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第2章 騎士の夢 BLADE RUNNER
第58話 疑惑
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数週間に何度も離陸・着陸を繰り返しはしたが、慣れなかった。
近江山城の航空甲板の着陸灯と、実際の視界と重ねた仮想表示された着陸軌道を当てにして、俺は輝星を着床させた。
「エアブレーキ、最大展開、リバーサブースト(逆噴射)」
『リバーサブースタ、イグニション(点火)』
機体各部から装甲が展開し、中に格納されたブースターが点火。機体が減速する。
「停止確認・・・ナイスランディング」と、オール。
「ありがとう。リバーサブースターの点火速度、遅くないか?」
「装甲展開してから点火するからね、確かに、早くできるかも」
「頼む、戦闘に使うかもしれん」
「了解」
ハッチが開き、無人牽引車がレールに沿って出てくる。魔方陣が展開し、輝星を移動させ、牽引車に接続する。
「・・・毎回思うけどさ、航空甲板に作業員いなくていいのか? 普通、空母とかは作業員いるけど」
「いくら術式使ったって、飛んでいる時は結構風が強いからね。全自動だよ。機体格納と武装搭載は基本、艦内で。後はシステムさ」
「なるほど」
そうこう言っている内に、輝星が格納庫に収容される。魔力波動炉を待機状態にして、起動用魔力、電源をチャージし、止める。
「おつかれー」
そう言って来たのは茜だった、アレサも後から付いてきた。
「どうだった?」
「二週間前に比べてだいぶよくなっている。特にコミュニケーションシステムはありがたい。結構、使いやすい」
「魔力波動炉の稼動状態のデータを元に、制御システムのヴァージョンアップを重ねているからね」とオール。
「前は素人の目から見ても危なっかしい状態で飛んでいたからね」
「正直な話、MPWR(魔力波道炉)は最初、高出力で不安定な状態だったんだ。デタラメな反応をして、それの制御のためにCCCの演算領域がかなり食っていたんだ。でも、だんだんパターンが分かってきて、制御も簡単に、MPWリアクターの出力も安定してきている」
「ようは、空中で爆発四散する確率がかなり減ったって事?」
「概ね、あっている」
そういいながら白髪赤目のメイド、アレサにメモを取らせた。
レバリスクに来てから俺の専属メイドのアレサの仕事は、試験中での筆記すべき事柄をメモする事、予定確認、また各スタッフとの伝達役をやってもらっていた。
「スラスターへの魔力供給管をもう一系等増設。あと余剰魔力への対処を考えること。これをメモっておいてくれ」
「承知しました。操作性の件は?」
「解決した。後は微調整だな・・・オール、圧力感応型のスティック件はやっぱりやめておこう。夜にあれでフライトシュミレート(エース○ンバット)やったら無意識の手の圧力にも反応してストーンヘンジに激突した」
「光男君光男君、それは無理に急降下爆撃したからじゃあ」
「だまらっしゃい」
ミサイルと爆弾切れたから機銃でがんばってたんだよ。後から来る黄色中隊のこと考えると詰んでるが。
「とにかく、あれは不採用だ。だけど、もしかしたら精密作業用のアームを制御する手段には使えるかもしれない」
「作業用の? なるほど、そういう手があったか。やってみるよ」
そんな会話をしながら、俺たちは第一作戦室に向かった。リディスに王立研究所の事を聞くことを忘れずに。
「王立研究所?」
翌日の打ち合わせを行うために近江山城の第一作戦室に来ていたリディスは首を傾げた。
「それがどうしました?」
「いや、どうこうと言う事はないんですが、どうも俺はそこにいくつか注文をしている筈なんです」
と、メガネの下に眼帯を掛けた隻眼の少年、朽木は言った。
「王立研究所は女王陛下直属の機関だ…外部から何か注文を、それを受けるとは思えないですが」
