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オスビア国編 *ヤンデレ*
中編
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誰も見向きもしなかった。
ただ、消えていく命。
ボクを救ってくれたキミ。
キミを手に入れるために、ボクはすべてを賭ける。
「それはいらん。好きにしろ」
急遽帰国したライラの父親が、ライラを見て、オルハにそう言った。
「パパ?!」
「もう私たちは親子ではない」
無能な身内ほど危険なものはない。油断しているところを後ろから刺されかねない。
「なっ?!」
突然のことに、全く意味がわからないでいるライラを余所に、話は進む。
ライラは外の情報に疎かった。ディアマンテ家のワガママ令嬢として、面白おかしく話が出回っていることを知らない。海外を飛び回る両親の耳にまで届くほどになり、急遽父親が帰国したのだということも。
「オルハ、おまえのその執着、恐れ入る。我々はおまえの邪魔をしない。だから金輪際おまえも我々の邪魔をしないでもらおう」
ディアマンテ家は、ひとつの契約を結んでいた。
ある日、一人の少年が声をかけてきた。若かりし日のオルハだ。欲しいものがあるから、ディアマンテ家で雇えという。父親は面白いと思い、先を促した。オルハは一人の女を手に入れたいという。そのために金も欲しいと言った。女と金。何とも欲望に忠実ではないか。父親は、ならばウチじゃなくても他でもいいのではないかと、意地悪を言った。オルハは目を逸らすことなく、欲しい女がディアマンテ家にいると言った。側で見ていたい、守ってやりたい、そう言った。少年ならではの純粋さがそこにはあった。
だが、それではダメだ。その純粋さが首を絞めることになる。世の不条理を知らねば、食い物にされるだけ。父親は条件を出した。目当ての女を贔屓しないことと、オルハが十八になるまでに一千万を貯めることが出来たら、屋敷にいる女はどれでも好きなものを持って行っていい。例えそれが自分の娘であっても構わない、と言外に伝えた。もう一つ、自分を驚かせる何かをして欲しい、と。オルハが十八になるまで四年とちょっと。少年がこの条件を達成するのは、並大抵のことでは出来ない。それこそ、自分の持てる実力をフル活用しなくては。
こうしてオルハは、ディアマンテ家にやって来た。
「邪魔をされない限りはお約束いたしましょう」
オルハは恭しく頭を下げる。それを見て、ライラの父親は口の端を上げた。
「楽しい男だ。あと半年を残して二つの条件をクリアするとは」
予想以上の出来事だ。金は二千万を優に超えている。驚かせる方向が、まさか肝を冷やす方向での意趣返しをされるとは。ディアマンテ家を潰す気だったのだろうか、と苦笑いをする。
「このまま残る気はなさそうだな。残念だ」
「ありがとうございます」
「この屋敷は退職金としてくれてやる」
「いえ、こちらは私も持て余します。サファ帝国国境近くの別荘を貰いたく」
オスビア国貿易の要の地だ。
「はっ。食えん男だ。いいだろう。すぐに手続きしてやる」
娘が欲しかったのなら、これ以上嬉しいことはなかったのに。娘は気付いていないようだが、アレはオルハに憎まれている。大方オルハの想い人に何かをしたのだろう。その腹いせにディアマンテ家を潰されたのでは敵わない。何かの足しになればと娘を差し出したのは正解だったようだ。
努力をする者には情が深いディアマンテ家。怠惰な者には、例え身内でも容赦がなかった。
実の息子以上に商才のある男を手に入れられず、父親は内心舌打ちをした。
とことん使えない娘だ。
*~*~*~*~*
「ねぇ!どういうことよ!なんなの?!」
「黙れ」
「!!」
ワケがわからないまま、ライラはそのまま馬車に乗せられた。質素な真っ黒い、窓もついていないもので、不気味だった。ライラが不安からそう言うと、今まで見たこともない冷たい目で、凍えるような声音で一喝された。
何が起きているのか。青ざめて震えていると、いつもの優しいオルハが言った。
「ああ、お嬢様。ようやくですね」
