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番外編 公爵家嫡男の愛
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ウィラント・ガルシニア・ハーヴィーは、外交官を父に持つ、公爵家嫡男だ。
運命に出会ったのは、十一の時。三つ年下、もう直八歳になろうという、隣国の侯爵家オーレイルの娘ミレイ。まだ幼いながら、凜とした美しさを持つ少女に恋をした。
「どんな手を使ってでも、彼女を手に入れる」
ウィラントの国は大国であり、ミレイやギャレットの国は、中小国に分類される国だ。ミレイたちの国に、ウィラントの親族もいる。その内、年の頃が近い三人にウィラントは命令を下す。
「絶対に第二王子をまともにするな。今の奔放さを失わせるなよ」
ウィラントに命令を下された三人は、伯爵家一人、侯爵家二人。伯爵家はギャレットの二つ上。侯爵家の一人は同い年。もう一人は一つ下。三人とも、己の役割をしっかりと全うした。ギャレットの行いを決して非難せず、時には褒め、時には促し、それをあたかも諫めているように見せ。三人の連係プレイは見事であった。
学園で勉強をしているのに城でまで家庭教師なんてやってられるか、と逃げ回るギャレットに、正しく導けるはず者たちはお手上げ状態だった。学園に通わせなくても、と言う声も出たが、王族が率先して規律を破ることも出来ず。ウィラントの命令を受けているとも知らず、あの三人なら何とか出来るのではないかと、藁にも縋る思いでいた。傍から見たら、ギャレットを正しく導こうとしているように見えるのだから、そう思うのも無理からぬことだった。それに実際、初等部を卒業する頃には、人の話を聞ける程度までにはなったのだから。
ギャレットが中等部に入ると、王家は三人に打診する。側近として側で支えてくれないか、と。しかし三人は頷かない。もちろん、ウィラントという本家からの命令がなければ、近付くことすら拒否したい人物だったのだ。初等部までギャレットをほぼ成長させないことに成功すれば、後は勝手に自爆する。人格矯正は、年齢が上がるにつれ難しくなっていく。幼い者に言い聞かせることと、成人を迎えた者に言い聞かせることと、どちらが困難かおわかりだろう。
だから三人は、ここからゆっくりフェードアウトしていくだけなのだ。一生面倒を見るなんて、冗談ではない。ギャレットの側にミレイが寄り添うのなら話は別だが、それをさせないために自分たちは動いている。だから、側近などあり得ない。夢は寝て見ろ。
こうして見事、ウィラント・ガルシニア・ハーヴィーは、初恋の女性を手に入れることが出来ました。
三人とその家には、望みの褒美を惜しみなく与え、労い、返って感謝されるほどであった。
*~*~*~*~*
「ミィ、愛しているよ」
蕩けるような笑顔で告げられる言葉に、ミレイは真っ赤になる。
お茶の時間を楽しんでいたはずだが、突然の告白に狼狽える。
「ウィル様、な、なんですの?」
「ミィを愛しているなあ、と思って伝えたくなった」
ミレイは首まで赤くなり、俯いてしまった。初心な婚約者の反応に、ますます愛しさが募る。
「早く式を挙げたいなあ」
俯いたミレイの頬を、テーブルを挟んでちょいちょいと触れる。その行為にさえ、身を固くしてしまう愛しい婚約者。
「あと十日かあ。ミィに焦がれた年月を思えば短いのかもしれないけれど、この腕にいるとわかると、とてもとても長く感じてしまうよ」
スルリと頬を撫でると、ミレイは涙で潤んだ瞳を向けた。
「そ、その節は、本当に、お待たせをしてしまい」
「ダメだよ、ミィ。何度も言っているでしょう」
ウィラントは立ち上がると、ミレイの隣に椅子を持って来て座る。
「その期間は、私がミィに釣り合う人間になるための期間。ねえ、ミィ」
腿の上に置かれたミレイの手に、そっと自分の手を重ねる。
「どう?私は、ミィの隣にいて、恥ずかしくない?」
「も、元より、とても、す、す、素敵、でしたわ」
恥ずかしくてギュッと目を瞑るミレイが可愛くて。随分だらしのない顔になってしまっている自覚はあるが、どうすることも出来ないから仕方がない。
「ありがとう、ミィ。ミィは、ますます美しくなっていくから心配だよ」
「そ、そのような、お戯れは」
「戯れであればどんなにいいか。お願いだから、私から離れないでね」
握る手とは反対の手で頬を撫でる。
「私の手の届く範囲にいてくれないと、守れないから」
この国の民を。
そう言外に込められた言葉は、俯き羞恥に耐えるミレイには気付けない。
ウィラントは、ミレイがその手から離れることがあれば、自分以外頼れる者がいない状況を作ることに躊躇わない。
仄暗い笑みを浮かべていることに、ミレイは気付けない。
*おしまい*
最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。
この話で、番外編はおしまいとなります。
奇人変人の集まりとなったお話しでしたが、いかがでしたでしょうか。
ちょい役のウィラント様も、なかなかの人物でした。
まあ、十年以上待つとか言える時点でお察しでしたかね。