「それが領収書がきっちりと切ってあるんです・・・実は、それが何かは分からないんです」
「分からない? その領収書を見せてもらえますか?」
ええ、と言って朽木は一枚の羊皮紙を見せた。サインの上、判子が押してある。
―領収書―
依頼人 ヒデキ・セリザワ
依頼内容 秘匿名称『MG』の製造
請求金額
コードHの製造費用・・・六億G
支払い ヒデキ・セリザワ
支払い確認 HAK王立研究所所長 アリガナス・マリアファス 印
「これは…確かに王立研究所の紋章だ。間違いないでしょう」
「そうか・・・ところで、王立研究所は何をやっているんですか? 何を専門的に研究を?」
「主に、聖術の研究をやっています。霊力や古代遺跡の研究もやっていますが、基本的には聖術研究です。また王室工房と協力して聖術武装の開発、製造を行っています」
そう言って、リディスは羊皮紙のサインを見る。
アリガナス・マリアファス。
「・・・父上?」
「父上?」
「ああ、ここのサイン、このアリガナス・マリアファスは私の父のものです…そういえば、父上は王立研究所の所長だった。朽木博士、この依頼内容の詳細が知りたいのですね?」
「そうだ・・・そうか、あなたの父上なら。頼めますか」
「電報を打てば・・・2、3日で分かる筈だ。しかし、朽木博士は何か心あたりがありますか? 頼んだものについて」
「ないです全く。何かやばい物でなければいいですが」
いや俺の注文だからなあ、ああ嫌な予感がする。と朽木は頭を抱えたが、ふと気づいたように言った。
「そういや、リディアさん、日本語うまくなりましたね」
「それはそうだ。二週間も日本語を話す者といっしょにいれば覚えられます。物覚えはいいほうですから」
「羨ましいです。正直な話・・・ああ、そういえば」
と朽木は手に持っていたもう一枚の書類をだした。
「さっきアヴェントからもらったものです、今後の予定について」
リディアは目を通す。
「・・・一週間後に出発? 予定では来月中旬なのでは」
「俺もさっき聞いたんですが、どうも戦線が悪化し始めているらしく」
「戦線? 極東列島戦線がですが?」
「ええ、フリークスの動きがおかしいらしく、SMFのフリークス出現予測がことごとく外れているらしいんです」
SMFのフリークス出現予測は約20年前から、正確には南極事件の翌年からSMFが運用し始めたシステムだ。
SMF所属のあらゆるWG、航空艦等からリアルタイムで膨大なデータを受け取り、ただちにそれをSMF山城基地司令部にある特殊人工知能(アメリカ・マサチューセッツ工科大学及び某有名大学等々との戦技研共同制作の代物、どうやって頼んだかは不明)が処理、分析し、次にフリークスが現れる地点と時間を予測する。その精度は当初、あまりよくなかったが、情報が集まってくると、たちまち向上し、聖史暦3015年には予測的中率99・9%を記録し、以後も90%代を出してきた。しかし、
「外れている?」
「ええ、原因不明なんです。一応、システムのバグを想定して戦技研がシステムのスキャンをやっているそうですが、現時点でバグ等は見つかっていないとの事です」
「では」
「ええ、フリークスの動きがまったく不規則になっています。それで何が起こるか全くわからないとの事で、万が一に備えるため我がファンタジア戦隊にも試験の日程を繰り上げて、早く南部地方・極東連合軍キルゲニアス基地に向かえとの指示が。で、アヴェントは今そのスケジュール変更作業を行っています」
キルゲニアス基地とは、極東の南、人間界でいうカンボジアに位置する所にある。
対フリークス南部戦線の最重要拠点であり、極東連合軍が極東戦線と並んで総力をあげてその防衛にあたっていた。
「一人でですか? 航空艦の航路日程の変更を?」
「ええ。今夜中にやるそうです」
しかし、問題がある。そもそもレバリスクに近江山城が来ているのは『輝星』と『三毛猫』の実地試験・開発の為だ。航空日程を繰り上げるということは自然、試験日程も繰り上げる事になる。
