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ミリス王国編 *愛国*
中編
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「よく来てくれたわ。さあ、ミリヤもこちらへ」
女神の如き美貌の姫ミリアは、妹ミリヤの手を取り自分の隣へ座らせた。
明日に成人の儀を控えたこの日。姉ミリアの指定通り、ログナたちはミリヤを連れてミリアの部屋を訪れた。既に部屋にはミリアの護衛騎士であるウェルたちも控えている。
初めてミリアの部屋を訪れたログナたちは、困惑していた。
「ふふ、ミリヤの部屋と同じで驚いたでしょう」
そう。ログナたちは、ミリアの部屋に来たはずなのだ。それなのに、ミリヤの部屋と見紛うばかりだ。唯一違うとしたら、窓の外の風景くらいだ。これにはミリヤも戸惑う。実はミリヤは、ある年齢から、姉の部屋に入ったことがない。昔は互いの部屋を行き来していたが、いつからか、ミリヤが訪れる前に姉の方がミリヤの部屋にばかり来るようになっていた。
「お、ねえ、さま?」
姉は何をしようとしているのか。表向きはどうあれ、本心では自分を嫌っていたのではないか。この部屋が意味するものとは。
「今までごめんなさいね。不快だったでしょう」
率直なミリアの言葉に、ミリヤ陣は返事に窮する。
「赦して欲しいわけではないの。でも必要なことだったと理解して欲しい」
「どういう、ことでしょうか」
姉の言葉にミリヤは戸惑う。ミリアは慈愛の籠もった目でミリヤを見つめる。双子だというのに似ていない二人。姉妹だというのに、同性であるのに、胸が跳ねる。美しい姉に見つめられ、頬が染まる。
「信じられないでしょうけれど、わたくし、この世で一番愛している人は貴女なのよ、ミリヤ」
「え?」
ミリアはニッコリと笑った。
「でも、貴女以上に愛しているものがあるの」
ミリアの話はこうだ。
王族級の魔力を持つミリアは、幼い頃からたくさんの魔法を覚えていた。魔力のコントロールもずば抜けて優秀だった。ある日、ミリアはあらゆる魔法を駆使してこっそり城を抜け出した。浮遊魔法はまだ完璧ではなかったので、風を操っての空中散歩だ。ぐんぐん空へと舞い上がり、眼下に自分の国を見たとき、一瞬で心を奪われた。
なんて美しい国なのかしら。
緑豊かな大地に、慎ましやかに生活を営む人々、豊富な水を湛え、肥沃な地に実りある恵み。この小さな国が、愛おしくて仕方がなかった。
この国を守ろう。
そう思った。
この国を守るためなら、どんなことでもする。例え、愛する妹を泣かせることになっても。
そしてミリアはその日から動き出した。
ミリアとミリヤを入れ替えるために。
ミリヤとログナたちは絶句した。
「いれ、かえる?」
動揺するミリヤに、ミリアは微笑む。
「ええ。わたくしと、ミリヤ、貴女の体を交換するの」
何を言っているのだ、この姉は。体を交換する、とは、魂を入れ替える、と同義ではないのか。そんな魔法なんて。
「何を、仰っているのですか」
恐る恐る、アスラが口を開く。
「そんな、そんなこと、出来るわけ」
「出来ますのよ」
ミリアは笑う。
「わたくし、これでも努力家なんですの」
一キロ先のりんごをうさぎさんカットできるほど緻密な魔力操作が出来ましてよ、と変な例えで子どものように無邪気に笑う。この人はこんな屈託のない顔も出来るのか、と現実逃避のようにアスラたちは思った。
「まあ冗談はさておき、この魔道具を見つけたから、というのが正しいわ」
“ジェミニの悪戯”と呼ばれる魔道具は、一対の鈴だ。この鈴を身につけた者同士を入れ替えることが出来るという、神話級のアイテム。宝物庫で見つけた。
「そ、そんな国宝を、使ってしまっていいのでしょうか」
宝物庫からくすねちゃった、えへ、というくらいのノリで取り出された国宝に、ミリヤたちは眩暈がする。こんなに奔放な人だったのか。
「大丈夫大丈夫。使ってしまえばどうすることも出来ないわ」
全く悪びれた様子もなくミリアはコロコロと笑った。
「おまえたちも、知っていたから、ミリア様の、この計画を、知っていたから」
