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レイガード新王即位編
番外編 ~やっぱりアリスは幸運の女神~
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「わ、わたしたちは、これから、ど、どうなる、のでしょう」
地下牢に入れられたワリアロントの当主が、不安そうに尋ねた。
「おとなしくしてるから、もう、レイガードには関わらないから、家に帰してください」
夫人も涙ながらに懇願する。
「んー?どうなるんだろうねぇ?家には帰れないんじゃないかなあ」
地下牢で、王自らが対応している異常さにも気付かないほど、ワリアロント家はいっぱいいっぱいだった。
「そんな、たかが伯爵家の娘をちょっと睨んだだけじゃない」
睨んだ、というより蔑んでいたのだが、まあどちらでも結果は変わらなかっただろう。
手当てをされてはいるが、痛みが酷いのだろう。声が弱々しい。それでもそんなことを言ってのけるほどには、自分の行いがわかっていない。
「たかが、伯爵家?」
ディアンは耳を疑う。
「この国で、ディレイガルドがいる国でコーサを賜る家が、たかが?」
本当に利権に胡座をかいているだけの者だ、この娘は。当主夫妻はまだマシだが、ドングリの背比べだ。今回の件がなくてもワリアロントは、没落間近だったのだ。鉱山の採掘量が減少しているわけでもないのに没落するなど、人間に問題がありすぎる場合のみ。それを見抜けず招待してしまった自分の落ち度を、深く反省する。レイガードから二つ国を挟んでいるからと言って、情報収集が甘かったとしか言いようがない。
ディレイガルドがいる式典に、甘えは許されないというのに。いや、現当主であれば、この程度は遊びの範疇として、寧ろ楽しんでくれたことだろう。
逆鱗に趣味嗜好が加わると、これ程までに招待客が狭き門となるのか。
「貿易に携わるものとは思えないほど、情報を軽んじているな。よく今まで保っていたものだ」
チッ。この者たちは公爵たちとは交流があったと記憶していたから油断したな。
「そもそも何故小公爵に絡んだんだ」
ディアンが冷たく睥睨する。
「本当に小公爵の噂を知らないのか?それともあの美貌だ。お近づきになりたかった?まさか、息子が小公爵夫人の声に興味を持ったのか?それで仲を取り持とうとした?」
夫人の顔色が悪い。
「は?全部図星なのか?」
ディアンは、あり得ない、と首を振る。本当にこれ程までに情報を仕入れていない、または無視しているとは。
「小公爵夫人に関わろうとするなど、破滅願望の持ち主としか思えん」
ディアンは、自分自身にも呆れた溜め息を吐いた。
これ程までにディレイガルドを注視しない商家があるとは思わないだろ、フツウ。
心中で思わず、俗っぽい言葉で悪態を吐く。女たちが何か言っているが、ディアンは無視をして沙汰を下す。
「おまえたちの爵位含むすべて、おまえたちには帰属しない。おまえたちの身柄はレイガードが所有。他国のことだがそれだけは決定事項。カーレインドの国王からも、是非それで、とのことだ」
ワリアロント家は何も言えず茫然としている。息子は耳の痛みから蹲ったままだ。
しかしそんなことより。
二つも国を挟んでいるのに、一日しか経っていないのに、相手は一応大国なのに、国王から承諾をもぎ取って来たなんて!やっぱり護衛も、ディレイガルド、なんだなあ。
*~*~*~*~*
「ワリアロントが持っている資産を、ダーデボーデに譲渡させる」
式典の翌日、晩餐の席でエリアストが言った。
「あは。やっぱりワリアロントが何かしたんだね。新王が出て行ったときにいなかったからさ。影が報告しようとしてきたけど、エリアストから聞くからいいよって言ってあったんだ」
「あらまあ。では、早速ダーデボーデ侯爵に連絡をしましょう。アリスちゃん、カーレインド国のダーデボーデ侯爵家は、ディレイガルド縁の者よ。後で手紙を書きましょうね」
「まあ、そうだったのですね。はい、よろしくお願いいたします、お義母様」
「あそこの鉱山の鉱石は、とっても品質がいいのよねぇ。ダーデボーデ侯爵が管理をするなら、もっと付加価値をつけて利益を出せそうね」
やはりアリスは幸運の女神だ。ディレイガルド本家だけでなく、その縁あるものの収益まで増幅させるなんて。一体どんな加護が付いているのだろう。とにかくすごい。
「お義母様のアイディアが加わったら、今まで以上に素敵なものが世の中に出回りますね。楽しみですわ」
「んもう、何ていい子なのアリスちゃん!そんな風に言ってもらえたら、すっごく頑張っちゃうわよ!」
「でもイリス、そっちばかりに構って私を放置するのはダメだからね」
肩を抱き寄せ、頭にくちづけるライリアストに、アイリッシュはほんのり頬を染めて微笑んだ。
ご当主夫妻も愛に溢れております。
「そうそう、王族からお詫びが届いているよ。お返しはどうする、エリアスト」
「そうですね」
詫びの品によって量刑が変わる。アリスに配慮したものであれば、多少は軽減、的外れのものであれば、地獄を見る。
この後ひと月ほど、ディアンは眠るときは丸まって布団で厳重にくるまれ、その上から妻に抱き締めてもらわないと眠れなかったという。
きっと、量刑は軽減されたのだろう。その程度で済んだのだから。
