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オスビア国編 *ヤンデレ*
前編
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新しい話始めました。
今回は、ひとつの世界観の元、各国でひっそり育まれた?愛にスポットをあてています。
最初に世界観をお読みいただきましたら、あとはどの章からお読みいただいても差し支えありません。
どのような内容かは、章の横にサブタイトルのようについたタグでご判断ください。
この話は若干の性的表現と残酷表現を含みます。
苦手な方はこのまま閉じてください。
*~*~*~*~*
オスビア国は、大陸で唯一王侯貴族がいない国だ。しかしそれは、序列がないということではない。準じたものはある。王の代わりとして、政首という政を行う役職を筆頭に、政治に関わる者、貿易に関わる者、商売に関わる者が、貴族的立ち位置にいる。関わる者とは、政治であれば政務に携わる者とその家族、貿易・商売であれば、経営に携わる者とその家族を指す。そこで働く者たちは、使用人といった立ち位置になるだろうか。
少し曖昧ではあるが、家名が知れ渡っていればいるほど、その地位は高い。
一番の違いは、血筋ではなく、実力でのし上がれるというところだろう。
他国の貴族たちは、血を重んじる。故に、オスビア国は軽視されがちだった。ただ、大陸の覇者サファ帝国が、このオスビア国の実力主義を高く買っていることもあり、表立って非難する国はない。だが言葉の端々に、その心内が透けて見えた。
しかし、オスビア国の近隣諸国は、内心穏やかではない。血を重んじることは、閉鎖的な社会を意味する。閉じられた世界での選択肢しかないことが、発展を、飛躍を阻害してしまうことがある。もちろんそれによって守られるものも多い。一長一短なのだ。だから、固すぎず緩すぎず、ほどよく歩み寄ることが出来れば良いのだが。
そんなオスビア国でも、勘違いをする者が少なからずいる。政務や経営に携わる者は、間違いなく実力のある者だ。だが、家族は違う。実力ある者の恩恵に与っているだけ。代々続くものではない。
それを忘れる者がいるのだ。特に代々優秀な者を輩出している家となると。
広大な敷地に建つ館。白い壁に青い屋根が映える、シンメトリーの美しい館だ。その館をより美しくしているのは、庭園だ。四季に合わせた花が見事に咲き乱れ、心地よい噴水の水音に癒される。
ここディアマンテ家は、宝石商として代々成功を収めてきた。宝石の王様、ダイヤモンドの名を家名に許されたほどの成功者だ。現ディアマンテ家は、母親がその辣腕を振るい、父親があらゆるサポートをして支えている。どちらを欠いても、ここまでの成長は出来なかった。
広い屋敷にディアマンテ家の子どもが一人いた。ライラという娘だ。後を継ぎたいと、兄と妹は両親について世界中を飛び回っている。だからこの屋敷にはディアマンテ家の者はライラ一人。ライラのお世話をする者、屋敷を維持管理する者といった、三十人ほどの使用人たちと暮らしている。
「サラ!赤い方のワンピースって言ったでしょ!ホントグズなんだから!」
美しい金髪を毛先の方だけ緩く巻いたライラの髪が、大きく揺れる。振り向きざまに、そのワンピースをサラという少女に思い切り投げつけた。そしてパンッと乾いた音が響く。サラは避けることはしない。そんなことをしたらまた騒ぎ出すからだ。
「申し訳ございません。すぐにお取り替えいたします」
黒いワンピースと言っていたが、気が変わったのだろう。いつものことだ。
赤く、少し腫れた頬に構うことなく、サラは落ちたワンピースを拾って一礼すると、一旦部屋を下がった。
サラが出て行くと、入れ替わるようにノックがされた。ライラが苛立った声で誰何すると、その返答に途端に上機嫌になる。
「オルハ!もう、どこ行ってたのよ!」
ライラが下着姿にもかかわらず、オルハと呼ばれた青年は構わず入室し、抱きついてきたライラを当然のように受け止める。
「おや、心外ですね。お嬢様が言ったではありませんか。まんまる亭のクロワッサンが食べたいと」
「やだ、そうだけど!なんでオルハが行くのよ!そこいらの使用人に行かせればいいじゃない!」
「私がお嬢様のために動きたかったのですよ。許していただけませんか?」
困ったように笑うオルハに、ライラは頬を染めて上目遣いで見つめる。
「もう、そんな風に言うなんて、ずるいわ」
