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番外編
*狂気*
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らがまふぃん投稿開始一周年記念 第四弾
アルファポリス様にて投稿させていただき、みなさまに支えられながら活動して早一年。楽しく活動出来たことは、優しく見守ってくださるみなさまのおかげです。これからもほそぼそ頑張って参りますので、これまで同様、温かい目で見守って、お付き合いくださいませ。
これはひとつの愛の形 の世界のどこか。
理解し難い、日常に潜む狂気をご覧ください。
*∽*∽*∽*∽*
私のすべてをキミに捧げよう。
セレスは大人しい子だった。焦げ茶色の髪に、同じ色の瞳。平均的な身長で、顔の作りも頭の出来も、可もなく不可もなく。とにかく目立たない。ともすれば、その存在すら忘れられてしまいそうなほど大人しかった。
ソーマは美しい子だった。明るい茶色の髪は陽に透けると金に輝き、瞳の色は瑞々しい新緑の色。性格も穏やかで、老若男女問わず慕われ、どこにいても人に囲まれていた。
ソーマとセレスに接点はない。セレスからしたら、ソーマは雲の上の存在。家が近くもないし、幼馴染みでもない、親同士だって知り合いですらない。だから、ソーマとセレスがかかわることなど、この先一ミリの可能性もない。ない、はずだった。
セレスはとても大人しい。その存在すら忘れられてしまいそうなほど。
ソーマは美しい。誰もが彼に近付きたくて、覚えて欲しくて声をかける。
そんなソーマに、セレスが贈り物をしていた、という噂が、学園中に広まるのはすぐだった。贈り物をする者は後を絶たない。それが、何故噂にまでなったか。
ソーマは贈り物を受け取らない。誰からも、受け取ったことがない。それなのに、セレスからの贈り物を受け取ったのだという。さらに、セレスはソーマと関わりを持ちたいがために、わざとソーマの側で物を落としたり騒ぎを起こしたりするのだ。
大人しそうに見えて、やることが計算高い、節操なしの女。
セレスは入学早々、学園中から睨まれることとなった。
「ソーマ様、大丈夫ですか?」
「また彼女。いい加減にして欲しいわね」
「ソーマ様が優しくて何も言わないからって、随分手段を選ばないのね」
「ソーマ様は今年ご卒業でしょう。それで、なりふり構っていられないのではないかしら」
ソーマは苦笑する。
「先日なんて、珍しくお一人だったソーマ様を空き教室に連れ込んで迫ったとか!」
「ホント最低だわ!でも、何もなくてホント良かった」
みんなが安堵の息と共に首肯するのを、ソーマは見ていた。口元に笑みを浮かべて。
「大人しい顔して油断も隙もない」
学園に入学して間もなく。
セレスは今、水浸しになっていた。
声の聞こえた方を見ると、二階の窓から、三人の女子生徒が意地の悪い笑みを浮かべていた。手には掃除用のバケツが見える。セレスと目が合うと、勝ち誇ったように去って行った。
これで何度目だろう。
セレスは溜め息を吐いた。まだ学園に入学したばかり。卒業は三年後。これでは身が持たない。魔法の研究職に就きたくて、両親を説得してこの学園への受験許可を得た。晴れて合格し、たくさんの希望を胸に入学した。それなのに。
「セレス、大変だ。すぐに保健室に行こう」
セレスがこうなった原因が走り寄ってきた。断ってもムダだと知っているので、セレスは大人しく従った。
セレスに何かある時は、いつもこうだ。ソーマはいつも人に囲まれているのに、こういうときは何故かいつも一人。わざとソーマの側で騒ぎを起こし、優しいソーマは放っておけなくて、セレスを保健室に連れて行ってくれていると言われる。ソーマに手を引かれているのに、周りはセレスがソーマの袖を掴んでいるという。
