《SSTG》『セハザ《no1》-(3)-』

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第8記

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  小奇麗なショッピングモールを駆け抜ける彼らは、建ち並ぶ店々に目もくれない。
高い天井のビル内の飾りつけ、煌めく小物の店やハンバーガーショップを傍に、微かな好奇心が漏れ出る目を向けても。
不揃いに床を蹴るその十数人が駆け抜ける無人の道には、仲間の息遣いと足音だけの時間が何度もあった。
陳列されていた商品に手をかけて床に数個落としながら。
その堅そうな工具や手に馴染みそうな物を持ち換えては捨てて。
傍でキャラクターグッズのお菓子を盗って落とした仲間へ顔を向けた彼は、広い店の別の通路へ出る時に、隠れていた人と一瞬目が合った。
顔を覗かせて恐ろしいものを見るようにこちらを見ていたが、それを見た彼は口端を持ち上げていた。
その時、その店、区画を抜けた直後にその警報《アラーム》が天井から鳴り響く。
「使えそうなもん盗ったらさっさと行くぞ!」
物色していた彼らが、先を走っていた彼に急き立てられ、また棚を倒して走り去る。
壊れる音が響き渡る店の中から、蹲《うずくま》って顔を出すよう人たちは、怯えた表情で彼らの走る様子を見送る。

「弾は数発しか残ってないからな、」
「使い過ぎだっての、」
「いい威嚇だったろ?」
ふと、肩越しに後ろを振り返る彼は・・見つめていたが。
「どうした?」
「・・いや、」
遠くで他の誰かたちが、集団が走っているような足音を感じる気がしている。
「あーあ、やっちまったよな・・やっちまったもんはしょうが・・・――――――

―――――――居たぞ!」
「待て!お前たち!」

「やべっ・・!」
「警官だ!!」
「どうすんだよ!?」
「走れよ!」
「こっちだ!!」
曲がりかけた角の出会い頭、離れた十数M先に警官隊に出くわした。
「ここ左だろ!?」
「次で曲がる!」
背後の警官隊から走り続けて逃げるその先頭の仲間とウルクは、迫りくる通路と角を選び続ける。
「撃って来ねぇよな・・!?」
「銃は隠しとけ!」
「脅しにはなるんじゃ・・!?」
拳銃に手をかける彼は・・・。
「脅しになんねぇよ!銃見せたら撃たれるぞ!」

逃げる彼らの中に、振り返って立ち止まる彼が1人いた。
追っていた警官が驚き足を止め、盾を構える。

彼は笑顔を見せて、不気味に。
「舐めてんじゃねぇえ!」
「抑えろ!!」
警官隊が彼を押し倒す・・!!

「あのバカ!」
「立ち止まるなよ!」
「なんなんだよ!?」

振り返る暇もないぐらいだが、あいつが多少の足止めになって距離が開いた・・!

「おかしくねぇか!?」
「なにが!?」
「武装しすぎてんだろ!」

「走れ!走れ!!」
「抜けたら!いつものところで!みんな!!」

―――――そこだ、目的の場所は近い・・!
目の前に開ける広いホール、外への出入り口が近づいてくる、地図の通りだ・・!
高級に艶《つや》光る床から見上げる眩《まばゆ》い宝石の様なガラスの扉、その頭上遥か天井近くにまで届く金色の蔦のような大きな壁面の『ジールフリート・アベニュー』、その外界へ繋がる青空がいくつもの意匠細かな窓格子に切り取られて外で広がっている。
「こっちだ・・!?」
「まっ・・なんかっ・・!?」

今も天井に煌めくシャンデリアと輝き合う相乗効果で、金色と黒い格子でで包まれる宝石の様なオブジェとして人の目を引く、その先に死角から飛び出す警官隊の姿――――――。


「確保しろ!!」
角の警官隊の待ち伏せがあった。

「走れええぇぇぇぇええーーーーー!!!!!」
ウルクの咆哮がホールに響き反響した、それを誰もが聞き逃さなかった。
彼らは前へと床を力強く蹴り、勇気をもって飛び出していく。

掴まれ後ろを引きずられながらも、警官隊の屈強な腕に床に押し倒されながらも。

彼らは人を躱《かわ》し、青空に輝くプリズム色のドアの外へ目掛け・・!!


