26 / 117
26 ~影艶side~
しおりを挟む
シラユキには、前に生きていた記憶があるという。前世、というらしい。しかも、こことは違う世界。時々、ポツポツとそんな話をしてくれた。とても不思議な話だが、自然と受け入れていた。嘘をついている、騙そうとしている、とは微塵も思わない。それは私が獣であり、騙す必要などないから、などということではない。シラユキと生きている中で、シラユキの話は本当である、とわかったのだ。
人と交わりたがらないシラユキ。理由のひとつに、言葉を厭う傾向にある。前世が影響していることは、わかっている。それに触発されているのか、私は喋ることが出来ない。けれど、それでシラユキが安心出来るなら、一向に構わない。
それなのに。
何か、覚悟を決めたシラユキは、人のいる場所へ踏み込むことにした。それならば、私はシラユキが心安くあれるよう、守るだけだ。どんな選択をしても、私がシラユキから離れることなどない。
クソ生意気な小僧が、随分シラユキに興味がありそうだ。弟は然程脅威を感じないが、兄がダメだ。頭のいい人間というのは厄介極まりない。シラユキを守る方向で興味を持ってくれているならまだいい。だが、嗜虐嗜好の持ち主であったら。王太子を害するなんて、いくら私が神獣とは言えただでは済まないだろう。そうなると、シラユキを巻き込んでしまうかも知れない。それでも、シラユキに何かするようであれば、躊躇わない。王太子を殺してシラユキを連れ去るのみ。
私が魔物であったとき。
この瘴気が消えたなら。たとえ一瞬でもいい。キミに触れたい。
そう願った。
私の願いは、最高の形で叶う。
シラユキと共にいられるようになったのだ。
時々フラリとやって来る動物に見せていた笑顔を、慈しんで撫でる手を、私に向けてくれている。体を小さく丸めて眠ることもなく、全幅の信頼を寄せるように、安心した顔で私に擦り寄って眠る姿に、愛しさが募った。
触れたい、そう、強く、思った。笑顔を、自分に向けて欲しい。その手で自分を撫でて欲しい。その体を、抱き締めたい。
すべて、叶ったのだ。
私のすべてはシラユキのもの。シラユキに不要と言われれば、生きる意味などない。躊躇うことなく、この命を終わらせる。
こい願わくは、共に生きたい。シラユキと共に生き、共に死ねたら。シラユキと、番えたなら。欲深い私のこの願い。きっと叶わないこの願い。
これから人間との生活が始まる。そこでもしかしたら、シラユキの心が動くかも知れない。誰かの行動によって。もしかしたら、嫌悪していたはずの言葉によって。それでも、シラユキが幸せになれるならいい。隣にいるのが、私ではなくても、シラユキが幸せなら、それでいい。
人と交わりたがらないシラユキ。
言葉を厭うシラユキ。
だから今は、全身で伝えよう。
シラユキが大切だと。
何よりも愛していると。
*つづく*
人と交わりたがらないシラユキ。理由のひとつに、言葉を厭う傾向にある。前世が影響していることは、わかっている。それに触発されているのか、私は喋ることが出来ない。けれど、それでシラユキが安心出来るなら、一向に構わない。
それなのに。
何か、覚悟を決めたシラユキは、人のいる場所へ踏み込むことにした。それならば、私はシラユキが心安くあれるよう、守るだけだ。どんな選択をしても、私がシラユキから離れることなどない。
クソ生意気な小僧が、随分シラユキに興味がありそうだ。弟は然程脅威を感じないが、兄がダメだ。頭のいい人間というのは厄介極まりない。シラユキを守る方向で興味を持ってくれているならまだいい。だが、嗜虐嗜好の持ち主であったら。王太子を害するなんて、いくら私が神獣とは言えただでは済まないだろう。そうなると、シラユキを巻き込んでしまうかも知れない。それでも、シラユキに何かするようであれば、躊躇わない。王太子を殺してシラユキを連れ去るのみ。
私が魔物であったとき。
この瘴気が消えたなら。たとえ一瞬でもいい。キミに触れたい。
そう願った。
私の願いは、最高の形で叶う。
シラユキと共にいられるようになったのだ。
時々フラリとやって来る動物に見せていた笑顔を、慈しんで撫でる手を、私に向けてくれている。体を小さく丸めて眠ることもなく、全幅の信頼を寄せるように、安心した顔で私に擦り寄って眠る姿に、愛しさが募った。
触れたい、そう、強く、思った。笑顔を、自分に向けて欲しい。その手で自分を撫でて欲しい。その体を、抱き締めたい。
すべて、叶ったのだ。
私のすべてはシラユキのもの。シラユキに不要と言われれば、生きる意味などない。躊躇うことなく、この命を終わらせる。
こい願わくは、共に生きたい。シラユキと共に生き、共に死ねたら。シラユキと、番えたなら。欲深い私のこの願い。きっと叶わないこの願い。
これから人間との生活が始まる。そこでもしかしたら、シラユキの心が動くかも知れない。誰かの行動によって。もしかしたら、嫌悪していたはずの言葉によって。それでも、シラユキが幸せになれるならいい。隣にいるのが、私ではなくても、シラユキが幸せなら、それでいい。
人と交わりたがらないシラユキ。
言葉を厭うシラユキ。
だから今は、全身で伝えよう。
シラユキが大切だと。
何よりも愛していると。
*つづく*
21
あなたにおすすめの小説
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
【受賞&書籍化】先視の王女の謀(さきみのおうじょのはかりごと)
神宮寺 あおい
恋愛
謎解き×恋愛
女神の愛し子は神託の謎を解き明かす。
月の女神に愛された国、フォルトゥーナの第二王女ディアナ。
ある日ディアナは女神の神託により隣国のウィクトル帝国皇帝イーサンの元へ嫁ぐことになった。
そして閉鎖的と言われるくらい国外との交流のないフォルトゥーナからウィクトル帝国へ行ってみれば、イーサンは男爵令嬢のフィリアを溺愛している。
さらにディアナは仮初の皇后であり、いずれ離縁してフィリアを皇后にすると言い出す始末。
味方の少ない中ディアナは女神の神託にそって行動を起こすが、それにより事態は思わぬ方向に転がっていく。
誰が敵で誰が味方なのか。
そして白日の下に晒された事実を前に、ディアナの取った行動はーー。
カクヨムコンテスト10 ファンタジー恋愛部門 特別賞受賞。
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
冷遇された聖女の結末
菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。
本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。
カクヨムにも同じ作品を投稿しています。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる