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 前世の記憶が蘇って二年。外に出て日の光を浴び、適度に体を動かし、獣や木の実や果物を調達してまともに食事を摂るようになったら、ぐんぐん体が成長した。五歳くらいに見えていたが、七、八歳くらいだったようだ。今は十歳前後に見える。特に手入れなどしていない外見は、栄養状態が良くなったお陰で、神スチルに近いものになった。噛ませ犬補正すげぇな。まあ、人間の暗い心理的に、綺麗な人がざまぁされる方が盛り上がるよね。高い地位にいた人の転落人生とか。それなら王子様の転落人生でもいいのではなかろうか。
 そんなことを考えていると。
 うら若き娘さんの、衣を裂くような悲鳴がすぐ後ろで聞こえた。振り返ると、酔っ払いに絡まれている。こんな真っ昼間に何やってんだおっさん。
 「酒は飲んでも呑まれるなー」
 結界魔法の応用で、おっさんを娘さんから離す。
 通常結界は形を持たないが、私はそれを形にすることに成功した。さわれる結界。その結界に押されたおっさんは、わけがわからないまま大通りに押し出された。
 娘さんはわからないながらもお礼を言って去って行った。すると。
 「今の、結界魔法だよね」
 振り返ると、輝く金髪に新緑のように柔らかな緑の目をした、信じられないほど綺麗な男の子が立っていた。ヒロインとめくるめく恋愛模様を繰り広げる王子様だ。神スチルが鬼のように脳内で乱舞する。寸分の狂いなく、ヒロインのヒーローで間違いなし。
 しまったなあ。なんでこんなところにいるんだおまえ。
 「すごいね。そんな魔法、初めて見た」
 「そうですか?あの娘さんが無事で良かったです。ではわたくしはこれで」
 全力で撤退じゃ。
 「待って!」
 待ちたくないが、予想を裏切る行動に弱いんだろう?お約束だろう?だから止まって振り返ってやるよ。どうだ、予想通りじゃろう。
 「また、会えるかな」
 「会えるといいですねー」
 何故なにゆえ断罪する人間と仲良くせにゃあかんのじゃ。何度も言うが、予想を裏切ってはいけない。ここで愛想なく対応すると、ますます執着されるのなんてお約束だろう。だから愛想良くね。そこいら辺の娘さんたちと同じように、王子様素敵、の空気で。本音は上手に隠しましょう。
 「来週。来週のこの時間、また、ここで」
 「まあ、よろしいのですか?それでは楽しみにしておりますわ」
 胃に穴が空きそうだ。空いたかも。口の中、鉄くさいな。空いてるわ、これ。
 行くわけない。この場を凌げれば何でもいい。おまえに構っている時間がもったいない。まだ何もされていないのにこんな対応は間違っているんだろうな。でもこの王子、穢れなど知りませんってキラキラおめめで、裏では真っ黒そうなのがイヤね。堂々と黒い方がいいんですけど。実際黒いかは知らんけど。
 「本当?来なかったら家に行くよ?迎えに行くよ?」
 はい黒決定。同族嫌悪ってヤツだね、この不快感。そもそも私を知らないだろう。どう家を訪ねると?まあなんでもいい。
 「はい。必ず参ります」
 全力で来ない。万が一家に来たら姉の餌食になるだけでーす。父の政略に絡め取られてくださーい。強かな母に丸め込まれてくださいませー。家族の性格など知らんけどな。
 まあ、こんなに髪の短い貴族令嬢などいないからバレないか。もつれてウザいから顎ラインで切り揃えております。メイドにはギョッとされたけど特に何も言われなかったぜよ。
 「私はソフィレアイン。名を。キミの名を教えてくれ」
 え。知らねえ。私の名前は何だ。
 「当ててください」
 うわあ、メンドクサ。綺麗なお姉さんのいるお店で、年齢当ててみて、みたいな会話。自分で言っておいて何だがマジ面倒だな。お。そういう方が興味無くすか?
 「ふふ。随分変わった子だね、キミ」
 「白雪です」
 やっべぇ。興味持つなよ。もういいや。王子って言ったら白雪姫だろ。これでいこう。
 「シラ、ユキ?変わった名前だね。でも、とてもキミに似合っている。シラユキ」
 私、ドン引きした顔してないよね?照れて恥ずかしそうにした顔してるよね?
 「またね、シラユキ」
 「はい、また来週」
 柔らかく微笑んでゆるく手を振る。完璧だろ、私。


*つづく*
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