幻想機動輝星

sabuo

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第2章 騎士の夢 BLADE RUNNER

第57話 発覚

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豪華な装飾の部屋だった。窓際に木造の豪華なデスクがある。それにはHAKの国章が彫られていた。壁には数々の名剣、盾、槍。
。しかし、本とか絵とか、そういった類はあまり無かった。応接用のイスは二つ。その一つに一人の女性が座っていた。
白いドレスに、緑色のローブを着ただけの女は、窓から見える空を見ていた。が、
「ん?」
ふと、部屋に置かれた電話のベルが鳴った。
女は誰だろうかと思う。基本、この電話に掛けてくるのは限られた者しか居ない。
極東四カ国の長か、連合軍のトップクラスか、HAK軍の総司令か、それか、
「…内偵か」
女は電話をとった。
「私だ」
『もしもし第一食堂わきの北京亭? Aプラント総司令執務室のレオスだけどサ、出前の醤油ラーメンチャーシューましまし二人前とメガ餃子砲二人前まだこないんだけど』
「HAKとのホットラインと基地の内線間違えんなッ!!」
『ん、その声はマハンマオンか』
「私の名前を某アトラスゲーの光系最大級全体攻撃魔法の名称と間違えるな、私の名前はハマンだ」
『失礼、噛みました』
「違う、わざとだ…」
『かみまみた』
「わざとじゃない!?」
『かみ…やばッ、こいつマハムドオンを』
「ペルソ○やってないで仕事しろ!!」
はあはあとツッコミしおえた女は、一息ついて、「何の用か」と聞いた。
「出前は受け取れないぞ…だいたいなんだメガ餃子『砲』って」
『山城基地の第一食堂のそばに北京亭って奴があってね、そこの特大餃子だ、うまいよ。ただし翌日すごくニンニク臭くなる・・・そんなことよりリディス・マリアファスの事を』
「!!」
こいつは何気ないボケとツッコミのやりとりから本題に持っていく奴だったと女は思い出しつつ、答える。
「聖騎士本部は失態のもみ消しに大慌てして右往左往している、さっきも言い訳をえんえんと聞かされた」
『それで、お楽しみのドラゴンの遊覧飛行ができず、今宮殿の執務室に居るわけか』
「遊覧飛行じゃなくて訓練だ…おまえは察しがよすぎないか」
『うちの情報局は優秀だ。お前が今何をやっているかすぐわかる。この通話もしっかりと山城基地の中枢データバンクに記録しているから』
「記録? なんのために?」
『『エマニュエル』のためのヒントだ。安心しろ、中央データバンクの、それもエルメスも知らない所に記録されているから』
「ウィザドニアのハッキングを受けたのに信用できるのか?」
『あれはウィザドニアじゃなくて魔帝派の仕業だよ。うちの研究員は優秀でな、対抗手段はある、それも根本的な。ちなみに、この通話は暗号化されている。解読キーをもっていないと聞けないやつで。まあ大丈夫だ、問題ない。どんな話ももれない』
「……」
はあとため息をついて、女は語りだした。
「聖騎士本部は、全てをリディス・マリアファス一人になすりつけるつもりだ。既に監察課がレバリスクに向かってる。罪状は身分詐称。ただの一般人ならよかったが…聖騎士だから、死刑だろう」
『だろうな…本部は真相に気づいているか?』
「まさか、ただの詐称だと思っている・・・だいたい、そうしたのはお前でだろう。私にとっての真相は彼女が父親の研究によって生まれたという事・・・それも違うのだろう」
