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始.ゆめのおわり
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新しい話、始めました。
残酷な表現と性的表現が予告なく入ります。
なんでも大丈夫ではない方は、このまま閉じていただいたほうがよろしいかと思います。
*~*~*~*~*
「保険だよ」
「人質でしょう」
「否定はしない」
茉莉花は大きく溜め息をついた。
「百億」
茉莉花はピクリと眉を動かした。
「キミに百億賭けたんだ。負けると面白くはない額だよ」
「悪趣味ですね」
顔を顰める茉莉花の顎を捉える。
「早く私のものになって欲しいものだ」
「コレクションのひとつに加えて頂けるなんて光栄すぎて分不相応ですね。慎んで辞退いたしますよ」
「違うと言っているのに本当に伝わらないね」
「それこそご冗談を」
つい、とその手から逃れる。
「ああ、そうそう、財天院様。彼らは人質にはなり得ませんので、早々にお引き取りを」
「それはこちらが決めることだから気にしなくていいよ、可愛い茉莉花。準備が整ったらまた来るよ」
するりと頬を撫でて、財天院は部屋を後にした。
茉莉花はドサリと側のソファに座り込むと、頭を抱えて蹲った。
会社の人間たちは困惑しきりだったが、いつも茉莉花を気にしてくれている二年先輩の宇津木が怖ず怖ずと声をかけた。
「美沢さん、あの、大丈夫?」
茉莉花はのろのろと顔を上げた。心配そうな宇津木が覗いている。視線をずらすと、見知った顔ばかり。その中の、いつも自分に突っかかってきたり、余計な仕事を押しつけたりする先輩が、妙にキラキラした目で近付いてきた。何となく予想が出来た。
「美沢さん、あの財天院匡臣様と知り合いだったなんて。黙っているなんて水くさいじゃない、ねぇ、みんな」
その取り巻き三人もコクコクと頷いている。
財天院匡臣。世界屈指の財閥であり、数多の事業を手がけ、世界の先駆者と呼び声が高い。おまけに美しく整った容姿に、均等の取れた体。誰もが欲しがるモノすべてを備えている。そんな極上のセレブとお近づきになれるチャンスだ。上昇志向の強い彼女たちが見逃すはずもない。だが茉莉花は彼女たちに構うことはなかった。言われたことには応えず、自分の疑問を口にする。
「みなさん、なぜ、こんなところにいるんですか」
純粋に疑問だった。会社の同じ部署の人間だけが集められている。どうやって連れて来たのだろう。気付いたらバスに乗っていたとかであれば、立派な拉致だ。自ら来たとしたら、何をエサにしたのだろう。
「サプライズパーティーがあるって社長に言われて」
着替えなども会場に用意してあるから、と、用事のないものは参加しようと来たのだと宇津木が答えた。
「サプライズ」
茉莉花はボソリと口にした。確かにサプライズかもしれない。部署の人たちは、会社の、だと思って来ただけだ。社長に言われたならそれはそうだろう。社長ごときが財天院に逆らえるはずもない。アホな四人娘たちは正直どうなってもいいし、確かに人質の価値はない。だが、宇津木を始め、他の人たちは何とか帰してあげたい。これから始まることを見てしまったら、生きて帰れる保証はない。運良く帰れても、今まで通りの生活は二度と出来ないだろう。
深く重い溜め息が出る。
この三年が、夢だった。ただそれだけ。
「美沢さん?」
気遣うように声をかける宇津木に、茉莉花は諦めたような笑みをこぼした。
「宇津木さん、いつも気にかけてくれてありがとうございました」
今生の別れのような顔と言葉に、宇津木は不安になる。
「みなさんも、出来の悪い私に根気よく仕事を教えてくれて、本当にありがとうございました」
頭を下げる茉莉花に、みんな困惑の表情を浮かべる。
「みなさんのご多幸を、陰ながらお祈りいたします」
茉莉花は匡臣が出て行った扉とは違う扉に向かった。
「美沢さんっ」
呼び止める宇津木に、困ったような笑みを向けた。
「わからないことだらけで気持ちが悪いでしょうが、どうかこのまま何も聞かずにお帰りください。私の最後の願いです」
どうか。真摯な眼差しの茉莉花に宇津木は折れた。
「あなたは、大丈夫なのね?」
「はい」
宇津木は何かを堪えるように、一瞬グッと目を閉じた。
「わかった。あなたも、無理しないで。体には気をつけてちょうだい。約束よ」
こんな訳のわからない状況で、宇津木は気遣い、無理して微笑んでくれた。二人は握手を交わした。
「はい。宇津木さん、ありがとうございました」
再び扉に向かって歩き出すと、キンキンとした声がした。