「機嫌を直していただけたようですね」
するりとライラの頬を撫でると、ライラの頬はますますバラ色に染まる。
「さあお嬢様。いつまでもそんな恰好では風邪をひいてしまいます。着替えをお持ちしましょう」
体を離し、オルハは自分の上着を脱いで羽織らせた。そこで丁度扉がノックされる。サラが戻ってきた。オルハが扉を開けると、サラはギョッとした。それはそうだ。中には下着姿の主人がいる。そこへ躊躇いもなく男の使用人がいるなど思いもしない。
「着替えは私がしよう。キミは次の仕事へ移るといい、サラ」
名前を呼ばれて驚くが、すぐに慌てて頭を下げて部屋を後にする。正直助かった。いつもライラのワガママに振り回されて、仕事が思うように出来ないのだ。ライラは起きている間中、サラをこき使う。ライラが外出するときだけが、ゆっくり仕事と自分のことが出来る。ついでに休憩と食事も。仕事仲間たちは、ライラの癇癪に触れないよう、サラにも近付かない。何度も退職を考えたが、貧しい実家を思うとここの給金を手放すことが出来ず、結局我慢をする日々なのだ。
「オルハさん、私の名前を知っていたのね」
オルハは使用人の間でとても人気があった。薄い茶色の髪に、同じ色の瞳。表情は乏しく冷たい印象だが、それがいい、と。だがその美貌から、ライラのお気に入りとして周知されていたため、誰も近付けない。ライラも性格はどうあれ、すごい美人だ。二人が並び立つと、それだけで絵になる。そんな人物が、ストレス解消の捌け口に任命されるような自分を知っていたことに、驚きを隠せなかった。そして少し落胆してしまう。下着姿の主人と部屋にいたことだ。
「夜のお相手もしているって噂、本当だったのね」
使用人の輪には入れないけれど、一緒に仕事をしていれば、噂話は嫌でも耳に入ってくる。落胆している自分にも驚いた。
*~*~*~*~*
「ねぇ、どうしても最後まではしてくれないの?」
一糸まとわぬ姿で横になるライラは、乱れた寝具を整えるオルハに、不満そうに口にした。
いつも乱れるのは自分だけ。オルハは上着を脱ぐだけで、肌を晒すことはない。唇へのキスもしてくれない。大切な日のためにとっておきましょう、と。
「お嬢様、然るべき日に、と申しているでしょう」
宥めるように額と頬に唇を落とす。くすぐったそうにライラは目を細める。
「しっかり慣らしておかないといけませんから。その時が来たら、最高の気分を味わいたいでしょう?」
ライラは顔を赤くして、恥ずかしそうに頷いた。
「オルハは私の望みをいつも叶えてくれるから大好きよ」
「貴女の望みを叶えたいのです」
「こんなにワガママなのに?」
「おや、ワガママな自覚がおありで?」
「もう!茶化さないで!」
「もっともっとワガママになりなさい。私がその望みを叶えてあげる」
耳元でそう囁かれ、ライラは顔を真っ赤にした。
「ねぇ、その然るべき日っていつなの?」
「もうすぐですよ、お嬢様」
「本当?そうしたら私たちは結ばれるのね?」
オルハはニッコリと笑った。
*~*~*~*~*
「まあた出たよ、お嬢様のワガママ」
「無茶ぶりが酷いんだよ」
冒険者たちは辟易していた。
「可愛いワガママではないですか」
オルハの言葉に、冒険者たちは睨みつける。
「おまえねぇ、おまえがそうやってお嬢様を甘やかすから、どんどんつけあがるんだぞ」
とある魔獣から採れる素材を欲しいと言われた。オルハは冒険者に依頼を出し、今自分も一緒に討伐に来ている。
「まあ、おまえの事情も知っているから強くは言えねぇけどさ。でも辛いときは辛いって言っていいんだぞ?一人で背負いすぎるなよ?」
幾度となく依頼で共にした冒険者たちは、オルハを気遣う。ディアマンテ家のワガママお嬢様に振り回されるオルハのことは、噂で知っていた。
依頼を重ねる内に、オルハからもポツポツと聞くことが出来た。
オルハはもともとは隣国トリウ王国の出身で、そこの貴族だったらしいが、家を継げない三男だったため、実力主義のこの国に活路を見出してやってきたとのこと。だが、勝手が違いすぎて、なかなか馴染めないでいた。日雇いの仕事に何とかありつけている状態の時に、ディアマンテ家に見初められたらしい。そうして一から学び、今に至るという。
「ディアマンテ家に恩があるのはわかるけど、お嬢様に恩があるわけじゃねぇだろ」
「こんな命かけさせるようなワガママ、どうかと思うぜ?」
「巷じゃいい噂聞かねぇもんなぁ。ディアマンテの家が有名なだけに、ゴシップ記事も面白おかしく取り上げちまってるからよ」