アスラの言葉に、ウェルたちは申し訳なさそうに頷いた。
小さな嫌がらせのようなことは、姉妹を離れさせた方が良いのでは、と周囲に印象付けるため。そうして城を出やすくしたのだろう。廃嫡や幽閉などとなってしまうと城への出入りに制限がかかってしまう。城から出られないことも、城へ入れないことも困るのだ。堂々と城を出て、堂々と城に帰ってくる。そんな立場が欲しかったのだ。
妹ミリヤの功績を姉ミリアのものにしたことも、いずれミリアになるミリヤのものだから。
この部屋がミリヤと同じなのは、ミリヤがミリアになっても困らないように。
「計画を知るものは少ない方がいい。ギリギリまで黙っていてごめんなさいね」
苦笑するミリアに、ミリヤは戸惑う。
「お姉様、嫌です。わたくし、嫌です」
「体を入れ替えることが?」
「いいえ、いいえ。お姉様が危ない目に遭うなんて、お姉様と離れるなんて、わたくし、嫌です」
震えながら涙を湛える妹の頬を、そっと撫でる。
「今まで、わたくしとなんていい思い出はないでしょう?」
「そんなことありません!」
いつも穏やかなミリヤの大きな声に、周りは目を見開く。
「お姉様は、優しかった。優しい姉を演じていることを演じていた。でも誰がわからなくともわたくしにはわかります。だって、わたくしたち、魂を分け合った双子でしょう?」
「ミリヤ」
「ただ、なぜなのか。それだけがわからなくて」
俯き、涙を流すミリヤを、ミリアは抱き締めた。
「そうね。わたくしたちは双子。魂を分け合った姉妹。辛い思いをさせていたわ」
本当にごめんなさい。ミリアの言葉に、ミリヤは抱きついてたくさんの涙を零した。
「これでようやくわかりました。お姉様の行動原理は、愛する国のためなのですね。ですが、それでしたら尚のこと、お姉様がこの国を治めるべきではないでしょうか」
この国を愛する者が治める国。どれほどの繁栄が望めるのだろう。
「それはダメよ、ミリヤ。わたくし、わかってしまったの。わたくしではこの国を守れない。ミリヤ、貴女がこの国を治めることこそ、この国を守ることに繋がるのよ」
神の如き知性。比類なき聡明さ。
「ですが、そう、でしたら、わたくしのサポートで」
「ミリヤ。あなたが、わからないはずないわ」
サポートはあくまでもサポート。その場その場の臨機応変さは、本人の力量に頼るしかない。だがこのまま頷いてしまったら、姉は、自分の半身は。
「で、ですが、ですが、でしたら、何も体を入れ替えるなど、そんな、そんなことなさらなくとも、良いのでは、ありませんか?」
繋ぎ止めようと言葉を尽くす。いくら第一子が次代の王と定められていても、そんな事をせずとも他に方法があるはずだ。
しかし、ミリアは緩く首を振る。そして、何だか妙に納得できる言葉を口にした。
「この顔、この体、美しいでしょう?この容姿、女王以外に使い途がないと思うのよ」
ミリアは、とても美しい。ただそこにいるだけで、平伏してしまいたくなるほどの美貌の持ち主だ。それほどのものを持っていても、ミリアはその美に何の執着もしていなかった。寧ろ邪魔だと思っていたような節がある。もっと平凡な容姿なら、もっと簡単に女王の座を退けていただろう。国を治めるには、ひとつでも武器は多い方が良い。容姿も武器のひとつだ。故に、女王として最強の武器をひとつ持っていることになる。ここに、ミリヤの知性が加わったらどうなるか。
「あなたの懸念するようなことは起こらない」
ミリヤはバッと顔を上げる。
「わたくしの愛するミリヤ。あなたの体を粗末にするはずがないでしょう」
ミリアは国のためなら命を投げうってしまいそうな危うさを感じる。そう懸念するミリヤに気付き、優しく髪を撫でた。
「ミリヤ様。私たちが必ずミリア様をお守りいたします。どうか、私たちにその名誉を」
恭しく頭を下げるウェルたちに、ミリヤは固く目を瞑る。何かに耐えるように唇を噛みしめ、肩を震わせる。
「約束、してくださいませ」
ミリヤはようやく、そう口にした。
「毎日連絡をすると。最低でも年に一度は帰ってくると。必ず、約束してくださいませ」
ギュウッとミリアに抱きついて、幼い子どものように、拗ねたように、甘えたようにミリヤは願った。ミリアはゆっくりその背中を撫でながら、約束するわ、と宥めるように何度も頭にくちづけをした。
