表情に気圧され、慌てて右腕に魔術をかけ始める。淡い光が右腕を包むと、次第に痛みが引いていく。

「ま、待って⁉ 行っちゃ駄目、アゼル‼」

 腕を強めに動かして乱暴に調子を確かめると、フィリアの静止を振り切り俺は喰血哭ブラッドハウルの下へ走り、怒りのままに【血濡魔術ブラッティー・マジック】を行使する。

「皆、退けえぇぇ!」

 喰血哭ブラッドハウルの咆哮にも劣らぬ怒号を上げながら、俺は鞘と血晶を組み合わせて巨大な兵器を作り出す。
 血晶は大きく膨張し、直径が一メートルに及ぶ先端が尖った円柱となる。鞘は骨組みだけの三角形の小屋のような形状へと変形し、そこから延びる四本の脚は深々と地面に突き刺さり固定される。

「――【血織刃けっしょくじん轟血崩牙ごうけつほうが】‼」

 対城、対璧を想定した攻城兵器――深紅の破城槌が喰血哭ブラッドハウルの正面に立ちふさがる。簡単な土台と丸太だけの簡素な造りだが、その威力は本物のそれよりも高い。
 本来は複数人か、大型の魔物に丸太を引かせ自由落下による振り子運動を用いて衝撃を与えるが、これは【血濡魔術ブラッティー・マジック】によって生み出された魔術だ。丸太はひとりでに持ち上がり、自由落下ではありえない速度で喰血哭ブラッドハウルの頭に向かって振り下ろされる。

 対する喰血哭ブラッドハウルも腕を伸ばして迫る丸太を止めようとするが、堅牢な城壁を一撃で破壊する程の威力を持った特製の破城槌が、そんな血と細い骨子だけでできた腕で止められるわけがない。
 先端が円錐状になった造りにより貫通力も増した丸太が、腕を破壊しその勢いのまま喰血哭ブラッドハウルの頭を正面から打ち貫く。

「ゲガッ⁉ ギョ……ロアアァァ……」

 頭が弾け、血と砕けた骨が辺りに飛び散る。
 しかし、それでもなお喰血哭ブラッドハウルは呻き声を上げながら身悶え、丸太を巻き込みながら再生を始める。
 もういい加減、その再生に振り回されるのもうんざりだ。

「その中身を見せろ――【膨閃華ほうせんか】!」

 俺が指を鳴らすと、それを合図に喰血哭ブラッドハウルの身体が轟音と共に破裂した。
 丸太の先端に仕込んだ血晶が爆弾となり、喰血哭ブラッドハウルの体内で爆発したのだ。

 血晶は【血濡魔術ブラッティー・マジック】によって圧縮された物であり、その中身は魔術によってありえない縮み方をした鉄塊と大量の血液だ。
 基本的に圧縮された物はその状態で安定するが、意図的に破壊もしくはその圧縮状態を不意に解けば、瞬時に元の状態へ戻ろうと膨張する。
 膨張のスピードはあまりにも早く、外部へと向かう圧力により核となった物体は砕け散る。砕けた物体と付着していた血液は凄まじい速度で飛散し、細かい弾丸となって周囲にあるものを破壊する。
 血と物体の自壊がもたらす強力な爆発――それが【膨閃華】という魔術だ。

 爆発により喰血哭ブラッドハウルの上半身は丸々消滅し、辺りに血と骨がまき散らされて地面も兵士たちも赤く染まってしまった。
 前身が消滅したことで倒したと思った兵士から一瞬だけ喜びの声が漏れたが、次の瞬間には皆一様に戸惑いの表情を浮かべることとなった。

「――あ、ヴ……ぁアあ……」

 残った喰血哭ブラッドハウルの半身から濁った呻き声が聞こえる。この場にいるすべての人間が驚愕で目を見開き、喰血哭ブラッドハウルの身体の断面から目を離せないでいた。

「ア、不死骸アンデッド……?」

 誰かがポツリと呟いた。
 喰血哭ブラッドハウルの身体の中から出てきたのは内臓でも、魔石でもない。それは人間の腐屍者ゾンビだった。

 魔物と呼ばれる生物の多くは「瘴気」をもとにして様々な方法で生まれるが、不死骸アンデッドとは生物が死した後にその死体に瘴気が集まり魔物化した存在を指す。
 瘴気が死や淀み、腐敗といった世界の負の活動によって生み出されるエネルギーであるため、それらを体現した死体は瘴気は多くの瘴気を集めやすく、魔物化もしやすい。
 まさか喰血哭ブラッドハウルの正体が巨大な獣ではなく、人の不死骸アンデッドだったとは誰も予想していなかった。

