禁じられた遊び

らがまふぃん

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誤想

性的表現、性的倒錯表現があります。ご注意ください。


*∽*∽*∽*∽*


 「声を出すな、と言っているだろう。萎える」
 情事中、後ろに思い切り髪を引っ張られたラズノの妻シラーは、くぐもった声を出す。
 「う、う、も、申し、訳、ございま、せん」
 ブチブチと数本抜けて指に絡まる髪を見て、ラズノは慌てた。
 「ああ、すまない、すまない。リーゼと同じ髪色に酷いことをしてしまった」
 シラーから己を引き抜き、その頭を抱き締める。
 「すまない。赦してくれるね?」
 「は、はい、もちろん、です」
 「ああ良かった。これほどリーゼと同じ色はそうそう見つからないから。また探すのは大変だからね」
 「はい」
 ラズノとは目が合わない。ラズノの視線は、いつだって髪にしか注がれない。
 シラーはいつも、そっと涙を拭うことしか出来ない。


*~*~*~*~*


 シラーは夢ではないかと思った。
 「名前を伺っても?」
 地味でさえない自分が、十二歳以上が出席する王家主催の昼のパーティーで、とんでもなく麗しい貴公子に声をかけられたのだ。最初は自分に話しかけられたのではないと思い、キョロキョロと自分の側を見た。しかし、その時側には誰もいなかった。
 「ふふ。あなたで間違いありませんよ、ご令嬢」
 目映い黄金の髪に、赤みの強い紫の瞳。一見冷たく見えるが、笑うととても柔らかい。そのギャップに、虜となっている女性陣は数知れず。筆頭公爵家次男であり、兄であるアスマが家督を継いだ後は、侯爵の称号を継ぐことになっている麗しの貴公子ラズノ。まだ十二歳であるにもかかわらず、年齢問わず秋波を送られているそんな彼が、何の取り柄もない、平凡なしがない伯爵家でしかない自分に声をかけてきたことが、信じられなかった。
 周囲から嫉妬と羨望の眼差しを受けることが恐ろしく、けれど、確かにそこには優越感もあった。
 何度か外出に誘われると、本当に自分を見初めてくれたのではないかと勘違いしそうになる。
 両親は喜び、決して逆らわず従順でいなさい、と何度も言った。筆頭公爵家に嫁げるなんて、夢にも思わない。当然だ。突出したものが何もない、筆頭公爵家には何一つうまみのない伯爵家。何故、と思わない方がおかしい。おかしいが、こんな吹けば飛ぶような家が逆らえるはずもない。ただ唯々諾々と従うことしか出来ないに決まっている。決まっているが、外出すれば、ラズノ様は優しくエスコートしてくれる。会話は殆どなくとも、いつも視線を感じていた。その視線に、勇気を出して顔を上げてラズノ様を見ると、フイ、と視線を逸らしてしまう。
 勘違い、では、ないのかもしれない。
 そう思うのに、時間はかからなかった。
 ラズノ様は何も要求をしない。自分と出かけるときは髪を下ろして欲しい、ということと、とても大切な妹がいるので妹を優先させて欲しい、ということだけ。
 ラズノ様だけではなく、公爵家の方々が、妹様をとてもとても大切にしていることは有名だった。六歳離れた妹様は、幼い頃に大きな心の傷を負い、滅多に笑わなくなってしまったとのこと。
 もちろん、頷いた。その時のラズノ様の笑顔は本当に眩しくて。そうして何度か外出をし、お互いが十四歳のときに婚約が結ばれた。十六になれば結婚だ。婚約が結ばれてから、公爵家、行く行くは侯爵になる方に嫁ぐことになるので、伯爵位とは比べものにならないほど厳しいレッスンの日々となった。社交全般や女主人としての振る舞いまで叩き込まれる。それでも頑張った。愛するラズノ様に恥をかかせてはいけない、と。喜んで欲しい、褒めて欲しい、と。
 本当に、夢だったと気付いたのは、遅すぎた。
 いえ。気付いたところでどうすることも出来なかったのだから、ずっと、夢を、見ていたかった。



*つづく*
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