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~ヒロイン~
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「長々と話してしまい、申し訳ありませんでした」
歩美はどこか安堵していた。これまで、誰にも語ることのなく胸に秘めていた思いを打ち明けることができたからかもしれない。
「一つ気になったのですが、それからのあなたはどんな人生を歩んできたのですか?」
「笑いませんか?」
「ええ、笑いません」
「私の心の中には、まだ佐原君がいるんです」
これもまた、歩美が心中に留めていたことだった。
「あの日、あのグラウンドで私は彼にさよならを告げました。それでも、忘れることはできなかったんです。本当にバカでしょう、私って。だから、結婚もしていませんし、彼氏も作りませんでした。というか、他の人と付き合おうという気持ちにはどうしてもなれなかったんです。気付いたら、いつの間にか三十路でした」
歩美は自身の半生を振り返り、今更ながら呆れてしまった。「彼の事を好きで居続けることで、何が生まれるというのだろう」と。ただ、真樹はそんな歩美の思いを決して否定しない。
「なるほど。やはり、あなたにとって人生で一番大切な人は佐原様だったと。それは、まったくバカなことなんかじゃないですよ。幼い頃から好きだった人を、そこまで想い続けることができる。世の中にそれができる人間がどれほどいるでしょうか?私は極々少数だと思います」
真樹が胸の内ポケットから一枚の便箋を取り出した。じっと話を聞いていた進士にペンを要求すると、両方を歩美に向けて渡す。
「それでは、あの日に戻る条件を説明させていただきます。もうすでにいくつかのことは、していただきました。が、ここからが大切な部分です。この紙に彼を呼び出す言葉を書いてください。日時は十年後の佐原様の誕生日。ですが、山野様のお名前は書かないでください」
どういうことだろうか。十年後にということは、私は四十歳になるまで待たなくてはいけないのだろうか。歩美は指示通りにペンを走らせていく。書き終わると、真樹はそれを受け取る。
「このメッセージは今から十年前に、佐原様の元へ届けさせていただきます。そこで、佐原様があなたからの手紙だと気付くこと。その上で、そこに書いたとおり、十年後までその内容を忘れずに、誕生日にここに辿り着くことが条件です」
「十年前に送る?そんなことできるわけないでしょう」
「いえ、それができるのです。その手はずはこちらにお任せください」
状況はあまり理解できていない。だが、とにかく従うしかないのだろう。「もし私ならそんなことを十年間も覚えていることができるだろうか」と歩美は感じた。しかし、逆の立場で、佐原から同じものが送られたとしたら…どうだろう。やっぱり忘れないかもしれないとも思った。
結果的に、佐原はその店を訪れた。十年前に送った手紙のことを覚えていた。
「山野様、佐原様がここに来られるようです」
歩美に言葉にならないほどの喜びが沸き上がる。
「本当…ですか」
「ええ。そして、あなた方二人はあの日の球場にこれから戻ることができます。そこでどうするかはあなた次第だと言うことです」
「どうするかというのは?」
「もし、あなたが素直に気持ちを打ち明け、もう一度、その日から佐原様と共に人生を歩みたいと願うのであれば、あなたたちの運命は変わります」
歩美の胸中にふとした疑問が浮かぶ。
「その場合、今の状況はどうなるのですか?」
真樹の表情は途端に曇る。
「もし、そこで運命が変わった場合、世界のほとんどのことは変わりません。ただ、お二人の周辺に携わった方がいれば、その方たちの運命も大きく変わることになります。たとえば、佐原の奥様と一人のお子様…」
「もし、私が運命を変えてしまったら二人は、二人はどうなるのですか?」
「その場合…、奥様は佐原様とは出会わなかった運命を辿ることになります。そして、そのお子様が生まれてくることは、ありません」
真樹は心苦しそうに答えた。そこで、歩美に押し寄せてきたのは大きな葛藤だ。もし、自分の好きな人との人生を選べば、その代わりに佐原君の大切な子供は、最初から居なかったことになる。「それで本当に良いのだろうか」。その時の歩美にはまだ、分からなかった。