*後編につづく*
女神の如き美貌の姫ミリアは、妹ミリヤの手を取り自分の隣へ座らせた。
明日に成人の儀を控えたこの日。姉ミリアの指定通り、ログナたちはミリヤを連れてミリアの部屋を訪れた。既に部屋にはミリアの護衛騎士であるウェルたちも控えている。
初めてミリアの部屋を訪れたログナたちは、困惑していた。
「ふふ、ミリヤの部屋と同じで驚いたでしょう」
そう。ログナたちは、ミリアの部屋に来たはずなのだ。それなのに、ミリヤの部屋と見紛うばかりだ。唯一違うとしたら、窓の外の風景くらいだ。これにはミリヤも戸惑う。実はミリヤは、ある年齢から、姉の部屋に入ったことがない。昔は互いの部屋を行き来していたが、いつからか、ミリヤが訪れる前に姉の方がミリヤの部屋にばかり来るようになっていた。
「お、ねえ、さま?」
姉は何をしようとしているのか。表向きはどうあれ、本心では自分を嫌っていたのではないか。この部屋が意味するものとは。
「今までごめんなさいね。不快だったでしょう」
率直なミリアの言葉に、ミリヤ陣は返事に窮する。
「赦して欲しいわけではないの。でも必要なことだったと理解して欲しい」
「どういう、ことでしょうか」
姉の言葉にミリヤは戸惑う。ミリアは慈愛の籠もった目でミリヤを見つめる。双子だというのに似ていない二人。姉妹だというのに、同性であるのに、胸が跳ねる。美しい姉に見つめられ、頬が染まる。
「信じられないでしょうけれど、わたくし、この世で一番愛している人は貴女なのよ、ミリヤ」
「え?」
ミリアはニッコリと笑った。
「でも、貴女以上に愛しているものがあるの」
ミリアの話はこうだ。
王族級の魔力を持つミリアは、幼い頃からたくさんの魔法を覚えていた。魔力のコントロールもずば抜けて優秀だった。ある日、ミリアはあらゆる魔法を駆使してこっそり城を抜け出した。浮遊魔法はまだ完璧ではなかったので、風を操っての空中散歩だ。ぐんぐん空へと舞い上がり、眼下に自分の国を見たとき、一瞬で心を奪われた。
なんて美しい国なのかしら。
緑豊かな大地に、慎ましやかに生活を営む人々、豊富な水を湛え、肥沃な地に実りある恵み。この小さな国が、愛おしくて仕方がなかった。
この国を守ろう。
そう思った。
この国を守るためなら、どんなことでもする。例え、愛する妹を泣かせることになっても。
そしてミリアはその日から動き出した。
ミリアとミリヤを入れ替えるために。
ミリヤとログナたちは絶句した。
「いれ、かえる?」
動揺するミリヤに、ミリアは微笑む。
「ええ。わたくしと、ミリヤ、貴女の体を交換するの」
何を言っているのだ、この姉は。体を交換する、とは、魂を入れ替える、と同義ではないのか。そんな魔法なんて。
「何を、仰っているのですか」
恐る恐る、アスラが口を開く。
「そんな、そんなこと、出来るわけ」
「出来ますのよ」
ミリアは笑う。
「わたくし、これでも努力家なんですの」
一キロ先のりんごをうさぎさんカットできるほど緻密な魔力操作が出来ましてよ、と変な例えで子どものように無邪気に笑う。この人はこんな屈託のない顔も出来るのか、と現実逃避のようにアスラたちは思った。
「まあ冗談はさておき、この魔道具を見つけたから、というのが正しいわ」
“ジェミニの悪戯”と呼ばれる魔道具は、一対の鈴だ。この鈴を身につけた者同士を入れ替えることが出来るという、神話級のアイテム。宝物庫で見つけた。
「そ、そんな国宝を、使ってしまっていいのでしょうか」
宝物庫からくすねちゃった、えへ、というくらいのノリで取り出された国宝に、ミリヤたちは眩暈がする。こんなに奔放な人だったのか。
「大丈夫大丈夫。使ってしまえばどうすることも出来ないわ」
全く悪びれた様子もなくミリアはコロコロと笑った。
「おまえたちも、知っていたから、ミリア様の、この計画を、知っていたから」
アスラの言葉に、ウェルたちは申し訳なさそうに頷いた。
小さな嫌がらせのようなことは、姉妹を離れさせた方が良いのでは、と周囲に印象付けるため。そうして城を出やすくしたのだろう。廃嫡や幽閉などとなってしまうと城への出入りに制限がかかってしまう。城から出られないことも、城へ入れないことも困るのだ。堂々と城を出て、堂々と城に帰ってくる。そんな立場が欲しかったのだ。