嫌がらせのきっかけは、あの噂。けれどそれは、ソーマに頼まれたことなのだ。セレスが裏庭のベンチで本を読んでいたら、何故か一人でいるソーマが近付いて来た。その読んでいる本を、読み終わったら貸して欲しいと言われた。まさか、雲の上の存在から話しかけられると思ってもいなかったセレスは、驚きつつも立ち上がり、何度も読んでいる物なのでどうぞ、と渡した。ただ、それだけ。けれど、それが、始まり。
それからというもの、進行方向にソーマの一団がいる時に、ソーマの脇をすり抜けようとすると、声をかけられる。ソーマは何かを拾う仕草をすると、落とし物だよ、とセレスに手渡す。そう言って渡される物は、いつもセレスが無くしたと思っている物で。
先日は、廊下を歩いていたら通りかかった教室の扉が突然開いて、腕を掴まれ中に引きずり込まれた。あまりに突然、あまりの驚きに、声など出なかった。後ろから口を塞がれ、抱き締められる。恐怖のあまり、全身が震える。たとえ口を塞がれていなくても、怖くて声など出せなかった。
「ああ、セレス」
背後の男が声を漏らす。セレスは目を見開く。項に口づけられ、甘く噛まれる。まさか、という思いと恐怖から、セレスの喉が引き攣る。
「ソーマ様ー?」
教室の外から誰かの声。背後の男、ソーマは、確かに舌打ちをした。
塞いでいた口から手を離す際、唇を撫でられた。そして後ろから、ベロリと頬を舐められ、ソーマは教室を出て行った。ソーマを取り巻く者たちが教室を覗き込み、セレスの姿を見つけると、憤怒の形相で睨んできた。
セレスは意味がわからなかった。
ソーマは何がしたいのだろう。
一生自分とかかわることはないと思っていた、雲の上のような存在。そんな彼が、何故自分になどかかわってくるのだろう。
どれだけ考えても、セレスにはわからなかった。
事件が、起きた。
「あなたは、とても、あなたの周りには、とてもたくさん、人がいるではないですか」
治療院の、白いベッドの上。
「私は、あなたの、何か、気に障ることでも、したのでしょうか」
セレスは左眼に白い包帯を巻いている。右眼からは涙が伝う。
セレスはまた嫌がらせを受けていた。その際の、不幸な事故。突き飛ばされた先には尖った枝。それがセレスの左眼を傷つけた。夥しい血に怯える生徒たちの中、駆けつけたソーマは、血の海に倒れるセレスを抱えると、急ぎ治療院へ馬車を走らせた。
馬車の中で傷口を押さえて止血しつつ、頬や耳に流れた血を舐めとる。嬉しそうに、セレスの血を、顔を、舐め続けた。
「キミの側に、誰かがいることが赦せなかった。私以外、見て欲しくなかったのです」
セレスの側に寄る者を排除していてはキリがない。それならば、セレスに最初から近付かないようにすればいい。すべての人から、白い目で見られれば。
「私以外に、頼れる人がいなくなればいいと、そうすれば、キミは私だけを見てくれると」
そうやって排除した。徹底的に。
「すみません、すみません、こんな愛し方しか出来なくて」
泣きながら、それでも離すまいと、逃すまいと、強くセレスの手を握る。
何が、自分の何が、ここまで彼を掻き立てるのだろう。話したことも殆どない。どこかで会った覚えもない。それなのに、なぜ。すべてにおいて非凡な彼にとって、すべてにおいて平凡ということが、琴線に触れたのだろうか。
わからない。怖い、怖い。私を見る目が、狂気に満ちて、怖い。
「それでも、愛しています。愛しています、セレス」
包帯の巻かれた左眼に、ソーマの手が触れる。悲しそうに、けれど、嬉しそうに。
「早く、早くこの包帯が、取れるといいな」
愛おしそうに撫でる。
「早く見せて、セレス。キミの中にいる私を」
ソーマの左眼にも、包帯が巻かれている。
ソーマは、とても美しく笑った。
私の、すべてを、キミに。
*おしまい*
らがまふぃん一周年記念にお付き合いくださり、ありがとうございます。
活動を始めて一年。長いようなあっという間だったような。
みなさまのおかげで、充実した一年を送ることが出来ました。
本当にありがとうございました。
第三弾は、悪役令嬢VS悪役令嬢 にてお送りしております。
お時間の都合のつく方は、是非のぞいていただけると嬉しいです。