「え?」
先程のオルハは見間違いだったのだろうか。オルハの顔を見る。笑っている。
けれど。
「忘れてしまったの?酷いなあ」
目が、笑っていない。
「然るべき日、ですよ。お嬢様」
しばらくして馬車が止まる。オルハが先に降りると、エスコートの手を差し出す。恐ろしくてとてもではないがその手を取れない。オルハは溜め息をつくと、無理矢理ライラを馬車から引きずり下ろした。
「きゃああっ」
「面倒をかけないでくだいね、お嬢様」
引きずられるように建物の中へ連れて行かれた。
「う、そ」
薄暗い部屋に通され、そこにいた人物にライラは体を震わせた。
「ま、ま、待ってた、よ」
脂ぎった顔で黄ばんだ歯を覗かせながら、イヤらしく笑う男がそう言った。
世情に疎いライラでも知っている。女とみれば見境ない、壊すまで遊び続けることで有名な男だった。
「いやっ、何?!オルハ!早く帰るわよ!」
オルハはライラの腕をガッチリ掴んで微動だにしない。
「オルハ?!」
「さあ、約束の品だ。約束通り調教済みの処女だ」
「え?」
オルハの言葉に耳を疑う。
「あ、ああ、あ、た、たの、しみ、だあああ」
ライラはゾッとした。
「オルハ?嘘、よね?」
オルハはライラを見ない。
「だって、その時が来たら、最高の気分を味わいたいでしょうって、そう言ってたじゃない」
ライラは縋るようにオルハを見つめる。オルハと目が合う。パッとライラは笑った。しかしすぐに、違うと悟る。
「最高の気分ですよ。あなたの絶望の表情が見られて」
ライラにとって、ではなかった。オルハにとって、の話。
「然るべき日に、結ばれるって」
「言ってませんよ。あなたが言っただけです。私は応えていません」
ライラは何も考えられなかった。ライラは屈強な男二人に掴まれた。
「い、いやああああああ!!」
叫ぶが抵抗ひとつ出来ない。
「いやよ!どうして!どうしてえええぇぇ!!」
「ふへぇへへへぇ、い、粋が、いいねぇ」
男の下半身は怒張していた。ライラはゾッとして身を捩るが、やはり逃げることは叶わない。
コツリ、とオルハがライラに近付く。耳元で囁く。
「サラに、おまえは何をしてきた?」
*後編につづく*
ただ、消えていく命。
ボクを救ってくれたキミ。
キミを手に入れるために、ボクはすべてを賭ける。
「それはいらん。好きにしろ」
急遽帰国したライラの父親が、ライラを見て、オルハにそう言った。
「パパ?!」
「もう私たちは親子ではない」
無能な身内ほど危険なものはない。油断しているところを後ろから刺されかねない。
「なっ?!」
突然のことに、全く意味がわからないでいるライラを余所に、話は進む。
ライラは外の情報に疎かった。ディアマンテ家のワガママ令嬢として、面白おかしく話が出回っていることを知らない。海外を飛び回る両親の耳にまで届くほどになり、急遽父親が帰国したのだということも。
「オルハ、おまえのその執着、恐れ入る。我々はおまえの邪魔をしない。だから金輪際おまえも我々の邪魔をしないでもらおう」
ディアマンテ家は、ひとつの契約を結んでいた。
ある日、一人の少年が声をかけてきた。若かりし日のオルハだ。欲しいものがあるから、ディアマンテ家で雇えという。父親は面白いと思い、先を促した。オルハは一人の女を手に入れたいという。そのために金も欲しいと言った。女と金。何とも欲望に忠実ではないか。父親は、ならばウチじゃなくても他でもいいのではないかと、意地悪を言った。オルハは目を逸らすことなく、欲しい女がディアマンテ家にいると言った。側で見ていたい、守ってやりたい、そう言った。少年ならではの純粋さがそこにはあった。
だが、それではダメだ。その純粋さが首を絞めることになる。世の不条理を知らねば、食い物にされるだけ。父親は条件を出した。目当ての女を贔屓しないことと、オルハが十八になるまでに一千万を貯めることが出来たら、屋敷にいる女はどれでも好きなものを持って行っていい。例えそれが自分の娘であっても構わない、と言外に伝えた。もう一つ、自分を驚かせる何かをして欲しい、と。オルハが十八になるまで四年とちょっと。少年がこの条件を達成するのは、並大抵のことでは出来ない。それこそ、自分の持てる実力をフル活用しなくては。