「ああ、くそ……」

 血液の装甲が無くなり明確な弱点が露わとなった絶好のチャンスだというのに、俺は動かずただ悪態をつくことしかできなかった。
 喰血哭ブラッドハウルの中身が不死骸アンデッドであったことに驚いたのもそうだが、それ以上にその不死骸アンデッドには見覚えがあったからだ。
 より正確に言うと、不死骸アンデッドが身に着けていたその鎧と、その身体に突き刺さった槍に。

「何故……まだ残っている……」

 死んだのだから残っているはずがない。命令を受け付けなかったのだから、俺と直接的な関係はないはずだ。そう信じ、考えないようにしていた。しかし、あの鎧、刻まれた紋章、そしてあの槍を突き付けられた以上、もう否定することはできなかった。

「ヴぁあアぁぁっ!」

 生気も理性もない腐屍者ゾンビが濁った声を上げてこちらを睨む。
 その黒鉄の鎧はとある国の兵士が身に着けていた装備であり、その胸には「竜の頭に突き立てられた白金の剣」の紋章が彫られている。
 かつては俺もそれを身に纏っていた。

 グラディア帝国――――腐屍者ゾンビとなった兵士が所属し、前世の俺が滅ぼした国。その鎧だった。

 グラディア帝国兵の腐屍者ゾンビだけでも俺を数秒動けなくさせるだけの衝撃を与えたが、その背中から貫く深紅の槍の存在は、鎧よりも強烈な衝撃を与えた。
 その槍は特殊な木材で出来ており、穂先には異様な輝きを放つ紋様が刻まれている。「月」を象徴する円と、その中に「星」を象徴するひし形、そこに収まるようにS字にくねる蛭の這い紋が描かれている。その槍が魔道具であることは誰の目からも明らかであった。

 俺はその槍のことをこの世界の誰よりも知っている。
 それはかつて俺が大量に作った手製の槍であり、普段使っているモノよりも複雑な魔術紋様は、間違いなく俺が編み出しこの手で刻み込んだ【渇紅紋かっこうもん】であった。

「二〇〇年前の戦場で使った俺の魔術がまだ残って……いや、は夜が明けると共に必ず効力が消える……まさか、自然発生した不死骸アンデッドというのか?」

 確かに俺はかつての戦場で殺したグラディア帝国兵を魔術で不死骸アンデッド化し、帝都侵攻や後の属国連合軍との戦いの駒にしたが、その魔術の特性上夜が明けると俺の意思とは関係なしに魔術が解けて、全ての不死骸アンデッドが元の死体に戻る。
 だから目の前にいる不死骸アンデッドは俺の魔術によるものではなく、通常の不死骸アンデッドと同様に自然発生した存在だと考えられた。

 ……いや普通の不死骸アンデッドでは納得ができない点が一つだけある。
 グラディア帝国兵の不死骸アンデッドが居ることはこの際いい。大量の死体が転がる不浄の地で、不死骸アンデッドとなった個体がいても不思議ではない。
 「血塗れ夜王おれ」が作った槍が刺さっているのもこの際いい。かつての戦いでは【渇紅紋】を付与した武具を大量に製作し戦場に放出したのだから、回収漏れは多くあるだろう。ましてや俺が死した後は、俺が作った魔道具類はすべてそのまま残っているはずだ。
 死体に突き刺さったままの魔導武具があっても不思議ではないし、その死体が偶然不死骸アンデッド化したとしてもその可能性は少なくない。

 ただ問題は、何故この不死骸アンデッドが血液を操れているのかということだ。

「――っまた血を!」

 呆然としている間に本体は再び血の中に埋もれ、喰血哭ブラッドハウルの姿に戻る。ただし【膨閃華ほうせんか】により大部分が吹き飛ばされたことにより、身体の大きさは元の大きさ――全長六メートルから三メートル未満まで縮まっていた。
 腹と背には僅かに槍の先端が飛び出しており、腹の穂先からは【渇紅紋】が僅かに覗いている。

