禁じられた遊び

らがまふぃん

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決壊

 テレーゼはいつも黙って聞いてくれる。眼差しが、撫でる手が、いつも心配そうにしてくれている。
 世間の悪評は、彼女が起こしたことではないと、マリーナは気付いている。
 テレーゼの家族が、彼女の意志と関係なく動いているのだと。
 出会ったときのハンカチの話で例えるなら、もし、テレーゼが好意でハンカチをマリーナに渡したのだとしても、家族はそうは受け取らない。美しいテレーゼの持ち物が欲しくて、心優しいテレーゼを唆して奪い取った、と解釈する。いくらテレーゼが違うと言っても、テレーゼが優しいから盗人を庇っているのだ、となる。
 だから、テレーゼは最初から人に近付かなかった。それでも周りが放って置かず、テレーゼに近付こうとするから、彼女の悪評は、ますます強固なものとなってしまった。
 テレーゼを愛するあまり、テレーゼを孤独にしてしまっていることに、家族は気付けない。
 愛されすぎて、孤独なテレーゼ。
 愛されずに、孤独なマリーナ。

………
……


 「甘えたことを言うな!!おまえのためにどれだけの犠牲を払ったと思っているんだ!!」
 思い切り頬を叩かれたマリーナは、床に倒れ伏す。口と鼻からは血が流れている。
 何が起こったのか、マリーナは理解が出来なかった。
 ぐわんぐわんと耳鳴りがする。視界がぼやけ、頭も痛い。
 「貴様の努力の足りなさを省みず、逃げることばかり考えおって!!いつからそんな甘ったれた考えをするようになった!!え?!」
 「だ、旦那様、なりませんっ。お嬢様の体に傷をつけるなどっ」
 ビリビリと空気を震わせる父親の怒鳴り声を抑えるように、長年この家に仕える家令の諫める声が、遠くに聞こえた。それで、ようやく自分が叩かれたのだとわかった。
 「黙れ!こんな親不孝者など!育ててやった恩も忘れおって!少しの努力も出来ん愚か者など私の娘ではないわ!!」
 ガクガクと震える体を叱咤し、マリーナは床に頭をつけて謝る。
 「申し訳ございません、申し訳ございません、お父様」
 ドレスはすべて直してもらわないと、もう体に合わない。
 断続的に頭痛と眩暈がして、食欲もかなり失せた。眠りたいのに、眠るための体力が残っていないことだってある。
 プレッシャーに押し潰されそうになりながら、それでも足掻いて分不相応な立場になろうとしているのだ。ならば、これは、当然の報いなのだろう。
 努力の、出来ない、当然の、報い。
 そうか。少しの努力も、出来ていないのか。
 「あ、あ、甘えすぎておりました。お父様の、お気持ちを、踏みにじるようなことを申し上げた、愚かなわたくしを、どうか、どうか、お赦しくださいませ」
 体の震えは止まらない。流れる血も、涙も
 壊れていく心も
 止められない。

………
……


 侍女から濡らしたタオルをもらって、頬を冷やす。
 心配そうな侍女に、マリーナは微笑んだ。
 「大丈夫よ。ありがとう。あとは一人で出来るから、あなたはもう休んで」
 渋る侍女を大丈夫だからと追い出し、マリーナは机に向かった。
 「これがいいかしら。うーん、やっぱりこっちかしら。ふふ、どうしましょう。迷ってしまうわ」
 本当に久し振りに、楽しいと思った。
 テレーゼといる時は、嬉しい、だったから。
 「うん、これにしましょう」
 手にしたものは、桜の透かし模様が入った、淡いピンクの便せん。
 「テレーゼ様の、頬のような色だわ」
 マリーナは幸せそうな笑顔を浮かべながら、たくさんの涙を頬に落としていた。



**つづく
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