「商売に支障が出るんじゃねぇか?」
オルハは静かに笑うだけだった。
*中編につづく*
今回は、ひとつの世界観の元、各国でひっそり育まれた?愛にスポットをあてています。
最初に世界観をお読みいただきましたら、あとはどの章からお読みいただいても差し支えありません。
どのような内容かは、章の横にサブタイトルのようについたタグでご判断ください。
この話は若干の性的表現と残酷表現を含みます。
苦手な方はこのまま閉じてください。
*~*~*~*~*
オスビア国は、大陸で唯一王侯貴族がいない国だ。しかしそれは、序列がないということではない。準じたものはある。王の代わりとして、政首という政を行う役職を筆頭に、政治に関わる者、貿易に関わる者、商売に関わる者が、貴族的立ち位置にいる。関わる者とは、政治であれば政務に携わる者とその家族、貿易・商売であれば、経営に携わる者とその家族を指す。そこで働く者たちは、使用人といった立ち位置になるだろうか。
少し曖昧ではあるが、家名が知れ渡っていればいるほど、その地位は高い。
一番の違いは、血筋ではなく、実力でのし上がれるというところだろう。
他国の貴族たちは、血を重んじる。故に、オスビア国は軽視されがちだった。ただ、大陸の覇者サファ帝国が、このオスビア国の実力主義を高く買っていることもあり、表立って非難する国はない。だが言葉の端々に、その心内が透けて見えた。
しかし、オスビア国の近隣諸国は、内心穏やかではない。血を重んじることは、閉鎖的な社会を意味する。閉じられた世界での選択肢しかないことが、発展を、飛躍を阻害してしまうことがある。もちろんそれによって守られるものも多い。一長一短なのだ。だから、固すぎず緩すぎず、ほどよく歩み寄ることが出来れば良いのだが。
そんなオスビア国でも、勘違いをする者が少なからずいる。政務や経営に携わる者は、間違いなく実力のある者だ。だが、家族は違う。実力ある者の恩恵に与っているだけ。代々続くものではない。
それを忘れる者がいるのだ。特に代々優秀な者を輩出している家となると。
広大な敷地に建つ館。白い壁に青い屋根が映える、シンメトリーの美しい館だ。その館をより美しくしているのは、庭園だ。四季に合わせた花が見事に咲き乱れ、心地よい噴水の水音に癒される。
ここディアマンテ家は、宝石商として代々成功を収めてきた。宝石の王様、ダイヤモンドの名を家名に許されたほどの成功者だ。現ディアマンテ家は、母親がその辣腕を振るい、父親があらゆるサポートをして支えている。どちらを欠いても、ここまでの成長は出来なかった。
広い屋敷にディアマンテ家の子どもが一人いた。ライラという娘だ。後を継ぎたいと、兄と妹は両親について世界中を飛び回っている。だからこの屋敷にはディアマンテ家の者はライラ一人。ライラのお世話をする者、屋敷を維持管理する者といった、三十人ほどの使用人たちと暮らしている。
「サラ!赤い方のワンピースって言ったでしょ!ホントグズなんだから!」
美しい金髪を毛先の方だけ緩く巻いたライラの髪が、大きく揺れる。振り向きざまに、そのワンピースをサラという少女に思い切り投げつけた。そしてパンッと乾いた音が響く。サラは避けることはしない。そんなことをしたらまた騒ぎ出すからだ。
「申し訳ございません。すぐにお取り替えいたします」
黒いワンピースと言っていたが、気が変わったのだろう。いつものことだ。
赤く、少し腫れた頬に構うことなく、サラは落ちたワンピースを拾って一礼すると、一旦部屋を下がった。
サラが出て行くと、入れ替わるようにノックがされた。ライラが苛立った声で誰何すると、その返答に途端に上機嫌になる。
「オルハ!もう、どこ行ってたのよ!」
ライラが下着姿にもかかわらず、オルハと呼ばれた青年は構わず入室し、抱きついてきたライラを当然のように受け止める。
「おや、心外ですね。お嬢様が言ったではありませんか。まんまる亭のクロワッサンが食べたいと」
「やだ、そうだけど!なんでオルハが行くのよ!そこいらの使用人に行かせればいいじゃない!」
「私がお嬢様のために動きたかったのですよ。許していただけませんか?」
困ったように笑うオルハに、ライラは頬を染めて上目遣いで見つめる。
「もう、そんな風に言うなんて、ずるいわ」
「機嫌を直していただけたようですね」
するりとライラの頬を撫でると、ライラの頬はますますバラ色に染まる。
「さあお嬢様。いつまでもそんな恰好では風邪をひいてしまいます。着替えをお持ちしましょう」
