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第六話
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学園が、夏の長期休みに入る前日。
ラーズウェル国の貴族たちが集まる中、聖女シオンのお披露目会が催された。このお披露目会が催されるということは、聖女の力が安定し、その力を国の、民のために振るえることを意味する。
代わる代わる挨拶に訪れる貴族たちに、シオンは聖女らしく穏やかな笑みを湛え、優しい声音で対応をする。美しい容姿も相まって、会場中が感嘆の息を漏らした。
ところが、すべての挨拶が済んだ後の歓談の時間に、それは起こった。
「まあ、聖女様。男性であればどなたでもよろしいのですか」
「さすがシャレージュ公爵令嬢様という、素晴らしい婚約者がいらっしゃる第二王子殿下に、色目を使うだけありますわ」
「このような場でもそんなことをなさるなんて」
「慎みやはしたないなどと言う言葉をご存じないようですもの」
シオンを取り巻く子女たちは、扇で口元を隠しつつも、意地悪く口角が上がっていることがわかる。
「今、どなたかに、背中を押されて」
押された先に男性がいて、その胸に飛び込むような形になってしまった。男性はしっかりと支えてくれたが、待ち構えていたように感じられた。きっと、この子女たちの仲間なのだろう。
「まあイヤだわ。ご自分に非はなく、あくまでも偶然だと装うなんて」
「清廉な聖女のフリをして、ずいぶんと、ねえ?」
「そのようなことをなさってまで、男性からの寵をいただきたいのかしら」
悪意の嗤いが満ちる。
「シークワント伯爵家は何を教えていたのやら」
「本当に。聖女の教育係に相応しいとはとてもとても」
「ああ、ほら、ファニアーラ様はまだご婚約者もいらっしゃらないでしょう?」
「なかなか、あの見た目では、ねえ」
「ご自分が出来ない代わりに、聖女様にいろいろとご指南なさっていらっしゃるのでは?」
「イヤだわ、はしたない」
「黙れ」
ドスの利いた声が響いた。声の主を、みんなが見た。
「人が黙って聞いていれば」
シオンが威圧的に睥睨していた。空色の瞳が、氷のように冷たい光を放っている。
「私のことは何を言ってもいいよ。何でシークワント家の、ファニアーラの話になるんだよ」
怒りから、魔力が漏れてシオンの周りが陽炎のように揺れている。
「シークワント家のみんなは本当に素晴らしい。ファニーなんて最高にいい女だ。おまえたちのように人を貶めて優越感に浸るような、軟弱な精神なんざ持ち合わせてねぇよ」
シオンは、子女たちを射殺さんばかりに鋭く睨んでいる。
「なあ、だったら私をおまえの養子にしろよ。その軟弱な精神で、余程うまく私を調教出来るんだろうなあ」
教育係に相応しくないと言った子女に近付いていく。いつも大人しく、言い返すことも殆どしないシオンの変貌ぶりに、子女は怯えて後退る。穏やかな笑みを湛え、楚々としていたシオンが、どこぞの破落戸のようになっていることに、会場中が狼狽える。
「十年以上もおまえたちと違う世界で生きてきたんだぞ。普通に考えて一年でどうにかなるワケねぇだろ。それがおまえらに話を合わせられる程度にまでなったのは、伯爵様たちの人柄のおかげだ」
あまりの威圧に、取り囲んでいた子女たちはへたり込む。
「おまえたちの行いの方が、余程はしたない。どの口がファニアーラを、シークワント家を侮辱する」
シオンの怒りに呼応するように、会場側の木に落雷する。そんな天気ではなかったはずだ。会場が悲鳴に包まれた。
「あー、めんどくせぇ。もういいや。マジで胸クソ悪ぃ」
騒ぎにシオンの近くまで来ていたシークワント家に目を向ける。驚きつつも、心配そうに見つめるシークワント家の面々に、苦笑した。
「伯爵様たち、ごめんね」
折角良くしてくれたのに、我慢出来そうもない。
そう言ってシオンは左腕を上げ、手のひらを上に向けた。その手が赤く光る。雷に怯えていた者たちが、自然、その光景に目を奪われる。
「そうそう、教えてやるよ。私が本当はどこの出身か」
シオンは目を細めた。
「デイアボロス」
その名に、その場の全員が青ざめた。
