暴虐の王

らがまふぃん

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 合成獣キメラ
 獅子の体に人間の上体が生え、人の頭部が二つ、二本の蛇の尾を持つ。身体能力は獅子のそれで、人間のように思考し、両手で武器も操る。人の頭部があるとは言え、戦闘本能で生きるキメラ。少しの会話は出来るが、人間らしい感情など持たない。



「おねえちゃん、おにいちゃん」
 闘技場の舞台が見える鉄格子のついた部屋に、舞台に立つ者たちは集められる。
 キメラの姿を見て息をのんだジェリとパーシュに、エーヴァは不安そうに二人の腰辺りの服を掴んで見上げる。あのキメラと戦うのは、ジェリとパーシュ、そして他の三人。エーヴァは次の試合だ。
「うん。こっちは五人いるんだ。どうにかなるよ」
 パーシュは優しくエーヴァの頭を撫でる。
「随分張り切ったもの用意したわね。エーヴァ、次は何が出てくるか知らないけど、同じくキメラだと思うわ。あなたも気を付けないとね」
 キュッと肩を抱き寄せるジェリに、エーヴァは頷く。
「「行ってくるよ、エーヴァ」」





………
……



「パーシュ!!」
「ジェリ!!」
 人の首を狩ろうとしたパーシュに、尾の蛇が襲いかかることに気付いたジェリ。
 獅子の首を狩ろうとしたジェリに、獅子が炎を吐き出す準備動作に気付いたパーシュ。
 それぞれがそれぞれを守ろうとし。
 守りたいものからは守れたのに。

「ジェリ、…ぃし…る」
「ぱ…しゅ、…しも、あいし…」

 二人、舞台の上で重なり合った。

 エーヴァは見た。
 二人の愛を、見た。





 エーヴァたちの相手は、ジェリが言っていた通り、別のキメラだった。 
「双剣使いか。そう言えば、双剣使いとは戦ったことがないな」
 二戦目の開始と共に呟かれたバルトロメウスの言葉に、いつも側に控えているメルヒオールが頭を下げ、退室しようとして。
「俺が直々に相手をしてやろう」
 支配人に話をつけに行こうとしていたメルヒオールは、側の剣を掴んで立ち上がったバルトロメウスに若干の呆れを含ませた息を吐いた。
「試合が終わるまでくらい待てないのですか」
「死んだら戦えなくなるだろう」
 軽口のような口を利く側近を無礼だと切り捨てることもなく、バルトロメウスは口の端を持ち上げて答える。
「死にそうもないではないですか。あれは、双剣使いの子が勝ちますよ」
「活きが良い方が楽しめる」
 扉からではなく、目の前の舞台へと直接飛び降りた。





 空から降ってきた影が、キメラの真上に降り立った。
 脳天を剣で貫かれ、そのまま剣を滑らされたキメラの体は左右に別れて倒れ、絶命した。
 キメラを一撃で倒し、悠然と立つ影の正体は、バルトロメウス=エックハルト・アラバストロ。
 突如として現れた皇帝の姿に、観客は静まり返った。
 舞台にいるエーヴァ以外の四人も、何が起こったのかわからないため、ただ呆然としている。
 返り血を浴びた美しい男の登場に、エーヴァは次の対戦相手だと思った。キメラよりも遥かに強いとわかる男に、エーヴァはしっかりと両手の剣を握る。
 バルトロメウスは、剣についた血を振り払いながら、エーヴァと対峙する。
「死にたくなくば、みっともなく命乞いをして見ろ」
 虚ろな目をした少女は、どんな反応をするのだろう。少しの興味を持った。
「わたしは、しねない」
 命乞いと言えなくもない妙な言い方をするものだ、と思った。そして、こんな目をしていても死にたくはないのだな、とも。そのちぐはぐな感じが、また面白くも感じたのだが。
「わたし、あいを、しりたい」
 バルトロメウスは片眉を上げた。
「愛?くだらん」
 そして、そう吐き捨てる。
「くだらん?」
「そうだ。そんなものに価値などない」
 なかなか面白いものがいると思ったが、実につまらないことを口にしたエーヴァに、バルトロメウスは一気に興味が失せた。
 上がっていた口角が元に戻り、鞘に剣を戻した。
 だが。
「あい、くだらなく、ない」
 踵を返そうとして、バルトロメウスはハッとする。
 愛を否定されたエーヴァの目に、はっきりと怒りが浮かんでいた。
 虚ろな目をしていた少女の鮮烈な感情に、知らず目を奪われたバルトロメウス。
「わたしは、ここ、が、ぎゅぅって、なった」
 エーヴァは、心臓を握るように、服を握り締める。
「はじめて、だった」
 見ているだけで、こんなに全身が温かくなるような感情は。
「しりたい」
 ジェリやパーシュのように、自分の命をなげうてるほどの感情を。
 エーヴァは、ジェリとパーシュの血が雑に拭き取られた場所を見つめ、
「わたし、あいを、しりたい」
 バルトロメウスを見た。
「だから、あいを、しるまで、しねない」
 バルトロメウスは咄嗟に剣を抜いた。





*つづく*
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