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アリスデビュタント編
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今秋、アリスはデビュタントを迎える。
結婚式同様、恐ろしく用意周到に事前準備が成されていたため、ディレイガルド家は夏を迎えようとするこの時季でものんびりしていた。
「今年の避暑地はどこがいいかしら」
ディレイガルド公爵夫人アイリッシュがそう言うと、ディレイガルド公爵当主ライリアストは微笑んだ。
「イリスのお気に入りのところに、アリス嬢を招待するといいと思うよ」
アリスが婚約者であった期間は、そのライフスタイルに合わせて一泊二日で行ける場所を選んでいた。だが、もう遠慮はいらない。アリスと旅行を楽しむ。ならば。
「それもそうね。それじゃあ早速手紙を出すわ。アリスちゃん、いらっしゃいな」
ほくほくとアイリッシュはアリスを連れて席を立った。公爵夫人としての仕事を、こうして少しずつ覚えてもらうのだ。二人が部屋を出て足音と気配が遠ざかるのを確認すると、ライリアストが上着の内ポケットから封筒を取り出した。
「そうそう、エリアスト。伯から定期報告」
差し出された封筒を受け取り、内容に目を走らせる。その間に、チェスが用意される。
「どうする?」
楽しそうにライリアストは駒を配置させていく。
三年前。エリアストとアリスが学生だった頃、アリスが学園内で攫われるという事件が起こった。犯人は、エリアストを欲しがったアリスの同級生、ルシア・タリ。国内はおろか、世界中に展開を見せる、国内で十指に入る資産家の長女であった。
エリアストの、ディレイガルドの怒りを買ったタリ家は、すべてを失った。
財産は愚か、国籍も奪われ国外追放。父親は右腕と左目も失い、母親は左足と右耳も失った。妹は左腕と右足を失い、元凶であるルシア本人は、四肢と声帯を失った。そんな状態での国外追放。レイガードの国境近くに捨てられたタリ家は、ディレイガルドに言い渡された言葉を拠り所に生きてきた。
“タリ家四人、誰も死なせてはならない。これを三年守れたら、その後の生活はディレイガルドが保障しよう。”
もうすぐ期限の三年が経つ。
ライリアストは、その国境を守護する伯爵家に、タリ家の面倒を見させていた。生かさず殺さず、施しを続けるように、と。正直、生きていると思わなかった。姉であるルシアと同じ性格をしていたという妹が、すぐにでもルシアを殺すと踏んでいたのだ。自分は何もしていない、なのに何故こんな目に遭わなくてはならないのだ、と。手足に声さえ失ったルシアを、容赦なくいたぶり、殺すだろうと。
「卑しくも生き続けているとは」
不快をありありと全面に出し、報告書をライリアストに返す。
「まあ、生きてはいるね。伯がしっかり約束を守ってくれたんだよ」
チェスは淡々と進む。やがて。
「やはり、予定通りあそこに送ってやろう」
エリアストは、チェスの駒をひとつ、動かす。
「そうだね。今年はアリス嬢のデビュタントだ。また邪魔をされては堪らないからね」
ライリアストがエリアストの駒を取った。
「アレは言葉が通じない。幽閉先から意味不明な理由を並べて出てくるかもしれんからな。そうならないために」
エリアストはニヤリと口の端を上げ、駒を動かす。
「約束通り、あのモノたちの生活は、保障してやろう」
チェックメイト。
*つづく*
結婚式同様、恐ろしく用意周到に事前準備が成されていたため、ディレイガルド家は夏を迎えようとするこの時季でものんびりしていた。
「今年の避暑地はどこがいいかしら」
ディレイガルド公爵夫人アイリッシュがそう言うと、ディレイガルド公爵当主ライリアストは微笑んだ。
「イリスのお気に入りのところに、アリス嬢を招待するといいと思うよ」
アリスが婚約者であった期間は、そのライフスタイルに合わせて一泊二日で行ける場所を選んでいた。だが、もう遠慮はいらない。アリスと旅行を楽しむ。ならば。
「それもそうね。それじゃあ早速手紙を出すわ。アリスちゃん、いらっしゃいな」
ほくほくとアイリッシュはアリスを連れて席を立った。公爵夫人としての仕事を、こうして少しずつ覚えてもらうのだ。二人が部屋を出て足音と気配が遠ざかるのを確認すると、ライリアストが上着の内ポケットから封筒を取り出した。
「そうそう、エリアスト。伯から定期報告」
差し出された封筒を受け取り、内容に目を走らせる。その間に、チェスが用意される。
「どうする?」
楽しそうにライリアストは駒を配置させていく。
三年前。エリアストとアリスが学生だった頃、アリスが学園内で攫われるという事件が起こった。犯人は、エリアストを欲しがったアリスの同級生、ルシア・タリ。国内はおろか、世界中に展開を見せる、国内で十指に入る資産家の長女であった。
エリアストの、ディレイガルドの怒りを買ったタリ家は、すべてを失った。
財産は愚か、国籍も奪われ国外追放。父親は右腕と左目も失い、母親は左足と右耳も失った。妹は左腕と右足を失い、元凶であるルシア本人は、四肢と声帯を失った。そんな状態での国外追放。レイガードの国境近くに捨てられたタリ家は、ディレイガルドに言い渡された言葉を拠り所に生きてきた。
“タリ家四人、誰も死なせてはならない。これを三年守れたら、その後の生活はディレイガルドが保障しよう。”
もうすぐ期限の三年が経つ。
ライリアストは、その国境を守護する伯爵家に、タリ家の面倒を見させていた。生かさず殺さず、施しを続けるように、と。正直、生きていると思わなかった。姉であるルシアと同じ性格をしていたという妹が、すぐにでもルシアを殺すと踏んでいたのだ。自分は何もしていない、なのに何故こんな目に遭わなくてはならないのだ、と。手足に声さえ失ったルシアを、容赦なくいたぶり、殺すだろうと。
「卑しくも生き続けているとは」
不快をありありと全面に出し、報告書をライリアストに返す。
「まあ、生きてはいるね。伯がしっかり約束を守ってくれたんだよ」
チェスは淡々と進む。やがて。
「やはり、予定通りあそこに送ってやろう」
エリアストは、チェスの駒をひとつ、動かす。
「そうだね。今年はアリス嬢のデビュタントだ。また邪魔をされては堪らないからね」
ライリアストがエリアストの駒を取った。
「アレは言葉が通じない。幽閉先から意味不明な理由を並べて出てくるかもしれんからな。そうならないために」
エリアストはニヤリと口の端を上げ、駒を動かす。
「約束通り、あのモノたちの生活は、保障してやろう」
チェックメイト。
*つづく*
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