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 新しい話始めました。
 主人公が口が悪いので、苦手な方はお戻りください。
 虐待要素もあります。ご注意ください。


*~*~*~*~*


 よくある悪役令嬢もの。ヒロインを虐めてヒーローとの噛ませ犬になるってヤツ。
 冗談じゃない。
 同じ犬ならドーベルマン。いや、そんなにも行儀のいい犬にはなれない。それなら土佐犬かな。あの獰猛どうもうさにゾクゾクする。獰猛さで言うならケルベロスかなあ。あれ、犬のくくりでいいのかな。いいか。
 噛ませ犬程度の犬なんてごめんだ。
 どうせ短い命なら、誰に気兼ねすることなく、好き勝手に生きてやる。
 私、ケルベロスを目指してこの世界を謳歌おうかしてやろうと思います。


 
 前世の記憶を思い出し、その運命から逃れるために奮闘する。そんなゲームや本の世界に転生した、素敵な主人公たちの話が大好きだった。健気なヒロイン、逞しいヒロイン、チートなヒーロー、無自覚無双な数々の主人公たち。その世界観に圧倒され、物語に引き込まれ、自分にこんなことが起きたら、と憧れた。
 「憧れは、所詮憧れだよね」
 鏡の前には貧相な体の自分。艶のないパサついた金髪。櫛を通すこともないため、無駄に長い髪はもつれて汚らしい。見た感じ、五歳くらいだろうか。あまり食事をしていないため、実年齢より幼く見えるのかも知れない。
 なんの前触れもなく、朝起きたら突然、前世であろう自分を思い出していた。
 前世では、現実世界を希薄に生きていた自分。一生懸命生きる、自分とは正反対の主人公たちに憧れた。自分にはないものを持つ人々が眩しかった。
 「憧れが現実になると、急に色褪せて見えるのはなぜだろう」
 もう一度鏡を見て溜め息をいた。
 いや、きっとこれは、誰からも愛されて幸せいっぱいです、という様相をしていたら、異世界転生ひゃっほう、となっていたはずだ。現実は甘くない。磨けば光る原石とか、面倒なんですけど。虐待とか、ヘビーすぎて面倒なんですけど。ああ、折角の転生なのに、前世の生粋の面倒くさがりが邪魔をしている。
 私が生まれ変わったこの体。前世でプレイした~眠りから目覚めた千年聖女~だったかな。多分そんな名前のゲームの世界の一人だ。正直内容はあまり覚えていない。この子の名前も何だったかな。スチルが神すぎて内容について記憶がぶっ飛んでいる。聖女になるために、その素質のある人が神殿に集められて、力を開花させていくという大雑把な流れは覚えている。千年前にとんでもない聖女がいて、その聖女の再来と言われる力を顕現させる主人公ヒロインと王子様のめくるめく恋愛模様がどうしたこうした、というような、そんなゲームだった。聖女は一人というわけではなく、力が開花すればみんな聖女だ。力とは、聖女の名に相応しい、人々を守る力。治癒であり、結界であり、浄化である。結界だの浄化だのがあるというわけで、魔物のいる世界。魔族というものだっている。
 「面倒くさい」
 また溜め息が出た。タイトルすら危ういのに、幼い頃の顔を見てなぜそのゲームの登場人物だとわかったか。スチルだ。神スチルばかりが思い出される。その片鱗を、この顔に見たのだ。間違いなく美少女。今は美幼女か。だが、原石なのだ。磨けていない。磨かなくては、輝けない。
 「あの神スチル目指して磨くべきか」
 悩ましいところだ。いや待て。確かこの子、ヒロインの噛ませ犬だったような。最終的に断罪されて処刑だったかな。死ぬんか、私。じゃあ外見磨きはいらないな。好き放題生きる方向に全フリしよう。後悔のないよう華々しく散ってやろう。
 「噛ませ犬なんてダメだな。ケルベロスに噛まれやがれ」
 大人しくなんて殺されない。この世界に、自分が生きていた証を、足跡を残してやろう。


*つづく*
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