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1.呼び出し
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魔法が存在する世界。
三人に一人は魔力を持ち、魔力を持つ者は魔法が使える。魔法を使える者は、十五になる歳から三年間、全寮制の魔法学校に通うことが義務付けられている。魔力のコントロールを学ぶためだ。魔力の有無は十四歳の誕生日までに行うことを義務付けており、どこの教会でも鑑定できた。この鑑定で、一定の魔力量を超える者は、学校にかかる費用は段階的に免除される。魔力量には四つ段階があり、可であれば、全額自己負担、良であれば、半額免除。優であれば寮費用全額免除で学費のみ全額自己負担。そして優良となると、すべての費用が免除となる。
大抵の者は可で入学する。良は全体の一割ほどで、優は二、三人。優良は滅多に出ない。
今年、優で入学をした者は二人いた。
レガレイニア王国王太子ジュラキュリオン・レガレイニア。金色の髪に翡翠の瞳、目元の泣きぼくろが妖艶さを醸し出す美しい少年。
もう一人は平民、ティシャ・カロラ。平民は名字を持たない。そのため、出身地を名字の代わりとする。カロラ町のティシャ、ということだ。
貴族平民問わず、魔力持ちは尊ばれる。それが優秀であればあるほど、将来は約束されたも同然。現に、ティシャには多くの貴族から専属にならないかとオファーが来ている。養子縁組を望む声も多い。加えてティシャは、容姿も非常に愛らしかった。金の髪に青い瞳、ふっくらとした頬はピンクに色付き、小さな口はいつも微笑みを浮かべていた。
ジュラキュリオンは、自分と同等の魔力を持つ少女に興味を引かれた。それが最初のきっかけ。話をする内に、ジュラキュリオンはどんどんティシャに惹かれていく。貴族にはない感覚がおもしろくもあり、魅力でもあった。ジュラキュリオンの側近候補たちもまた、一緒に過ごす内にティシャに惹かれていった。
側近候補は三人いる。その内の一人はジュラキュリオンと同年代。あとの二人は二つ上だった。同年代の候補はライアス・コルトラバ。侯爵家次男だ。騎士団副団長の息子であり、剣の腕は一般騎士に負けることはない。
ライアスには婚約者がいた。同年代の、シェファニール・ルミニア。同じ侯爵家であり、幼馴染みでもあった。
シェファニールは、少しずつティシャに傾倒していくことに苦言を呈していた。それもライアスには煩わしく、ますますティシャにのめり込むという悪循環に陥っていた。一年が終わる頃には、シェファニールとライアスの間には、埋められないほどの溝が出来てしまっていた。
明日、学年末の長期休暇に入るという日、シェファニールは生徒会室に呼び出された。
シェファニールが生徒会室に入ると、王太子のジュラキュリオン、婚約者のライアス、側近候補の二人とティシャがいた。ティシャはジュラキュリオンにしがみつくようにソファに座っており、側近候補三人は、ソファの脇に控えている。
「お呼びと伺いました。どのようなご用件でしょうか」
シェファニールは毅然と五人を見据えた。
「呼び出したのはここにいるティシャのことでだ。何か心当たりはないか」
ジュラキュリオンの言葉に、シェファニールは応える。
「日頃ティシャさんには苦言を呈しております。主にその行動についてです」
ジュラキュリオンは続けるよう視線で促す。
「現在のその行いも注意したいところですが、今はプライベートだと言えなくもないと言うことで控えます。殿方への接触はむやみに行うものではない、況して婚約者のある者にはより注意を払い、慎むように、と、極々当然の苦言です」
「ほう。だがティシャは平民だ。貴族のマナーを押しつけるのか」
「そうです。酷いです。私、なんにもわからないのに」
大きな青い目が涙で潤む。王太子も側近候補たちも、シェファニールに非難の目を向けた。
シェファニールはわざと大きく溜め息をついた。
「平民であれ、この学校に通うからには貴族とのつきあいが一生ついて回ります。それも踏まえての学び舎かと」
「ならば口頭での注意に止めないのは何故だ。持ち物への被害だって何の意味がある」
険を含んだジュラキュリオンの言葉にも、シェファニールはまったく動じる様子はない。
「口頭注意で直れば良し。同じことで三度注意をしても直らないということは、言葉が通じないと同じ。家畜と一緒です。体で覚えさせるのです」
「なっ」
「か、家畜だとっ」
側近候補二人が息巻く。
「はい。家畜です。言葉が通じないのですから」
「貴様!無礼にも程があるぞ!」
側近候補の一人、ドルアドが怒鳴る。
「あら、ティシャさん自身も仰ったではありませんか。なんにもわからない、と」
「違うわ、ちゃんと教えてもらってないもの。わかるはずないわ。シェファニールさん、本当に酷いです」
ポロポロと涙を零し、ジュラキュリオンの肩口に顔をうめる。ジュラキュリオンは包み込むように抱き締めると、その髪を優しく撫でる。
「貴様には人の心がないのか。仮にも侯爵家を名乗るのであれば、相応の振る舞いというものがあるだろう」