「試験項目の方は大丈夫なのですか?」
「一部項目を削除して対応します。試製WG携行魔力砲の試験を削除します。機動試験は今日の泥地試験で終わっています」
「ああ、さっきの」
試験は市の東部にある広大な泥地で行われていた。
ウィザード・ジェネレータ及び魔力伝導関連の改修は既に終わり、後は機体本体の性能だった。
泥地での試験では、連合軍の14式百ミリ機関砲及び4式AF(対フリークス)長刀を装備し行われ、連合軍の定める基準性能を満たしている事が確認された。一応これでフリークスに『一応』対抗できる性能を持つWGということになる。
後は魔力砲の試射実験だけだが、
「例の魔力砲の試射は」
「とうてい無理でしょうね。早くキルゲニアスに行けと言われているので」
まあ、発射時の薬室内圧力が水爆の1・5倍並みだったとかいう事が土壇場で判明して修正しようとしてた所だしっていうかどこの波動砲だよそれと言う朽木の声を、リディスは聞いたような気がした。
「まあ、そんなところです。詳しい事についてはまたアヴェントからあると思います」
「わかりました。一応さっきの件は一週間以内に分かると思います。返事が着き次第伝えます」
「わざわざありがとうございます。ではまた」
そう言って、朽木は出て行った。
「一週間後に出発・・・」
いきなり言われた言葉に、リディアは書類を読みながら、何故か寂しさを感じた。
まったく俺の趣味全開じゃあないか、それが、アレサが輝星の武装管制システムから見つけ出してきたデータの感想だ。
輝星には人型形態のフェイズ3が予定されているのは分かっていた。だが、更にフェイズ3用のオプションパーツが大量にある事が判明したのだった。
補助ブースターやら遠隔攻撃端末やら陽電子砲やら対艦貫通弾やら核弾頭やら圧縮燃料気化爆弾やら高周波長刀やら対核防御盾やら連装砲やら、で、一体何と戦うつもりなんだと思うこれらの武装を全て装備したのが。
「FW装備・対フリークス突撃強襲殲滅仕様・・・」
「もうこれは航空戦艦なのでは・・・」
アレサの意見に頷く。もはやこれはロボットではなく航空戦艦だ。デンドロビウムだ、フルアーマーユニコーンと表現しようか?
武装重量で機体が押しつぶされそうだ。
「ていうかこれ、飛ぶのか?」
「理論上可能の用です。むしろこの上腕部サブアームに装備されている能動的魔力波動装甲盾が発生する魔力波動防壁によって空気抵抗を抑える事が可能らしく、更に腰部に備えられた補助ブースターの出力はアメリカ合衆国の月探査計画、アポロ計画で開発されたサターンロケット並みなので、むしろ速くなっているそうです」
「おまけに機体各部の圧縮魔力コンデンサ全開放して機体出力を三分の間、十倍にするMPレリーズとかもう何に使うんだよ全く…大気圏突破できるんじゃあ」
「出来るそうです」
「ファ!?」
何を考えて作ったのだろうが? そう思いながら俺はさっきの領収書を見てあることを思い出す。
「もしかして、コードHってコンピュータの類だろうか?」
「コンピュータ?」
「ああ、ここまでの大量の武装を運用するんだ。並大抵の情報処理能力が無ければとても動かせない…」
「…まさか、CCCの事なのでは」
「十分ありうる。それを王立研究所に依頼したのかもしれない」
ま、いずれ分かる。そういいながら俺はアレサが淹れたお茶を飲んだ。うまい。
そこで俺はふと思った。
「…そういえばアレサ、お前はいつ俺と出会ったんだ?」
「いつとは?」
「俺とお前が始めてあったのはいつかと言う事だ。そういえばなんで俺のメイドを」
「今年の5月です。いつの間にか浜大津の商店街にいたところを拾われて…記憶が無いんです。私」
「記憶?」
ええ、とアレサは頷いた。彼女はいつのまにか浜大津の商店街にワンピース姿でいて、以前の記憶がすっぽり無くなっていたと言う。
