禁じられた遊び

らがまふぃん

文字の大きさ
6 / 20

疑念

 初めてテレーゼの声を聞いたマリーナは、大きく目を開いた。
 「わたくしは、席を外した方が良さそうね」
 パタリと本を閉じ、立ち上がりかけたテレーゼに、マリーナは慌てた。
 「い、いいえっ。あの、あの、不敬を承知で、聞いていただきたいのですがっ」
 今度はテレーゼが目を丸くした。少ししてから、テレーゼは自分の隣を手で示す。
 「よろしかったら、お座りになって?」
 マリーナは、自分でも驚くほどの勇気だったと思う。マリーナは侯爵令嬢に相応しくないほど気が弱く、周りに流されるタイプの人間だ。悪女に、さらには筆頭公爵家という格段に上の存在に、自身の境遇を話しているこの状況が、どこか夢を見ているようでもあった。
 マリーナは、気付けばすべてを話していた。
 不安も不満も恐怖も迷いも、すべて、つまびらかに。
 テレーゼは口を挟むことなく、黙って聞いていた。
 話し終えたマリーナに、テレーゼはそっとハンカチを差し出した。マリーナは驚いてテレーゼを見る。表情のない、精巧な人形のようなテレーゼは、少しだけ首を傾けた。
 「涙、お拭きになって?」
 「あ、あ、あ、ありがとう、ございます」
 悪女、とはかけ離れた行動に、思わず受け取るマリーナ。そのハンカチは、フワリと、優しい花の香りがした。
 「あの、初対面で、さらには格下であるにもかかわらず、無礼な振る舞いをいたしました。大変、申し訳ありませんでした」
 頭を下げると、テレーゼは顔を上げるように言う。
 「人の思惑に振り回されるということは、大変なことね」
 テレーゼの言葉が、なぜか、とても悲しく聞こえた。
 「わたくしは、アドバイスなんて出来ませんが」
 少し俯いた後、マリーナを向く。
 「あなたのお話しは、とてもわかりやすいですわ」
 その言葉に、マリーナは驚く。
 「人に伝えるということは、とても難しい。けれど」
 テレーゼの真摯な目が、マリーナを見つめる。
 「あなたは、他人を思いやることが出来ますのね」
 出来て当たり前と、褒められることの殆どないマリーナは、嬉しさに顔が紅潮していく。
 「どうすれば相手がわかるのかを常に考えていらっしゃる」
 「レム、公爵嬢、様」
 「おかげで、とてもよく伝わりましたわ」
 テレーゼは立ち上がった。マリーナも慌てて立ち上がる。
 「お力にはなれないけれど、話を聞くことは出来ますから」
 ハンカチを受け取ろうと、テレーゼは手を差し出す。
 「あ、あの、ハンカチ、洗ってお返ししますっ」
 テレーゼは首を振った。
 「わたくしの持ち物が、ひとつでもないと、お兄様たちが黙っていませんの」
 マリーナは目を見開く。
 「差し上げられればよろしいのでしょうけれど、そのまま、お返しになって」
 爪の先まで完璧に整えられた美しい手に、マリーナはハンカチを乗せた。
 「ご機嫌よう、ハルベディ侯爵嬢様」
 表情のないまま、テレーゼは去って行った。その背中を見送りながら、マリーナの中でいいようのない何かが渦巻いていた。



*つづく*
感想 0

あなたにおすすめの小説

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

特技は有効利用しよう。

庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。 …………。 どうしてくれよう……。 婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。 この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

私は私として生きていく

青葉めいこ
ファンタジー
「私は私として生きていく」 あら、よく私がこの修道院にいるとお分かりになりましたね。辺境伯閣下。 ずっと君を捜していた? ふふ、捜していたのは、この体でしょう? 本来姉が宿っているはずの。 「私は私のまま生きていく」 せっかく永らえた命ですもの。 望んでいた未来を絶たれても、誰に愛されなくても、私は私のまま精一杯生きていく。 この体で、この中身の、私は私のまま生きていく――。 この話は「私は私として生きていく」の主人公の姉の一人語りです。 「私は私のために生きていく」 まさかあなたが、この修道院に現れるとは思いませんでしたわ。元婚約者様。 元じゃない。現在(いま)も僕は君の婚約者だ? 何言っているんですか? 婚約は解消されたでしょう? あなたが本当に愛する女性、今は女子爵となった彼女と結婚するために、伯爵令嬢だったわたくしとの婚約を解消したではないですか。お忘れになったんですか? さして過去の事でもないのに忘れたのなら記憶力に問題がありますね。 この話は「私は私のまま生きていく」の主人公と入れ替わっていた伯爵令嬢の一人語りです。「私は私~」シリーズの最終話です。 小説家になろうにも投稿しています。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。