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会場中が拍手喝采、二人の祝福に沸いたことを確認し。
「ちょっとあなた!何てことをしているのかしら?!」
会場からネレーアとヤーナを別室に引きずってきたかなり力持ちのイルマは、騒がれないよう二人の口に突っ込んでいたハンカチを取ってやってから、そう怒りを露わにした。
「やっと!やっと出会えた、運命の再会を果たしたお二人の邪魔をなさるなんて!」
「何よっ?!何であなたが庇うのよ?!寧ろあなた、おかしな姉を持った被害者側なんじゃないの?!」
腰が抜けて失禁していることも忘れてネレーアは言い返す。ヤーナは事態を飲み込めず、ただ茫然と天井を見つめている。
「お姉様を侮辱しないでくださいまし!あれを見てよくもまだそんなことが言えますわね!」
好きすぎる姉を侮辱され、令嬢にあるまじき顔で怒りをあらわにするイルマ。自分が流した噂のせいとは言え、アリアが嗤われていることは本当に耐えがたかった。やっとその苦悩から解き放たれ、もうアリアを嗤うものすべてに容赦などしない。
「ああ、おかしな家族がいれば、みんなおかしくなるのねぇ。お可哀相だわぁ」
「その論理から申しましたら、無礼で恥知らずで無知な方のご家族は、同じく無礼で恥知らずで無知ということですわねぇ」
「何ですって?!当家を侮辱したわね!」
「いぃえぇ?わたくし、あなた様のこととは一言も申しておりませんわぁ?あなた様のお話から、例え話を申しただけですのぉ。ご自身のことを言われたと思うということは、何か自覚することでもございましてぇ?」
イラッとする挑発をするイルマに、笑い声が入り込んだ。
「イルマ・キャステット嬢、あなたという人は」
いつの間にかそこにいたのは、ウィスタリア公爵家のホツマ。その隣には、ホツマと親しいバシュラール伯爵家のオスヴィンもいる。
とても穏やかな口調で、柔らかな笑みを浮かべるホツマは、本当に眼福だ。イルマは心の中で神様に感謝の祈りを捧げる。
ホツマやオスヴィンのほかにも、アリアを嗤わなかった者たちは意外といる。王孫である王子殿下やその婚約者、侯爵家のとあることで少々有名な令嬢など、有名どころの人物は、夜会でアリアに会うたび、必ず声をかけていた。この国の貴族たちは、ずいぶん真っ当だ。そういう人たちにイルマは敬意を表していた。
しかし、続く言葉は脳が処理をするまでに時間がかかった。
「イルマ・キャステット嬢。私と結婚をしていただけませんか?」
ホツマの言葉に、イルマはキョトンとした。そして笑う。
「ふふ。小公爵様、お戯れが過ぎますわ」
笑えない冗談だが、ホツマなりに淋しさを紛らわせようとしてくれたのだろうと判断する。
「まさか。戯れで求婚する男に見えたかな」
困ったように眉を下げるホツマに、イルマは内心焦りつつ、まだ冗談として受け取りたくて、わざと軽い口調で答える。
「わたくし、子爵家ですの。公爵家に嫁ぐなど、とてもとても」
スススス、とホツマから距離を取ろうとするイルマに、させまいと距離を詰めるホツマ。
ひいいぃぃ?!何で?何で?