「訳が分からずどうにもこうにもできないときに、ふと通りかかった芹沢博士、つまりご主人様に拾われて…メイドになったんです」
「俺がメイドとしてお前を雇ったのはそういう経緯があったのか…何も思い出せないのか?」
「ええ、アレサというこの名前も、ご主人様につけてもらったのです」
「俺が、ねえ」
俺はアレサを見た。白髪赤目のメイド、アレサ。顔立ちも綺麗で美少女の類に入るものだろう。そんな少女が記憶を失い、浜大津の路頭を迷っていた。そうしていたら偶然それを見た男が少女を拾い、名づけ、メイドとして雇った。
「…絶対に何かあるよなこれ」
「どういう意味です?」
「どうもこうも、ほぼ間違いなく君の記憶が消えたのは何者かの思惑があってだ。まず間違いない」
「どうしてですか?」
「何者かの行為が無い限りいきなり記憶喪失なんてめったに起こらん。事故にあったとかなら十分わかるが。しかし、その調子だとケガとかなかっただろう?」
「ええ、ケガひとつしてませんでした」
「なら間違いない。誰かに記憶を消された」
そしてそれに俺は一枚かんでいるだろうと俺は確信した。記憶喪失の謎の美少女の前にSMFの新型兵器つくっている奴が通りかかったなどという偶然は断じてない。
どこぞやの有名な不吉な詐欺師も言っていたではないか、『大抵の場合、偶然というのは何らかの悪意から生じるものだ』と。この場合悪意ではなく意思だが。
「…だが、そのうち思い出すよ」
「そうでしょうか?」
「多分な。まあ気楽にしとけ、何か困っていると言うのなら話は別だが」
「いえ、そこまでは」
アレサは何とも無いような顔で言った。
「別に記憶が無いから困っているという訳ではありません。ただ、興味というか。たぶんその記憶は自分が何者なのか、今まで何をしていたのか、何故あんな所にいたのか、というものでしょう。それが知りたくて」
「なるほど、なら尚更気楽にすべきだ…そういうのって、思い出そうとしても思い出せないものだよ。大抵の場合ふと思い出すものだし」
まあ、その記憶がよい記憶なのか悪い記憶なのかは別の話だが。
そう思い、俺はお茶を飲み干した。
近江山城の航空甲板の着陸灯と、実際の視界と重ねた仮想表示された着陸軌道を当てにして、俺は輝星を着床させた。
「エアブレーキ、最大展開、リバーサブースト(逆噴射)」
『リバーサブースタ、イグニション(点火)』
機体各部から装甲が展開し、中に格納されたブースターが点火。機体が減速する。
「停止確認・・・ナイスランディング」と、オール。
「ありがとう。リバーサブースターの点火速度、遅くないか?」
「装甲展開してから点火するからね、確かに、早くできるかも」
「頼む、戦闘に使うかもしれん」
「了解」
ハッチが開き、無人牽引車がレールに沿って出てくる。魔方陣が展開し、輝星を移動させ、牽引車に接続する。
「・・・毎回思うけどさ、航空甲板に作業員いなくていいのか? 普通、空母とかは作業員いるけど」
「いくら術式使ったって、飛んでいる時は結構風が強いからね。全自動だよ。機体格納と武装搭載は基本、艦内で。後はシステムさ」
「なるほど」
そうこう言っている内に、輝星が格納庫に収容される。魔力波動炉を待機状態にして、起動用魔力、電源をチャージし、止める。
「おつかれー」
そう言って来たのは茜だった、アレサも後から付いてきた。
「どうだった?」
「二週間前に比べてだいぶよくなっている。特にコミュニケーションシステムはありがたい。結構、使いやすい」
「魔力波動炉の稼動状態のデータを元に、制御システムのヴァージョンアップを重ねているからね」とオール。
「前は素人の目から見ても危なっかしい状態で飛んでいたからね」
「正直な話、MPWR(魔力波道炉)は最初、高出力で不安定な状態だったんだ。デタラメな反応をして、それの制御のためにCCCの演算領域がかなり食っていたんだ。でも、だんだんパターンが分かってきて、制御も簡単に、MPWリアクターの出力も安定してきている」