『言葉の上では同じだが実際は大きく異なる。だけど君にとってはささいな問題じゃない。まあ、HAKのトップである君がそう認識しているなら三八十が仕掛けた情報戦の成果は十二分だろう』
「結局どうなのだ、本当の所」
『いずれ分かる…今、レバリスクにうちの部隊が来ているのは知ってるよね』
「確か、新型WGの開発のため…それが?」
『その部隊の中に朽木を入れた』
「なッ」
女は驚き、同時にレオスに対する怒りを覚えた。レオスの言っている事が、やったことがさっぱり理解できない。
「馬鹿かお前はッ!! 朽木を、朽木を入れた!? お前馬鹿か、彼を保護するためにあれだけ」
『賭けだよこれは』
「賭け?」
『博打といってもいい、大博打だ。だいたい、彼が20年も寝た時点で大幅に遅れがでているんだ。既に事態は俺が予想したようになってる…最悪な意味で』
「時間がない、と」
『その通り。だから賭けだ。彼が『輝星』を完成させるか、いや魔力波動砲を完成させるか否か、全てはそこにかかっている』
「それなら…輝星も持ち込んでいるのか?」
『もちろん、そうじゃなきゃ開発できんだろうに』
「・・・・・・下手したら世界を、この星を壊しかねない物をか」
こみ上げてくる怒りを抑えながら、女は言葉を繋いだ。
「しかし、それならそちらで、極東列島でやればいいじゃないか」
『列島は陥落するよ、フリークスに』
レオスはあっさりと言った。あっさりすぎて女は少しの間思考停止し、問う。
「陥落? 陥落するだと」
『うん、そのまんま。山城も梅田も武蔵野の坂出も釧路も、全部やられる。それが俺の今の予想だ。もちろん、最悪の事態だ』
「そんな馬鹿げた事が」
『ある、間違いなく。だからこそ先に輝星と朽木、関係スタッフを先に大陸に行かせたかったんだ』
「近いのか?」
『今年には、そして来年でこの戦争は終わりだ。既に脱出プランを発動させているよ。釧路の全面撤退はもう終わったし、坂出と梅田は人員、物資等々全部『リナイ・イナク』に乗せる、乗せ次第HAKに向かわせるからよろしく』
「おい待て、いきなりそんな」
『さっきの発言に付け加える、いつ陥落してもおかしくない。朽木が輝星を起動させた時点で終戦までのカウントダウンが始まっている。フリークスは気づいている。早く人員を脱出させたい』
「…参謀本部には」
『話すわけ無いだろう。もちろん極秘だ。ギガル皇国のリナイ派がHAKに亡命するという事にしてある』
「芹沢の・・・朽木のわがままでさんざん参謀本部を騙したお前のことを信じるのか?」
『世の中にはお金という物があってだな』
「買収したんだな」
こいつ手筈がよすぎるだろう、女はため息をついた。
「で、電話を掛けてきた理由はなんだ」
『情報戦の成果確認と頼みごとだ』
「『リナイ・イナク』の事か…違うんだろうな」
『もちろん・・・お前のところに送った二人、あの二人を朽木に合流させろ。なるべく早く』
「あの二人? 芹沢のグループにいたとか言う」
『そう、その二人、さっきレバリスクに送り込んだ三八十(みやと)から緊急連絡があってな…この忙しい時に、というかわざとだろうが、不穏な動きがあると』
「三八十も来ているのか、情報局のトップを送り込んでいいのか?」
『うちは人手不足なんだ。それに彼はノーフェイスの元部下だ、単独の諜報活動など朝飯前だ。しかし彼が緊急連絡してくるってのは』
「・・・まずいか?」
『うん、だからあの二人を朽木に合流させてくれ』
「分かった…忙しそうだな」
『戦争終結作戦と終戦後の事を見据えた作戦を同時進行しているんだ、忙しいよ。じゃまた』
そうして、電話が切れた。
はあ、とため息を付き、HAK君主、ラヴァン・ハマン女王は別の電話を取り、「二人を招集して」と言った。