第五弾は、明日R5.11/2 ざまぁする予定がざまぁされた、ヒロインのはずではなかったヒロインの話 にてお届け予定です。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
アルファポリス様にて投稿させていただき、みなさまに支えられながら活動して早一年。楽しく活動出来たことは、優しく見守ってくださるみなさまのおかげです。これからもほそぼそ頑張って参りますので、これまで同様、温かい目で見守って、お付き合いくださいませ。
これはひとつの愛の形 の世界のどこか。
理解し難い、日常に潜む狂気をご覧ください。
*∽*∽*∽*∽*
私のすべてをキミに捧げよう。
セレスは大人しい子だった。焦げ茶色の髪に、同じ色の瞳。平均的な身長で、顔の作りも頭の出来も、可もなく不可もなく。とにかく目立たない。ともすれば、その存在すら忘れられてしまいそうなほど大人しかった。
ソーマは美しい子だった。明るい茶色の髪は陽に透けると金に輝き、瞳の色は瑞々しい新緑の色。性格も穏やかで、老若男女問わず慕われ、どこにいても人に囲まれていた。
ソーマとセレスに接点はない。セレスからしたら、ソーマは雲の上の存在。家が近くもないし、幼馴染みでもない、親同士だって知り合いですらない。だから、ソーマとセレスがかかわることなど、この先一ミリの可能性もない。ない、はずだった。
セレスはとても大人しい。その存在すら忘れられてしまいそうなほど。
ソーマは美しい。誰もが彼に近付きたくて、覚えて欲しくて声をかける。
そんなソーマに、セレスが贈り物をしていた、という噂が、学園中に広まるのはすぐだった。贈り物をする者は後を絶たない。それが、何故噂にまでなったか。
ソーマは贈り物を受け取らない。誰からも、受け取ったことがない。それなのに、セレスからの贈り物を受け取ったのだという。さらに、セレスはソーマと関わりを持ちたいがために、わざとソーマの側で物を落としたり騒ぎを起こしたりするのだ。
大人しそうに見えて、やることが計算高い、節操なしの女。
セレスは入学早々、学園中から睨まれることとなった。
「ソーマ様、大丈夫ですか?」
「また彼女。いい加減にして欲しいわね」
「ソーマ様が優しくて何も言わないからって、随分手段を選ばないのね」
「ソーマ様は今年ご卒業でしょう。それで、なりふり構っていられないのではないかしら」
ソーマは苦笑する。
「先日なんて、珍しくお一人だったソーマ様を空き教室に連れ込んで迫ったとか!」
「ホント最低だわ!でも、何もなくてホント良かった」
みんなが安堵の息と共に首肯するのを、ソーマは見ていた。口元に笑みを浮かべて。
「大人しい顔して油断も隙もない」
学園に入学して間もなく。
セレスは今、水浸しになっていた。
声の聞こえた方を見ると、二階の窓から、三人の女子生徒が意地の悪い笑みを浮かべていた。手には掃除用のバケツが見える。セレスと目が合うと、勝ち誇ったように去って行った。
これで何度目だろう。
セレスは溜め息を吐いた。まだ学園に入学したばかり。卒業は三年後。これでは身が持たない。魔法の研究職に就きたくて、両親を説得してこの学園への受験許可を得た。晴れて合格し、たくさんの希望を胸に入学した。それなのに。
「セレス、大変だ。すぐに保健室に行こう」
セレスがこうなった原因が走り寄ってきた。断ってもムダだと知っているので、セレスは大人しく従った。
セレスに何かある時は、いつもこうだ。ソーマはいつも人に囲まれているのに、こういうときは何故かいつも一人。わざとソーマの側で騒ぎを起こし、優しいソーマは放っておけなくて、セレスを保健室に連れて行ってくれていると言われる。ソーマに手を引かれているのに、周りはセレスがソーマの袖を掴んでいるという。
嫌がらせのきっかけは、あの噂。けれどそれは、ソーマに頼まれたことなのだ。セレスが裏庭のベンチで本を読んでいたら、何故か一人でいるソーマが近付いて来た。その読んでいる本を、読み終わったら貸して欲しいと言われた。まさか、雲の上の存在から話しかけられると思ってもいなかったセレスは、驚きつつも立ち上がり、何度も読んでいる物なのでどうぞ、と渡した。ただ、それだけ。けれど、それが、始まり。