*おしまい*
次話から、最終章エリアストとアリスの形編となります。
妊娠・出産の話がありますので、苦手な方はお控えください。
最終章となりますが、引き続きお楽しみいただけると嬉しいです。
地下牢に入れられたワリアロントの当主が、不安そうに尋ねた。
「おとなしくしてるから、もう、レイガードには関わらないから、家に帰してください」
夫人も涙ながらに懇願する。
「んー?どうなるんだろうねぇ?家には帰れないんじゃないかなあ」
地下牢で、王自らが対応している異常さにも気付かないほど、ワリアロント家はいっぱいいっぱいだった。
「そんな、たかが伯爵家の娘をちょっと睨んだだけじゃない」
睨んだ、というより蔑んでいたのだが、まあどちらでも結果は変わらなかっただろう。
手当てをされてはいるが、痛みが酷いのだろう。声が弱々しい。それでもそんなことを言ってのけるほどには、自分の行いがわかっていない。
「たかが、伯爵家?」
ディアンは耳を疑う。
「この国で、ディレイガルドがいる国でコーサを賜る家が、たかが?」
本当に利権に胡座をかいているだけの者だ、この娘は。当主夫妻はまだマシだが、ドングリの背比べだ。今回の件がなくてもワリアロントは、没落間近だったのだ。鉱山の採掘量が減少しているわけでもないのに没落するなど、人間に問題がありすぎる場合のみ。それを見抜けず招待してしまった自分の落ち度を、深く反省する。レイガードから二つ国を挟んでいるからと言って、情報収集が甘かったとしか言いようがない。
ディレイガルドがいる式典に、甘えは許されないというのに。いや、現当主であれば、この程度は遊びの範疇として、寧ろ楽しんでくれたことだろう。
逆鱗に趣味嗜好が加わると、これ程までに招待客が狭き門となるのか。
「貿易に携わるものとは思えないほど、情報を軽んじているな。よく今まで保っていたものだ」
チッ。この者たちは公爵たちとは交流があったと記憶していたから油断したな。
「そもそも何故小公爵に絡んだんだ」
ディアンが冷たく睥睨する。
「本当に小公爵の噂を知らないのか?それともあの美貌だ。お近づきになりたかった?まさか、息子が小公爵夫人の声に興味を持ったのか?それで仲を取り持とうとした?」
夫人の顔色が悪い。
「は?全部図星なのか?」
ディアンは、あり得ない、と首を振る。本当にこれ程までに情報を仕入れていない、または無視しているとは。
「小公爵夫人に関わろうとするなど、破滅願望の持ち主としか思えん」
ディアンは、自分自身にも呆れた溜め息を吐いた。
これ程までにディレイガルドを注視しない商家があるとは思わないだろ、フツウ。
心中で思わず、俗っぽい言葉で悪態を吐く。女たちが何か言っているが、ディアンは無視をして沙汰を下す。
「おまえたちの爵位含むすべて、おまえたちには帰属しない。おまえたちの身柄はレイガードが所有。他国のことだがそれだけは決定事項。カーレインドの国王からも、是非それで、とのことだ」
ワリアロント家は何も言えず茫然としている。息子は耳の痛みから蹲ったままだ。
しかしそんなことより。
二つも国を挟んでいるのに、一日しか経っていないのに、相手は一応大国なのに、国王から承諾をもぎ取って来たなんて!やっぱり護衛も、ディレイガルド、なんだなあ。
*~*~*~*~*
「ワリアロントが持っている資産を、ダーデボーデに譲渡させる」
式典の翌日、晩餐の席でエリアストが言った。
「あは。やっぱりワリアロントが何かしたんだね。新王が出て行ったときにいなかったからさ。影が報告しようとしてきたけど、エリアストから聞くからいいよって言ってあったんだ」
「あらまあ。では、早速ダーデボーデ侯爵に連絡をしましょう。アリスちゃん、カーレインド国のダーデボーデ侯爵家は、ディレイガルド縁の者よ。後で手紙を書きましょうね」
「まあ、そうだったのですね。はい、よろしくお願いいたします、お義母様」
「あそこの鉱山の鉱石は、とっても品質がいいのよねぇ。ダーデボーデ侯爵が管理をするなら、もっと付加価値をつけて利益を出せそうね」
やはりアリスは幸運の女神だ。ディレイガルド本家だけでなく、その縁あるものの収益まで増幅させるなんて。一体どんな加護が付いているのだろう。とにかくすごい。
「お義母様のアイディアが加わったら、今まで以上に素敵なものが世の中に出回りますね。楽しみですわ」
「んもう、何ていい子なのアリスちゃん!そんな風に言ってもらえたら、すっごく頑張っちゃうわよ!」
「でもイリス、そっちばかりに構って私を放置するのはダメだからね」
肩を抱き寄せ、頭にくちづけるライリアストに、アイリッシュはほんのり頬を染めて微笑んだ。
ご当主夫妻も愛に溢れております。
「そうそう、王族からお詫びが届いているよ。お返しはどうする、エリアスト」
「そうですね」
詫びの品によって量刑が変わる。アリスに配慮したものであれば、多少は軽減、的外れのものであれば、地獄を見る。
この後ひと月ほど、ディアンは眠るときは丸まって布団で厳重にくるまれ、その上から妻に抱き締めてもらわないと眠れなかったという。
きっと、量刑は軽減されたのだろう。その程度で済んだのだから。
*おしまい*
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