幻想機動輝星

sabuo

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第2章 騎士の夢 BLADE RUNNER

第49話 格納庫での解析

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格納庫に行くと、既に輝星は待機していた。移動式キャットウォークに囲まれ、ミサイルなどの外部搭載火器は取り外され、代わりに何本もの太いケーブルが機体に繋がれていた。そして機体の上部にはオールと、黒髪のおかっぱの女の子がいた。
「オール、調子どうだ?」
「ああ、光男君。今ちょうど機体のシステム関連の作業していたんだ…そうだ、彼女は」
「イラクス・アーノイドです」とおかっぱの女の子。
「えーと…この輝星のシステム関連を設計・作成しました。よろしくお願いします」
「あ、ああ。よろしく…今何をやっていたんだ?」
「さっきの戦闘のデータを抽出中です。あの、出来れば立ち会ってもらいませんか?」
「ああ、いいよ」
茜とアレサと共に、キャットウォークに上がり、機体の上に上がる。コックピットハッチが開かれ、中のインテリア類もいくつものコードに繋がれていた。
「イラクス、君がこの機体の制御システムを?」
「はい。システムの全体の構想を芹沢さん、つまり朽木さんが。設計と開発、組み上げを」
「できれば説明してもらえるか、今ここで」
「簡単な説明なら、詳しい理論や体系はうまく語りあげる事は難しいです」
「構わない」
それでは、とイラクスはノート型パソコンのキーボードを叩き、図を立体投影(!?)させた。
大きな円が一つ、中にはこう表示されていた。
『CCC-EX00 KAGAYAKIBOSHI』
さらにそれを中心として、いくつもの円があった。
「輝星のシステムは、完全中枢制御です。中枢制御コア、パーソナルネーム『輝星』によって全てのシステムがコントロールされています。主機である魔力波動炉の制御などなど。全てがこのCCC(中枢制御コア)と、それを補助するコンピュータで成り立っています」
「一括制御という事か」
「概ねその通りです。何か理由があったそうなのですが、そこまでは」
「この制御システム体系もそうなんだけど、この機体、君1人で作った所もあるんだ」とオール。
「CCCもそうだけど、他には魔力波動炉のコアユニット。そして謎のプログラムが二つ、三つほど」
「ああ、そういえば何かやっていたわね光男君」と茜も言う。
「コンピュータと毎日にらめっこしていて…ええ、もちろん徹夜もしていたらしくって授業は大抵、寝ていたわ」
「お陰で数学がドエライ点数になった訳か」
というか、数学ができなくてどうやってプログラムを組んだのか。
「誰かと一緒に作ったのは間違いないな」
「それには私も同意します。何度か、手紙を郵便受付に持って行ってくれと頼まれたときが何度か。確かバビロス連邦当てだった気が」とアレサの証言。
「どんな奴に宛てたかは知らんが…まあいい。完全にそれらは動作しているのか? それが問題だ」
「ええ、完動しています。FCS(火器管制システム)との連携も取れています。後、朽木さんが構想したHORUSも」
HORUS?





エルメス・アーノイド、戦略機動隊技術研究局(戦技研)局長は頭を抱えていた。
彼女がいるのはSMF山城基地のメインコンピュータ室…の下にあるサーバーボックス群(通称黒壁部屋)
「やはりここです、局長」と戦技研のコンピュータメンテナンス部の局員が言う。
「ここ、例のHORUSが入っている所…凄まじい量の記号化不能情報をやり取りしています。それも全SMF基地、艦船、WGの情報を」
「例のKAGAYAKIBOSHIだからこそ成せる業だな…だからって本部のメインコンピュータの魔力空間演算領域を中継に使わないでもらいたいが」
全く、馬鹿げた性能だとエルメスは思う。ここ、SMF本部のメインコンピュータは人間界のスーパーコンピュータの性能を遥かに凌駕している。それの情報処理能力があればこそ、新たな戦略・戦術が生み出せ、円滑な部隊運用ができ、今のSMFは成り立っている。それなのに、
「戦闘機に搭載できるサイズで圧倒するとは…確か十億ヨタフロップスだったか」
「あきれる情報処理能力の高さですね、しかもこれがKAGAYAKIBOSHIの本気じゃないって」
「確か、一兵器システムを全て統括し、操作できるんだったか、しかもそれを構成するユニットを個々別々に同時遠隔操作ができる」
「情報化の成せる業ですよ…まったく、それを一ヶ月で完成させたんですよ。どうしてそんな凄い奴がうちに? ウィザドニア王立研究所のエースだったんでしょう?」




