《SSTG》『セハザ《no1》-(3)-』

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第2章 - Sec 2

Sec 2 - 第5話

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 咲き乱《みだ》れる花の景色が永遠になって

咽返《むせかえ》りそうなほどに香《かぐわ》しい窓辺の
絵画のようなひなびた道がバスと花畑に浮かぶよう

――――不意《ふい》に窓辺に飛び乗ってきたネコが、三毛《ミケ》の毛並みを見せてくるような
窓の外からこっちへじっと、・・縦長な瞳孔《どうこう》を見つめると、目を瞑《つむ》って

丸まったのは、そこの日当たりを気に入ってしまったからか
暖かい日光に呼ばれてるネコは、後ろ頭をこちらへ見せている

毛艶《けづや》が明るい光を含む、その背中で、ネコは口を大きく開けたのかもしれない 

頬杖《ほおづえ》をついて、私は、そんな昼寝姿のそれなりに大きい獣《けもの》を眺《なが》めてたけれど。

触《さわ》れそうで触《さわ》れない、窓一枚を隔《へだ》てるそのネコは、花畑の景色に慣れ親しんだ住処《すみか》にいるようだった。

急に横から飛んで来た時は、ちょっと吃驚《びっくり》したけれど。

走るバスの車内では、この景色にちょっと文句を言う人もいたみたいだ。
『のどか過ぎる』とか、『緊張感がない』とか、『映画をみんなで見よう』とか。

「全域で映画とか見ないか?アクション映画とか、最高だぜ?」
「お前らだけのバスじゃないんだ。プライベートでやってくれ、」
「楽しそうじゃんか、」
「静かに過ごしたいんだよ、俺は」
彼らの言う事が実現していたら、だいぶ騒《さわ》がしい車内になっていただろうけど。
まあ、そう言うような人達の意見は悉《ことごと》く却下《きゃっか》されて、のんびりした花畑の景色がこの車の借景《しゃっけい》になっていた。

「全方位《ぜんほうい》で観た事ある、『オービス・アウト・グリーン』は面白かったな、」
って、隣の席のガイが言ってたけど。
「なにそれ?」
「アクション、SF映画か。前見たんだ。シアターで観たらすごいよな、」
「ふぅん」
「ミリアはオムニアック全方位・シアターとか行かないか?」
「ん、行った事ないかな、」
「そうか?面白いぞ。ババぁーンって、迫力《はくりょく》が。宇宙から来た生命体《エイリアン》が、窓の外でものすっごい暴れてんだよ。それが全方位で、宇宙船に絡みついて襲《おそ》われてさ、すっごい怖い。揺《ゆ》れるし、足元に変なのがウニョウニョ泳《およ》いでたりしてさ、ははは」
その時の事を思い出したのか、ちょっと楽しそうなガイだ。
「ふーん?」
ミリアが想像したら、ウニョウニョが気色《きしょく》悪そうだな、と思いつつ。
横目に、また窓の外へ・・というか、今は車窓《しゃそう》の全域に映る、のどかな花畑の景色にまた目を戻していた。

何十分か前に、一瞬で車内の窓が全域の花畑になったのは、窓の外を目隠《めかく》しするための映像だからだ。
出発前の、あの誰かの説明通りで。
気持ちのいい日差しと青空と花畑の景色に、ついでに気まぐれに現れたネコはちょっとドキっとした、眠気《ねむけ》を誘《さそ》うようなリラックスする時間になって悪くはないんだけれど。

三毛《ミケ》の柄《がら》は珍しいんだっけ?
どこかの国では幸運を呼ぶとか、ちょっと得した気分にはなるけど。

でも、これから訓練で、きっときつい時間が待っているから、『花畑とネコ』は少し場違いなチョイスだとは思う。

―――――・・まあ、それでも、まるでどこかの外国の牧歌的《ぼっかてき》な、路傍《ろぼう》を眺《なが》める緩《ゆる》い旅をしているみたいに。

そんな窓辺で、ミリアは頬杖《ほおづえ》を突きながら目を細めて。
たぶん、目の前ですやすや寝ている気まぐれネコと同じ顔をしているんじゃないか、とちょっと思いながらバスに揺《ゆ》られていた。