「総員、喰血哭ブラッドハウルにありったけの魔術を放てぇ!」

 身体が縮んだことを好機と見たのか、バルドルさんの指示が辺りに響く。同時に方々から様々な属性の魔術が喰血哭ブラッドハウルに放たれる。
 しかし次の瞬間にはその考えが甘いものだと思い知らされた。

「なっ⁉ 速い!」
「嘘だろ⁉ 魔術を全部躱して――」

 先ほどまで見せていた鈍重な動きとは打って変わって、狼のような俊敏さを喰血哭ブラッドハウルは見せつけた。
 喰血哭ブラッドハウルは降り注ぐ魔術の雨を搔い潜り、近くの兵士たちへ次々と襲い掛かる。
 しかし先ほどと比べ攻撃力は落ちたのか、一撃を受けても兵士たちは辛うじて耐え即死には至っていない。おそらくあの強力な攻撃は大量の血液による重みで成り立っていたのだろう。
 一撃で殺されることはなくなったが、血の重みが無くなったことにより速度が上がったのは厄介極まりない。ずいぶんと小さくなったとはいえ、まだ全長は三メートルもある。その身体と速度でぶつかられたりしたら簡単に吹き飛ばされるし、速度が上がったことで魔術が当たり難くなった。

「その今の状態も、時間を掛ければ元に戻ってしまうか……」

 喰血哭ブラッドハウルが駆けるたびに、地面や兵士の身体に付着した血液が集まっていき喰血哭ブラッドハウルの身体に取り込まれていく。
 あの槍を見た後なら、その吸血能力の正体にも見当がつく。【渇紅紋】の効果が二〇〇年の時を経てなお続いているのだ。
 俺の【血濡魔術ブラッティー・マジック】は発動に必要な条件と瘴気由来の魔力さえあれば、永続的に効果を発揮する。今や喰血哭ブラッドハウルの身体を覆う血液は身体の表面と認識され、僅かにでも触れればそこから血の吸収が始まる。数ある魔物の中でも最も瘴気と親和性が高い不死骸アンデッドであれば、魔力には事欠かないだろう。
 時間をかければかける程、飛び散った血をすべて回収され喰血哭ブラッドハウルは元の巨体に戻ってしまう。

「だが、そうはさせるかよ――」

 俺は【轟血崩牙】の土台に手を触れ、そこに魔力を流し込んだ。魔力は土台を伝い地面に広がる血液へ薄く広がっていく。
 【膨閃華】により大量の血液がまき散らされ、この地はかつての戦場と同じく血の海が広がった。喰血哭ブラッドハウルが血を集めることで強くなっていくが、この状況は俺にとっても都合が良い。
 全てが血に染まった今この時、この場は、俺の固有魔術ユニークマジックの領域だ。

「【血織刃:断紅障だんこうしょう】――」

 喰血哭ブラッドハウルが兵士の一人に食いつく寸前、足元にある血に染まった草が瞬きするよりも早く伸びあがり喰血哭ブラッドハウルの牙から兵士を守った。
 吸血効果によりすぐに血を奪われ、盾は元の長さの草に戻ってしまったが、少なくとも今の喰血哭ブラッドハウルの状態であれば一瞬でも攻撃を防げることはわかった。
 叩くなら今の状態しかない。

「【血織刃:鎌首れんしゅ】」

 盾により弾かれた喰血哭ブラッドハウルに間を与えず、両脇から二本の大鎌を生み出しその身体に振り下ろす。
 しかしここでも喰血哭ブラッドハウルは予想外の動きを見せる。
 なんと後ろ足で地面を踏みしめ人間のように直立し、長い前腕で刃を握り締め大鎌を受け止めたのだ。

「また奇妙な動きを……いや、中身が人間だから二足歩行する方が自然なのか?」

 とはいえその行動により動きが止まったその一瞬の隙を逃さず、【紅鎖鞭こうさべん】でその身体を拘束する。しかしこのままでは一秒と持たずに血を奪われ、拘束を抜け出されてしまうだろう。
 ならばこちらも血を奪うまでだ。