―――――っぱんっ・・・!!!――――――

小さな破裂音、だが明らかな異音、肩越しに一瞬だけ見たウルクの目には、『あいつ』が拳銃を抜いて警官隊へ向かって撃ったのを見た―――――――――

ったぁっんっ・・!吹き飛ぶ『あいつ』の身体は一瞬で――――――

「あのバカ・・!」
「ウルク!ウルズマ・ウルク!!」
「振り返んな!!!」

――――ほぼ半数が、仲間が、床に引き倒されていっていた。

「お前だけでも!逃げろ!!」
「ば、ばかやろ・・!」

―――息を呑みこむ、・・かはっ!と口を開いて・・!!振り絞るように大きく息を吸い込んだ・・・!!

「――――――俺は!!誰だ・・!!」
ウルクは、吠える・・!!!
「ウルク!!」

―――――パリんっ・・・と、どこかで何かが割れている音が、

「ウルズマ・ウルク!!」
『超人だ!』

―――パリんっ・・っって、頭のどこかで響くような、ガラスの音が、

―――――――怒声が乱れ飛ぶ景色の中で―――――――

「おれは、だれだあぁあああ―――――――!!!」

『いけよ!ウルクー!!!』

子供が、心の中で見ていた常に輝く魂《タマシイ》、それが、ウルズマ・ウルクが正義を愛して、悪を打ち砕く――――――――――強烈な光を放つから――――眩しすぎて――――――


っバぁあーーンんっ・・・!!!と、響き渡る大きな破壊音、・・砕け散る瓦礫、破片が飛び散る・・・風が、塵が・・巻き起こる。
「な、なんだっ?」
「来たっのかよ!!」
『来た』・・・直感的に、彼らは身構え―――――

「そっちじゃねぇぞ、」

・・背後、彼らの背後・・振り返った彼らは―――――人間が、黒いベースの戦闘服の、制服の人間が、いつの間にか、そこにいたのを。

その顔も、何人かも、見覚えがある。

『EPF』のジャケットを――――――その身に纏った彼らが、こちらを見据えて、歩き近づいてきていた。

大股に屈強で・・・その姿を見ているだけで、・・ゾクリ、と身体が一瞬で震え上がったのを感じた、その目つきに見竦められて――――――


「武器を捨てろ!逆らうな!」
EPFは、銃を携えている・・・。
「さっさと地面に這いつくりやがれよカスども!!」
「カレン!いつも口を気を付けろっていってんだろぉ!!」
「おまえら、止めろっての!実戦だぞ!」
「勧告は終わりだ!怪我したくなければ動くな!!」

――――はっ、やっぱ・・―――――

「あいつ、口悪いのって本当だったんだな・・、」
口端を持ち上げたウルクは、ニヤっと笑っていた・・・勝算があったわけじゃない。
ただ、可笑しかったからだ・・・本物が見れて―――――ただ、込み上げてきたのが、その感情だっただけだ―――――――

「―――――こっちだ!」
誰かの大声が叫び――――――ガっしゃああぁぁんっ・・・と瞬間に、大きな音が響き渡る――――誰かが、引きずり倒したのか――――――飾り付けられていた大きな木のオブジェから水が噴出して・・・。

―――――・・・一斉に四方へ、物影へ走り出して隠れ、逃げ出して、彼らは殴りつけ、手足を放り出して暴れる。

その床で天井を見上げているまま――――――・・強い衝撃があったような、・・頭がぼうっとする・・・逃げ遅れた彼は、・・・目の前で見下ろしてきた警官の彼へ・・・両手を上げて。
「う、う、うごかねぇから・・・!!」
「いい子だ。念のため、スタンガンは撃つがな」
彼は冷静に、その引き金を引く。

「―――あ――――ばばっがががばば・・・!!!」
全身を痙攣させたように彼は地面へ倒れ、景観が目を話した後も、地面の上でびくんびくんしている。


「――――――ひ、ひぃい!!」
目の端に追った、彼はその、仲間の惨状を――――――目の前に、小柄な影が、が一瞬で―――――視界に入ったと思った・・・とき、真っ暗になっていた、何も見えず、・・・嫌な音と匂いと・・動かない身体・・・全身がしびれていた―――――――冷たい床の上で、身体が動かないからだ、口から漏れる涎《よだれ》―――――瞼《まぶた》の裏に残るそいつの姿―――――そいつ、その女は・・・笑っていた。
見開いたままのその眼が、映していた・・・、次の獲物を見つけるその横顔が、涎《よだれ》を垂らした野獣のように笑う・・女が、消える――――――


―――――ウルクは・・・足が震える・・、仲間たちが次々に組み伏せられ倒されて動かなくなっていくのを―――――
冷静に、1人ずつスタンガンで仕留められていく・・・―――――――

―――目が合った・・・その目、冷静な・・冷酷な黒い目―――――――銃を構える前に―――――走り出す、逃げ出す・・・!・・・!―――――逃げるしか―――――逃げれば勝ちなんだ・・・!!!


