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番外編
運命の出会い
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十一歳になる年に、隣の国へ留学させてもらえることとなった。
アザミフェルタ帝国。
知識欲旺盛なノヴァは、もっとたくさんのことを知りたかった。
「おい、おっさん、それは今摘むよりも、夜に摘んだ方が高い効果が得られる」
「そうなのか?何故?」
目元が長い前髪で覆われたボサボサ頭の少年が、薬効のある草を採取する壮年の男に声をかけた。
男は時々ここに来るが、その少年を見たことがなかった。
「その野草の習性を考えるんだよ」
「野草の、習性?」
「そ。ちょっと違うがすごく乱暴に言えば、何にだって得手不得手、適材適所があるってこと」
少年は手際よく、多種の野草をそれぞれの採取方法で摘んでいく。
「同じ手間をかけるなら、より良くなる方がいいだろ」
「確かに」
男が唸っていると、少年は軽い口調のまま言った。
「おっさん、あんた貴族だろ。それもかなり上位の」
男は驚いて少年を凝視する。今までバレたことなどなかったのに、出会って間もなく看破されるなんて、思ってもみない。
しかし、上位貴族と気付いてもまったく態度を改めない少年に、男は口の端を上げた。
「もしそうだとしたら、おまえは不敬罪に問われるかも、と恐れないのか」
はは、と少年は笑った。
「そんなこと口にするヤツが、こんなところで市井に紛れるかよ」
少年は立ち上がると、手についた野草の汁を乱暴に上衣になすりつけた。
「本当に紛れたいなら、もっと徹底しないとな」
そして男の手元を指しながら続けた。
「あんたの所作、綺麗すぎだ」
丁寧とは違う、と少年が指摘すると、男は豪快に笑う。
「おまえの観察眼と探究心、気に入った。私に仕えないか?」
少年は、また笑った。
「おっさんの身分によるかな。オレ、安売りしないんだ」
少年の言葉に男はニヤリと笑う。
「なら、不足はないと思うぞ」
「知ってるよ、知ってる。本当は貴族なんかじゃないよな」
少年はからかうように笑うと、男の耳元に囁いた。
「皇帝陛下」
*~*~*~*~*
ノヴァが帝国に着いて三日目。
皇帝との挨拶の日を迎えた。
隣国の大公家の息子だ。皇帝に挨拶をしないわけにいかない。
ノヴァの聡明さは聞いていたので、十一歳とは思えないしっかりとした挨拶に、皇帝たちは感心した。
まだ幼さの残る顔立ちとは違い、その精神は単身帝国に留学してくるほど成熟していた。
「ルルクレイン大公家の名に恥じぬよう、存分に励め。困り事があれば、力になろう」
「ありがとうございます」
こうして挨拶は終わり、この後に控えた晩餐会も、ノヴァはそつなく熟していた。
暫くして、まだ幼いノヴァは一足先に退室するため、両陛下の側に側近だけになった時を見計らって挨拶をした。そのまま下がるかと思いきや、ノヴァは言葉を続けた。
「ところで皇帝陛下、陛下はお忙しい身。許可をいただけるなら、先日のお返事をいたしたく存じますが、よろしいでしょうか」
ノヴァの言葉に、皇帝は内心首を傾げた。
初対面のはずだ。留学に来ると聞いているだけで、特別何かを交わした覚えなどない。
「またいつ偶然お会い出来るかわからないですし、次にお会いしたときに返事を、とお伝えしておりましたので」
その言葉で、その場にいた者たちはあんぐりと口を開けてしまった。
………
……
…
「ヒナちゃんも気に入るよ、絶対」
妻であるヒナリア皇妃を、プライベートのときはこう呼んでいる。
「じゃあ、わたくしはバレないようにがんばるわ」
