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レイガード新王即位編
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残酷な表現があるので、苦手な方はお控えください。
*∽*∽*∽*∽*
何が起きたのか。さっぱりわからず、ワリアロントの面々は茫然とする。
「ちょ、小公爵様?!僕の」
息子も吹っ飛んだ。息子は噴水の縁に強か背中を打ちつけ、気を失った。夫人も気付けば噴水の側に転がっており、全身の痛みに呻く。エリアストは、腰を抜かしてへたり込んでいる当主の胸ぐらを掴み上げる。
恐ろしいまでの美貌が、殺意を込めた目で見ている。
当主は泡を吹いて気を失った。そんな当主もぶん投げると、先に噴水に落ちていた嫁を巻き込んで、当主も噴水へと落ちた。
エリアストが右手を差し出すと、いつの間にか側にいた護衛が剣を渡す。その柄を握ると、護衛の手からそのまま剣を抜いた。
噴水に近付くと、夫人は引き攣った悲鳴を上げて逃げようとするが、痛みと恐怖で体が動かない。エリアストは転がる息子を蹴り上げる。上手い具合に噴水の縁に寄りかかるように座った形になって覚醒した息子は、まったく状況が把握出来ないまま痛みと吐き気に呻いていると、何かが顔の右側を掠めた。間を置かず、左側も。あまりに一瞬の出来事で、何もわからないまま息子はキョロキョロとした。隣で大きく口を開けて震える母親が見える。何かを言っているようだが、殆ど声にならないようだ。
生温かいものが、耳の辺りから伝ってきた。
「え?」
それに触れた手を見た息子が、困惑の声を漏らす。
「な、に?」
血だ。自分の両側から流れ続けている。
ふと、今更ながら、目の前の影に気付いて顔を上げる。
「ひっ?!」
表情のない美貌が、殺気を隠しもしない視線を向けていた。その殺気を向けられ、息子は泡を吹いて再び意識を失った。
エリアストが噴水の中の女を見る。女はカチカチと、歯の根が合わないほど震えている。女は、目の前の恐怖に竦んで動けない。
こんなはずではなかった。
女の目から、知らず涙が溢れている。
彼を怒らせるなんて、本当にそんなつもりではなかったのだ。ただ、美しい彼を、自分のものにしたかった。格下の女、それも貧相な体の女が手に入れられたのだ。自分が手に入れられないはずがない。誰もが羨み、誰もが称賛する、磨き上げられた美貌の自分を、欲しがらないはずがない。美しい彼も、自分を欲しいと思うに決まっている。だから、いつも通りのことをした。いつもと違ったのは、旦那が、美しい彼の、彼に相応しくない分不相応な図々しい妻に興味を持ったこと。自分のモノが、自分以下のモノに興味を持つなんてあり得ない。酷くプライドが傷つけられた。苛立ちをぶつけるように女を見た。それだけなのに。
月に照らされ、冴え冴えとした殺意を纏うエリアスト。手に握る剣が、月の光で妖しく光る。切っ先が濡れた艶を放つのは、先程の行い故。息子は痛みに気付く間もなく、再び気を失っている。嫁はゆるゆると首を振る。
「や、ぃや、こないで」
エリアストの右手が動いた。
辺りに悲鳴が響く。噴水の水が赤く染まっていく。嫁の右眼からボタボタと血が落ちる。痛みからのたうち回りたいが、水の中にいるためままならない。水から出ようと、水を含んでより重くなったドレスに阻まれながら藻掻く。僅か数歩分が、異様に遠い。それでも何とか縁にしがみつく。安堵も束の間、嫁に影が射す。恐る恐る見上げると、剣の切っ先が、真っ直ぐ落ちてきた。
噴水の縁にかけられた手が、甲側から剣を突き立てられ、縁に縫い止められた。不思議と手の痛みはなかった。右眼の痛みが酷い。そちらに意識が集中し、手への感覚が麻痺しているのだろう。だが、手に剣を突き立てられている現実が、片眼の視界に入っている。
嫁はパニックを起こし、手を抜こうと滅茶苦茶に動かした。予想に反して、手はスルリと解放された。
「え?」
安堵も束の間、嫁は自分の手が、人差し指と親指の間の肉が辛うじてくっついている状態でぶら下がっていることに、首を傾げた。