体を離し、オルハは自分の上着を脱いで羽織らせた。そこで丁度扉がノックされる。サラが戻ってきた。オルハが扉を開けると、サラはギョッとした。それはそうだ。中には下着姿の主人がいる。そこへ躊躇いもなく男の使用人がいるなど思いもしない。
「着替えは私がしよう。キミは次の仕事へ移るといい、サラ」
名前を呼ばれて驚くが、すぐに慌てて頭を下げて部屋を後にする。正直助かった。いつもライラのワガママに振り回されて、仕事が思うように出来ないのだ。ライラは起きている間中、サラをこき使う。ライラが外出するときだけが、ゆっくり仕事と自分のことが出来る。ついでに休憩と食事も。仕事仲間たちは、ライラの癇癪に触れないよう、サラにも近付かない。何度も退職を考えたが、貧しい実家を思うとここの給金を手放すことが出来ず、結局我慢をする日々なのだ。
「オルハさん、私の名前を知っていたのね」
オルハは使用人の間でとても人気があった。薄い茶色の髪に、同じ色の瞳。表情は乏しく冷たい印象だが、それがいい、と。だがその美貌から、ライラのお気に入りとして周知されていたため、誰も近付けない。ライラも性格はどうあれ、すごい美人だ。二人が並び立つと、それだけで絵になる。そんな人物が、ストレス解消の捌け口に任命されるような自分を知っていたことに、驚きを隠せなかった。そして少し落胆してしまう。下着姿の主人と部屋にいたことだ。
「夜のお相手もしているって噂、本当だったのね」
使用人の輪には入れないけれど、一緒に仕事をしていれば、噂話は嫌でも耳に入ってくる。落胆している自分にも驚いた。
*~*~*~*~*
「ねぇ、どうしても最後まではしてくれないの?」
一糸まとわぬ姿で横になるライラは、乱れた寝具を整えるオルハに、不満そうに口にした。
いつも乱れるのは自分だけ。オルハは上着を脱ぐだけで、肌を晒すことはない。唇へのキスもしてくれない。大切な日のためにとっておきましょう、と。
「お嬢様、然るべき日に、と申しているでしょう」
宥めるように額と頬に唇を落とす。くすぐったそうにライラは目を細める。
「しっかり慣らしておかないといけませんから。その時が来たら、最高の気分を味わいたいでしょう?」
ライラは顔を赤くして、恥ずかしそうに頷いた。
「オルハは私の望みをいつも叶えてくれるから大好きよ」
「貴女の望みを叶えたいのです」
「こんなにワガママなのに?」
「おや、ワガママな自覚がおありで?」
「もう!茶化さないで!」
「もっともっとワガママになりなさい。私がその望みを叶えてあげる」
耳元でそう囁かれ、ライラは顔を真っ赤にした。
「ねぇ、その然るべき日っていつなの?」
「もうすぐですよ、お嬢様」
「本当?そうしたら私たちは結ばれるのね?」
オルハはニッコリと笑った。
*~*~*~*~*
「まあた出たよ、お嬢様のワガママ」
「無茶ぶりが酷いんだよ」
冒険者たちは辟易していた。
「可愛いワガママではないですか」
オルハの言葉に、冒険者たちは睨みつける。
「おまえねぇ、おまえがそうやってお嬢様を甘やかすから、どんどんつけあがるんだぞ」
とある魔獣から採れる素材を欲しいと言われた。オルハは冒険者に依頼を出し、今自分も一緒に討伐に来ている。
「まあ、おまえの事情も知っているから強くは言えねぇけどさ。でも辛いときは辛いって言っていいんだぞ?一人で背負いすぎるなよ?」
幾度となく依頼で共にした冒険者たちは、オルハを気遣う。ディアマンテ家のワガママお嬢様に振り回されるオルハのことは、噂で知っていた。
依頼を重ねる内に、オルハからもポツポツと聞くことが出来た。
オルハはもともとは隣国トリウ王国の出身で、そこの貴族だったらしいが、家を継げない三男だったため、実力主義のこの国に活路を見出してやってきたとのこと。だが、勝手が違いすぎて、なかなか馴染めないでいた。日雇いの仕事に何とかありつけている状態の時に、ディアマンテ家に見初められたらしい。そうして一から学び、今に至るという。
「ディアマンテ家に恩があるのはわかるけど、お嬢様に恩があるわけじゃねぇだろ」
「こんな命かけさせるようなワガママ、どうかと思うぜ?」
「巷じゃいい噂聞かねぇもんなぁ。ディアマンテの家が有名なだけに、ゴシップ記事も面白おかしく取り上げちまってるからよ」
「商売に支障が出るんじゃねぇか?」
オルハは静かに笑うだけだった。
*中編につづく*
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