22 / 43
~復讐の夜~
8
しおりを挟む
「それじゃあ、宗佑さんは犯人じゃないって事?」
「そうよ。宗佑は私を殺していない」
香奈は愕然とした。それでは何故、宗佑は自分が殺したと、自首したのだろうか?そこが分からない。その浮かべた疑問を悟ったかのように、幸恵は答えた。
「たぶん、未成年だったからじゃないかな?加藤がそう仕向けたんだと思う。その時居た人たちの中で、未成年だったのは宗佑だけ。人を殺しても名前は公表されないし、懲役も情状酌量されるかもしれない。ただ、あの男が私を殴りまくった分、その残虐性が認められて減刑はされなかったけどね。宗佑も、よく殺人犯になってまであの男を庇ったのかが分からないけど、後輩という立場で、あの男にはどうしても逆らえなかったんだと思う。そう、あの男がすべての元凶だったのよ」
香奈はやりきれなかった。私の家族はあの男に全員、殺された。そして、好きな人に裏切られて命を絶たれた姉はどれだけの絶望を抱いて一生を終えたのかと考えた。おそらく、言葉では言い表せないほどのものだっただろう。
「お姉ちゃんは今、どんな気持ちなの?」
それが香奈の素直な思いだった。ずっと聞きたかった。姉の本当の気持ちを。
「私はね、もうどうでも良くなったの」
「どうでもいいって?どうでも良くないでしょ?」
口調がきつくなった香奈に対し、幸恵はフフッと笑いをこぼす。
「私はね、間違ってた」
「間違ってたって何が!」
香奈はついつい叫んでしまった。一方の幸恵は涼しい顔で草原の彼方を見つめる。
「命を懸けて復讐をしようと思ってたよ。でもね、私には守るべき人が居た。それこそ命を懸けて守るべき人が。それよりも復讐を優先してしまった。だから、香奈を守れなくなってしまった。それが間違ってたこと。命の使い方を誤ってしまったのよ。ただ、香奈があの日から十年、しっかり生きてくれている。自分の命の使い方を誤らないで居てくれていることを知って、心から良かったと思った」
香奈には何も言えなかった。さっきまで私は復讐をしようと思っていた。だが、姉は「復讐」という命の使い方を間違っているという。
「香奈、生きることを諦めちゃ駄目だよ。聞いたよ?香奈、難しい病気なんだって?でもさ、その命を自分から捨てに行くのは間違ってるって。私は実際死んでみて、そう思ったよ。だから香奈には同じ思いはして欲しくないんだ」
幸恵の言葉が香奈の心に響いていく。
「お姉ちゃん…」
「ほら、またすぐ泣く。そういえば香奈はいつも辛いことがあっても人前では我慢するくせに、私の前だとすぐに泣くよね」
笑う幸恵の胸に香奈は飛びつく。
「寂しかったんだから」
そう言って泣きじゃくる香奈の頭を、幸恵は再び優しく撫でた。
「寂しくさせて本当にごめんね。これまでの十年分とこれから先の分、思い切り泣いて良いから」
時が来た。香奈からすると、何かしらの合図があったわけではないが、幸恵は「もうそろそろ行かないと」と言った。
「私たち、また会えるよね?」
幸恵は一息ついて答える。
「当たり前でしょ。いずれはまた会えるから。でもね、あなたはまだまだ生きなきゃ駄目だよ。もしも、生きることに辛くなることがあるかもしれないし、今がもしかしたらその時なのかもしれない。でも、本当に諦めちゃ駄目。予想外に辛いことが起きるのも人生だけど、それを超えるくらい良いことが訪れるのも人生だから。って、死んだ私が言っても説得力無いけどね」
幸恵は何もなかった空間に拳をコンコンとぶつける。すると、その瞬間にドアが姿を現した。香奈は本当に夢のようだと思った。だが、「こんなに具体的な夢は早々見ないよね」と納得してもう一度だけ、幸恵に抱きついた。懐かしい温もり。ずっと忘れない。
「さあ、そのドアから元の世界に戻れるから」
「お姉ちゃん」
香奈はドアの前で一度、幸恵の方を振り返った。
「何?」
「またね。きっとまた、会おうね」
幸恵は優しい笑みでゆっくりと頷く。そして心の中でこう呟きながら、香奈の後ろ姿を見送った。
「生きてね。たぶん…もう会えないと思うけど、私の分まで精一杯、生きてね」