歩美はどこか安堵していた。これまで、誰にも語ることのなく胸に秘めていた思いを打ち明けることができたからかもしれない。
「一つ気になったのですが、それからのあなたはどんな人生を歩んできたのですか?」
「笑いませんか?」
「ええ、笑いません」
「私の心の中には、まだ佐原君がいるんです」
これもまた、歩美が心中に留めていたことだった。
「あの日、あのグラウンドで私は彼にさよならを告げました。それでも、忘れることはできなかったんです。本当にバカでしょう、私って。だから、結婚もしていませんし、彼氏も作りませんでした。というか、他の人と付き合おうという気持ちにはどうしてもなれなかったんです。気付いたら、いつの間にか三十路でした」
歩美は自身の半生を振り返り、今更ながら呆れてしまった。「彼の事を好きで居続けることで、何が生まれるというのだろう」と。ただ、真樹はそんな歩美の思いを決して否定しない。
「なるほど。やはり、あなたにとって人生で一番大切な人は佐原様だったと。それは、まったくバカなことなんかじゃないですよ。幼い頃から好きだった人を、そこまで想い続けることができる。世の中にそれができる人間がどれほどいるでしょうか?私は極々少数だと思います」
真樹が胸の内ポケットから一枚の便箋を取り出した。じっと話を聞いていた進士にペンを要求すると、両方を歩美に向けて渡す。
「それでは、あの日に戻る条件を説明させていただきます。もうすでにいくつかのことは、していただきました。が、ここからが大切な部分です。この紙に彼を呼び出す言葉を書いてください。日時は十年後の佐原様の誕生日。ですが、山野様のお名前は書かないでください」
どういうことだろうか。十年後にということは、私は四十歳になるまで待たなくてはいけないのだろうか。歩美は指示通りにペンを走らせていく。書き終わると、真樹はそれを受け取る。
「このメッセージは今から十年前に、佐原様の元へ届けさせていただきます。そこで、佐原様があなたからの手紙だと気付くこと。その上で、そこに書いたとおり、十年後までその内容を忘れずに、誕生日にここに辿り着くことが条件です」
「十年前に送る?そんなことできるわけないでしょう」
「いえ、それができるのです。その手はずはこちらにお任せください」
状況はあまり理解できていない。だが、とにかく従うしかないのだろう。「もし私ならそんなことを十年間も覚えていることができるだろうか」と歩美は感じた。しかし、逆の立場で、佐原から同じものが送られたとしたら…どうだろう。やっぱり忘れないかもしれないとも思った。
結果的に、佐原はその店を訪れた。十年前に送った手紙のことを覚えていた。
「山野様、佐原様がここに来られるようです」
歩美に言葉にならないほどの喜びが沸き上がる。
「本当…ですか」
「ええ。そして、あなた方二人はあの日の球場にこれから戻ることができます。そこでどうするかはあなた次第だと言うことです」
「どうするかというのは?」
「もし、あなたが素直に気持ちを打ち明け、もう一度、その日から佐原様と共に人生を歩みたいと願うのであれば、あなたたちの運命は変わります」
歩美の胸中にふとした疑問が浮かぶ。
「その場合、今の状況はどうなるのですか?」
真樹の表情は途端に曇る。
「もし、そこで運命が変わった場合、世界のほとんどのことは変わりません。ただ、お二人の周辺に携わった方がいれば、その方たちの運命も大きく変わることになります。たとえば、佐原の奥様と一人のお子様…」
「もし、私が運命を変えてしまったら二人は、二人はどうなるのですか?」
「その場合…、奥様は佐原様とは出会わなかった運命を辿ることになります。そして、そのお子様が生まれてくることは、ありません」
真樹は心苦しそうに答えた。そこで、歩美に押し寄せてきたのは大きな葛藤だ。もし、自分の好きな人との人生を選べば、その代わりに佐原君の大切な子供は、最初から居なかったことになる。「それで本当に良いのだろうか」。その時の歩美にはまだ、分からなかった。
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