それからというもの、進行方向にソーマの一団がいる時に、ソーマの脇をすり抜けようとすると、声をかけられる。ソーマは何かを拾う仕草をすると、落とし物だよ、とセレスに手渡す。そう言って渡される物は、いつもセレスが無くしたと思っている物で。
先日は、廊下を歩いていたら通りかかった教室の扉が突然開いて、腕を掴まれ中に引きずり込まれた。あまりに突然、あまりの驚きに、声など出なかった。後ろから口を塞がれ、抱き締められる。恐怖のあまり、全身が震える。たとえ口を塞がれていなくても、怖くて声など出せなかった。
「ああ、セレス」
背後の男が声を漏らす。セレスは目を見開く。項に口づけられ、甘く噛まれる。まさか、という思いと恐怖から、セレスの喉が引き攣る。
「ソーマ様ー?」
教室の外から誰かの声。背後の男、ソーマは、確かに舌打ちをした。
塞いでいた口から手を離す際、唇を撫でられた。そして後ろから、ベロリと頬を舐められ、ソーマは教室を出て行った。ソーマを取り巻く者たちが教室を覗き込み、セレスの姿を見つけると、憤怒の形相で睨んできた。
セレスは意味がわからなかった。
ソーマは何がしたいのだろう。
一生自分とかかわることはないと思っていた、雲の上のような存在。そんな彼が、何故自分になどかかわってくるのだろう。
どれだけ考えても、セレスにはわからなかった。
事件が、起きた。
「あなたは、とても、あなたの周りには、とてもたくさん、人がいるではないですか」
治療院の、白いベッドの上。
「私は、あなたの、何か、気に障ることでも、したのでしょうか」
セレスは左眼に白い包帯を巻いている。右眼からは涙が伝う。
セレスはまた嫌がらせを受けていた。その際の、不幸な事故。突き飛ばされた先には尖った枝。それがセレスの左眼を傷つけた。夥しい血に怯える生徒たちの中、駆けつけたソーマは、血の海に倒れるセレスを抱えると、急ぎ治療院へ馬車を走らせた。
馬車の中で傷口を押さえて止血しつつ、頬や耳に流れた血を舐めとる。嬉しそうに、セレスの血を、顔を、舐め続けた。
「キミの側に、誰かがいることが赦せなかった。私以外、見て欲しくなかったのです」
セレスの側に寄る者を排除していてはキリがない。それならば、セレスに最初から近付かないようにすればいい。すべての人から、白い目で見られれば。
「私以外に、頼れる人がいなくなればいいと、そうすれば、キミは私だけを見てくれると」
そうやって排除した。徹底的に。
「すみません、すみません、こんな愛し方しか出来なくて」
泣きながら、それでも離すまいと、逃すまいと、強くセレスの手を握る。
何が、自分の何が、ここまで彼を掻き立てるのだろう。話したことも殆どない。どこかで会った覚えもない。それなのに、なぜ。すべてにおいて非凡な彼にとって、すべてにおいて平凡ということが、琴線に触れたのだろうか。
わからない。怖い、怖い。私を見る目が、狂気に満ちて、怖い。
「それでも、愛しています。愛しています、セレス」
包帯の巻かれた左眼に、ソーマの手が触れる。悲しそうに、けれど、嬉しそうに。
「早く、早くこの包帯が、取れるといいな」
愛おしそうに撫でる。
「早く見せて、セレス。キミの中にいる私を」
ソーマの左眼にも、包帯が巻かれている。
ソーマは、とても美しく笑った。
私の、すべてを、キミに。
*おしまい*
らがまふぃん一周年記念にお付き合いくださり、ありがとうございます。
活動を始めて一年。長いようなあっという間だったような。
みなさまのおかげで、充実した一年を送ることが出来ました。
本当にありがとうございました。
第三弾は、悪役令嬢VS悪役令嬢 にてお送りしております。
お時間の都合のつく方は、是非のぞいていただけると嬉しいです。
第五弾は、明日R5.11/2 ざまぁする予定がざまぁされた、ヒロインのはずではなかったヒロインの話 にてお届け予定です。
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