「ようは、空中で爆発四散する確率がかなり減ったって事?」
「概ね、あっている」
そういいながら白髪赤目のメイド、アレサにメモを取らせた。
レバリスクに来てから俺の専属メイドのアレサの仕事は、試験中での筆記すべき事柄をメモする事、予定確認、また各スタッフとの伝達役をやってもらっていた。
「スラスターへの魔力供給管をもう一系等増設。あと余剰魔力への対処を考えること。これをメモっておいてくれ」
「承知しました。操作性の件は?」
「解決した。後は微調整だな・・・オール、圧力感応型のスティック件はやっぱりやめておこう。夜にあれでフライトシュミレート(エース○ンバット)やったら無意識の手の圧力にも反応してストーンヘンジに激突した」
「光男君光男君、それは無理に急降下爆撃したからじゃあ」
「だまらっしゃい」
ミサイルと爆弾切れたから機銃でがんばってたんだよ。後から来る黄色中隊のこと考えると詰んでるが。
「とにかく、あれは不採用だ。だけど、もしかしたら精密作業用のアームを制御する手段には使えるかもしれない」
「作業用の? なるほど、そういう手があったか。やってみるよ」
そんな会話をしながら、俺たちは第一作戦室に向かった。リディスに王立研究所の事を聞くことを忘れずに。
「王立研究所?」
翌日の打ち合わせを行うために近江山城の第一作戦室に来ていたリディスは首を傾げた。
「それがどうしました?」
「いや、どうこうと言う事はないんですが、どうも俺はそこにいくつか注文をしている筈なんです」
と、メガネの下に眼帯を掛けた隻眼の少年、朽木は言った。
「王立研究所は女王陛下直属の機関だ…外部から何か注文を、それを受けるとは思えないですが」
「それが領収書がきっちりと切ってあるんです・・・実は、それが何かは分からないんです」
「分からない? その領収書を見せてもらえますか?」
ええ、と言って朽木は一枚の羊皮紙を見せた。サインの上、判子が押してある。
―領収書―
依頼人 ヒデキ・セリザワ
依頼内容 秘匿名称『MG』の製造
請求金額
コードHの製造費用・・・六億G
支払い ヒデキ・セリザワ
支払い確認 HAK王立研究所所長 アリガナス・マリアファス 印
「これは…確かに王立研究所の紋章だ。間違いないでしょう」
「そうか・・・ところで、王立研究所は何をやっているんですか? 何を専門的に研究を?」
「主に、聖術の研究をやっています。霊力や古代遺跡の研究もやっていますが、基本的には聖術研究です。また王室工房と協力して聖術武装の開発、製造を行っています」
そう言って、リディスは羊皮紙のサインを見る。
アリガナス・マリアファス。
「・・・父上?」
「父上?」
「ああ、ここのサイン、このアリガナス・マリアファスは私の父のものです…そういえば、父上は王立研究所の所長だった。朽木博士、この依頼内容の詳細が知りたいのですね?」
「そうだ・・・そうか、あなたの父上なら。頼めますか」
「電報を打てば・・・2、3日で分かる筈だ。しかし、朽木博士は何か心あたりがありますか? 頼んだものについて」
「ないです全く。何かやばい物でなければいいですが」
いや俺の注文だからなあ、ああ嫌な予感がする。と朽木は頭を抱えたが、ふと気づいたように言った。
「そういや、リディアさん、日本語うまくなりましたね」
「それはそうだ。二週間も日本語を話す者といっしょにいれば覚えられます。物覚えはいいほうですから」
「羨ましいです。正直な話・・・ああ、そういえば」
と朽木は手に持っていたもう一枚の書類をだした。
「さっきアヴェントからもらったものです、今後の予定について」
リディアは目を通す。
「・・・一週間後に出発? 予定では来月中旬なのでは」
「俺もさっき聞いたんですが、どうも戦線が悪化し始めているらしく」
「戦線? 極東列島戦線がですが?」
「ええ、フリークスの動きがおかしいらしく、SMFのフリークス出現予測がことごとく外れているらしいんです」
