禁じられた遊び

らがまふぃん

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正体

 「虐げていた者に覆されるのは、どんな気分ですの?」
 ヴェルエルンは怒りのあまり、マリーナへ向けて魔法を放った。
 ヴェルエルンの属性は風。
 圧縮された空気がかまいたちのように無数、マリーナに襲いかかる。
 「殿下!」
 誰かの叫びももう遅い。誰もがマリーナの無残な姿を想像した。魔法が廃れたこの世界で、これほどの攻撃魔法を扱えるだけで、ヴェルエルンは優秀であるとわかる。
 しかし。
 「は?」
 マリーナに届く寸前、魔法が掻き消えた。
 「な、に?」
 傷一つつけることなく霧散した魔法に、ヴェルエルンは愕然とする。マリーナの属性は地。土を操り防御壁を作ったのならまだわかる。けれど、そんなものは出現していないし、マリーナの魔力ではそれも無理。マリーナの魔力は、小さなプランターの土を耕すことが精々なのだ。殺傷力の強いヴェルエルンの攻撃魔法を止めるなどあり得ない。
 「何をした!貴様あっ!」
 プライドが許さなかったヴェルエルンは、先程よりも多くのかまいたちで襲いかかる。しかしやはり、悉くマリーナの前で霧散した。
 ヴェルエルンは目を見開く。
 一体何が起こっているのか。
 我が世の春を謳歌していたヴェルエルン。すべてが自分の思いのままに。優秀故に、周囲の期待も大きくて。その鬱憤を晴らすために、弱き者を虐げる。
 弱いと思っていた者が、牙を剥くなど考えもしない。
 その落差が大きければ大きいほど、絶望は深くなる。
 「良かった。あなたを持ち上げて持ち上げて持ち上げて。すごく、すっごくがんばりましたのよ、わたくし」
 ヴェルエルンの様子など気にも止めず、マリーナは言った。
 「あなたのどこを褒めればいいかまったくわからなかった」
 困ったように笑い、天を仰ぐ。
 「あなたのどこを見れば好きでいられるかわからなかった」
 目を、閉じる。そして、
 「愛していると錯覚し続けるにはどうしたらいいかまったくわからなかったの。だから、とってもとってもとってもとっても」
 チラ、とヴェルエルンを見る。
 「大変だったのよ?」
 見て、と言うように、マリーナは両手を広げた。
 「だから、こんなにも、痩せてしまった」
 どこか悲しそうに、マリーナは言った。
 「ね、わたくしの頑張り、理解出来て?」
 コテン、と首を傾げた。
 自分の方が優位に立っていると思っていたヴェルエルン。格下だと思っていた相手に、まさかこれ程のことを思われていたなんて、考えもしない。誰もが自分に好かれたいと、気に入られたいと思っていると思っていた。
 「でももうおしまい。だって」
 ふふ、と困ったようにマリーナは笑う。
 「この国、なくなってしまうのですもの」
 何の感情も浮かんでいない目が、ヴェルエルンを見る。ヴェルエルンはマリーナのあまりの変貌ぶりに、頭がついてこない。無様に口を開閉するだけ。
 「だからね。わたくしの役目も、もうおしまい」
 マリーナの姿が、変わる。
 誰もが声を失った。
 一年前に死んだと思われていた、レム筆頭公爵家令嬢、テレーゼの姿がそこにあった。



*つづく*
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