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全6話+おまけ1話です。
断罪風なお話ですが、お読みいただくと思っていたのと違うかも知れません。断罪風、です。
ご都合主義ですので、それでも大丈夫な方はお読みいただければと思います。
*~*~*~*~*
可愛いリーファ。絶対お嫁さんになってね。約束。
大好きだよ、リーファ。どんな望みでも叶えてあげるから。
リーファ、見てごらん。今は何もないけれど、春には一面に薄桃色の花が咲くんだ。毎年一緒に見に来よう。必ず、二人で見に来よう。
「はあ。ミィアリーファ、もうよい。下がれ」
「申し訳、ありません」
「下がれ、と言っている。聞こえなかったか」
「っ、失礼、いたします」
婚約者として定例のお茶会の度に、機嫌が悪くなっていく。気の利いた話一つ出来ない、と呆れられる。
以前はこうではなかった。彼がこうなった原因に心当たりはある。こうではない彼を知っているだけに、胸が痛んだ。
第二王子グリアフィシスの婚約者として、侯爵家の長女ミィアリーファが選ばれたのは、一年前。グリアフィシス十八歳、ミィアリーファ十六歳の時だ。ミィアリーファの両親は、断ってもいい、と言ってくれた。王家にそんなこと出来ようはずもないのに、その心遣いと覚悟に感謝した。
婚約者となって王子妃教育を受け、日々研鑽を積む。
ミィアリーファの胸には、可愛い、大好き、と言ってくれたあの日々の思い出。リーファと呼んでくれた優しい声は、もうない。
お茶会を追い出され、ミィアリーファは侯爵邸へ帰るべく馬車へと急ぐ。通りがかった中庭に、彼との約束の花を見つけた。薄桃色の花が、風に揺れている。思わず頬が緩んだ。しかしすぐにハッとして、再び馬車へと急いだ。
もうすぐだ。もうすぐ、この状況は変わる。
第二王子グリアフィシスは、十六になっても婚約者がいなかった。
この国は、十六歳になるまで婚約を結ぶことは出来ない。結婚は、成人を迎える十八歳で認められる。王族であっても、それは例外ではなかった。王太子妃や王子妃になるには、特別な教育が必要となる。そのため、婚約を結べないだけで、もう少し早い時期から教育は始まる。実質、婚約者は早い内に決まっているものなのだ。
しかしグリアフィシスには、婚約を結べる歳になっても、婚約者がいなかった。山と来る釣書に興味を示さない。だというのに、王も王妃も何も言わない。宰相、法相、騎士団長、グリアフィシスの側近さえ、何も言わないという異常事態。
第二王子は見放されたのではないか、という噂が流れ始めた。
公の場のグリアフィシスに、目立って悪い点は見受けられない。強いて言うなら愛想がないくらいだ。それなのに、そんな噂が流れる。徐々に、見合いを申し込む者は減っていった。
それから二年、グリアフィシスが十八の時、突然婚約発表がなされた。
遅すぎる婚約に、一体どんな人が婚約者になったのか、と世間がざわついた。
名門貴族、カトルクロウ侯爵家の愛娘、ミィアリーファだと知ったとき、誰もが今まで婚約者がいなかった理由を悟る。二つ年下のミィアリーファが婚約できる歳になるのを待っていたのだ、と。
世間の噂とは反対に、王宮の女官や使用人たちは、顔にこそ出さないが、内心眉を顰めていた。グリアフィシスのミィアリーファに対する態度に。望んでいたのではないか。周りに何を言われても構わないほど、ミィアリーファの婚約できる歳まで黙って待っていたのではなかったのか。
「もう少し声を抑えろ。うるさくてかなわん」
まったくそんなことはない。むしろ落ち着いた優しい声音だ。
「その話は今言わなくてはならないことか?くだらん」
間を持たせようとの心遣いがわからないのか。ならば自分が気の利いたことひとつでも言えばいいではないか。
「誕生日?プレゼントなど不要だ。必要なものはすべて揃っている」
なぜそこまで突き放すのか。楚々として控え目な、美しいご令嬢ではないか。何がそんなに気に入らないのか。なぜ、婚約などしたのか。彼女ほどの人物であれば、引く手数多だったはずだ。
グリアフィシスは、冷たい印象を受ける見た目だ。白に近い金の髪に、アイスブルーの瞳。表情は乏しく、口数も少ない。見た目は極上だが、この婚約者に対する態度は看過できない。
「殿下、何が気に入らないのです。素晴らしいご令嬢ではありませんか」
女官長が苦言を呈しても、グリアフィシスは何も答えることはなかった。そのため、王宮でのグリアフィシスの評判は悪い。王族を表立って非難することはないが。
「やはり、ラナン様を亡くされたことが、影を落としていらっしゃるのかしらねぇ」
およそ三年前、グリアフィシスは非常に優秀で信のおける側近を、事故で亡くしていた。