泣きそうになりながらも、イルマは若干引き攣りつつ何とか笑顔を保ち、少しずつ後退る。ホツマは笑顔で距離を詰める。
「あなたは気付いていないようだね」
尚も逃げようとするイルマに言葉を重ねる。
「何をですか?」
ジリジリと逃げつつ返事をする。
「大好きなお姉様の真似をしていたのだろうね。あなたの所作は、私の母に引けを取らないほどに綺麗だよ」
イルマの背中に何かが当たった。
「な、にを」
それが壁だと気付くがもう遅い。ホツマがイルマを囲うように壁に手をつく。イルマは逃げ道を探すようにキョロキョロと首と目を動かすが、見つからない。
「貴族としての振る舞いも、普段のあなたはまったく問題ない」
ジリジリとホツマの顔が近付き、イルマは挙動不審になる。夜会以外で会ったことなどないのに、普段を何故知っているのだろう、という疑問さえ浮かばない。
「時々暴走するようだけど、私が側にいるときなら構わないよ」
目の前で麗しい顔に柔らかな笑みを浮かべられ、イルマの心拍数はかつてない数値を叩き出している。たくさんの男たちを侍らせるイルマ・キャステットは、女優イルマ・キャステットだ。素のイルマは、異性への免疫皆無。姉アリア推しすぎて、それ以外が見えていない残念な子、それがイルマである。
「暴走の仕方も、自分のためではなく、誰かのために動いている結果だ。だから構わない」
「う、あ、あの」
上手く言葉が出て来ない。女優イルマなら、羞恥心などないような振る舞いにもなるが、素のイルマがキラキラ男子に迫られれば、人並みに照れる気持ちはある。
「あと少しの努力で、王族に嫁いでも恥ずかしくないよ、あなたは」
ホツマは、イルマの両肩に一房ずつ下ろされた髪の片方を手に取る。
「何より、姉のために自分を省みないあなたを、守りたいと思っていたんだ」
夜会で見かける度に、姉のために戦っていたあなた。何度抱きしめたいと思ったことか。
手にした髪に、恭しくくちづけた。
「返事は急がない」
公爵家嫡男という立場のホツマが、非公式とはいえ求婚をしたのだ。バシュラール伯爵家という第三者のいる前で。ついでにムーレヴリエ公爵家と帝国侯爵家の者もいる。この求婚に待ったをかけられるのは、ホツマより上の立場である王族のみ。けれど、王子たちにはすでに婚約者がいる。つまり、ホツマの邪魔を出来る者はいないということ。ホツマ自身、卑怯なやり方だとは思っているが、狙った獲物は逃がさない。
そこへ思わぬ援護射撃。
「ウィスタリア小公爵様でしたら、安心してわたくしの可愛いイルマをお任せできますね」
「お姉様っ?!」
アントラシットにしがみつかれたままのアリアがそこにいた。
*つづく*
「ちょっとあなた!何てことをしているのかしら?!」
会場からネレーアとヤーナを別室に引きずってきたかなり力持ちのイルマは、騒がれないよう二人の口に突っ込んでいたハンカチを取ってやってから、そう怒りを露わにした。
「やっと!やっと出会えた、運命の再会を果たしたお二人の邪魔をなさるなんて!」
「何よっ?!何であなたが庇うのよ?!寧ろあなた、おかしな姉を持った被害者側なんじゃないの?!」
腰が抜けて失禁していることも忘れてネレーアは言い返す。ヤーナは事態を飲み込めず、ただ茫然と天井を見つめている。
「お姉様を侮辱しないでくださいまし!あれを見てよくもまだそんなことが言えますわね!」
好きすぎる姉を侮辱され、令嬢にあるまじき顔で怒りをあらわにするイルマ。自分が流した噂のせいとは言え、アリアが嗤われていることは本当に耐えがたかった。やっとその苦悩から解き放たれ、もうアリアを嗤うものすべてに容赦などしない。
「ああ、おかしな家族がいれば、みんなおかしくなるのねぇ。お可哀相だわぁ」
「その論理から申しましたら、無礼で恥知らずで無知な方のご家族は、同じく無礼で恥知らずで無知ということですわねぇ」
「何ですって?!当家を侮辱したわね!」
「いぃえぇ?わたくし、あなた様のこととは一言も申しておりませんわぁ?あなた様のお話から、例え話を申しただけですのぉ。ご自身のことを言われたと思うということは、何か自覚することでもございましてぇ?」
イラッとする挑発をするイルマに、笑い声が入り込んだ。
「イルマ・キャステット嬢、あなたという人は」
いつの間にかそこにいたのは、ウィスタリア公爵家のホツマ。その隣には、ホツマと親しいバシュラール伯爵家のオスヴィンもいる。
とても穏やかな口調で、柔らかな笑みを浮かべるホツマは、本当に眼福だ。イルマは心の中で神様に感謝の祈りを捧げる。
ホツマやオスヴィンのほかにも、アリアを嗤わなかった者たちは意外といる。王孫である王子殿下やその婚約者、侯爵家のとあることで少々有名な令嬢など、有名どころの人物は、夜会でアリアに会うたび、必ず声をかけていた。この国の貴族たちは、ずいぶん真っ当だ。そういう人たちにイルマは敬意を表していた。
しかし、続く言葉は脳が処理をするまでに時間がかかった。
「イルマ・キャステット嬢。私と結婚をしていただけませんか?」
ホツマの言葉に、イルマはキョトンとした。そして笑う。
「ふふ。小公爵様、お戯れが過ぎますわ」
笑えない冗談だが、ホツマなりに淋しさを紛らわせようとしてくれたのだろうと判断する。
「まさか。戯れで求婚する男に見えたかな」
困ったように眉を下げるホツマに、イルマは内心焦りつつ、まだ冗談として受け取りたくて、わざと軽い口調で答える。
「わたくし、子爵家ですの。公爵家に嫁ぐなど、とてもとても」
スススス、とホツマから距離を取ろうとするイルマに、させまいと距離を詰めるホツマ。
ひいいぃぃ?!何で?何で?