「【渇紅抉かっこうけつ】」

 【紅鎖鞭】が喰血哭ブラッドハウルの身体から血液の吸収を開始する。
 事前に物に付与し血液と接触したら自動で発動する【渇紅紋】と違い、【渇紅抉】は紋様を必要としない代わりに絶えず魔力を注がねば吸血効果が続かない。
 【渇紅紋】の元となった魔術であり、直接戦闘する際には搦め手として時折使用する。以前の野盗討伐の際に出くわした夜狩熊ハンターベアから血を吸い取ったのもこの魔術だ。
 【渇紅紋】を編み出し物を魔道具化できるようになってからはもっぱら使わなくなってしまったが、この方法ならばこちらが一方的に……とは言わないが、こちらの方が奪い合いは強いはずだ。

「動きを止めた! 一斉に水魔術をぶつけろ!」

 俺が魔術部隊に向かって叫ぶと、彼らも好機であることがわかっていたのか各々が全力で魔力を練り上げ魔術を放った。
 喰血哭ブラッドハウルの上から滝のように土と水魔術が降り注ぎ、津波のように風や火魔術が打ち付けた。

「ゲロロォ……ぁアあ!」
「よし出てきた、本体だ!」

 身体を覆う血液が全て洗い流され、喰血哭ブラッドハウルは本体である腐屍者ゾンビの身体を晒した。
 俺の拘束も水魔術により解かれてしまったが、もはや喰血哭ブラッドハウルの周囲に利用できる血液はどこにもない。倒すなら今しかない!

「――【紅蓮の焔槍フレイム・ランス】!」

 剥き出しになった本体に誰よりも先に攻撃を当てたのはフィリアだった。夜闇を裂いて飛来する灼熱の槍が喰血哭ブラッドハウルを貫き腐った身体を焼く。
 それに続き次々と魔術が放たれる。水ではなく火属性が若干多いが、それは腐屍者ゾンビの弱点が火であるからだ。

「とは言え、やっぱそう簡単にはいかないよな……」

 たとえ下級の魔術であっても、これだけの魔術の集中砲火を食らえば肉片すら残らないだろう。しかしそこはやはりAランクと称され伝説を作っている魔物。血の鎧を失ってなお形を留めていた。
 爆炎の隙間からかろうじて見えるくらいだが、喰血哭ブラッドハウルの肉体は抉られた端から徐々に再生しているようだ。普通の腐屍者ゾンビにもわずかな肉体の修復能力を持っているが、目に見えるレベルでの修復は異常である。

「二〇〇年も存在し彷徨っているとしたら、そのランクは不死骸アンデッドの最低ランクのEなんてことはありえないか……」

 魔物は他の生き物よりも生物進化をしやすい生き物だ。通常の不死骸アンデッドはEランクで生まれるが、特殊な環境や戦闘経験を経て肉体を強化、変貌させてランクが上がっていく。こういった進化は魔物に多く見られるが、動物や植物、人間なんかにもたまに起こる。
 甘めに見積もってB……いや本体もAランク相当の力を秘めていると見るべきだな。そしてその予想は正しかったようだ。

「な、何だ⁉ ほ、骨が……」

 辺りに散らばった大小さまざまな骨がひとりでに集まり、何体もの赤い骨を持つ人形ひとがた――骨屍者スケルトンとなって立ち上がった。骨屍者スケルトンたちはカチャカチャという音を立てて、腕を振り回して近くの兵士たちに襲い掛かる。
 不死骸アンデッドの上位種の多くにみられる能力のひとつとして「下位の不死骸アンデッドを生み出す」というものがある。通常の不死骸アンデッドとはやや毛色が違うが、喰血哭ブラッドハウルも同様の能力を持っていたようだ。
 おそらく副腕や棘を際限なく生やしていたのは、この能力を利用していたのだろう。自身に危機が迫ったことで、外敵を排除しようと動いたのだ。