SMFのフリークス出現予測は約20年前から、正確には南極事件の翌年からSMFが運用し始めたシステムだ。
SMF所属のあらゆるWG、航空艦等からリアルタイムで膨大なデータを受け取り、ただちにそれをSMF山城基地司令部にある特殊人工知能(アメリカ・マサチューセッツ工科大学及び某有名大学等々との戦技研共同制作の代物、どうやって頼んだかは不明)が処理、分析し、次にフリークスが現れる地点と時間を予測する。その精度は当初、あまりよくなかったが、情報が集まってくると、たちまち向上し、聖史暦3015年には予測的中率99・9%を記録し、以後も90%代を出してきた。しかし、
「外れている?」
「ええ、原因不明なんです。一応、システムのバグを想定して戦技研がシステムのスキャンをやっているそうですが、現時点でバグ等は見つかっていないとの事です」
「では」
「ええ、フリークスの動きがまったく不規則になっています。それで何が起こるか全くわからないとの事で、万が一に備えるため我がファンタジア戦隊にも試験の日程を繰り上げて、早く南部地方・極東連合軍キルゲニアス基地に向かえとの指示が。で、アヴェントは今そのスケジュール変更作業を行っています」
キルゲニアス基地とは、極東の南、人間界でいうカンボジアに位置する所にある。
対フリークス南部戦線の最重要拠点であり、極東連合軍が極東戦線と並んで総力をあげてその防衛にあたっていた。
「一人でですか? 航空艦の航路日程の変更を?」
「ええ。今夜中にやるそうです」
しかし、問題がある。そもそもレバリスクに近江山城が来ているのは『輝星』と『三毛猫』の実地試験・開発の為だ。航空日程を繰り上げるということは自然、試験日程も繰り上げる事になる。
「試験項目の方は大丈夫なのですか?」
「一部項目を削除して対応します。試製WG携行魔力砲の試験を削除します。機動試験は今日の泥地試験で終わっています」
「ああ、さっきの」
試験は市の東部にある広大な泥地で行われていた。
ウィザード・ジェネレータ及び魔力伝導関連の改修は既に終わり、後は機体本体の性能だった。
泥地での試験では、連合軍の14式百ミリ機関砲及び4式AF(対フリークス)長刀を装備し行われ、連合軍の定める基準性能を満たしている事が確認された。一応これでフリークスに『一応』対抗できる性能を持つWGということになる。
後は魔力砲の試射実験だけだが、
「例の魔力砲の試射は」
「とうてい無理でしょうね。早くキルゲニアスに行けと言われているので」
まあ、発射時の薬室内圧力が水爆の1・5倍並みだったとかいう事が土壇場で判明して修正しようとしてた所だしっていうかどこの波動砲だよそれと言う朽木の声を、リディスは聞いたような気がした。
「まあ、そんなところです。詳しい事についてはまたアヴェントからあると思います」
「わかりました。一応さっきの件は一週間以内に分かると思います。返事が着き次第伝えます」
「わざわざありがとうございます。ではまた」
そう言って、朽木は出て行った。
「一週間後に出発・・・」
いきなり言われた言葉に、リディアは書類を読みながら、何故か寂しさを感じた。
まったく俺の趣味全開じゃあないか、それが、アレサが輝星の武装管制システムから見つけ出してきたデータの感想だ。
輝星には人型形態のフェイズ3が予定されているのは分かっていた。だが、更にフェイズ3用のオプションパーツが大量にある事が判明したのだった。
補助ブースターやら遠隔攻撃端末やら陽電子砲やら対艦貫通弾やら核弾頭やら圧縮燃料気化爆弾やら高周波長刀やら対核防御盾やら連装砲やら、で、一体何と戦うつもりなんだと思うこれらの武装を全て装備したのが。
「FW装備・対フリークス突撃強襲殲滅仕様・・・」
「もうこれは航空戦艦なのでは・・・」
アレサの意見に頷く。もはやこれはロボットではなく航空戦艦だ。デンドロビウムだ、フルアーマーユニコーンと表現しようか?