「何の村か、わかるよな?」
シオンはニヤリと口角をつり上げた。
*つづく*
ラーズウェル国の貴族たちが集まる中、聖女シオンのお披露目会が催された。このお披露目会が催されるということは、聖女の力が安定し、その力を国の、民のために振るえることを意味する。
代わる代わる挨拶に訪れる貴族たちに、シオンは聖女らしく穏やかな笑みを湛え、優しい声音で対応をする。美しい容姿も相まって、会場中が感嘆の息を漏らした。
ところが、すべての挨拶が済んだ後の歓談の時間に、それは起こった。
「まあ、聖女様。男性であればどなたでもよろしいのですか」
「さすがシャレージュ公爵令嬢様という、素晴らしい婚約者がいらっしゃる第二王子殿下に、色目を使うだけありますわ」
「このような場でもそんなことをなさるなんて」
「慎みやはしたないなどと言う言葉をご存じないようですもの」
シオンを取り巻く子女たちは、扇で口元を隠しつつも、意地悪く口角が上がっていることがわかる。
「今、どなたかに、背中を押されて」
押された先に男性がいて、その胸に飛び込むような形になってしまった。男性はしっかりと支えてくれたが、待ち構えていたように感じられた。きっと、この子女たちの仲間なのだろう。
「まあイヤだわ。ご自分に非はなく、あくまでも偶然だと装うなんて」
「清廉な聖女のフリをして、ずいぶんと、ねえ?」
「そのようなことをなさってまで、男性からの寵をいただきたいのかしら」
悪意の嗤いが満ちる。
「シークワント伯爵家は何を教えていたのやら」
「本当に。聖女の教育係に相応しいとはとてもとても」
「ああ、ほら、ファニアーラ様はまだご婚約者もいらっしゃらないでしょう?」
「なかなか、あの見た目では、ねえ」
「ご自分が出来ない代わりに、聖女様にいろいろとご指南なさっていらっしゃるのでは?」
「イヤだわ、はしたない」
「黙れ」
ドスの利いた声が響いた。声の主を、みんなが見た。
「人が黙って聞いていれば」
シオンが威圧的に睥睨していた。空色の瞳が、氷のように冷たい光を放っている。
「私のことは何を言ってもいいよ。何でシークワント家の、ファニアーラの話になるんだよ」
怒りから、魔力が漏れてシオンの周りが陽炎のように揺れている。
「シークワント家のみんなは本当に素晴らしい。ファニーなんて最高にいい女だ。おまえたちのように人を貶めて優越感に浸るような、軟弱な精神なんざ持ち合わせてねぇよ」
シオンは、子女たちを射殺さんばかりに鋭く睨んでいる。
「なあ、だったら私をおまえの養子にしろよ。その軟弱な精神で、余程うまく私を調教出来るんだろうなあ」
教育係に相応しくないと言った子女に近付いていく。いつも大人しく、言い返すことも殆どしないシオンの変貌ぶりに、子女は怯えて後退る。穏やかな笑みを湛え、楚々としていたシオンが、どこぞの破落戸のようになっていることに、会場中が狼狽える。
「十年以上もおまえたちと違う世界で生きてきたんだぞ。普通に考えて一年でどうにかなるワケねぇだろ。それがおまえらに話を合わせられる程度にまでなったのは、伯爵様たちの人柄のおかげだ」
あまりの威圧に、取り囲んでいた子女たちはへたり込む。
「おまえたちの行いの方が、余程はしたない。どの口がファニアーラを、シークワント家を侮辱する」
シオンの怒りに呼応するように、会場側の木に落雷する。そんな天気ではなかったはずだ。会場が悲鳴に包まれた。
「あー、めんどくせぇ。もういいや。マジで胸クソ悪ぃ」
騒ぎにシオンの近くまで来ていたシークワント家に目を向ける。驚きつつも、心配そうに見つめるシークワント家の面々に、苦笑した。
「伯爵様たち、ごめんね」
折角良くしてくれたのに、我慢出来そうもない。
そう言ってシオンは左腕を上げ、手のひらを上に向けた。その手が赤く光る。雷に怯えていた者たちが、自然、その光景に目を奪われる。
「そうそう、教えてやるよ。私が本当はどこの出身か」
シオンは目を細めた。
「デイアボロス」
その名に、その場の全員が青ざめた。
「何の村か、わかるよな?」
シオンはニヤリと口角をつり上げた。
*つづく*
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