こうしてオルハは、ディアマンテ家にやって来た。
「邪魔をされない限りはお約束いたしましょう」
オルハは恭しく頭を下げる。それを見て、ライラの父親は口の端を上げた。
「楽しい男だ。あと半年を残して二つの条件をクリアするとは」
予想以上の出来事だ。金は二千万を優に超えている。驚かせる方向が、まさか肝を冷やす方向での意趣返しをされるとは。ディアマンテ家を潰す気だったのだろうか、と苦笑いをする。
「このまま残る気はなさそうだな。残念だ」
「ありがとうございます」
「この屋敷は退職金としてくれてやる」
「いえ、こちらは私も持て余します。サファ帝国国境近くの別荘を貰いたく」
オスビア国貿易の要の地だ。
「はっ。食えん男だ。いいだろう。すぐに手続きしてやる」
娘が欲しかったのなら、これ以上嬉しいことはなかったのに。娘は気付いていないようだが、アレはオルハに憎まれている。大方オルハの想い人に何かをしたのだろう。その腹いせにディアマンテ家を潰されたのでは敵わない。何かの足しになればと娘を差し出したのは正解だったようだ。
努力をする者には情が深いディアマンテ家。怠惰な者には、例え身内でも容赦がなかった。
実の息子以上に商才のある男を手に入れられず、父親は内心舌打ちをした。
とことん使えない娘だ。
*~*~*~*~*
「ねぇ!どういうことよ!なんなの?!」
「黙れ」
「!!」
ワケがわからないまま、ライラはそのまま馬車に乗せられた。質素な真っ黒い、窓もついていないもので、不気味だった。ライラが不安からそう言うと、今まで見たこともない冷たい目で、凍えるような声音で一喝された。
何が起きているのか。青ざめて震えていると、いつもの優しいオルハが言った。
「ああ、お嬢様。ようやくですね」
「え?」
先程のオルハは見間違いだったのだろうか。オルハの顔を見る。笑っている。
けれど。
「忘れてしまったの?酷いなあ」
目が、笑っていない。
「然るべき日、ですよ。お嬢様」
しばらくして馬車が止まる。オルハが先に降りると、エスコートの手を差し出す。恐ろしくてとてもではないがその手を取れない。オルハは溜め息をつくと、無理矢理ライラを馬車から引きずり下ろした。
「きゃああっ」
「面倒をかけないでくだいね、お嬢様」
引きずられるように建物の中へ連れて行かれた。
「う、そ」
薄暗い部屋に通され、そこにいた人物にライラは体を震わせた。
「ま、ま、待ってた、よ」
脂ぎった顔で黄ばんだ歯を覗かせながら、イヤらしく笑う男がそう言った。
世情に疎いライラでも知っている。女とみれば見境ない、壊すまで遊び続けることで有名な男だった。
「いやっ、何?!オルハ!早く帰るわよ!」
オルハはライラの腕をガッチリ掴んで微動だにしない。
「オルハ?!」
「さあ、約束の品だ。約束通り調教済みの処女だ」
「え?」
オルハの言葉に耳を疑う。
「あ、ああ、あ、た、たの、しみ、だあああ」
ライラはゾッとした。
「オルハ?嘘、よね?」
オルハはライラを見ない。
「だって、その時が来たら、最高の気分を味わいたいでしょうって、そう言ってたじゃない」
ライラは縋るようにオルハを見つめる。オルハと目が合う。パッとライラは笑った。しかしすぐに、違うと悟る。
「最高の気分ですよ。あなたの絶望の表情が見られて」
ライラにとって、ではなかった。オルハにとって、の話。
「然るべき日に、結ばれるって」
「言ってませんよ。あなたが言っただけです。私は応えていません」
ライラは何も考えられなかった。ライラは屈強な男二人に掴まれた。
「い、いやああああああ!!」
叫ぶが抵抗ひとつ出来ない。
「いやよ!どうして!どうしてえええぇぇ!!」
「ふへぇへへへぇ、い、粋が、いいねぇ」
男の下半身は怒張していた。ライラはゾッとして身を捩るが、やはり逃げることは叶わない。
コツリ、とオルハがライラに近付く。耳元で囁く。
「サラに、おまえは何をしてきた?」
*後編につづく*
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