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5.危機を乗り越え、より深い愛は芽生えたか
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重鎮の国家転覆の企てに、国に激震が走った。
二人の侯爵は、爵位剥奪の上、斬首が決定した。そして王妃の座を狙ったとされる二人の令嬢の裁判が始まったのだが。
「はあっ?!なぜわたくしたちがミュールマーナ様を殺そうとするものを、愛らしいお手々に触れさせなくてはなりませんの?!」
クロイセンの令嬢が、令嬢らしからぬ顔で睨みつける。
「致死の毒物など、ミュールマーナ様の愛らしいおクチに入れさせるはずないでしょう!」
ソレンダークの令嬢も応戦する。
「これが何の毒物であったか、知っているような口振りだな、ご令嬢たち?」
反撃の仕方に若干の違和感があるが、置いておく。二人の令嬢は押し黙った。
「沈黙は肯定ととる。コレをミュールマーナが口にし続ければどうなるか、わかるな?」
ソレンダークの令嬢が嗤った。
「ええ、それが狙いですもの」
「殿下、あなた様の世継ぎが出来なくなれば、との行動ですわ」
クロイセンの令嬢も続き、あっさりと認めた。
ライムグリンは冷たく二人を見下ろす。
「ほう。正妃に世継ぎが出来なかった場合を考えての行動、ということで間違いないか」
二人はバカにしたように嗤う。
「「もちろんですわ」」
ライムグリンは鼻を鳴らす。
「たとえミュールマ」
「ミュールマーナ様にお子が出来なかったら、殿下は側妃を召し上げざるを得ないでしょう」
ライムグリンの言葉が遮られた。
「そうなればもうわたくしたちは黙っていません」
「やはりおまえたち」
「「ミュールマーナ様はわたくしたちのものですわ」」
周囲の音が消えた。少ししてライムグリンが声を出す。
「なんて?」
二人はにっこり笑う。
「ミュールマーナ様は」
「わたくしたちのもの」
ライムグリンたちは、二人を見た。そしてミュールマーナを見る。首を傾げるミュールマーナ、可愛い。
「ミュール、マーナ?」
ライムグリンは二人に尋ねる。
「そうですわ。ミュールマーナ様が王妃になるのは当然」
「こんなに愛らしい方がわたくしたちの国母になるなんて、誰もが幸せにしかなりませんわ」
それは、うん。同意だ。
「節度のない殿方を追い回す凜々しいお姿も、強き母のようで可愛らしい」
強き母は可愛いのか。新しいな。
「殿下と寝所を共にすることは断腸の思いで、血の涙を流して耐えて見せます」
そんなに?
「ですが、世継ぎさえ出来なければ。傷心のミュールマーナ様をお慰めするお役目は、わたくしたちのもの。そしてめくるめく日々に、わたくしたちは固い絆で結ばれるのです。それまでの我慢だったのです」
「ミュールマーナ様付きの女官ですもの。ありとあらゆる面でお支えすることで文字通りスキンシップをとりつつ、その時までは留飲を下げておこうと」
ミュールマーナに仕えることは決定だったようだ。そこに生き甲斐を見出していた二人の令嬢。父親たちとは随分思惑が違っていたようだ。シュワルツェネーラとシルヴェスターニャに警戒したのは、ミュールマーナ付きの座を奪われるかも知れない、と危機感を覚えたかららしい。
シュワルツェネーラとシルヴェスターニャに?女官の座を?まあいい。
それにしても。
危なかった。
ライムグリンの心臓は、恐ろしいほど早い。
早まって、「たとえミュールマーナに世継ぎが出来なくとも、おまえたちを側妃に迎えることはない」とか、「やはりおまえたち、私の側妃の座を狙っての行動だな」なんて言わなくて良かった。そんなことを言っていたら恥ずか死んでいた。ものすごく冷笑されながら、え?殿下の側妃?ぷっ。とか言われていた。断罪しているはずが、断罪されていた。
恐ろしい子たち!