その日は、輝星の爆弾投下の試験をやっていた。
突然だが、なぜWGが対フリークス戦に有用であるか書こう。
対フリークス戦においてWGが有用である理由は大きく二つある。一つは驚異的な三次元機動、もう一つは搭載武装の積載量だ。
フリークスの特徴として、その物量がある。とても数が多い。
少なくて一機で百体、酷いときには一機で一万体ほどを裁かなくてはならない。当然、搭載武装の量が多くなくては耐えることは出来ない。しかし、だからといって機動性を犠牲にするわけにもいかない。
フリークスは大群で攻めてくるが、そのスピードは速い。その上かなり俊敏(しゅんびん)だ。
ゆえに三次元機動を可能とし、数多くの武装を装備できるように設計された兵器がWGなのだ。
SMFの15式WG『ファルコン』を例に挙げよう。
ファルコンには50ミリ機関砲、及びその弾薬一千発を始め、120ミリ滑空砲、汎用ミサイル32発、近接攻撃用のブレードが装備できる。更にそれに加えて任務に合わせた様々なオプションを装備でき、その戦闘継続能力、汎用性は圧倒的だ。
次第に対フリークス戦において、WGは欠かせない存在になってきた。
もちろん、航空戦艦などによる空対地支援砲撃や補給、AWACS(早期警戒管制機)による索敵や管制があってこそだが。
しかし、各国の主力はWGと航空艦にとって代わり、戦闘機や戦車は時代遅れの物とみなされるようになった。
で、問題は。
「なぜ戦闘機を開発したのか、だ」
それが分からない。
「WGの開発は三毛猫でやっちゃったからじゃないかな?」
後席のオールが機器を操作しながら言う。
「光男君、三毛猫の魔力出力系統全部設計していたからさ、あとOSをイラクスさんと」
「WGでやれることはやったからその他の兵器でやることをやろうってか…まあたしかに」
俺は、この世界でWG、または航空艦を建造している企業のほぼ全てに注文を出し、兵器を作らせていたらしい。
SMFのWG、航空艦を建造しているヤマシログループ各社、ウィザドニア、HAK、バビロス連邦のWG、航空艦を建造しているウィザドニア・インダストリ。更にアヴェントの調査やレオス総司令の話によれば、HAKの王立研究所、ギガル皇国の皇室専属工房、バビロス連邦のウラニウガ工廠にもいくつか発注をかけていたらしい。
現金前払いで、きっちりと領収書をきって――俺にしては几帳面である。
で、その兵器が。
「無人WGに無人戦闘機、無人ヘリコプター、自走砲、航空駆逐艦だとは」
「確か無人WGと航空駆逐艦がヤマシログループ、無人戦闘機と無人ヘリ、自走砲がWI(ウィザドニア・インダストリ)だっけ」
「そうだったはず、だけどHAKの王立研究所とギガル皇室専属工房、ウラニウガ工廠に発注掛けた物が何か分からないんだよな」
「あ、でも。HAKの王立研究所ならリディアさんが知っているんじゃない?」
「…そういやそうだったな」
後で聞いてみようと思い、操縦に集中する。
『報告、投下ポイントまで10000。現在速力975』
突如、無機質な女性の声が響く。俺はディスプレイを確認。
「再確認、投下(ドロップ)ポイントまで10000、セイフティ解除、エンゲージ」
兵器管制モニターが切り替わる。
RDY XVB-23 ×4
「投下五秒前」オールが秒読みを開始する。
「3・2・1」
「レリーズ、ナウ」
投下宣言と共にトリガーを引く、軽い衝撃が走る。
「投下を確認」
『魔術誘導を開始しました。誘導中、コースクリア、弾着五秒前・・・弾着』
下の景色を見る。
緑色の平原の一点が、突如爆発した。
「命中を確認」オールが報告する。
「命中した・・・すごいな、こんな高さから当てられるんだね」
「人間界ではもっと高い位置から当てられるよ・・・というか、水平線の向こうからミサイル当てられるよ」
「それはどんな精度なんだい、あ、地上側にチェック入れるね・・・CP、こちら輝星。オールです。当たった?」
『オールか? 今ザーフが・・・当たった? 当たった、命中したそうだ。試験は成功だ。何か他にやることが無ければそのまま帰投してくれ』
「了解・・・だって」
「何もやることがないから帰ろう。もう日が沈みかけている」
西の空に、夕日が見えた。切り立った山の向こうに沈んでいく。夜間飛行プログラムはまだ出来ていない。
「さすがに俺も、暗視装置も無しで真っ暗な空を飛びたくない」
「分かった。帰ったら試験結果の分析もあるしね」
「ああ、さっきの爆弾投下だって何か問題があるはずだ。それを洗いだそう」
マスターアーム・スイッチをオフにして、帰投宣言。
「こちら輝星、状況終了、RTB」



HAK・レバリスク市に到着してから約二週間たった日だった。
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