「そうよ。宗佑は私を殺していない」
香奈は愕然とした。それでは何故、宗佑は自分が殺したと、自首したのだろうか?そこが分からない。その浮かべた疑問を悟ったかのように、幸恵は答えた。
「たぶん、未成年だったからじゃないかな?加藤がそう仕向けたんだと思う。その時居た人たちの中で、未成年だったのは宗佑だけ。人を殺しても名前は公表されないし、懲役も情状酌量されるかもしれない。ただ、あの男が私を殴りまくった分、その残虐性が認められて減刑はされなかったけどね。宗佑も、よく殺人犯になってまであの男を庇ったのかが分からないけど、後輩という立場で、あの男にはどうしても逆らえなかったんだと思う。そう、あの男がすべての元凶だったのよ」
香奈はやりきれなかった。私の家族はあの男に全員、殺された。そして、好きな人に裏切られて命を絶たれた姉はどれだけの絶望を抱いて一生を終えたのかと考えた。おそらく、言葉では言い表せないほどのものだっただろう。
「お姉ちゃんは今、どんな気持ちなの?」
それが香奈の素直な思いだった。ずっと聞きたかった。姉の本当の気持ちを。
「私はね、もうどうでも良くなったの」
「どうでもいいって?どうでも良くないでしょ?」
口調がきつくなった香奈に対し、幸恵はフフッと笑いをこぼす。
「私はね、間違ってた」
「間違ってたって何が!」
香奈はついつい叫んでしまった。一方の幸恵は涼しい顔で草原の彼方を見つめる。
「命を懸けて復讐をしようと思ってたよ。でもね、私には守るべき人が居た。それこそ命を懸けて守るべき人が。それよりも復讐を優先してしまった。だから、香奈を守れなくなってしまった。それが間違ってたこと。命の使い方を誤ってしまったのよ。ただ、香奈があの日から十年、しっかり生きてくれている。自分の命の使い方を誤らないで居てくれていることを知って、心から良かったと思った」
香奈には何も言えなかった。さっきまで私は復讐をしようと思っていた。だが、姉は「復讐」という命の使い方を間違っているという。
「香奈、生きることを諦めちゃ駄目だよ。聞いたよ?香奈、難しい病気なんだって?でもさ、その命を自分から捨てに行くのは間違ってるって。私は実際死んでみて、そう思ったよ。だから香奈には同じ思いはして欲しくないんだ」
幸恵の言葉が香奈の心に響いていく。
「お姉ちゃん…」
「ほら、またすぐ泣く。そういえば香奈はいつも辛いことがあっても人前では我慢するくせに、私の前だとすぐに泣くよね」
笑う幸恵の胸に香奈は飛びつく。
「寂しかったんだから」
そう言って泣きじゃくる香奈の頭を、幸恵は再び優しく撫でた。
「寂しくさせて本当にごめんね。これまでの十年分とこれから先の分、思い切り泣いて良いから」
時が来た。香奈からすると、何かしらの合図があったわけではないが、幸恵は「もうそろそろ行かないと」と言った。
「私たち、また会えるよね?」
幸恵は一息ついて答える。
「当たり前でしょ。いずれはまた会えるから。でもね、あなたはまだまだ生きなきゃ駄目だよ。もしも、生きることに辛くなることがあるかもしれないし、今がもしかしたらその時なのかもしれない。でも、本当に諦めちゃ駄目。予想外に辛いことが起きるのも人生だけど、それを超えるくらい良いことが訪れるのも人生だから。って、死んだ私が言っても説得力無いけどね」
幸恵は何もなかった空間に拳をコンコンとぶつける。すると、その瞬間にドアが姿を現した。香奈は本当に夢のようだと思った。だが、「こんなに具体的な夢は早々見ないよね」と納得してもう一度だけ、幸恵に抱きついた。懐かしい温もり。ずっと忘れない。
「さあ、そのドアから元の世界に戻れるから」
「お姉ちゃん」
香奈はドアの前で一度、幸恵の方を振り返った。
「何?」
「またね。きっとまた、会おうね」
幸恵は優しい笑みでゆっくりと頷く。そして心の中でこう呟きながら、香奈の後ろ姿を見送った。
「生きてね。たぶん…もう会えないと思うけど、私の分まで精一杯、生きてね」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる