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7.邂逅 前編
碌でもない両親だった。
子どもは金を生む機械だと思っているらしい。上に兄が二人いた。でもいつの間にか一人いなくなっていた。しばらくすると、もう一人の兄もいなくなった。きっともっと他にも兄弟姉妹がいたに違いない。生まれたばかりの妹がすぐにいなくなったし、もっと前にも幼い弟がいたはずだから。自分が今七歳をこの家で迎えていることは、幸か不幸か。
殴られたり食事を与えられないということはない。けれど、気付けばいなくなっている兄弟姉妹。心のどこかが悲鳴をあげていることに気付けなかったことは、幸せだと思っていいのだろう。気付いてしまったら、私は壊れていただろうから。
九歳を迎える頃、両親に連れられて出掛けた。
私の番だ。
ただ、そう思った。
何の変哲もない二階建ての建物に入ると、両親は目の前の受付嬢に話しかけた。いくつかの会話をやり取りすると、受付嬢は私を見て、気の毒そうな視線を一瞬向けた。受付嬢がどこかに電話をした後、左奥の扉を手で示し、あちらへどうぞ、と言った。
扉を開けると、下に向かう階段があった。両親は慣れたように進んでいく。いなくなった兄弟姉妹たちも、きっとここに来たのだろう。
階段を下りきると、黒い扉があった。両親は躊躇いなく開けると、また黒い扉があった。そこの扉をノックする。中から腹に響くような低い返事があり、両親は扉を開けた。大きな体をした、威圧感たっぷりの男がいた。両親は男に私を紹介した。見た目も悪くないですが、頭と勘の良い子です、と言った。男は品定めをするように、私の全身を見る。そして、四百、と言った。その言葉に、両親は不満を表わす。最低でも七百の価値はある、と。見積もりより半分近くの金額に納得がいかないらしい。すると男は、では見てみよう、そう言って、私を入ってきた時とは違う、黒い扉に促した。
「あんたも可哀相だな、お嬢ちゃん」
厳つい見た目と違って、両親よりも情があるようだ。哀れんだ目を向けた。私はその目をじっと見返すと、男は、なるほど、度胸はありそうだ、と私の頭をポンポンと撫でた。何をするのか、されるのか、まったくわからない状況の上、見ず知らずの強面の大男と二人きりだというのに、怯える様子のない私を、そう評価した。
「大抵女の子は娼館行きなんだけどな。高級娼館じゃねぇと然程高く売れねぇのをあんたの両親は知ってる。お嬢ちゃんの見た目は上々だけど、高級娼館に入れられる程じゃねぇからな。こっちにしたんだろう」
私に聞かせているのか、自分に言い聞かせているのか。あんたの、と言っているから私に聞かせているのだろうけど、聞かせたくないような声量だった。
「あー、これからお嬢ちゃんは、テストとしてあるモノを倒して欲しい」
男はようやくこれからのことを口にする。
「それを倒せるかどうかを見せてもらう。相手が降参をするんでも、戦闘不能でもいい。まあ、その、殺しちまっても構わねえ」
降参が出来る、ということは、その“相手”は人なのだろう。
私は頷いた。
表情が変わることなく頷く私が、男にとっていたたまれなかったのかも知れない。厳つい顔が、悲しそうに揺れた気がした。
重い鉄扉を開けると、コロシアムのような場所に出た。観客席にまばらに見える人影は、清掃員のようだ。闘技場には、私よりいくつか上の年に見える男の子が立っている。その手には剣が握られていた。
「あの子と、戦ってくれ。殺されたら、それで、終わりだからな」
男が言い難そうに告げた。
よく見ると、観客席に両親の姿があった。こんなテストで負けたら、今まで育ててきたモノが全部パアだ、死ぬ気で戦え、そう叫んでいる。ならば四百と言われた時点で頷けば良かったものを。戦いなんて、殺し合いなんて、やったこともないことで無茶を言う。そう思いつつ、私は闘技場に立つ男の子を見た。顔が青ざめ、震えている。彼もきっと、初めてか、それに近いものだろう。
子どもを売る親なんて、碌なもんじゃない。
渡された武器は、男の子と同じ剣。九歳になりかけの女の子には、扱いづらいものだ。それでもやらねばならない。ひとつ溜め息を吐くと、私は闘技台に上がった。
「相手が降参や戦闘不能になったら勝敗が決まるからな。じゃあ始め」
簡単に、命のやり取りをする合図がかかった。
男の子が叫びながら突進してきた。私は余裕でそれを躱す。男の子は驚いた顔をして、慌ててまた私に向き直る。だけど遅い。私は躊躇いもなく逆袈裟に剣を振ると、男の子の左腕が落ちた。男の子は一瞬の間の後、剣を落として傷口を押さえながら絶叫して蹲る。
少し呆然としていた男が、戦闘不能と判断し、そこまで、と言った。
けれど私は男の子の側に立って、剣を振り上げる。男は、何を、と叫ぶが、私は無視した。
とん。
男の子の首が、転がった。
*つづく*
子どもは金を生む機械だと思っているらしい。上に兄が二人いた。でもいつの間にか一人いなくなっていた。しばらくすると、もう一人の兄もいなくなった。きっともっと他にも兄弟姉妹がいたに違いない。生まれたばかりの妹がすぐにいなくなったし、もっと前にも幼い弟がいたはずだから。自分が今七歳をこの家で迎えていることは、幸か不幸か。
殴られたり食事を与えられないということはない。けれど、気付けばいなくなっている兄弟姉妹。心のどこかが悲鳴をあげていることに気付けなかったことは、幸せだと思っていいのだろう。気付いてしまったら、私は壊れていただろうから。
九歳を迎える頃、両親に連れられて出掛けた。
私の番だ。
ただ、そう思った。
何の変哲もない二階建ての建物に入ると、両親は目の前の受付嬢に話しかけた。いくつかの会話をやり取りすると、受付嬢は私を見て、気の毒そうな視線を一瞬向けた。受付嬢がどこかに電話をした後、左奥の扉を手で示し、あちらへどうぞ、と言った。
扉を開けると、下に向かう階段があった。両親は慣れたように進んでいく。いなくなった兄弟姉妹たちも、きっとここに来たのだろう。
階段を下りきると、黒い扉があった。両親は躊躇いなく開けると、また黒い扉があった。そこの扉をノックする。中から腹に響くような低い返事があり、両親は扉を開けた。大きな体をした、威圧感たっぷりの男がいた。両親は男に私を紹介した。見た目も悪くないですが、頭と勘の良い子です、と言った。男は品定めをするように、私の全身を見る。そして、四百、と言った。その言葉に、両親は不満を表わす。最低でも七百の価値はある、と。見積もりより半分近くの金額に納得がいかないらしい。すると男は、では見てみよう、そう言って、私を入ってきた時とは違う、黒い扉に促した。
「あんたも可哀相だな、お嬢ちゃん」
厳つい見た目と違って、両親よりも情があるようだ。哀れんだ目を向けた。私はその目をじっと見返すと、男は、なるほど、度胸はありそうだ、と私の頭をポンポンと撫でた。何をするのか、されるのか、まったくわからない状況の上、見ず知らずの強面の大男と二人きりだというのに、怯える様子のない私を、そう評価した。
「大抵女の子は娼館行きなんだけどな。高級娼館じゃねぇと然程高く売れねぇのをあんたの両親は知ってる。お嬢ちゃんの見た目は上々だけど、高級娼館に入れられる程じゃねぇからな。こっちにしたんだろう」
私に聞かせているのか、自分に言い聞かせているのか。あんたの、と言っているから私に聞かせているのだろうけど、聞かせたくないような声量だった。
「あー、これからお嬢ちゃんは、テストとしてあるモノを倒して欲しい」
男はようやくこれからのことを口にする。
「それを倒せるかどうかを見せてもらう。相手が降参をするんでも、戦闘不能でもいい。まあ、その、殺しちまっても構わねえ」
降参が出来る、ということは、その“相手”は人なのだろう。
私は頷いた。
表情が変わることなく頷く私が、男にとっていたたまれなかったのかも知れない。厳つい顔が、悲しそうに揺れた気がした。
重い鉄扉を開けると、コロシアムのような場所に出た。観客席にまばらに見える人影は、清掃員のようだ。闘技場には、私よりいくつか上の年に見える男の子が立っている。その手には剣が握られていた。
「あの子と、戦ってくれ。殺されたら、それで、終わりだからな」
男が言い難そうに告げた。
よく見ると、観客席に両親の姿があった。こんなテストで負けたら、今まで育ててきたモノが全部パアだ、死ぬ気で戦え、そう叫んでいる。ならば四百と言われた時点で頷けば良かったものを。戦いなんて、殺し合いなんて、やったこともないことで無茶を言う。そう思いつつ、私は闘技場に立つ男の子を見た。顔が青ざめ、震えている。彼もきっと、初めてか、それに近いものだろう。
子どもを売る親なんて、碌なもんじゃない。
渡された武器は、男の子と同じ剣。九歳になりかけの女の子には、扱いづらいものだ。それでもやらねばならない。ひとつ溜め息を吐くと、私は闘技台に上がった。
「相手が降参や戦闘不能になったら勝敗が決まるからな。じゃあ始め」
簡単に、命のやり取りをする合図がかかった。
男の子が叫びながら突進してきた。私は余裕でそれを躱す。男の子は驚いた顔をして、慌ててまた私に向き直る。だけど遅い。私は躊躇いもなく逆袈裟に剣を振ると、男の子の左腕が落ちた。男の子は一瞬の間の後、剣を落として傷口を押さえながら絶叫して蹲る。
少し呆然としていた男が、戦闘不能と判断し、そこまで、と言った。
けれど私は男の子の側に立って、剣を振り上げる。男は、何を、と叫ぶが、私は無視した。
とん。
男の子の首が、転がった。
*つづく*
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