・・そんな、古い車とかみたいに全然、揺《ゆ》れはしないけど。

そんな風に過ごす時間は長かったような、短かったような。

ガイとの小さな会話とか、たまにぎゅっと閉じた目をぱっと開けて、後ろの座席のケイジやリースの様子を覗《のぞ》き見たり。
車内の様子を見たりするのも飽《あ》きてきた頃。
不意に窓が黒くなって、車内はライトの明かりだけになった。
花畑やネコの映像がシャットダウンしたようだ。

「お、なんだ?」
「ぉー?」
車内が少しざわつく、みんな目を覚ましたのか。
「到着する、騒《さわ》ぐなよ」

車両の速度が緩《ゆる》くなったり、左へ曲がったり右へ曲がったり、と引力《いんりょく》をちょっと感じていて。

「ぉー、やっと着くのか」
「随分《ずいぶん》時間がかかったんじゃねぇの?訓練時間、短くならねぇかな、」
「予定通りだ、心配すんなよ」
揺《ゆ》れが多くなって、次第に停車したのを感じた。

「順番に降りろー」

前の方から声が掛かり、みんなが立ち上がっていく。
座席からちょっと覗《のぞ》いてみてたミリアは。

「少し待つか、」
「そうだね、」
ガイの声に頷いて。
「リースを起こしといて、」
後ろのケイジへリースを起こすように言っておく。
「おいリース、・・熟睡《じゅくすい》してんのか?」
一応ちゃんと起こすケイジが、頬《ほお》を軽く叩くくらいになってるけど、目を閉じて動かないリースからミリアは目を離《はな》す。
『熟睡』とか、不穏《ふおん》そう、でもない言葉は聞き流すことにして。
・・訓練前に熟睡って。
ふむ、まあ仕方ないか・・・。

ミリアも、息を大きめに吸って胸を膨《ふく》らませれば、ちょっと欠伸《あくび》が漏《も》れそうになったので、口を閉じて隠《かく》したけども。

肩に掛ける荷物とかを持った人もいる車内で、ミリア達は前の人たちが行くのを待って。

出る人たちも少なくなるのを見計《みはか》らって立ち上がり、減った人たちに続いてバスのステップを降りた。

硬いコンクリートのような地面を靴《くつ》で踏《ふ》む。
少し暗い印象だったけど、バスから降りたばかりの人たちがたくさん屯《たむろ》する中で、見上げて見えたのはかなり高い天井に、照明が点いている・・・。
少し鼻に匂うのは機械のものか、屋内の駐車場のような空気なのか。
いや、広い倉庫のような、ガレージのような。
少し歩けば、遠目の向こうでシャッターが動いてる、外の眩《まぶ》しいくらいに明るい日光が小さく、細くなっていく。

おそらく、入り口が閉じていくのが見えた。
その傍《そば》に、人が立っているようだ。
EAUの人たちとは明らかに違う服装をしていて、ミリアはその姿を知っている。
「ここは・・、」
ミリアが口を、少しだけ開いていた。


「おい、マジ聞いてねぇぜ?」
「ここ、軍部の施設じゃあねぇのか・・・!?」
バスから降りたばかりの、周りの彼らも周囲を慌《あわ》てて見回して理解し始めたようだった。

「軍か・・?」
「ぽいな・・・?」
「なんでこんなとこに・・?」
「知らねぇ、」
「いや、軍とは限らないし?」

バスの花畑の景色からガラリと変わった窓の外は、見知らぬ格納庫《かくのうこ》のようだった。

『EAU』の格納庫それとは違うけど、大体どこも似たような雰囲気になるんだろう。
向こうには機材らしきものがシートを被《かぶ》されて置かれていて、軍部が現役《げんえき》で使ういくつかのタイプの車両が駐車しているのが見えた。
ちらほらと見える軍服の姿の人たち、軍部で普段着られている常装服《じょうそうふく》や作業服装など、砂漠迷彩《さばくめいさい》やそれに準じたものを着ている人たちもいるし。
それに、彼らもこっちを見ている。
興味本位《きょうみほんい》に、ここへ到着したばかりの『EAU』の集団を見ているようだ。

