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 影艶かげつやの目と鼻がヤバい。
 匂いに耐えかねて早々に会場を後にした私。王妃様も戻っていいと言ってくれたので、兄のエスコート付き(五メートルは離れてもらった。エスコートって言うのかな)で遠慮なく部屋に戻った。送ってもらうと、兄は渋々会場に戻る。部屋に戻る途中、人目のないところで影艶と合流してギョッとする。涙と鼻水で大変なことになっとる。目なんかほぼ開いていない。よくここまで来られたな、影艶。部屋に誘導して、メイドさんにドレスを脱がせてもらい、キャミソールみたいなワンピースになって影艶をお風呂に入れる。シャワーで顔を丁寧に洗うとだいぶ落ち着いたようで、影艶は疲れたように溜め息をいた。
 あのニオイは強烈だ。元々人工的な匂いのないところで生活していたため、通常の人より遙かに耐性がない。影艶は狼のため、より顕著だ。可哀相に。
 「影艶、よく耐えたね。先に部屋に戻って良かったのに」
 バカを言うな、と言うように、影艶が鼻先で私の頭を小突いた。
 影艶の毛を乾かして、私もお風呂を済ませると、疲れた顔の影艶がいた。相当あのニオイは堪えたらしい。労うように、転がりながら撫でていると、ノックが聞こえた。メイドさんが対応する。
 「シラユキ様、王妃陛下がお呼びです」
 おお、パーリー終わったのかな。こんな時間まで大変だな。影艶と向かう。向かった先は食堂だった。そこには、湯浴みを済ませた王妃様と二人の王子が待っていた。王様はまだ頑張っているのかな。大変だな。
 「シラユキちゃん、遅くなってごめんなさいねぇ。お腹空いたでしょう。今食事が来るわ。一緒に食べましょう」
 パーリーで食べなかったのかな。そんな私の疑問に気付いたのか、兄が言った。
 「王族はああいう場で飲食はしないんだよ。最初の乾杯の時のものだけ、口を付けるんだ」
 毒とかの話かな。大変だな。
 「あ、あの、シラユキッ」
 弟が話しかけてきた。
 「もう、臭く、ない、かな」
 王妃様、笑わない。
 「大丈夫です」
 弟は、尚も何かを言いたそうに視線を彷徨わせる。そして、
 「私は、これからも、シラユキと、話がしたいんだ」
 そうポツリと零した。
 「関わるなと言ったことを、取り消します、とは言いません。あれが私なので。受け入れられないなら、本当に関わらない方がいいのですよ」
 そう返すと、すかさず弟は否定した。
 「受け入れられない。でも、関わる。シラユキに、少しでも笑って欲しいから。鬱陶しいと思われても、面倒だと思われても!私が、シラユキと関わりたいから!私を傷つけることを恐れなくていい。どれだけ私を傷つけたって、私は、どれだけ傷ついたって、それでもシラユキと一緒にいたいんだよ!」
 一生懸命弟が訴える。
 「そこまでの価値、私にはないですよ」
 「それはシラユキの気持ちでしょう。私にはある。私にとってシラユキは、一番価値があるんだよ」
 「そうですか。泣いても知りませんよ」
 既に泣きそうだよ、弟。
 「シラユキと関われないことの方がツラいよ」
 「随分と特殊な趣味をお持ちのようで」
 「うん。だから、覚悟してね」
 王族って、やっぱり変わり者だらけだね。
 「あ。王子様。お誕生日、おめでとうございます」
 言い忘れてたわ。
 「っ、うん、うん、ありがとう、ありがとうシラユキ。嬉しいよ」
 泣きそうな笑顔でそう言った。


*つづく*
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