禁じられた遊び

らがまふぃん

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邂逅

 「マリーナ。おまえを王太子妃候補にするために、どれだけ大変だったかわかるな」
 「はい、お父様」
 ハルベディ侯爵の執務室に呼び出された長女マリーナは、今にも倒れそうな衝撃を必死に堪え、淑女らしく感情を表に出さないよう答えた。
 「妃になれなかったら、などと考えるなよ。おまえは妃になるんだ。そして行く行くは王妃、そして国母となるのだ」
 「はい」
 「期待しているぞ、マリーナ」
 「はい、お父様」
 執務室を出たマリーナは、崩れ落ちそうな膝を叱咤して、何とか自室へと戻った。部屋の扉を閉めると、耐えていたものが切れ、そのまま座り込んだ。
 ボロ、と涙が零れると、後から後から溢れた。
 無理だ。
 マリーナは顔を覆う。
 王太子妃なんて、自分に背負いきれるものではない。人の二倍も三倍も努力してやっと今なのだ。今より遥かに求められることが多い王太子妃。
 「無理よぉ」
 マリーナは、床に伏して泣いた。
 マリーナは親に逆らうなど、考えたこともない令嬢だった。言われるままに道を歩んできた。親の期待に応えることが出来てしまっていた。自分のプライベートな時間を削り続けて、応えてきてしまった。
 それが、いけなかった。
 親が、侯爵当主が、期待してしまったのだ。
 「絶対、無理なのよぉ」
 マリーナは、途方に暮れて泣き続けた。


*~*~*~*~*


 「あら。ハルベディ侯爵嬢様。あなたも殿下の妃候補になったと伺ったわ」
 「ジケイデア侯爵嬢様」
 マリーナはこういった面倒事も起こるであろうとわかってはいた。だが、どう対策をしたらいいかわからなかった。もう一人の候補であるジーナ・アーロウス公爵嬢よりも、このカリア・ジケイデア侯爵嬢の方が苦手だ。性格が強すぎるのだ。
 「わたくし、幼い頃より王太子妃になることを夢見て頑張ってきましたの」
 近付き、扇を広げると、すれ違い様にカリアはマリーナの耳元で囁いた。
 「泣くだけで済まなくなる前に、辞退なさい」
 マリーナは震えることしか出来ない。その様子にカリアは満足すると、
 「ではお互い、正々堂々、頑張りましょうね?」
 そう言って、脅威は去って行った。
 マリーナは、スカートを握り締めた。形振なりふり構わず泣き叫びたかった。けれど矜持が許さない。淑女の仮面を被り、何事もないように歩き出す。幸い今はお昼の時間。まだ授業まで時間はある。
 フラフラと裏庭に足を向ける。ひっそりと置かれた、目立たないベンチがあることを知っていた。抱えきれないことがあったとき、そこで思い切り泣くのだ。そうすれば、何とか気持ちを持ち直せるから。
 それなのに。
 この世のものとは思えない美が、そこにあった。
 淡い金の髪は木漏れ日に輝き、軽く伏せられた瞳は希少なピンクダイヤモンドに彩られ、白磁の肌に桃のように淡く色付く頬は瑞々しい。軽く閉じられた唇は、朝露に濡れた苺のように甘く熟れ、色素の薄い中で一際目を惹いた。
 とにかく一人になりたかったマリーナが見つけたのは、悪女と名高い天使だった。
 あまりの美しさに呆然と見つめる視線に気付いた天使は、手元の本から顔を上げた。
 二人の視線が絡み合う。マリーナは、金縛りに遭ったように視線を逸らせない。
 「泣きそう、ね」
 沈黙を破ったのは、天使テレーゼだった。



*つづく*
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