BAR eternityの奇跡

冬野俊

文字の大きさ
32 / 43
~小さな来訪者~

しおりを挟む
「ミミ様、申し訳ありません。お時間が来たようです」。峻はミミを抱きしめ、いつまでも撫でていた。その温もりをいつまでも忘れないようにと思いながら。峻と利恵はミミに「ありがとう」と言った。そして、ミミもまた感謝の気持ちを伝えた。二人は頷いていた。たとえ、言葉が通じなくとも思いは届く。ミミは幸せだった。この二人と出会えたこと、それが人生で一番の幸せだった。
真樹は「それでは戻りましょう」と言って指を鳴らすと、いつしか峻と利恵の姿は消えていた。店内に残ったのは真樹と進士、そしてミミだ。
「ミミ様、いかがでしたか?一ノ瀬様とお会いになった感想は」
「本当にありがとうございました。これで、私も思い残すことはありません」
「こちらこそ、ありがとうございました。私たちはまた目の前で、起こるはずのなかったことが起きる、という奇跡を目の当たりにしました」
 そう言うとすぐさま「あっ、また難しいことを言ってしまいました」と真樹は反省した。それに対し、ミミは一切、気にする様子はない。
「大丈夫です。難しくても気持ちは伝わります」
 真樹はやはり照れくさそうに頭を掻いていた。
「オーナー、あのお話を」
 進士に言われ、真樹はそれまで忘れていたことを思い出した。
「そうだった。ああ、ミミ様、申し訳ございません。実はですね、あなたにしていただいたことで一ノ瀬様と利恵様の運命が変わったことは分かりますよね。そこで、一つ不都合が出てしまいました」
「不都合?」
 ミミは自分で、何か悪いことをしてしまったのかとも思った。だが、真樹は否定する。
「この不都合というのはですね、決して悪い意味のものではございません。そう、一ノ瀬様と利恵様が結婚したことで、新たな命がもうしばらくすると生まれてくる予定なのでございます」
「はあ、それは良いことですよね?」
 ミミには真樹の言いたい事が今ひとつ伝わってこない。
「それで、一つご提案があります」
 提案とは一体何なのだろうか。ミミはすでに死んでいるため、できることは限られていると自覚していた。だが、まだもう一つ、あったのだ。
「もう、ある程度察しが付いているかもしれません。あなたはもうすでに死んでいますよね。ただ、あなたは生まれ変わることができるのです。あなたは大切な存在を幸せな方向に導いた。だからこそ、その権利を得ることができたのです。そこでですね、お二人の子供として生まれ変わってもらってはいかがかと」
 神様はやっぱりいた。ここに、確かに。神様、ありがとう。そんな、ミミの喜びの鳴き声が、いつまでも店内に響き渡っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...