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第9記
しおりを挟む村長さんのお家の扉を開けて、先ほども来た家の中に入るなり、温かく香る料理の匂いに迎え入れられた。
ミリア達はテーブルを囲んだ人たちよりも、先ずは並べられた香しい料理に目が引かれた。
肉のスープに大盛りのパン、クリーミーなソースをかけた野菜の茹で物や、熱々のバターが香る何かのパイ、それに缶のジュースにお酒類とか、料理がたくさん並んでいた。
伝統的な料理もあるみたいで、見た事の無い料理やお肉の煮つけとかもあって、まるで何かのパーティーが始まるようだった。
ミリアは歩きながら、そのテーブルの様子や辺りを見回したりしたけど。
「よお、先にもらってるぞ」
そのテーブルの席にいた村の人に混じってガイとリースがいて、ガイはコップを片手にもうご機嫌のようだ。
たぶん、ジュースだと思う、お酒だったら後で一発お説教しとこう、と思ったミリアだが。
「さあさどうぞ。席についてくだされ」
人のいい笑顔で、にこやかにマダック氏が席を促してくれる。
他の人たちもにこやかで、なんだか家族って感じがした。
勧められるがまま丸いテーブルに隣並んで座ったミリアたち4人は、目の前の料理を珍しげに見るしかなかった。
料理の材料はリリーの政府機関から支給されているものも多いんだろうけど、美味しそうな物しか並んでいない。
テーブル席に着いているのは先ほど会った村の『賢き役』という人たちも2人いて、他にも給仕してくれる人も先ほど案内してくれたお姉さんを含めて4人ほどいるみたいだ。
「すっげぇな。食っていいのか?」
ケイジが涎《よだれ》でも垂らしそうだ。
「ケイジ、」
ミリアは注意を込めて名前を呼んだけれど。
お皿に盛られた温かな湯気が浮かぶ料理の数々、ドームでは滅多に見られる物ではない。
お金があれば、高級レストランで新鮮な素材や香辛料をたっぷり使った美味しい料理にありつけるのだけれど。
一般的な食事でこんな贅沢にいろんな素材を使った料理というのは、あまり縁が無い状況だから。
「お酒の方がいいですかな?ジュースもありますぞ?採れたての牛乳もありますよ」
「これ食っていいのか?」
ケイジが目を爛々とさせていて、食器を掴もうと。
「おおぉっと待った!」
マダックさんが慌てて止めに来てた。
「食べるのはお祈りの後で、ですぞ」
そんな大きなリアクションに、ケイジはちょっと驚いたように、食器を置いてた。
「それでは、神の思し召しに祈りを」
彼らは目を閉じて、首を垂れて口元で祈りの言葉を呟き始める。
ミリアやケイジたち、4人はというとその間沈黙をしており、お祈りが終わるのを待っていた。
ケイジはきょろきょろしていて、ちょっとつられるミリアもきょろっと見回したけれど。
特に祈るべき存在を持っていない4人において、その辺は数少ない気の合う部分の1つだ。
程なくして、彼らのお祈りが終わったのは幸いだった。
お腹を空かせた皆が一斉にスプーンやフォークを手に取ったのを見て、我慢していたケイジに、にんまりと笑みが生まれる。
みんなが大皿から料理を取ったり、取り分け始めているのを待っていた4人は渡された皿のスープやお肉のステーキを目の前にして、芳醇な香りを吸い込んだ。
「さあどうぞ、うちで作ったパンですよ」
「あ、どうも、自家製なんですか?」
「お酒は飲まないんですか?」
「飲みたいのはやまやまなんですがね、」
ガイがミリアをちらっと見てるけど、ミリアはパンに何かのペーストを塗っていて、そのまま一口齧った。
そして、ちょっと驚いた顔をしてたのは美味しかったからみたいだ。
「どうだい?」
「美味しいです」
「うちの特製レバーペーストなんだよ、」
「お兄さん、牛肉のチーズ焼きいかが?」
「・・・、」
リースが呼びかけられて、あくび交じりに小さく会釈していて。
そんな中、ケイジがいろんな味のペーストを塗りたくったパンを片手に、スプーンでスープを掬って面白い物を見つけたという顔をしてた。
「このでっかい肉ってあれだろ、あの柵の中にいるやつの肉だろ?」
「そうですとも、牛です。さあさ食べてください」
嬉々としてケイジがスープの肉を見ていて、口に入れる。
「うめぇ。」
「それは良かった。今日の夕食のために一匹絞めたのですよ、さぁどんどん食べてください。」
ガイもそれを見て、スープの具である肉片をスプーンに取ってまじまじと見ていたが。
「そう想像すると結構抵抗あるな・・って、喰ってるし」
ガイが戸惑ってる間に、呼ばれたと思ったのか隣のミリアが口にスプーンを含んだまま顔を上げてた。
リースもフォークでその牛肉を食べていて、不思議そうにガイを見ていた。
「お味はどうですか?」
「おいしい」
率直なリースに見られてるガイだから。
「それはわかってるって」
苦笑いのガイみたいだった。
「生きてる肉なんてそうそう見る機会無いからな。いや、さっきまで『生きてた』、か。なぁケイジ」
「意外とビビりだな、」
「うっせ」
素朴なケイジの憎まれ口に、口を尖らすガイだ。
それでも、そんなに間を置かずにガイは肉を大きく開けた口に入れた。
「うめぇっ」
「どれどれ・・」
