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 「影艶かげつや?」
 「どうしたの、真白」
 「リィン様、影艶、見ませんでした?」
 「いや、私は見ていないな。いないのか。どこへ行ったのかな」

 夜になっても、影艶は戻ってこない。弟の誕生パーリーから、影艶の姿が見えないことが増えていた。否定をしていたけど、恋人が、いるのかもしれない。それでも、夜になっても戻らないことはなかった。何かあったのだろうか。どこかで困っているのだろうか。私の助けを待っているのかも知れない。それなら、探しに行かないと。
 でも。
 「かげつや」
 自分から、離れていったんだとしたら?
 もう、私に関わりたくないと、影艶自ら離れていったんだとしたら?
 みつけて、拒絶、されたら?
 怖い。
 昨日のお出かけで、何か、してしまったのだろうか。
 私、何をしてしまったのだろう。私は、影艶に、何を。
 影艶と初めて会ったとき、純粋な感謝がとても嬉しかった。一緒にいると、楽しくて。親や兄弟のように怒ったり怒られたり、ふざけあったり。それが、だんだんそう思えなくなる、何かきっかけがあったのだろうか。影艶も、私と同じ気持ちでいてくれていると思っていた。
 また、知らないうちに、不快にさせていたのだ。前世のように。
 ずっと一緒にいてくれると言ってくれたことに安心して、影艶の気持ちを考えない行動をしていたのだ。ずっと、我慢を、させてしまっていたのだろう。
 どうしたらいい。わからない。影艶が助けを求めているかも知れない。でも私から離れたがっているのかも知れない。影艶を探さなくちゃ。拒絶されたら。恋人との邪魔をしてはダメだ。困っているかも知れない。冷たい目で見られたら。
 あれほど大切な存在なのに。大切な存在が助けを求めているかも知れないのに。自分が拒絶されることが怖くて動けない。自分のことしか考えられない、どうしようもないクズ。こんなんだから、私に愛想を尽かして恋人のところへ行ったんだ。いや、違う。自分が動けない理由を影艶のせいにしないで。動けないのは自分が弱いからじゃないか。探しに行かないと。影艶を、探さないと。影艶、困って、いる、から。
 影艶。
 ごめんなさい、影艶。
 やはり、私は欠陥品。
 気持ちをおもんぱかれない。だから、影艶がいなくなった理由がわからない。自分の間違いが、わからない。
 言葉があるのに。
 言葉が、あるから。
 「ごめん、かげつや」
 わからなくて、ごめん。
 言葉の裏側を読み取れなくて、ごめん。
 言葉を交わせるようになって、嬉しかった。嫌だったはずなのに、影艶と話が出来るのは、本当に嬉しかった。全身で思いを伝えてくれていた。言葉を得たことで、より深く気持ちが伝わるようになった。
 でも。
 忘れてはいけなかったのに。
 言葉を嫌っていた理由を、忘れてはいけなかった。
 言葉を話さない。
 それは嘘をつかないということ。
 騙さないということ。
 傷つけないということ。
 安心出来る、ということ。
 「ごめん、なさい」
 私の言葉が、それらをしていたんだね。
 “私は私を守るために、力をつけた。私は私の大切なものを守るために力をつけた。守ってもらわなくちゃ生きられないなら、潔く死を選ぶ。“みんな”を守って大切なものが守れないんじゃ話にならない。私は死んで欲しくないものしか守らない。もう私に関わるな。“
 以前、そう弟に啖呵を切ったクセに。
 弟は、なんて強いのだろう。
 傷つけてもいい、それを恐れなくていい、と。
 “受け入れられない。でも、関わる。シラユキに、少しでも笑って欲しいから。鬱陶しいと思われても、面倒だと思われても!私が、シラユキと関わりたいから!私を傷つけることを恐れなくていい。どれだけ私を傷つけたって、私は、どれだけ傷ついたって、それでもシラユキと一緒にいたいんだよ!”
 どれだけ傷ついても、それでもいいから側にいさせて、と。
 なんて、強い人。
 「かげつや、ごめんなさい」
 怖くて、動けない。
 大切な存在を、守れない、弱い自分で、ごめんなさい。


*つづく*
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