「HORUSとは、朽木さんが直接開発した物の一つです。正式には『高度作戦偵察無人機システム』の略称です」
「どういうシステムだ?」
簡潔に言えば、このシステムを搭載した兵器を同時遠隔操作するシステムです」
そういって、イラクスは端末を操作し、ある図面を出した。
「これは?」
「このオケアノス計画で新規開発された兵器群です。UWG(無人WG)、無人戦闘機、無人ヘリコプター、自走砲・・・…果てには航空駆逐艦まで新規開発されました」
「開発『された』…て言うことはもうできているって事か?」
「その通りです」
「ですよね!!」
そりゃあ五十兆かかるわ。そんなシステム&兵器群を開発したのか。
「ちなみに航空駆逐艦の名前は?」
「ミラージュ。詳細は不明ですが。どうも…一応、開発ナンバーと名称を挙げておきます」
XUWG-01 ソニックウィッチ
XUMH-01 ハチドリ
XUWF‐01α ワスプ
XUWF‐01β ハニービー
XSPWG-01 ヤークトシャドウ
AD-9669 ミラージュ
「後、私達が開発した三毛猫も、このシステムに組み込まれています。これらの兵器群を『輝星』は全て動かすことができます」
「全部をか? どんな演算力だよそれ」
「弾道ミサイルの発射をすぐさま検知し大気圏突入前に破壊できるそうです…戦闘機に載せるにはちょっと過剰な気がしますけど」
「ちょっとどころじゃないよこれは」と茜が口を挟む。割と真剣そうに、
「イラクス、そのHORUS搭載の、新規開発された兵器群には無人WGや無人戦闘機、無人ヘリ、自走砲、航空駆逐艦まであるのよね」
「ええ、そうですけど」
「…一個の軍隊よこれは。陸海空すべてそろっているじゃない」
「あ」
そういえばそうだ。全部そろっている。
「無人WGは…輝星の直援ね、HORUSを活用して無人戦闘機で航空目標を攻撃、それを無人ヘリで管制、陸上目標は自走砲で破壊。そしてそれらの火力、情報面での支援を『ミラージュ』が…完全に一個軍隊よこれ」
「・・・どういう目的だ」
オレは何を作りたかったんだ? この輝星の演算力といい、この兵器群といい、いやそもそも。
「どうしてそんな物作れたんだ? 輝星の制作目的は不明なんだぞ、いくらなんでも、というかどこで作ったんだこんなの」
「その件には心あたりがあるよ」と、オール。
「確か、SMFの制式兵器を製造しているヤマシログループだ。SMFの装備を作っている企業だよ。何度かそこの人が来ていた」
「外注していたってことか」
「うん。大まかに分けると、輝星のCCCといくつかのプログラムと魔力波動炉のコアユニットを光男君が、その他の部分を僕たちKARAHASHI。で、輝星専用のミサイルとその他の兵器類の開発、それと今の兵器群の製作をヤマシログループがやったんだ。ただ」
「ただ?」
「その兵器群は…『輝星ができる前にもう完成していたんだ』」





「ジョナス、いるかしら?」
そう言って金髪赤目の女は食堂のカウンターから中を覗いた。
「おう、いるぞ副司令」
奥の方からジョナス料理長が基地内農場で採れたばかりのにんじんを手に出てきた。
「どうした?」
「レオス知らない? さっきから捕まえられなくて」
「あいつなら戦技研の応援にいったぞ、コンピュータのなんとかをメンテナンスしてたらエルメスがドジって、それでプログラムが何とかかんとか」
「…ああ、さっきから端末のネットが使えないのってそれが原因」
副司令は端末を開く、するとそこにはこう書かれていた。
『ただいまネットが使用できません。これは予定された事であり実際問題が無い』
「まったく基地内ネットワーク使えないで大騒ぎよ、さっき人事課に行ってきたけど隊員のパーソナルデータバンクにアクセスできなくて…情報化のデメリットと言う奴ね」
「バックアップぐらいあるだろう」
「紙の書類の、ね。つまり去年のデータって訳、今年のデータはまだ書類化されてないからデータバンクの情報のみよ」
「大変だな、コンピュータっていうのはもっと便利な物だと思っていたが」
「壊れるとと不便極まりないわ…早急に対策すべきねこれは」
「ここもいつフリークスに落とされるか分からん、何をどうするか知らんが早めにしておけ」
「『伝説の料理人』としての忠告」
「まあ、そんな感じだ」とジョナスは言い、にんじんを洗い出す。
「で、どうしてレオスを?」
「ラファーズ・ミレニアムからの要請、いつ部品をおくればいいかって…何の部品かはレオスが知っているそうだけど」
「…例の新型じゃないのか。今試験に行っている」
「ああ、あの。あなたの娘が同行している奴ね」
「機関士として、な…レオスから聞く限り、えらくずさんな計画だが」
「製作目的不明、それなのにレオスったらすさまじい額の予算だしたのよ、あれに。副司令としてSMF総司令の補佐する身として、全力で止めたけど」
「できなかったか」
「ええ。あの芹沢とか言う若手。相当なやり手よ、レオスだけでなく参謀本部も黙らせたから」
「そんな事までやってたのか、あいつ…だが、レオスがただただ言いくるめられたとは思えん。何か確証を持って許可したのは間違いないだろう。それはお前さんも良く分かってる筈だ」
レオスに戦いを挑み、負けた者として、とジョナスは後から付け加えた。それに対して副司令は、「そうね」とだけ答えた。
「26年よ、もう。最初のフリークスが来て…もうそんなのになるのね」
「光陰矢の如し、か…南極の一件からもう20年だ」
「レオスが負傷したのは前にも後にもあの一回だけよ」
そして、自分が泣いたのはあの時と約千年前だ、と副司令は思った。
「この戦争、終わるのかしら?」
「お前がそういうのなら、終わるだろうな…我々の負けで」と、にんじんを切る手を止めず、ジョナスは言った。
「…そうね」
副司令は立ち上がった。
「じゃ、また…今日の夕食は?」
「クリームシチューを予定しているが」
「ふ、楽しみにしてるわ」
「そうかい…メアリー・ブラッドSMF副司令」
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