「……待てよ、進化?」

 大量に発生した骨屍者スケルトンたちを、同じ数の【崩嚇潰ほうかくつい】で即座に叩き潰しながら、俺はある可能性に気付いた。
 喰血哭ブラッドハウルに刺さっている槍に刻んだ【渇紅紋】はで強化されているとはいえ、その効果は「血を吸収して槍に取り込む」程度のもの。にも拘らず、喰血哭ブラッドハウルは血液で身体を覆い鎧にするばかりでなく、副腕にも血を纏わせたり欠損を血で修復していた。
 【渇紅紋】に血液を圧縮する機能は持たせていないから、槍に吸収しきれなかった余剰血液が鎧のように纏わりついているのは理解できるが、喰血哭ブラッドハウル自身が血液を操っていることがずっと気になっていたが、進化となればいろいろと納得できる。

「なにせ二〇〇年もの間、槍を通じてずっとを浴びていたんだ。俺の魔力の残滓を取り込んで進化して、血液を操作する能力を得たとしても不思議ではない……」

 再び散らばった骨が集まり始めたが、骨屍者スケルトンとなる前に俺の魔力を流すことで封じる。喰血哭ブラッドハウルの魔力を俺の血の魔力――【血濡魔術ブラッティー・マジック】で上書きすることで、辺りに散らばる骨はすべて俺の武器となった。これに血が付いていなければまた叩き潰す作業をしなければならなかったが、皮肉なことに喰血哭ブラッドハウルのおかげでこの場に有るすべては血に濡れている状態だ。
 今の俺に夜闇の魔力は備わっていないが、その力は元を辿れば俺に由来するものだ。であれば間借りしている不死骸アンデッドごときが、俺に勝てるわけがないだろう?

「【血織刃――」

 骨と草を束ね喰血哭ブラッドハウルの両脇から二本の柱を、高く高く伸ばす。柱というにはあまりに細く、小枝にしか見えないそれは簡単に折れてしまいそうなほど頼りない。
 しかしその柱を見上げた先――頂点にはその細さからは想像できないほど巨大な刃が威容を放っている。
 この場にいる皆が思わず天に掲げられた刃を見上げる中、俺は処刑人のように自身の腕を振り下ろす。

「――血裁断頭刑けっさいだんとうけい】」

 加速した断頭台の刃ギロチン喰血哭ブラッドハウルの身体に落ちる。
 ドンッという重い振動と音が響くが、驚くことに喰血哭ブラッドハウルの身体は完全に断たれることなく背中の半ば程まで食い込んで止まっている。

「がアぁっ⁉ ぐゥ……ぅうウああァ!」
「嘘っ、まだ耐えるの⁉」

 それどころか喰血哭ブラッドハウルは四肢に力を入れて、少しずつだが刃を上へ持ち上げていた。
 流石はAランクだ。完全に断つつもりだったのに耐えられてしまったか……とはいえ俺の狙いは別にあった。
 魔力操作で刃に更なる圧力を加えて喰血哭ブラッドハウルを抑えつつ、その刃の側面から骨だけの人の腕が生えて槍の柄を握り締める。

「ああ、ガぁうヴぅ⁉」
「そいつの役目はもう終わったんだよ……いつまでもこの世に残っていいもんじゃあない」

 喰血哭ブラッドハウルが腹から槍を掴んで引き留めるが、魔術による攻撃と未だに上から押し付けられる刃の圧力により妨害され、槍は喰血哭ブラッドハウルから引き抜かれ宙を舞った。
 僅かな血が深紅の槍を追って空中に赤い筋を描くのを視界の端に捕らえながら、俺は静かに告げる。

「終わりだ喰血哭ブラッドハウル……【血裁断頭刑】」

 柱の頂点に二枚目の刃が作られ、先ほどよりも強く落下した。刃同士が接触する寸前に一枚目の刃を消し、二枚目の刃は寸分違わず同じ場所に落ちる。

ドォン――――

 先ほどよりも強い振動が周囲に響く。断頭台の下には背中から二つに断たれた喰血哭ブラッドハウルの姿があった。
 身体を断たれてもなお這い進もうと喰血哭ブラッドハウルは腕を伸ばすが、その姿は弱々しくこの場にいる誰もがもう終わりだということがわかった。

「あ、アぁ…………く、ロ…………ゆ、ル……て…………」

 喰血哭ブラッドハウルに個人を識別できるほどの知能はない。しかしその腕は奇しくも、俺の方へと伸ばされていた。
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