皇帝が市井に紛れるとき、護衛や側近、侍従はもちろん、皇妃もいることが結構ある。稀に宰相や外相が巻き込まれる。
「もー、すっごくカッコいいんだよ!耳元でボクの正体言われたときなんか、全身に電気ビリビリーッて!雷に打たれたときより凄かった!」
余談だが、皇帝は昔、戦場で雷に打たれたことがある。でも元気だった。色々な偶然が重なって、皇帝の体の表面を撫でて地面へと抜けていった。ちょっとあちこちに軽く火傷をしただけ。その出来事から事ある毎に、運がいいのか悪いのかわからない男、と父親に微妙な呼び方をされていた。
「本当に彼が欲しいなあ。名前も何も教えてくれなくてさ。次に会えたときに返事を聞かせてくれるって言ってたけど」
………
……
…
慣れない帝国、ノヴァは、市井に紛れて見識、見聞を広げることから始めた。
初日、話しかけた壮年の男は、偶然にも皇帝陛下だった。
あんな感じだったが、ノヴァも結構驚いていた。
皇帝という立場の者が市井に紛れている。ノヴァは、帝国にさらに興味を持った。
「き、キミが、あの時の?全然違うじゃないかっ」
思わず皇帝の仮面がズレてしまう。
ノヴァは笑った。
「ですから申しましたでしょう。本当に紛れたいなら徹底しないと、と」
齢たった十一で、何と言う機動力と適応力だろう。
帝国にまで名が聞こえてきた神童は、伊達ではなかったのだ。
「仕えることは出来ませんが、留学中は如何様にも」
そう言ってノヴァは頭を下げた。
こうして交流を深めるにつれ、ノヴァの魅力にメロメロになっていく艶男と艶女であった。
*~*~*~*~*
「ノンの市井での姿絵これね」
「まあぁ、本当にこれが?」
「実物はもっとわかりづらいよ。ヒナちゃんも一発で看破されちゃうかなあ」
「そう。それならわたくし、張り切っちゃうわよぉ」
そんな皇妃は一瞬でバレた。
“おねーさん”と呼びかけられ、
「ノンちゃん可愛くていい子ーっ」
と飛びついてしまったためだ。
*おしまい*
アザミフェルタ帝国。
知識欲旺盛なノヴァは、もっとたくさんのことを知りたかった。
「おい、おっさん、それは今摘むよりも、夜に摘んだ方が高い効果が得られる」
「そうなのか?何故?」
目元が長い前髪で覆われたボサボサ頭の少年が、薬効のある草を採取する壮年の男に声をかけた。
男は時々ここに来るが、その少年を見たことがなかった。
「その野草の習性を考えるんだよ」
「野草の、習性?」
「そ。ちょっと違うがすごく乱暴に言えば、何にだって得手不得手、適材適所があるってこと」
少年は手際よく、多種の野草をそれぞれの採取方法で摘んでいく。
「同じ手間をかけるなら、より良くなる方がいいだろ」
「確かに」
男が唸っていると、少年は軽い口調のまま言った。
「おっさん、あんた貴族だろ。それもかなり上位の」
男は驚いて少年を凝視する。今までバレたことなどなかったのに、出会って間もなく看破されるなんて、思ってもみない。
しかし、上位貴族と気付いてもまったく態度を改めない少年に、男は口の端を上げた。
「もしそうだとしたら、おまえは不敬罪に問われるかも、と恐れないのか」
はは、と少年は笑った。
「そんなこと口にするヤツが、こんなところで市井に紛れるかよ」
少年は立ち上がると、手についた野草の汁を乱暴に上衣になすりつけた。
「本当に紛れたいなら、もっと徹底しないとな」
そして男の手元を指しながら続けた。
「あんたの所作、綺麗すぎだ」
丁寧とは違う、と少年が指摘すると、男は豪快に笑う。
「おまえの観察眼と探究心、気に入った。私に仕えないか?」
少年は、また笑った。
「おっさんの身分によるかな。オレ、安売りしないんだ」
少年の言葉に男はニヤリと笑う。
「なら、不足はないと思うぞ」