泣きそうになりながらも、イルマは若干引き攣りつつ何とか笑顔を保ち、少しずつ後退る。ホツマは笑顔で距離を詰める。
「あなたは気付いていないようだね」
尚も逃げようとするイルマに言葉を重ねる。
「何をですか?」
ジリジリと逃げつつ返事をする。
「大好きなお姉様の真似をしていたのだろうね。あなたの所作は、私の母に引けを取らないほどに綺麗だよ」
イルマの背中に何かが当たった。
「な、にを」
それが壁だと気付くがもう遅い。ホツマがイルマを囲うように壁に手をつく。イルマは逃げ道を探すようにキョロキョロと首と目を動かすが、見つからない。
「貴族としての振る舞いも、普段のあなたはまったく問題ない」
ジリジリとホツマの顔が近付き、イルマは挙動不審になる。夜会以外で会ったことなどないのに、普段を何故知っているのだろう、という疑問さえ浮かばない。
「時々暴走するようだけど、私が側にいるときなら構わないよ」
目の前で麗しい顔に柔らかな笑みを浮かべられ、イルマの心拍数はかつてない数値を叩き出している。たくさんの男たちを侍らせるイルマ・キャステットは、女優イルマ・キャステットだ。素のイルマは、異性への免疫皆無。姉アリア推しすぎて、それ以外が見えていない残念な子、それがイルマである。
「暴走の仕方も、自分のためではなく、誰かのために動いている結果だ。だから構わない」
「う、あ、あの」
上手く言葉が出て来ない。女優イルマなら、羞恥心などないような振る舞いにもなるが、素のイルマがキラキラ男子に迫られれば、人並みに照れる気持ちはある。
「あと少しの努力で、王族に嫁いでも恥ずかしくないよ、あなたは」
ホツマは、イルマの両肩に一房ずつ下ろされた髪の片方を手に取る。
「何より、姉のために自分を省みないあなたを、守りたいと思っていたんだ」
夜会で見かける度に、姉のために戦っていたあなた。何度抱きしめたいと思ったことか。
手にした髪に、恭しくくちづけた。
「返事は急がない」
公爵家嫡男という立場のホツマが、非公式とはいえ求婚をしたのだ。バシュラール伯爵家という第三者のいる前で。ついでにムーレヴリエ公爵家と帝国侯爵家の者もいる。この求婚に待ったをかけられるのは、ホツマより上の立場である王族のみ。けれど、王子たちにはすでに婚約者がいる。つまり、ホツマの邪魔を出来る者はいないということ。ホツマ自身、卑怯なやり方だとは思っているが、狙った獲物は逃がさない。
そこへ思わぬ援護射撃。
「ウィスタリア小公爵様でしたら、安心してわたくしの可愛いイルマをお任せできますね」
「お姉様っ?!」
アントラシットにしがみつかれたままのアリアがそこにいた。
*つづく*
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