これは、何かしら。
*つづく*
*∽*∽*∽*∽*
何が起きたのか。さっぱりわからず、ワリアロントの面々は茫然とする。
「ちょ、小公爵様?!僕の」
息子も吹っ飛んだ。息子は噴水の縁に強か背中を打ちつけ、気を失った。夫人も気付けば噴水の側に転がっており、全身の痛みに呻く。エリアストは、腰を抜かしてへたり込んでいる当主の胸ぐらを掴み上げる。
恐ろしいまでの美貌が、殺意を込めた目で見ている。
当主は泡を吹いて気を失った。そんな当主もぶん投げると、先に噴水に落ちていた嫁を巻き込んで、当主も噴水へと落ちた。
エリアストが右手を差し出すと、いつの間にか側にいた護衛が剣を渡す。その柄を握ると、護衛の手からそのまま剣を抜いた。
噴水に近付くと、夫人は引き攣った悲鳴を上げて逃げようとするが、痛みと恐怖で体が動かない。エリアストは転がる息子を蹴り上げる。上手い具合に噴水の縁に寄りかかるように座った形になって覚醒した息子は、まったく状況が把握出来ないまま痛みと吐き気に呻いていると、何かが顔の右側を掠めた。間を置かず、左側も。あまりに一瞬の出来事で、何もわからないまま息子はキョロキョロとした。隣で大きく口を開けて震える母親が見える。何かを言っているようだが、殆ど声にならないようだ。
生温かいものが、耳の辺りから伝ってきた。
「え?」
それに触れた手を見た息子が、困惑の声を漏らす。
「な、に?」
血だ。自分の両側から流れ続けている。
ふと、今更ながら、目の前の影に気付いて顔を上げる。
「ひっ?!」
表情のない美貌が、殺気を隠しもしない視線を向けていた。その殺気を向けられ、息子は泡を吹いて再び意識を失った。
エリアストが噴水の中の女を見る。女はカチカチと、歯の根が合わないほど震えている。女は、目の前の恐怖に竦んで動けない。
こんなはずではなかった。
女の目から、知らず涙が溢れている。
彼を怒らせるなんて、本当にそんなつもりではなかったのだ。ただ、美しい彼を、自分のものにしたかった。格下の女、それも貧相な体の女が手に入れられたのだ。自分が手に入れられないはずがない。誰もが羨み、誰もが称賛する、磨き上げられた美貌の自分を、欲しがらないはずがない。美しい彼も、自分を欲しいと思うに決まっている。だから、いつも通りのことをした。いつもと違ったのは、旦那が、美しい彼の、彼に相応しくない分不相応な図々しい妻に興味を持ったこと。自分のモノが、自分以下のモノに興味を持つなんてあり得ない。酷くプライドが傷つけられた。苛立ちをぶつけるように女を見た。それだけなのに。
月に照らされ、冴え冴えとした殺意を纏うエリアスト。手に握る剣が、月の光で妖しく光る。切っ先が濡れた艶を放つのは、先程の行い故。息子は痛みに気付く間もなく、再び気を失っている。嫁はゆるゆると首を振る。
「や、ぃや、こないで」
エリアストの右手が動いた。
辺りに悲鳴が響く。噴水の水が赤く染まっていく。嫁の右眼からボタボタと血が落ちる。痛みからのたうち回りたいが、水の中にいるためままならない。水から出ようと、水を含んでより重くなったドレスに阻まれながら藻掻く。僅か数歩分が、異様に遠い。それでも何とか縁にしがみつく。安堵も束の間、嫁に影が射す。恐る恐る見上げると、剣の切っ先が、真っ直ぐ落ちてきた。
噴水の縁にかけられた手が、甲側から剣を突き立てられ、縁に縫い止められた。不思議と手の痛みはなかった。右眼の痛みが酷い。そちらに意識が集中し、手への感覚が麻痺しているのだろう。だが、手に剣を突き立てられている現実が、片眼の視界に入っている。
嫁はパニックを起こし、手を抜こうと滅茶苦茶に動かした。予想に反して、手はスルリと解放された。
「え?」
安堵も束の間、嫁は自分の手が、人差し指と親指の間の肉が辛うじてくっついている状態でぶら下がっていることに、首を傾げた。
これは、何かしら。
*つづく*
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