武装重量で機体が押しつぶされそうだ。
「ていうかこれ、飛ぶのか?」
「理論上可能の用です。むしろこの上腕部サブアームに装備されている能動的魔力波動装甲盾が発生する魔力波動防壁によって空気抵抗を抑える事が可能らしく、更に腰部に備えられた補助ブースターの出力はアメリカ合衆国の月探査計画、アポロ計画で開発されたサターンロケット並みなので、むしろ速くなっているそうです」
「おまけに機体各部の圧縮魔力コンデンサ全開放して機体出力を三分の間、十倍にするMPレリーズとかもう何に使うんだよ全く…大気圏突破できるんじゃあ」
「出来るそうです」
「ファ!?」
何を考えて作ったのだろうが? そう思いながら俺はさっきの領収書を見てあることを思い出す。
「もしかして、コードHってコンピュータの類だろうか?」
「コンピュータ?」
「ああ、ここまでの大量の武装を運用するんだ。並大抵の情報処理能力が無ければとても動かせない…」
「…まさか、CCCの事なのでは」
「十分ありうる。それを王立研究所に依頼したのかもしれない」
ま、いずれ分かる。そういいながら俺はアレサが淹れたお茶を飲んだ。うまい。
そこで俺はふと思った。
「…そういえばアレサ、お前はいつ俺と出会ったんだ?」
「いつとは?」
「俺とお前が始めてあったのはいつかと言う事だ。そういえばなんで俺のメイドを」
「今年の5月です。いつの間にか浜大津の商店街にいたところを拾われて…記憶が無いんです。私」
「記憶?」
ええ、とアレサは頷いた。彼女はいつのまにか浜大津の商店街にワンピース姿でいて、以前の記憶がすっぽり無くなっていたと言う。
「訳が分からずどうにもこうにもできないときに、ふと通りかかった芹沢博士、つまりご主人様に拾われて…メイドになったんです」
「俺がメイドとしてお前を雇ったのはそういう経緯があったのか…何も思い出せないのか?」
「ええ、アレサというこの名前も、ご主人様につけてもらったのです」
「俺が、ねえ」
俺はアレサを見た。白髪赤目のメイド、アレサ。顔立ちも綺麗で美少女の類に入るものだろう。そんな少女が記憶を失い、浜大津の路頭を迷っていた。そうしていたら偶然それを見た男が少女を拾い、名づけ、メイドとして雇った。
「…絶対に何かあるよなこれ」
「どういう意味です?」
「どうもこうも、ほぼ間違いなく君の記憶が消えたのは何者かの思惑があってだ。まず間違いない」
「どうしてですか?」
「何者かの行為が無い限りいきなり記憶喪失なんてめったに起こらん。事故にあったとかなら十分わかるが。しかし、その調子だとケガとかなかっただろう?」
「ええ、ケガひとつしてませんでした」
「なら間違いない。誰かに記憶を消された」
そしてそれに俺は一枚かんでいるだろうと俺は確信した。記憶喪失の謎の美少女の前にSMFの新型兵器つくっている奴が通りかかったなどという偶然は断じてない。
どこぞやの有名な不吉な詐欺師も言っていたではないか、『大抵の場合、偶然というのは何らかの悪意から生じるものだ』と。この場合悪意ではなく意思だが。
「…だが、そのうち思い出すよ」
「そうでしょうか?」
「多分な。まあ気楽にしとけ、何か困っていると言うのなら話は別だが」
「いえ、そこまでは」
アレサは何とも無いような顔で言った。
「別に記憶が無いから困っているという訳ではありません。ただ、興味というか。たぶんその記憶は自分が何者なのか、今まで何をしていたのか、何故あんな所にいたのか、というものでしょう。それが知りたくて」
「なるほど、なら尚更気楽にすべきだ…そういうのって、思い出そうとしても思い出せないものだよ。大抵の場合ふと思い出すものだし」
まあ、その記憶がよい記憶なのか悪い記憶なのかは別の話だが。
そう思い、俺はお茶を飲み干した。
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