憤るジュラキュリオンに、シェファニールは持っていた扇を広げて顔を隠して嗤った。
*つづく*
三人に一人は魔力を持ち、魔力を持つ者は魔法が使える。魔法を使える者は、十五になる歳から三年間、全寮制の魔法学校に通うことが義務付けられている。魔力のコントロールを学ぶためだ。魔力の有無は十四歳の誕生日までに行うことを義務付けており、どこの教会でも鑑定できた。この鑑定で、一定の魔力量を超える者は、学校にかかる費用は段階的に免除される。魔力量には四つ段階があり、可であれば、全額自己負担、良であれば、半額免除。優であれば寮費用全額免除で学費のみ全額自己負担。そして優良となると、すべての費用が免除となる。
大抵の者は可で入学する。良は全体の一割ほどで、優は二、三人。優良は滅多に出ない。
今年、優で入学をした者は二人いた。
レガレイニア王国王太子ジュラキュリオン・レガレイニア。金色の髪に翡翠の瞳、目元の泣きぼくろが妖艶さを醸し出す美しい少年。
もう一人は平民、ティシャ・カロラ。平民は名字を持たない。そのため、出身地を名字の代わりとする。カロラ町のティシャ、ということだ。
貴族平民問わず、魔力持ちは尊ばれる。それが優秀であればあるほど、将来は約束されたも同然。現に、ティシャには多くの貴族から専属にならないかとオファーが来ている。養子縁組を望む声も多い。加えてティシャは、容姿も非常に愛らしかった。金の髪に青い瞳、ふっくらとした頬はピンクに色付き、小さな口はいつも微笑みを浮かべていた。
ジュラキュリオンは、自分と同等の魔力を持つ少女に興味を引かれた。それが最初のきっかけ。話をする内に、ジュラキュリオンはどんどんティシャに惹かれていく。貴族にはない感覚がおもしろくもあり、魅力でもあった。ジュラキュリオンの側近候補たちもまた、一緒に過ごす内にティシャに惹かれていった。
側近候補は三人いる。その内の一人はジュラキュリオンと同年代。あとの二人は二つ上だった。同年代の候補はライアス・コルトラバ。侯爵家次男だ。騎士団副団長の息子であり、剣の腕は一般騎士に負けることはない。
ライアスには婚約者がいた。同年代の、シェファニール・ルミニア。同じ侯爵家であり、幼馴染みでもあった。
シェファニールは、少しずつティシャに傾倒していくことに苦言を呈していた。それもライアスには煩わしく、ますますティシャにのめり込むという悪循環に陥っていた。一年が終わる頃には、シェファニールとライアスの間には、埋められないほどの溝が出来てしまっていた。
明日、学年末の長期休暇に入るという日、シェファニールは生徒会室に呼び出された。
シェファニールが生徒会室に入ると、王太子のジュラキュリオン、婚約者のライアス、側近候補の二人とティシャがいた。ティシャはジュラキュリオンにしがみつくようにソファに座っており、側近候補三人は、ソファの脇に控えている。
「お呼びと伺いました。どのようなご用件でしょうか」
シェファニールは毅然と五人を見据えた。
「呼び出したのはここにいるティシャのことでだ。何か心当たりはないか」
ジュラキュリオンの言葉に、シェファニールは応える。
「日頃ティシャさんには苦言を呈しております。主にその行動についてです」
ジュラキュリオンは続けるよう視線で促す。
「現在のその行いも注意したいところですが、今はプライベートだと言えなくもないと言うことで控えます。殿方への接触はむやみに行うものではない、況して婚約者のある者にはより注意を払い、慎むように、と、極々当然の苦言です」
「ほう。だがティシャは平民だ。貴族のマナーを押しつけるのか」
「そうです。酷いです。私、なんにもわからないのに」
大きな青い目が涙で潤む。王太子も側近候補たちも、シェファニールに非難の目を向けた。
シェファニールはわざと大きく溜め息をついた。
「平民であれ、この学校に通うからには貴族とのつきあいが一生ついて回ります。それも踏まえての学び舎かと」
「ならば口頭での注意に止めないのは何故だ。持ち物への被害だって何の意味がある」
険を含んだジュラキュリオンの言葉にも、シェファニールはまったく動じる様子はない。
「口頭注意で直れば良し。同じことで三度注意をしても直らないということは、言葉が通じないと同じ。家畜と一緒です。体で覚えさせるのです」
「なっ」
「か、家畜だとっ」
側近候補二人が息巻く。
「はい。家畜です。言葉が通じないのですから」
「貴様!無礼にも程があるぞ!」
側近候補の一人、ドルアドが怒鳴る。
「あら、ティシャさん自身も仰ったではありませんか。なんにもわからない、と」
「違うわ、ちゃんと教えてもらってないもの。わかるはずないわ。シェファニールさん、本当に酷いです」
ポロポロと涙を零し、ジュラキュリオンの肩口に顔をうめる。ジュラキュリオンは包み込むように抱き締めると、その髪を優しく撫でる。
「貴様には人の心がないのか。仮にも侯爵家を名乗るのであれば、相応の振る舞いというものがあるだろう」
憤るジュラキュリオンに、シェファニールは持っていた扇を広げて顔を隠して嗤った。
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