「知ってるよ、知ってる。本当は貴族なんかじゃないよな」
少年はからかうように笑うと、男の耳元に囁いた。
「皇帝陛下」
*~*~*~*~*
ノヴァが帝国に着いて三日目。
皇帝との挨拶の日を迎えた。
隣国の大公家の息子だ。皇帝に挨拶をしないわけにいかない。
ノヴァの聡明さは聞いていたので、十一歳とは思えないしっかりとした挨拶に、皇帝たちは感心した。
まだ幼さの残る顔立ちとは違い、その精神は単身帝国に留学してくるほど成熟していた。
「ルルクレイン大公家の名に恥じぬよう、存分に励め。困り事があれば、力になろう」
「ありがとうございます」
こうして挨拶は終わり、この後に控えた晩餐会も、ノヴァはそつなく熟していた。
暫くして、まだ幼いノヴァは一足先に退室するため、両陛下の側に側近だけになった時を見計らって挨拶をした。そのまま下がるかと思いきや、ノヴァは言葉を続けた。
「ところで皇帝陛下、陛下はお忙しい身。許可をいただけるなら、先日のお返事をいたしたく存じますが、よろしいでしょうか」
ノヴァの言葉に、皇帝は内心首を傾げた。
初対面のはずだ。留学に来ると聞いているだけで、特別何かを交わした覚えなどない。
「またいつ偶然お会い出来るかわからないですし、次にお会いしたときに返事を、とお伝えしておりましたので」
その言葉で、その場にいた者たちはあんぐりと口を開けてしまった。
………
……
…
「ヒナちゃんも気に入るよ、絶対」
妻であるヒナリア皇妃を、プライベートのときはこう呼んでいる。
「じゃあ、わたくしはバレないようにがんばるわ」
皇帝が市井に紛れるとき、護衛や側近、侍従はもちろん、皇妃もいることが結構ある。稀に宰相や外相が巻き込まれる。
「もー、すっごくカッコいいんだよ!耳元でボクの正体言われたときなんか、全身に電気ビリビリーッて!雷に打たれたときより凄かった!」
余談だが、皇帝は昔、戦場で雷に打たれたことがある。でも元気だった。色々な偶然が重なって、皇帝の体の表面を撫でて地面へと抜けていった。ちょっとあちこちに軽く火傷をしただけ。その出来事から事ある毎に、運がいいのか悪いのかわからない男、と父親に微妙な呼び方をされていた。
「本当に彼が欲しいなあ。名前も何も教えてくれなくてさ。次に会えたときに返事を聞かせてくれるって言ってたけど」
………
……
…
慣れない帝国、ノヴァは、市井に紛れて見識、見聞を広げることから始めた。
初日、話しかけた壮年の男は、偶然にも皇帝陛下だった。
あんな感じだったが、ノヴァも結構驚いていた。
皇帝という立場の者が市井に紛れている。ノヴァは、帝国にさらに興味を持った。
「き、キミが、あの時の?全然違うじゃないかっ」
思わず皇帝の仮面がズレてしまう。
ノヴァは笑った。
「ですから申しましたでしょう。本当に紛れたいなら徹底しないと、と」
齢たった十一で、何と言う機動力と適応力だろう。
帝国にまで名が聞こえてきた神童は、伊達ではなかったのだ。
「仕えることは出来ませんが、留学中は如何様にも」
そう言ってノヴァは頭を下げた。
こうして交流を深めるにつれ、ノヴァの魅力にメロメロになっていく艶男と艶女であった。
*~*~*~*~*
「ノンの市井での姿絵これね」
「まあぁ、本当にこれが?」
「実物はもっとわかりづらいよ。ヒナちゃんも一発で看破されちゃうかなあ」
「そう。それならわたくし、張り切っちゃうわよぉ」
そんな皇妃は一瞬でバレた。
“おねーさん”と呼びかけられ、
「ノンちゃん可愛くていい子ーっ」
と飛びついてしまったためだ。
*おしまい*
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