妹ミリヤの功績を姉ミリアのものにしたことも、いずれミリアになるミリヤのものだから。
この部屋がミリヤと同じなのは、ミリヤがミリアになっても困らないように。
「計画を知るものは少ない方がいい。ギリギリまで黙っていてごめんなさいね」
苦笑するミリアに、ミリヤは戸惑う。
「お姉様、嫌です。わたくし、嫌です」
「体を入れ替えることが?」
「いいえ、いいえ。お姉様が危ない目に遭うなんて、お姉様と離れるなんて、わたくし、嫌です」
震えながら涙を湛える妹の頬を、そっと撫でる。
「今まで、わたくしとなんていい思い出はないでしょう?」
「そんなことありません!」
いつも穏やかなミリヤの大きな声に、周りは目を見開く。
「お姉様は、優しかった。優しい姉を演じていることを演じていた。でも誰がわからなくともわたくしにはわかります。だって、わたくしたち、魂を分け合った双子でしょう?」
「ミリヤ」
「ただ、なぜなのか。それだけがわからなくて」
俯き、涙を流すミリヤを、ミリアは抱き締めた。
「そうね。わたくしたちは双子。魂を分け合った姉妹。辛い思いをさせていたわ」
本当にごめんなさい。ミリアの言葉に、ミリヤは抱きついてたくさんの涙を零した。
「これでようやくわかりました。お姉様の行動原理は、愛する国のためなのですね。ですが、それでしたら尚のこと、お姉様がこの国を治めるべきではないでしょうか」
この国を愛する者が治める国。どれほどの繁栄が望めるのだろう。
「それはダメよ、ミリヤ。わたくし、わかってしまったの。わたくしではこの国を守れない。ミリヤ、貴女がこの国を治めることこそ、この国を守ることに繋がるのよ」
神の如き知性。比類なき聡明さ。
「ですが、そう、でしたら、わたくしのサポートで」
「ミリヤ。あなたが、わからないはずないわ」
サポートはあくまでもサポート。その場その場の臨機応変さは、本人の力量に頼るしかない。だがこのまま頷いてしまったら、姉は、自分の半身は。
「で、ですが、ですが、でしたら、何も体を入れ替えるなど、そんな、そんなことなさらなくとも、良いのでは、ありませんか?」
繋ぎ止めようと言葉を尽くす。いくら第一子が次代の王と定められていても、そんな事をせずとも他に方法があるはずだ。
しかし、ミリアは緩く首を振る。そして、何だか妙に納得できる言葉を口にした。
「この顔、この体、美しいでしょう?この容姿、女王以外に使い途がないと思うのよ」
ミリアは、とても美しい。ただそこにいるだけで、平伏してしまいたくなるほどの美貌の持ち主だ。それほどのものを持っていても、ミリアはその美に何の執着もしていなかった。寧ろ邪魔だと思っていたような節がある。もっと平凡な容姿なら、もっと簡単に女王の座を退けていただろう。国を治めるには、ひとつでも武器は多い方が良い。容姿も武器のひとつだ。故に、女王として最強の武器をひとつ持っていることになる。ここに、ミリヤの知性が加わったらどうなるか。
「あなたの懸念するようなことは起こらない」
ミリヤはバッと顔を上げる。
「わたくしの愛するミリヤ。あなたの体を粗末にするはずがないでしょう」
ミリアは国のためなら命を投げうってしまいそうな危うさを感じる。そう懸念するミリヤに気付き、優しく髪を撫でた。
「ミリヤ様。私たちが必ずミリア様をお守りいたします。どうか、私たちにその名誉を」
恭しく頭を下げるウェルたちに、ミリヤは固く目を瞑る。何かに耐えるように唇を噛みしめ、肩を震わせる。
「約束、してくださいませ」
ミリヤはようやく、そう口にした。
「毎日連絡をすると。最低でも年に一度は帰ってくると。必ず、約束してくださいませ」
ギュウッとミリアに抱きついて、幼い子どものように、拗ねたように、甘えたようにミリヤは願った。ミリアはゆっくりその背中を撫でながら、約束するわ、と宥めるように何度も頭にくちづけをした。
*後編につづく*
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