これはひとつの愛の形

らがまふぃん

文字の大きさ
5 / 19
オスビア国編 *ヤンデレ*

中編

しおりを挟む
 誰も見向きもしなかった。
 ただ、消えていく命。
 ボクを救ってくれたキミ。
 キミを手に入れるために、ボクはすべてを賭ける。



 「それはいらん。好きにしろ」
 急遽帰国したライラの父親が、ライラを見て、オルハにそう言った。
 「パパ?!」
 「もう私たちは親子ではない」
 無能な身内ほど危険なものはない。油断しているところを後ろから刺されかねない。
 「なっ?!」
 突然のことに、全く意味がわからないでいるライラを余所に、話は進む。
 ライラは外の情報に疎かった。ディアマンテ家のワガママ令嬢として、面白おかしく話が出回っていることを知らない。海外を飛び回る両親の耳にまで届くほどになり、急遽父親が帰国したのだということも。
 「オルハ、おまえのその執着、恐れ入る。我々はおまえの邪魔をしない。だから金輪際おまえも我々の邪魔をしないでもらおう」
 ディアマンテ家は、ひとつの契約を結んでいた。
 ある日、一人の少年が声をかけてきた。若かりし日のオルハだ。欲しいものがあるから、ディアマンテ家で雇えという。父親は面白いと思い、先を促した。オルハは一人の女を手に入れたいという。そのために金も欲しいと言った。女と金。何とも欲望に忠実ではないか。父親は、ならばウチじゃなくても他でもいいのではないかと、意地悪を言った。オルハは目を逸らすことなく、欲しい女がディアマンテ家にいると言った。側で見ていたい、守ってやりたい、そう言った。少年ならではの純粋さがそこにはあった。
 だが、それではダメだ。その純粋さが首を絞めることになる。世の不条理を知らねば、食い物にされるだけ。父親は条件を出した。目当ての女を贔屓しないことと、オルハが十八になるまでに一千万を貯めることが出来たら、屋敷にいる女はどれでも好きなものを持って行っていい。例えそれが自分の娘であっても構わない、と言外に伝えた。もう一つ、自分を驚かせる何かをして欲しい、と。オルハが十八になるまで四年とちょっと。少年がこの条件を達成するのは、並大抵のことでは出来ない。それこそ、自分の持てる実力をフル活用しなくては。
 こうしてオルハは、ディアマンテ家にやって来た。
 「邪魔をされない限りはお約束いたしましょう」
 オルハは恭しく頭を下げる。それを見て、ライラの父親は口の端を上げた。
 「楽しい男だ。あと半年を残して二つの条件をクリアするとは」
 予想以上の出来事だ。金は二千万を優に超えている。驚かせる方向が、まさか肝を冷やす方向での意趣返しをされるとは。ディアマンテ家を潰す気だったのだろうか、と苦笑いをする。
 「このまま残る気はなさそうだな。残念だ」
 「ありがとうございます」
 「この屋敷は退職金としてくれてやる」
 「いえ、こちらは私も持て余します。サファ帝国国境近くの別荘を貰いたく」
 オスビア国貿易の要の地だ。
 「はっ。食えん男だ。いいだろう。すぐに手続きしてやる」
 娘が欲しかったのなら、これ以上嬉しいことはなかったのに。娘は気付いていないようだが、アレはオルハに憎まれている。大方オルハの想い人に何かをしたのだろう。その腹いせにディアマンテ家を潰されたのでは敵わない。何かの足しになればと娘を差し出したのは正解だったようだ。
 努力をする者には情が深いディアマンテ家。怠惰な者には、例え身内でも容赦がなかった。
 実の息子以上に商才のある男を手に入れられず、父親は内心舌打ちをした。
 とことん使えない娘だ。

*~*~*~*~*

 「ねぇ!どういうことよ!なんなの?!」
 「黙れ」
 「!!」
 ワケがわからないまま、ライラはそのまま馬車に乗せられた。質素な真っ黒い、窓もついていないもので、不気味だった。ライラが不安からそう言うと、今まで見たこともない冷たい目で、凍えるような声音で一喝された。
 何が起きているのか。青ざめて震えていると、いつもの優しいオルハが言った。
 「ああ、お嬢様。ようやくですね」
 「え?」
 先程のオルハは見間違いだったのだろうか。オルハの顔を見る。笑っている。
 けれど。
 「忘れてしまったの?酷いなあ」
 目が、笑っていない。
 「然るべき日、ですよ。お嬢様」
 しばらくして馬車が止まる。オルハが先に降りると、エスコートの手を差し出す。恐ろしくてとてもではないがその手を取れない。オルハは溜め息をつくと、無理矢理ライラを馬車から引きずり下ろした。
 「きゃああっ」
 「面倒をかけないでくだいね、お嬢様」
 引きずられるように建物の中へ連れて行かれた。

 「う、そ」
 薄暗い部屋に通され、そこにいた人物にライラは体を震わせた。
 「ま、ま、待ってた、よ」
 脂ぎった顔で黄ばんだ歯を覗かせながら、イヤらしく笑う男がそう言った。
 世情に疎いライラでも知っている。女とみれば見境ない、壊すまで遊び続けることで有名な男だった。
 「いやっ、何?!オルハ!早く帰るわよ!」
 オルハはライラの腕をガッチリ掴んで微動だにしない。
 「オルハ?!」
 「さあ、約束の品だ。約束通り調教済みの処女だ」
 「え?」
 オルハの言葉に耳を疑う。
 「あ、ああ、あ、た、たの、しみ、だあああ」
 ライラはゾッとした。
 「オルハ?嘘、よね?」
 オルハはライラを見ない。
 「だって、その時が来たら、最高の気分を味わいたいでしょうって、そう言ってたじゃない」
 ライラは縋るようにオルハを見つめる。オルハと目が合う。パッとライラは笑った。しかしすぐに、違うと悟る。
 「最高の気分ですよ。あなたの絶望の表情が見られて」
 ライラにとって、ではなかった。オルハにとって、の話。
 「然るべき日に、結ばれるって」
 「言ってませんよ。あなたが言っただけです。私は応えていません」
 ライラは何も考えられなかった。ライラは屈強な男二人に掴まれた。
 「い、いやああああああ!!」
 叫ぶが抵抗ひとつ出来ない。
 「いやよ!どうして!どうしてえええぇぇ!!」
 「ふへぇへへへぇ、い、粋が、いいねぇ」
 男の下半身は怒張していた。ライラはゾッとして身を捩るが、やはり逃げることは叶わない。
 コツリ、とオルハがライラに近付く。耳元で囁く。
 「サラに、おまえは何をしてきた?」


 *後編につづく*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

【完結】泣き虫だったあなたへ

彩華(あやはな)
恋愛
小さい頃あなたは泣き虫だった。 わたしはあなたをよく泣かした。 綺麗だと思った。溶けるんじゃないかと思った。 あなたが泣かなくなったのはいつの頃だった・・・。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

処理中です...