「ちょおっとお!美沢さん、待ちなさいよ!」
*つづく*
残酷な表現と性的表現が予告なく入ります。
なんでも大丈夫ではない方は、このまま閉じていただいたほうがよろしいかと思います。
*~*~*~*~*
「保険だよ」
「人質でしょう」
「否定はしない」
茉莉花は大きく溜め息をついた。
「百億」
茉莉花はピクリと眉を動かした。
「キミに百億賭けたんだ。負けると面白くはない額だよ」
「悪趣味ですね」
顔を顰める茉莉花の顎を捉える。
「早く私のものになって欲しいものだ」
「コレクションのひとつに加えて頂けるなんて光栄すぎて分不相応ですね。慎んで辞退いたしますよ」
「違うと言っているのに本当に伝わらないね」
「それこそご冗談を」
つい、とその手から逃れる。
「ああ、そうそう、財天院様。彼らは人質にはなり得ませんので、早々にお引き取りを」
「それはこちらが決めることだから気にしなくていいよ、可愛い茉莉花。準備が整ったらまた来るよ」
するりと頬を撫でて、財天院は部屋を後にした。
茉莉花はドサリと側のソファに座り込むと、頭を抱えて蹲った。
会社の人間たちは困惑しきりだったが、いつも茉莉花を気にしてくれている二年先輩の宇津木が怖ず怖ずと声をかけた。
「美沢さん、あの、大丈夫?」
茉莉花はのろのろと顔を上げた。心配そうな宇津木が覗いている。視線をずらすと、見知った顔ばかり。その中の、いつも自分に突っかかってきたり、余計な仕事を押しつけたりする先輩が、妙にキラキラした目で近付いてきた。何となく予想が出来た。
「美沢さん、あの財天院匡臣様と知り合いだったなんて。黙っているなんて水くさいじゃない、ねぇ、みんな」
その取り巻き三人もコクコクと頷いている。
財天院匡臣。世界屈指の財閥であり、数多の事業を手がけ、世界の先駆者と呼び声が高い。おまけに美しく整った容姿に、均等の取れた体。誰もが欲しがるモノすべてを備えている。そんな極上のセレブとお近づきになれるチャンスだ。上昇志向の強い彼女たちが見逃すはずもない。だが茉莉花は彼女たちに構うことはなかった。言われたことには応えず、自分の疑問を口にする。
「みなさん、なぜ、こんなところにいるんですか」
純粋に疑問だった。会社の同じ部署の人間だけが集められている。どうやって連れて来たのだろう。気付いたらバスに乗っていたとかであれば、立派な拉致だ。自ら来たとしたら、何をエサにしたのだろう。
「サプライズパーティーがあるって社長に言われて」
着替えなども会場に用意してあるから、と、用事のないものは参加しようと来たのだと宇津木が答えた。
「サプライズ」
茉莉花はボソリと口にした。確かにサプライズかもしれない。部署の人たちは、会社の、だと思って来ただけだ。社長に言われたならそれはそうだろう。社長ごときが財天院に逆らえるはずもない。アホな四人娘たちは正直どうなってもいいし、確かに人質の価値はない。だが、宇津木を始め、他の人たちは何とか帰してあげたい。これから始まることを見てしまったら、生きて帰れる保証はない。運良く帰れても、今まで通りの生活は二度と出来ないだろう。
深く重い溜め息が出る。
この三年が、夢だった。ただそれだけ。
「美沢さん?」
気遣うように声をかける宇津木に、茉莉花は諦めたような笑みをこぼした。
「宇津木さん、いつも気にかけてくれてありがとうございました」
今生の別れのような顔と言葉に、宇津木は不安になる。
「みなさんも、出来の悪い私に根気よく仕事を教えてくれて、本当にありがとうございました」
頭を下げる茉莉花に、みんな困惑の表情を浮かべる。
「みなさんのご多幸を、陰ながらお祈りいたします」
茉莉花は匡臣が出て行った扉とは違う扉に向かった。
「美沢さんっ」
呼び止める宇津木に、困ったような笑みを向けた。
「わからないことだらけで気持ちが悪いでしょうが、どうかこのまま何も聞かずにお帰りください。私の最後の願いです」
どうか。真摯な眼差しの茉莉花に宇津木は折れた。
「あなたは、大丈夫なのね?」
「はい」
宇津木は何かを堪えるように、一瞬グッと目を閉じた。
「わかった。あなたも、無理しないで。体には気をつけてちょうだい。約束よ」
こんな訳のわからない状況で、宇津木は気遣い、無理して微笑んでくれた。二人は握手を交わした。
「はい。宇津木さん、ありがとうございました」
再び扉に向かって歩き出すと、キンキンとした声がした。
「ちょおっとお!美沢さん、待ちなさいよ!」
*つづく*
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