美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛

らがまふぃん

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レイガード新王即位編

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 ディレイガルドの持ち物は、大袈裟ではなく、すべてが国宝級。護衛に与えたものすらそうだ。いや、少し語弊がある。アリスを守るためのものは、だ。アリスにつく護衛は、万が一などあってはならない。故に、最高級の装備を与えられる。身につけているものは、軽く、しなやかで丈夫。動きが阻害されることなどあってはならない。そして、たとえ千の敵に囲まれても、剣一本で戦い抜ける、そんな規格外の装備。
 女の細腕でも、容易く人の骨まで断つことの出来る剣。故に、扱える者は限られる。人と武器の性能が拮抗して、初めてその真価を発揮するのだ。素人が触れてしまえば、当然惨事が起こる。
 嫁はそれが自分の手であり、自分の身に起こったことであることを、遅れて理解した。
 声を出すことすら出来ずに、嫁は水の中に倒れた。
 夫人は何とか座った状態になり、そのままズリズリと、少しでも離れようとしていた。それ故見てしまった。嫁の潰された目と、ぶら下がる手、どんどん赤く染まる水。夫人は自身が失禁していることにも気付かない。
 エリアストと目が合った。
 夫人は白目を剥いて倒れた。
 そこへ。
 「ディレイガルドの。話は聞いた。その上で頼む、剣を収めてくれ」
 ディレイガルドの動向を見張る者からの報告を受けながら、ディアンは現場に急いだ。
 見張る者とは、王家の影とも言うべき存在。高い隠密機能を身に付けた、国家の切り札的存在。なのだが、ディレイガルドにはバレている。そして黙認されているだけだ。但し、その姿を視認出来るギリギリまで離れていることが条件だ。何かの契約を交わしたわけではないが、そのラインを超えようとすると、見るのだ。それ以上近付くな、と。だが、ディレイガルドの側に第三者がいるときは別だ。愚か者を破滅させる証拠に使えることもあるため、近付くことを容認する。
 そうして衛兵に扮した影から報告を受けたディアンが駆けつけると、報告通りの男女二組がいた。全員が意識を失っているようだ。
 エリアストはゆっくりディアンを見た。
 ディアンはブルリと震えた。
 恐ろしい。確かに恐ろしいのだが。
 ディアンはそんな場合ではないにもかかわらず、見惚れてしまった。
 温度のない、その冷徹な目に。
 「旦那様」
 ディアンが見惚れていると、エリアストを挟んだ向こう側から、ディレイガルドの護衛に護られたアリスが声をかけた。
 エリアストはすぐにアリスを向く。
 「どうした、エルシィ」
 アリスは穏やかに告げた。
 「陛下に何かお考えがあるご様子」
 アリスがゆっくりエリアストに近付くと、エリアストは剣をディアンに放り投げた。同時に上着を脱ぎ捨ててアリスに駆け寄ると、愛しく抱き締める。そして頭に、顔中にくちづけながら、エリアストは落ち着きを取り戻していく。
 一方剣を放り投げられたディアンは、突然のことに慌てつつ、柄の部分を上手にキャッチ。思わず安堵の息を吐く。
 剣で怪我しなくて良かった、の息ではない。
 ディアンはそれが国宝級だと知っている。そんな剣が、放り投げられたのだ。それが地面に落ちたところで傷つくことなどないだろうが、地面に落とすことが問題だ。アリスを守るものだから、それほどのこだわりを見せる逸品。だが、エリアストからすれば、一度血で汚れたそれは、もうアリスを守るに相応しくない。だから、いらない。しかし、ディアンにはそんなことわからない。故に、国宝級もさることながら、アリスを守るものを落とすことが恐ろしかったのだ。
 「ディレイガルドの。ここは一旦私に預けてくれ」
 エリアストの極寒の目が見据える。
 はい、わかっております。最終的に、地下のあの部屋に突っ込むんですよね。こちらが終わったら地下牢に繋いでおきますので、ご自由にお持ちください。
 そう思いながらドキドキしていると、エリアストはディアンから視線を逸らしてアリスを見た。アリスは穏やかにエリアストを見つめている。エリアストはアリスの腰を抱いて、何も言わずその場を後にした。



*つづく*

アリスの護衛は常に二本帯剣しています。プラス暗器など。歩く宝物庫。
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