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58 ~ソフィレアインside~

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 「止めるんだ、シラユキ!!」
 必死にシラユキに駆け寄る。その勢いのまま、抱き締めた。
 「ダメだ、それ以上は、シラユキ。殺しては、ダメだ」
 強く抱き締める。このままどこかへ行ってしまいそうで。
 怖くて、抱き締める。この手から、離れていかないように。
 「なぜ」
 「え?」
 「なぜ、ダメなのか」
 シラユキの顔を覗き込む。何も映していない瞳が、悲しい。
 「シラユキのその、聖女の力は、そんなことをするためにあるんじゃないよ」
 抱き締める腕をほどき、シラユキの両手を包む。
 「その力は、みんなを守るためにあるんだよ、シラユキ」
 泣きたい気持ちを堪え、微笑む。
 どうか、伝わって欲しい。
 「“みんな”を」
 どこか、冷たさを纏う声。お願い、否定しないで。
 「そう。だから、お願いだ、シラユキ。人を、人間を、諦めないで欲しい。あんな人間ばかりではない。共に笑い、共に助け合える、そんな人に出会えるから。いや、もう、すぐ側にいることに、気付いて欲しいんだ、シラユキ」
 どこかに行ってしまいそうで、必死に言葉を重ねる。
 「お願い、シラユキ。どうか、キミ自身も、人間であることを、忘れないで」
 握る手に力を込める。この手の温もりに、気付いて欲しい。
 「シラユキが、自分で気付いていないだけで、その心は傷ついているんだ」
 その傷に、気付いてあげて。
 「人を、殺めてしまったら、きっと、シラユキは、壊れてしまう」
 人であることを、忘れてしまう。そんな気がしてならない。
 「みんなを守るこの手を、私が、私たちが、守るからっ」
 ボロボロと涙が零れる。泣きたいのは私ではない。きっと、シラユキだって。
 「もっと、周りを、近くにいる人を、信じて、シラユキ」
 祈るように、握った手を額にあてる。
 「信じるのが、怖い?」
 「そうかも知れないね」
 「それなら、信じてもらえるように、シラユキが安心して寄りかかれる人間になるからっ」
 一生を懸けて、それを証明してみせるから。
 「信じることを、恐れないでくれっ」
 「王子様は、キレイだね」
 冷たい声。
 ああ、シラユキ。私は、間違えたのか。
 「私は私を守るために、力をつけた。私は私の大切なものを守るために力をつけた」
 シラユキの手が離れていく。
 「守ってもらわなくちゃ生きられないなら、潔く死を選ぶ」
 ああ
 私の言葉は
 キミに
 届かないのか。
 「みんなを守って大切なものが守れないんじゃ話にならない」
 そう言って横たわる神獣に近付き、優しく頭を撫でると、その目が薄く開かれ、嬉しそうに喉を鳴らした。
 「私は死んで欲しくないものしか守らない」
 神獣が全身で護るように、シラユキを背後から包み込んだ。これ以上シラユキに近付くな、と言っているのだろう。
 「もう私に関わるな」
 すまない、シラユキ。
 本当に、私は愚かだ。
 そんな言葉を
 キミに
 言わせてしまった。

 すまない、シラユキ。


*つづく*
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