間違いなくここは軍部の施設か、それに関係する場所だとは思う。
『じゃあ・・?』という次の疑問は、『なぜこんな所に来たか?』だけど。

「入口で立ち止まるなよ、つっかえるぞ、」
「なんだここ?」
「想像してたんと違う。」
「な?」

みんなの声が聞こえてくる中で、少し移動する前の人に付いて歩く、ミリアが向こうを見ながら離《はな》れていく間にも。
広い格納庫《かくのうこ》の空間の向こうに見えていた、入り口が閉まっていくから、日の光が消え、照明の光だけになって、少し薄暗《うすぐら》く感じた。


 私たち『EAU』のメンバーは総勢で何人いるんだろう、数十人以上、ざっと50人はいるのか。
『EAU』のメンバーが『外』でここまで集まるのは見た事が無い。
けれど、他の人たちはそんな事より、車両の傍で知り合いと言葉を交わしては、戸惑っているか、興味津々《きょうみしんしん》に周りを見回しているようで。
そんな中に知ってる顔も何人かいるみたいだ。

すると、向こうで明らかに軍人といった身なりの軍服の将官だろうか、そんな人たちが歩いてきているのを見つけた。
声を掛けたのか、『EAU』の誰かが気が付いて、おそらく今回の代表者か責任者らしい人と、その軍部の責任者らしい人たちが前に出て、話し始めたようだった。


「―――――お待ちしていました。ようこそ。『EAU』のみなさん。」
近づいてきた軍人の彼らは3人ほどだった。
到着したばかりで今後の行動を確認していた『EAU』の彼らを出迎えてくれた。
「私はオゴール・ハキス中尉です。私が今回の案内をさせていただきます。」
「これはどうも。『EAU』の今回の責任者、ハゴイ・クスフキだ。」
ハキス中尉に差し出された手を握《にぎ》り返し、彼らはお互いの目を見て、あいさつを交わす。
「こちらはコリン・ノ・タール特尉、ジョーン・コールドウォータ軍曹です。
彼らはこの施設《しせつ》に詳しく、特尉は開発にも携《たずさ》わった方であるので、お手伝いできるのではないかと思います。」
「これは、お気遣《きづか》い感謝する。こちらもエンジニア技術者は連れてきているので、方針は彼らと相談しながらやるつもりだ。」
「ええ、もちろん。『EAU』のエンジニアはとても優秀《ゆうしゅう》だと聞こえていますよ。ぜひ交流の一環《いっかん》と、気安《きやす》く接してください。」
「それで、案内を頼んでよろしいか。なにぶん今日は時間が無いので。」
「おっと、そうですね。さっそく向かいましょう。」
ハキス中尉は手と身振りで進む先を示しつつ、彼の部下が先を歩き出し、方向を教えるよう立ち止まってくれる。
「移動だ。全員に伝えてくれ。迷子は出すなと強くな」
『EAU』のクスフキも指示を出し、彼らが了解していく。
「了解でっす。よぉし、お前らぁ移動するぞお―――――」
「滅多にない機会ですので、ゆっくりお話しをしたいものですな。初めて会う方々もいらっしゃるようだ、」
「これからは何度か顔を合わせる機会もありそうです。ジャロンは初めてだったか?」
「はい。自分は『EAU』のジャルオン・シャンドです。先輩たちが一足先に来たと聞いてます――――――」

「―――――移動するぞー!固まってついて来い!」
「チームで纏《まと》まらせろ。全員を確認次第、列になって移動する。」
「はい。各チームで点呼を取れ。問題あるならすぐに報告しろ―――――」

そのいくつかの号令に、バスの周りで屯《たむろ》していた彼らが気が付き、バスに寄り掛かっていた身体を起こして集まり出す。

『各チームで点呼を取れ。――――――』
「―――――どこへ行くんだ?」
「さあな、」
「あれ軍人か?」
「だろうな、」
「『EAU』にもそういう伝手《つて》があったんだな、」
『――――問題があるチームは手を上げろよ、メンバーがいなけりゃ今すぐ探せよ。』
「そりゃ『特務協戦』をやってんだからな。警備や軍部に面識くらいあるだろ。現場にほとんど出ない俺たちには関係ないが、」
「軍人を間近で見たの初めて」
EAUうちだって軍部出身くらいいるだろ」
「アイフェリア隊長とかだってそうだ、」
「え、そうなんだ?」
「らしいな、」
『――――今から全員で移動する。逸《はぐ》れるなよ!』
「つうか、どこへ行くんだ・・?」


『ああ、そうだ。ここでは『おいた』はするなよ?下手したら軍部の皆さんにしょっぴかれる、』
って、前の方でさらっと怖い事を言って寄越《よこ》すような、からかいも聞こえてきた。
「こえぇぇ、」
「冗談だろ?」
「おいおい・・、どこへ連れてかれるんだよ・・・?・・ったく、」

困惑《こんわく》している人たちが、増えている気がするけれど。
動き出した集団の中で歩くミリアが、傍のガイと、ケイジとリースがちゃんといる事を、また確認して。

みんなが進む先を見ると、この格納庫らしい広い部屋の壁にあった扉《とびら》が開かれたのか、白い光が見えた。
・・その扉の向こう側へ、『EAU』の人たちの列が入って行くのを、ミリアも並んでる中で覗《のぞ》いてみてたけど。
他にも気になって覗《のぞ》く人は何人かいて、列の形は少し崩《くず》れているしで、よく見えない、ので、ミリアも頭と身体を動かしては角度を何度か変えてみている。

「はぁ・・っくぁ、・・腹減った、」
って、横のケイジの。
「一体、どこに連れてかれるんだろうな?」
って、横でワクワクしているようなガイの声も。
「おいリース、寝んなよ?」
「・・どこ・・?ここ・・、」
「迷子になんなよ?」
「ガキか、」
って、傍にいた、知らないおじさんに言われてたけど。
ぁん?と瞬《またた》くようなケイジも、目をシパシパさせているリースも、別に気にしていないようだし。
「あれ?おっさんも来てたのかよ。」
「お前らも来てたんだな。つうかちゃんと目を覚まさせとけ、怪我するぞ」
「誰だ?」
「たまに話しかけてくるおっさん」
そう言われれば見覚えがあるような、ロビーとかでコーヒー休憩をよくしているような。
「なんだそりゃ、」
とりあえず、うちのメンバーたちは相変わらずマイペースみたいだ。

そんな事より、進んでいて、ほどなくして近づいてきたその扉を通り抜ける、少し眩《まぶ》しくて目を細めるミリアの。

「ぉー?」
「おーなんだここは・・?」
周りの人たちが驚《おどろ》いてる中で、ミリアも顔を上げて周囲を見回していた・・・そこは、白い通路だった。

真っ直ぐに伸びる通路は、壁や床は清潔《せいけつ》そうだけれど、窓も何もない、歩いていればたまに機材らしき物が端《はし》に置かれていたり、横壁に扉があるのも見えた。
照明も明るいけど、目が慣れれば普通のちょうどいい明るさのようだ。

でも、横壁には認証が必要そうな扉しか無さそうだし、生活感があまりない、汚れもあまり目立たないけど、まるで研究所のような無機質《むきしつ》な印象は、比較的新しい建物の内装《ないそう》の所為《せい》なのか、また見つけた横の扉を通り過ぎる。

「なんだここ?」
って、ガイはきょとんとしているような。
「なんかヤバくねぇか?」
ケイジは楽しそうだし、あんまり危機感は持って無いみたいで。

ふむ、とミリアは小さく鼻を鳴《な》らしつつ。
ちょっと目を瞬《またた》かせるように、見上げていた目をまた列の前の方へ覗《のぞ》かせていた。

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