――――ウルクの身体が、右腕が、ほのかに赤く――――――赤く発光するような色へ―――――変化していく。
それは、パッ・・キ・・っ――――――って、紅い結晶のような・・硬質化した何かが、彼の右拳を覆い尽くすように、広がる・・右腕が、赤く硬質の輝きのように盛り上がっていく――――――・・一瞬でも目を入れた警官たちはその異様な姿に、目を見開き身構えるが―――――
ウルクが駆け出し目指した、勢いよく身体をぶつけた―――――紅い結晶が叩きつけられ・・・バッァアンっ・・・と、ガラスの結晶と霧散する紅い煌めきが、外界を突き破る。
ビルの中から外へ、青空の下へ、飛び出た・・・!
明るい日の光が包み込む外へ。
これでウルクは・・・飛び散る破片から、体中から痛みを感じながら、逃げ・・・――――――彼が顔を上げた瞬間に・・前へ歩いていた、足を止めて、いく・・・。

―――――後ろから走り抜けてきた仲間が、黒い紅色のウルクの大きな背中の影を見た2人が、叫ぶ・・・――――――「なにやってん・・っ・・!・・?

――――――彼らは、息を呑む。
それは、ウルクと同じように。

そこは、ビル前の広場・・・大通りへ逃げ出す唯一の逃げ道・・・だったはずだ―――――――
―――――その広場を囲うように、目の前に広がる無数の警官隊の包囲網。
その後ろに観衆たちの異様な野次馬の数――――――
・・・囲まれて――――――――逃げ切る隙間が、既に―――――――無い・・・・。

「なっん・・だこれ・・・?」

「う、うぉおおおおおおおーーっ!!!」
振り返る彼は、ウルクが吠えるのを。
その大勢の観衆たちへ、警備部のくそったれたちへ・・・大きく吠えるのを、―――――見た・・・それは。

―――ウルクが今までになく赤く、結晶化していくように、『それ』が広がる―――――――生き物のように、黒い紅色の中で赤い水が溶けだすように流れ始める、結晶が広がっていってるのか・・ほぼ半身が、結晶化し始めている・・・それは、異様な物へと移り変わる――――――っしっ・・・!!」――――――と、息を吐く音がはっきりと聞こえた・・・・。
――――――いつの間にか、現れた――――――――黒っぽいジャケットのEPF・・のヤツが、ウルクの横腹に拳を叩き込んでいた。

バシュっ・・・っと、機械音がして、・・ウルクが崩れる――――――赤い結晶を散らして・・・『それ』は、風へ溶けていく・・・―――――――

彼は息を呑みこむ・・・―――――込み上げる胸の奥の涙を、堪《こら》えて。
「っはぁっ・・はぁっ・・ウルクぅぅぅうぅ・・・!!!――――――――

――――ダぁンっ・・!・・・と、次の瞬間には、視界が吹っ飛ぶように、激痛と共に、床へ・・・打ち付けられていた、・・激痛と共に押さえつけられていた。
やられた彼にさえ、何が、起きたのか・・・わからなかった・・・人間が急に、後ろから、現れた・・押さえつけられていた・・・。
その目で見ていた、まぎれもない事実は、ウルクが・・リーダーが組み伏せられたこと・・・、それと同じことだ、自分もされたのは――――――

「――――――ぐっ、はっ・・・!」
肺の奥から空気が漏れた・・・!

「ウルク!・・!」
「ウルズマ・ウルク・・!!やられてる・・!?」

背後では既に、次々と打ち伏せられていく仲間たちが、・・スタンガンを食らって倒れていく仲間たちもいて。
その光景の中で、ウルズマ・ウルクと呼ばれた彼は、床に顔を擦りつけさせられたまま、叫ぶ・・・―――――――

「―――――大人しくできるか?」

そう、背後に伸し掛かった男の声はただ、軽く聞いてくるだけだった。
まるで、子供に気を遣うように。
独りでベッドに入れるか?と聞かれたように。

――――――だから、彼は、大きく口を開いた。

「くそったれええええぇああえぇぇ!!!―――――バぁああぁぁっっっつ・・・!!!?!・・・っ・・」
四肢を暴れさせる瞬間に、激しい痛みと焼ける匂いと共に、彼の意識は遠のいていく―――――
仲間の激しい声の中で、彼が『その名前』を叫ぶ―――――。

――――『その名前』を――――――――呼んで、―――――呼んで、ほしい・・・――――――



――――――――――目の奥から、何かが透けて通って行った。

――――――光、か・・・?