たくさんのお気に入り登録、エール、しおり、読んでくださったみなさまに、また何らかの形でお会い出来ることを祈って。
本当にありがとうございました。
運命に出会ったのは、十一の時。三つ年下、もう直八歳になろうという、隣国の侯爵家オーレイルの娘ミレイ。まだ幼いながら、凜とした美しさを持つ少女に恋をした。
「どんな手を使ってでも、彼女を手に入れる」
ウィラントの国は大国であり、ミレイやギャレットの国は、中小国に分類される国だ。ミレイたちの国に、ウィラントの親族もいる。その内、年の頃が近い三人にウィラントは命令を下す。
「絶対に第二王子をまともにするな。今の奔放さを失わせるなよ」
ウィラントに命令を下された三人は、伯爵家一人、侯爵家二人。伯爵家はギャレットの二つ上。侯爵家の一人は同い年。もう一人は一つ下。三人とも、己の役割をしっかりと全うした。ギャレットの行いを決して非難せず、時には褒め、時には促し、それをあたかも諫めているように見せ。三人の連係プレイは見事であった。
学園で勉強をしているのに城でまで家庭教師なんてやってられるか、と逃げ回るギャレットに、正しく導けるはず者たちはお手上げ状態だった。学園に通わせなくても、と言う声も出たが、王族が率先して規律を破ることも出来ず。ウィラントの命令を受けているとも知らず、あの三人なら何とか出来るのではないかと、藁にも縋る思いでいた。傍から見たら、ギャレットを正しく導こうとしているように見えるのだから、そう思うのも無理からぬことだった。それに実際、初等部を卒業する頃には、人の話を聞ける程度までにはなったのだから。
ギャレットが中等部に入ると、王家は三人に打診する。側近として側で支えてくれないか、と。しかし三人は頷かない。もちろん、ウィラントという本家からの命令がなければ、近付くことすら拒否したい人物だったのだ。初等部までギャレットをほぼ成長させないことに成功すれば、後は勝手に自爆する。人格矯正は、年齢が上がるにつれ難しくなっていく。幼い者に言い聞かせることと、成人を迎えた者に言い聞かせることと、どちらが困難かおわかりだろう。
だから三人は、ここからゆっくりフェードアウトしていくだけなのだ。一生面倒を見るなんて、冗談ではない。ギャレットの側にミレイが寄り添うのなら話は別だが、それをさせないために自分たちは動いている。だから、側近などあり得ない。夢は寝て見ろ。
こうして見事、ウィラント・ガルシニア・ハーヴィーは、初恋の女性を手に入れることが出来ました。
三人とその家には、望みの褒美を惜しみなく与え、労い、返って感謝されるほどであった。
*~*~*~*~*
「ミィ、愛しているよ」
蕩けるような笑顔で告げられる言葉に、ミレイは真っ赤になる。
お茶の時間を楽しんでいたはずだが、突然の告白に狼狽える。
「ウィル様、な、なんですの?」
「ミィを愛しているなあ、と思って伝えたくなった」
ミレイは首まで赤くなり、俯いてしまった。初心な婚約者の反応に、ますます愛しさが募る。
「早く式を挙げたいなあ」
俯いたミレイの頬を、テーブルを挟んでちょいちょいと触れる。その行為にさえ、身を固くしてしまう愛しい婚約者。
「あと十日かあ。ミィに焦がれた年月を思えば短いのかもしれないけれど、この腕にいるとわかると、とてもとても長く感じてしまうよ」
スルリと頬を撫でると、ミレイは涙で潤んだ瞳を向けた。
「そ、その節は、本当に、お待たせをしてしまい」
「ダメだよ、ミィ。何度も言っているでしょう」
ウィラントは立ち上がると、ミレイの隣に椅子を持って来て座る。
「その期間は、私がミィに釣り合う人間になるための期間。ねえ、ミィ」
腿の上に置かれたミレイの手に、そっと自分の手を重ねる。
「どう?私は、ミィの隣にいて、恥ずかしくない?」
「も、元より、とても、す、す、素敵、でしたわ」
恥ずかしくてギュッと目を瞑るミレイが可愛くて。随分だらしのない顔になってしまっている自覚はあるが、どうすることも出来ないから仕方がない。
「ありがとう、ミィ。ミィは、ますます美しくなっていくから心配だよ」
「そ、そのような、お戯れは」
「戯れであればどんなにいいか。お願いだから、私から離れないでね」
握る手とは反対の手で頬を撫でる。
「私の手の届く範囲にいてくれないと、守れないから」
この国の民を。
そう言外に込められた言葉は、俯き羞恥に耐えるミレイには気付けない。
ウィラントは、ミレイがその手から離れることがあれば、自分以外頼れる者がいない状況を作ることに躊躇わない。
仄暗い笑みを浮かべていることに、ミレイは気付けない。
*おしまい*
最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。
この話で、番外編はおしまいとなります。
奇人変人の集まりとなったお話しでしたが、いかがでしたでしょうか。
ちょい役のウィラント様も、なかなかの人物でした。
まあ、十年以上待つとか言える時点でお察しでしたかね。
たくさんのお気に入り登録、エール、しおり、読んでくださったみなさまに、また何らかの形でお会い出来ることを祈って。
本当にありがとうございました。
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