と、ケイジも同じものを口に入れる。
「これもうまい。」
「ん、うまい。なんか違うな、この肉。旨味っつうのか?ぷりぷりしてるし」
「そうでしょう、そうでしょう。」
ご機嫌な村長さんだ。
すごい勢いで食べ始めるガイとケイジに、ミリアはそんな2人を横目に。
「美味しいからって食べ過ぎないでよ?」
もっふもっふ食べてる彼らは返事ができない代わりに顔や表情とかで、返事してた。
わかってるのかなと思いつつ、全部食べ尽くさないで欲しいなぁ、とも思いつつミリアは口の中の香ばしく甘いミートパイを味わってた。
「そうそう、酒はどうですかな?ドームの方から買って貯めてありましてな」
「おお、ありがたいんですが、」
と、ガイが嬉しそうな声を出す、が、その後に反射的にミリアを見る。
目が合ったミリアは、大きなコップに口を付けて水を飲んでいる所で。
「ああ、仕事中でしたか。それではお勧めすることはできませんな・・?」
ミリアは・・・、そのまま少しだけ微かに頷いてみせた。
「まあ、一杯だけなら」
そして、嬉々として村長に振り返るガイ。
「もらいましょう、そのお酒。楽しい時間にはお酒が無いとですよね!」
「はっはっは、楽しい席には良い酒ですな。ああ、ならば。おーい、一番いい酒を持ってきてくれ!」
給仕のお姉さんもにこっと笑ってくれて、ガイもにこっと微笑み返してたが。
「ところで、警備隊の方々は優秀な方しか採用されないと聞いてますぞ。あなた方もとても腕の立つ方たちなんでしょうなぁ 」
「えぇ、いやぁー」
「こんな場所にまでくるような方々、ご謙遜しないでくさいよ―――――」
ケイジはパンを齧りながらバクバクぱくつきながら横目で、ミリアがぱくついているのを見ている。
「?」
それに気付いたミリアが不思議そうな目でケイジを見た。
「ふぁひ?」
勿論、口いっぱいに頬張ってるのでしゃべれるレベルじゃない。
「よく食うな」
「ほいひぃふぁふぁぱひふぁふぁふぁふぁふぁ・・」
「途中でお前も自分が何言ってるのかもわからなくなっただろ」
「ふぉん」
「あん?」
「フォン」
「・・ノン?」
ケイジのアンサーに、正解だと言わんばかりにミリアは大仰に頷いてみせる。
「どうでもいいわ」
ケイジが見るリースは、丁寧な手つきで食器を扱って、小さく切った深緑色の葉野菜を口に運ぶ所で、ケイジ達を見て、そして口に入れた。
確かにとても慎ましい上品な食べ方で、ナイフとフォークも器用に扱っている。
ミリアは、もぐもぐと顎を動かし続けて、小さな喉が大きく動いて飲み込んだ。
「リースもしっかり食べないとダメだよ?こんな御馳走、足りないって言い切らなきゃ」
「そうだな」
「え・・?」
急に意見が合うミリアとケイジに、ちょっと不服そうなリースの声が漏れた。
給仕のお姉さんが、奥から持ってきたお酒のビンを両手で差し出して。
受け取った村長は上機嫌な笑顔で、それをぽんと開けて、ガイのグラスに深紅色の液体を注いでやる。
「お、どうもどうも」
「ちょっとグラス大きくない?」
ミリアが指摘してたけど。
「これしかなかったんだ、ですよね?」
「それの4分の1にしてください」
「そんなそんな、はっはっはっは、」
「村長。マダック・・」
「あ、はい・・そうですな、いけないですな・・・」
ぎん、と目が光ったようなミリアに、マダック村長が委縮してたけど。
「残念だったな、ガイ」
にっとケイジが肉を頬張りながら言ってた。
「ジョッキでこれなら十分だ」
「他の皆さんはどうですか?」
「あ、いいです。飲める年じゃないので、彼以外は」
「ほほう、そうですか、そうですか。」
ほう、ほうと小気味良く頷きながら村長はグラスを取った。
「酒より料理の方が気に入ってるもんな?なぁ?」
「ん、うめぇ」
「それでは、皆さんがブルーレイクへ来た事を祝って」
笑顔のガイと村長が赤色になったグラスを、ちん、と軽く当てて、涼しげな響きの音を出す。
酒が揺れるグラスの中身をガイは、くいっと口に含んで舌を湿らせるように飲む。
「うまい酒だ、」
「良い出会いに美味い酒は付き物です」
「おお、それかっこいいっすね」
「ほっほ、そうですか?」
「はっはっはっは」
すこぶる機嫌の良いガイと村長が一緒になって笑い合ってる。
もう酔ってるのかもしれないが、そんな彼らを気にしないミリアもケイジも、ぱくぱくずっと口に詰め込んでいる。
周りがそんな笑顔で見守られてたりするのは、わかっているけど。
「ゆっくり食べなよ、あんたたち」
「いつもはドームの方にいるのかい?」
「ドームの方は最近どうなんだい?」
「ニュースでドームの様子とか見れるんだけど、あたし、一回しか行った事なくてね」
「あんたの息子はドームで働いているじゃない」
「それが全然連絡をよこさなくてねぇ。たまに寄越したら素っ気ないもんだよ」
気さくに声をかけてくる彼らのお喋りを聞きながら、ミリアたちは会話を目で追いながらまた口に美味しい物を詰めるのだった。
リースはというと、我関せずに、次は野菜と肉がたっぷりのクリーム色のキッシュを丁寧にナイフで切り分けて、その口にもくもくと、マイペースに食べ続けていた。
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