*つづく*
断罪風なお話ですが、お読みいただくと思っていたのと違うかも知れません。断罪風、です。
ご都合主義ですので、それでも大丈夫な方はお読みいただければと思います。
*~*~*~*~*
可愛いリーファ。絶対お嫁さんになってね。約束。
大好きだよ、リーファ。どんな望みでも叶えてあげるから。
リーファ、見てごらん。今は何もないけれど、春には一面に薄桃色の花が咲くんだ。毎年一緒に見に来よう。必ず、二人で見に来よう。
「はあ。ミィアリーファ、もうよい。下がれ」
「申し訳、ありません」
「下がれ、と言っている。聞こえなかったか」
「っ、失礼、いたします」
婚約者として定例のお茶会の度に、機嫌が悪くなっていく。気の利いた話一つ出来ない、と呆れられる。
以前はこうではなかった。彼がこうなった原因に心当たりはある。こうではない彼を知っているだけに、胸が痛んだ。
第二王子グリアフィシスの婚約者として、侯爵家の長女ミィアリーファが選ばれたのは、一年前。グリアフィシス十八歳、ミィアリーファ十六歳の時だ。ミィアリーファの両親は、断ってもいい、と言ってくれた。王家にそんなこと出来ようはずもないのに、その心遣いと覚悟に感謝した。
婚約者となって王子妃教育を受け、日々研鑽を積む。
ミィアリーファの胸には、可愛い、大好き、と言ってくれたあの日々の思い出。リーファと呼んでくれた優しい声は、もうない。
お茶会を追い出され、ミィアリーファは侯爵邸へ帰るべく馬車へと急ぐ。通りがかった中庭に、彼との約束の花を見つけた。薄桃色の花が、風に揺れている。思わず頬が緩んだ。しかしすぐにハッとして、再び馬車へと急いだ。
もうすぐだ。もうすぐ、この状況は変わる。
第二王子グリアフィシスは、十六になっても婚約者がいなかった。
この国は、十六歳になるまで婚約を結ぶことは出来ない。結婚は、成人を迎える十八歳で認められる。王族であっても、それは例外ではなかった。王太子妃や王子妃になるには、特別な教育が必要となる。そのため、婚約を結べないだけで、もう少し早い時期から教育は始まる。実質、婚約者は早い内に決まっているものなのだ。
しかしグリアフィシスには、婚約を結べる歳になっても、婚約者がいなかった。山と来る釣書に興味を示さない。だというのに、王も王妃も何も言わない。宰相、法相、騎士団長、グリアフィシスの側近さえ、何も言わないという異常事態。
第二王子は見放されたのではないか、という噂が流れ始めた。
公の場のグリアフィシスに、目立って悪い点は見受けられない。強いて言うなら愛想がないくらいだ。それなのに、そんな噂が流れる。徐々に、見合いを申し込む者は減っていった。
それから二年、グリアフィシスが十八の時、突然婚約発表がなされた。
遅すぎる婚約に、一体どんな人が婚約者になったのか、と世間がざわついた。
名門貴族、カトルクロウ侯爵家の愛娘、ミィアリーファだと知ったとき、誰もが今まで婚約者がいなかった理由を悟る。二つ年下のミィアリーファが婚約できる歳になるのを待っていたのだ、と。
世間の噂とは反対に、王宮の女官や使用人たちは、顔にこそ出さないが、内心眉を顰めていた。グリアフィシスのミィアリーファに対する態度に。望んでいたのではないか。周りに何を言われても構わないほど、ミィアリーファの婚約できる歳まで黙って待っていたのではなかったのか。
「もう少し声を抑えろ。うるさくてかなわん」
まったくそんなことはない。むしろ落ち着いた優しい声音だ。
「その話は今言わなくてはならないことか?くだらん」
間を持たせようとの心遣いがわからないのか。ならば自分が気の利いたことひとつでも言えばいいではないか。
「誕生日?プレゼントなど不要だ。必要なものはすべて揃っている」
なぜそこまで突き放すのか。楚々として控え目な、美しいご令嬢ではないか。何がそんなに気に入らないのか。なぜ、婚約などしたのか。彼女ほどの人物であれば、引く手数多だったはずだ。
グリアフィシスは、冷たい印象を受ける見た目だ。白に近い金の髪に、アイスブルーの瞳。表情は乏しく、口数も少ない。見た目は極上だが、この婚約者に対する態度は看過できない。
「殿下、何が気に入らないのです。素晴らしいご令嬢ではありませんか」
女官長が苦言を呈しても、グリアフィシスは何も答えることはなかった。そのため、王宮でのグリアフィシスの評判は悪い。王族を表立って非難することはないが。
「やはり、ラナン様を亡くされたことが、影を落としていらっしゃるのかしらねぇ」
およそ三年前、グリアフィシスは非常に優秀で信のおける側近を、事故で亡くしていた。
*つづく*
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