*~*~*~*~*
「私は自分の決めたことに後悔することのないよう、あらゆることを想定して決定をしている」
「殿下が優秀でいらっしゃることは百も承知です」
「ありがとう、ソル。だが、私は後悔している」
王宮の中庭。愛しい愛しい婚約者とのお茶会。いつも幸せいっぱいで、このまま時が止まればいいのに、と呪うように祈る日々。それなのに。
「シュワルツェネーラは、どんな食べ物が好きですの?」
「シルヴェスターニャは、子分にグリズリーがいるって本当ですの?」
「シュワルツェネーラに、刺繍を刺したハンカチを差し上げてもよろしいですか?」
「シルヴェスターニャに、剣に飾るお守りを作ってきてもよろしいですか?」
「お二人と、今度馬で遠乗りしたいです。ダメでしょうか?」
「ミュールマーナアアアアア!婚約者、私ぃぃぃっ!婚約者、私いいいいぃぃぃっ!」
*おしまい*
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
婚約者に振り回される王太子、いかがでしたでしょうか。
侯爵令嬢の二人はどんな刑を言い渡されたのでしょう。たぶん幽閉かな、と思っております。
ミュールマーナのギャップ萌え、いかがでしたでしょうか。思っていたギャップと違いますか。すみません。
少しでも楽しんでいただけたなら、嬉しいです。
二人の侯爵は、爵位剥奪の上、斬首が決定した。そして王妃の座を狙ったとされる二人の令嬢の裁判が始まったのだが。
「はあっ?!なぜわたくしたちがミュールマーナ様を殺そうとするものを、愛らしいお手々に触れさせなくてはなりませんの?!」
クロイセンの令嬢が、令嬢らしからぬ顔で睨みつける。
「致死の毒物など、ミュールマーナ様の愛らしいおクチに入れさせるはずないでしょう!」
ソレンダークの令嬢も応戦する。
「これが何の毒物であったか、知っているような口振りだな、ご令嬢たち?」
反撃の仕方に若干の違和感があるが、置いておく。二人の令嬢は押し黙った。
「沈黙は肯定ととる。コレをミュールマーナが口にし続ければどうなるか、わかるな?」
ソレンダークの令嬢が嗤った。
「ええ、それが狙いですもの」
「殿下、あなた様の世継ぎが出来なくなれば、との行動ですわ」
クロイセンの令嬢も続き、あっさりと認めた。
ライムグリンは冷たく二人を見下ろす。
「ほう。正妃に世継ぎが出来なかった場合を考えての行動、ということで間違いないか」
二人はバカにしたように嗤う。
「「もちろんですわ」」
ライムグリンは鼻を鳴らす。
「たとえミュールマ」
「ミュールマーナ様にお子が出来なかったら、殿下は側妃を召し上げざるを得ないでしょう」
ライムグリンの言葉が遮られた。
「そうなればもうわたくしたちは黙っていません」
「やはりおまえたち」
「「ミュールマーナ様はわたくしたちのものですわ」」
周囲の音が消えた。少ししてライムグリンが声を出す。
「なんて?」
二人はにっこり笑う。
「ミュールマーナ様は」
「わたくしたちのもの」
ライムグリンたちは、二人を見た。そしてミュールマーナを見る。首を傾げるミュールマーナ、可愛い。
「ミュール、マーナ?」
ライムグリンは二人に尋ねる。
「そうですわ。ミュールマーナ様が王妃になるのは当然」
「こんなに愛らしい方がわたくしたちの国母になるなんて、誰もが幸せにしかなりませんわ」
それは、うん。同意だ。
「節度のない殿方を追い回す凜々しいお姿も、強き母のようで可愛らしい」
強き母は可愛いのか。新しいな。
「殿下と寝所を共にすることは断腸の思いで、血の涙を流して耐えて見せます」
そんなに?
「ですが、世継ぎさえ出来なければ。傷心のミュールマーナ様をお慰めするお役目は、わたくしたちのもの。そしてめくるめく日々に、わたくしたちは固い絆で結ばれるのです。それまでの我慢だったのです」
「ミュールマーナ様付きの女官ですもの。ありとあらゆる面でお支えすることで文字通りスキンシップをとりつつ、その時までは留飲を下げておこうと」
ミュールマーナに仕えることは決定だったようだ。そこに生き甲斐を見出していた二人の令嬢。父親たちとは随分思惑が違っていたようだ。シュワルツェネーラとシルヴェスターニャに警戒したのは、ミュールマーナ付きの座を奪われるかも知れない、と危機感を覚えたかららしい。
シュワルツェネーラとシルヴェスターニャに?女官の座を?まあいい。
それにしても。
危なかった。
ライムグリンの心臓は、恐ろしいほど早い。
早まって、「たとえミュールマーナに世継ぎが出来なくとも、おまえたちを側妃に迎えることはない」とか、「やはりおまえたち、私の側妃の座を狙っての行動だな」なんて言わなくて良かった。そんなことを言っていたら恥ずか死んでいた。ものすごく冷笑されながら、え?殿下の側妃?ぷっ。とか言われていた。断罪しているはずが、断罪されていた。
恐ろしい子たち!
*~*~*~*~*
「私は自分の決めたことに後悔することのないよう、あらゆることを想定して決定をしている」
「殿下が優秀でいらっしゃることは百も承知です」
「ありがとう、ソル。だが、私は後悔している」
王宮の中庭。愛しい愛しい婚約者とのお茶会。いつも幸せいっぱいで、このまま時が止まればいいのに、と呪うように祈る日々。それなのに。
「シュワルツェネーラは、どんな食べ物が好きですの?」
「シルヴェスターニャは、子分にグリズリーがいるって本当ですの?」
「シュワルツェネーラに、刺繍を刺したハンカチを差し上げてもよろしいですか?」
「シルヴェスターニャに、剣に飾るお守りを作ってきてもよろしいですか?」
「お二人と、今度馬で遠乗りしたいです。ダメでしょうか?」
「ミュールマーナアアアアア!婚約者、私ぃぃぃっ!婚約者、私いいいいぃぃぃっ!」
*おしまい*
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
婚約者に振り回される王太子、いかがでしたでしょうか。
侯爵令嬢の二人はどんな刑を言い渡されたのでしょう。たぶん幽閉かな、と思っております。
ミュールマーナのギャップ萌え、いかがでしたでしょうか。思っていたギャップと違いますか。すみません。
少しでも楽しんでいただけたなら、嬉しいです。
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