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決意
「まだ出来ていないのか。それを渡してどれだけ時間が経っていると思っているんだ」
「も、申し訳ありません」
「謝罪よりも成果を見せろ、マリーナ」
俯くマリーナに、ヴェルエルンはさらに言葉を重ねる。
「王太子妃になりたいのだろう?頑張れるな?」
「はい、殿下」
蚊の鳴くような声で、マリーナは返事をする。
「ああ、これが今日追加で入った分だ。早くせんと、どんどん仕事が溜まるぞ」
青ざめるマリーナを見て、ヴェルエルンは嗜虐的な笑みを浮かべる。
「私はこれからカリアとジーナを連れて観劇に行ってくる。それまでに終わらせておけ。いいな」
他二人の候補を連れて出掛けるという。マリーナは、カリキュラムとヴェルエルンの仕事に追われる毎日で、一度も外に連れて行ってもらったことはない。
「あ、あの、殿下、せめて」
殿下の仕事の半分でいいから、殿下がやって欲しい。
そう言おうとして、口を噤んだ。ヴェルエルンが、怒りを宿した目でマリーナを睨んでいたからだ。
「いいえ、何でもありません。お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
ヴェルエルンは優秀だ。こんな仕事、すぐにでも片付けられることを知っている。それなのにマリーナにさせているのは、ただの憂さ晴らし。わかっていても、マリーナは逆らえない。
「簡単に人を頼ろうとするな」
部屋を出る直前に、背を向けたままヴェルエルンはマリーナにそう言った。先程マリーナが言おうとしたことを、わかっているのだ。声の冷たさに、マリーナは少し震える。
「努力が足りないのでは?」
振り返って告げられた言葉と視線に射貫かれて、マリーナは俯くことしか出来なかった。
「マリーナ様!そうではありません!」
「昨日の復習が出来ておりませんね。一日怠ると、一週間、半月、ひと月経てばどうなるか。遅れを取り戻すことは容易ではないのですよ」
「マリーナ様。同じ間違いを繰り返すことは、やる気がないと見做しますよ」
「王女殿下は五歳の時には出来ておりました。マリーナ様は今おいくつでしたか」
「「「「努力が足りないのではありませんか、マリーナ様」」」」
………
……
…
「マリーナ様。お疲れのご様子ですね」
お昼休み、裏庭のベンチに二人。
「え?あ、いえ、大丈夫、です」
テレーゼが、ハンカチをそっとマリーナの頬にあてる。
「本当、ですか?」
知らず零れた涙を、テレーゼが拭ってくれる。
マリーナは俯いた。
「だ、い、じょう、ぶ」
震えながら、マリーナは言った。
「では、あり、ま、せん」
ボタボタと零れ落ちる涙。漏れる嗚咽も止められない。顔を覆って上体を屈ませ、思い切り泣いた。テレーゼはそっと背中を優しく撫でてくれていた。
明日から進級前の長期休み。学園が始まるまで王城に泊まり込み、朝から晩までカリキュラムを熟す毎日になる。
それから、もう一つ。
夏の長期休暇は地獄だった。
あれを、また、やるのか。
限界だった。
「お、おとう、さまに、誠心、誠意、謝り、ます。もう、わたくしには、無理なの」
*つづく*
「も、申し訳ありません」
「謝罪よりも成果を見せろ、マリーナ」
俯くマリーナに、ヴェルエルンはさらに言葉を重ねる。
「王太子妃になりたいのだろう?頑張れるな?」
「はい、殿下」
蚊の鳴くような声で、マリーナは返事をする。
「ああ、これが今日追加で入った分だ。早くせんと、どんどん仕事が溜まるぞ」
青ざめるマリーナを見て、ヴェルエルンは嗜虐的な笑みを浮かべる。
「私はこれからカリアとジーナを連れて観劇に行ってくる。それまでに終わらせておけ。いいな」
他二人の候補を連れて出掛けるという。マリーナは、カリキュラムとヴェルエルンの仕事に追われる毎日で、一度も外に連れて行ってもらったことはない。
「あ、あの、殿下、せめて」
殿下の仕事の半分でいいから、殿下がやって欲しい。
そう言おうとして、口を噤んだ。ヴェルエルンが、怒りを宿した目でマリーナを睨んでいたからだ。
「いいえ、何でもありません。お気をつけて、行ってらっしゃいませ」
ヴェルエルンは優秀だ。こんな仕事、すぐにでも片付けられることを知っている。それなのにマリーナにさせているのは、ただの憂さ晴らし。わかっていても、マリーナは逆らえない。
「簡単に人を頼ろうとするな」
部屋を出る直前に、背を向けたままヴェルエルンはマリーナにそう言った。先程マリーナが言おうとしたことを、わかっているのだ。声の冷たさに、マリーナは少し震える。
「努力が足りないのでは?」
振り返って告げられた言葉と視線に射貫かれて、マリーナは俯くことしか出来なかった。
「マリーナ様!そうではありません!」
「昨日の復習が出来ておりませんね。一日怠ると、一週間、半月、ひと月経てばどうなるか。遅れを取り戻すことは容易ではないのですよ」
「マリーナ様。同じ間違いを繰り返すことは、やる気がないと見做しますよ」
「王女殿下は五歳の時には出来ておりました。マリーナ様は今おいくつでしたか」
「「「「努力が足りないのではありませんか、マリーナ様」」」」
………
……
…
「マリーナ様。お疲れのご様子ですね」
お昼休み、裏庭のベンチに二人。
「え?あ、いえ、大丈夫、です」
テレーゼが、ハンカチをそっとマリーナの頬にあてる。
「本当、ですか?」
知らず零れた涙を、テレーゼが拭ってくれる。
マリーナは俯いた。
「だ、い、じょう、ぶ」
震えながら、マリーナは言った。
「では、あり、ま、せん」
ボタボタと零れ落ちる涙。漏れる嗚咽も止められない。顔を覆って上体を屈ませ、思い切り泣いた。テレーゼはそっと背中を優しく撫でてくれていた。
明日から進級前の長期休み。学園が始まるまで王城に泊まり込み、朝から晩までカリキュラムを熟す毎日になる。
それから、もう一つ。
夏の長期休暇は地獄だった。
あれを、また、やるのか。
限界だった。
「お、おとう、さまに、誠心、誠意、謝り、ます。もう、わたくしには、無理なの」
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