目を擦る彼は・・・。

・・そして、彼はその目で数度、その窓の外の景色へ瞬いていた。
誰もいないビルの一角だ・・・廃材に散らかった部屋の中で、茶色の瞳の青年は・・見つめていたその窓へ、また一歩近づいていた・・・。
・・その窓からは、見えるのだ・・・。
ビルから逃げ出そうとして、捕らえられていく。
彼ら、数人の様子が、見えていた。

――――ダメだったみたいだね」
そう彼女の声が聞こえても、青年は振り返りはしなかった。
隣に立つ彼女も、同じ光景を見下ろしている。
周りには数人の青年たちがいたが、窓の外の光景にみんな口を閉じたままだ。
「ちくしょっ・・」
怒りのままに物を蹴って当たり散らす奴は大きな音をさせて、周りを振り返らせていたが。
ただ、じっとビルの外の様子を見つめていた青年は、その既に落ち着き始めた兆しがある騒ぎの様子を見ていた。
「・・バット、やっぱりあんたの言う通りだったのかもね・・・」
バットと呼ばれた青年は、それから、彼女を振り向き――――その瞳
が、僅かに青い光が揺らめいて、いたのを―――――
「あれ?あんた・・・?」
彼女は、瞬くように・・・。
「特能力者だったの・・・?」

・・はっとしたように、彼は動揺して、目を手で隠すように。
「あ。いや、ごめん。・・・そっか、あんたも。・・ウルクと同じだったのか・・・」
そう、彼女は納得したように、声を小さくして、周りのだれも気が付いていないのを目を移して確認しながら・・・うつむく。

「・・・違う。」
そう、静かにだけど、彼が言った。
「ウルクと同じなら、ここにいるはずがない・・」
って・・。
・・窓の外を眺めているままで、静かに呟いてた。

彼女が見る彼の横顔に、表情は無く・・・彼は両手を持ち上げ、自分のパーカーのフードを目深に被る・・・その瞬間だけ見えた、気がした。
僅かに、哀し気に・・彼の顔は歪んだ、って。
・・そういう風に、見えた。



 ―――――広場前、制圧完了です。』
『乗り込むぞ。手筈通りに。』
『全体に告ぐ。大勢は制した。先遣隊によって場の制圧は完了している。予定通り、後続隊に並び、チーム『KC、A1、B3』に続き警備隊員も増員、現場建物内へ向かう。その他は指示が無くても持ち場を離れるなよ。もう暫《しばら》くの辛抱だ。以上だ。』
『危険人物が残っているか確認している。後続隊は市民の安全を確保、優先しろ。後ほど誘導の指示を出す――――』

「あれ本物のEPFだろ?」
「やっぱすげぇ、」
「すいません、この子が迷子みたいなんですが、」

そう、傍に集まっている市民の人たちの声に、警備部の彼らが応対しているのを見ていたミリアは、周りをまた少し見回していた。

『状況は落ち着いたようだ。EAUのチームも引き続き任された仕事に当たっていてくれ。』
『チームB5、6、7は周辺の警戒に移ってくれ』
耳元の無線からの声、特殊回線からの指示も聞きつつ、傍の警備部の彼らの声も行き交う・・・その状況に、携帯端末の画面から顔を上げたミリアは周囲を一瞥すると、ふぅ、と少し息を吐いた。
事件の大部分が片付いたのはわかったし、無事に解決しそうだ。
周囲は一応、警備部の人たちがエリアを区切っているので、ラインを表示している光学式ビーコンの指定区域内にに侵入する市民はいないし。
さっき犯人が飛び出して来た時のような大きなどよめきや罵《ば》声も。
彼が、紅く発現した姿に慄《おのの》きと悲鳴、そしてEPFが取り押さえた時のの声と歓声は、もう治まってきている。

そう、ミリアはあの時の、その光景を目の当たりにしていた。
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