禁じられた遊び

らがまふぃん

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始動

 偶然出会ったマリーナは、自分よりも他人を優先させる人だった。
 優しい彼女に、貴族社会は生きづらかっただろう。
 「まり、な、さま」
 マリーナは、自宅敷地内の隅にある林の奥で、首を吊っていた。
 彼女の頬には、叩かれて腫れた、痛々しい痕跡と、涙の跡。
 幼い頃の誘拐事件が思い出されたのは、人の死を予感したからだったのかもしれない。
 テレーゼは、声を殺して泣いた。
 空が白み始めた頃、テレーゼは動く。
 「マリーナ様」
 テレーゼはマリーナを抱き締めた。
 「ゆっくり、おやすみなさいませ」
 マリーナの体が光の粒子となり、テレーゼに溶けた。
 テレーゼは、粒子の残滓を名残惜しむように、自身の体ごとギュッと抱き締めた。
 少し窓が開き、ロープが下がる窓がある。マリーナの部屋だろう。風魔法を使ってその部屋に入る。彼女の部屋で間違いない。
 彼女の部屋には遺書が残されていた。
 彼女の家族に宛てたものと、テレーゼに宛てたもの。
 テレーゼ宛の封筒を開けると、桜の透かし模様が入った、淡いピンクの便せん。
 彼女の懺悔が綴られていた。
 最後の一文は、感謝で括られていた。
 テレーゼは、優しさの詰まった手紙を抱き締めた。
……………

 「そこで考えましたの。わたくしテレーゼが死んだことにしましょう、と」
 ふふ、と、それはそれは美しく笑った。

……………
 連休初日、家族と出かけるテレーゼは、魔物に襲われて連れ去られる幻覚を、家族とついて来た家の者たちに見せた。実際は、風魔法で木に上っただけ。そうしてテレーゼは、マリーナとしてハルベディ侯爵家へ帰る。

………
……


 「貴様あっ!昨日の発言に続きどういうことだ!!」
 王城に行かねばならなかったにもかかわらず、どこにも姿がなく、逃げ出したと思った侯爵の怒りは凄まじかった。しかしマリーナは動じることなく、困ったように微笑んだ。
 「まあ、いやですわ、お父様。王太子妃教育を頑張るとお約束したではありませんか」
 「逃げ出しておいてどの口がっ」
 「また、叩きますの?」
 その言葉に侯爵は、振り上げた腕を止めた。
 「お父様、わたくし、王太子妃の候補ですのよ?わたくしの顔に傷があったら、王家が黙っていません」
 候補は、決定するまでその身は王家預かりとなる。仮の王族だ。仮とは言え、王族に手を上げたらどうなるか。
 「ですから、昨日の傷を何とかしてから王城へ向かおうとしていたのです」
 侯爵家お抱え医師のもとへ行って、薬や化粧で誤魔化す術を教わってきたと言う。
 「思った以上に時間がかかってしまいましたの。城へは遅れると早馬を出しておりましたが、傷を見られるよりは遅刻の方が遥かによろしいでしょう?」
 遅刻であれば、マリーナ一人の責任だが、傷となると、侯爵家全体の責任となり、そんな家の人間が王家に名を連ねるなど、と候補を外される可能性も充分あった。王太子妃にあれほど執着しているくせに、その侯爵の浅はかさへの皮肉も込めていたが、いつもと違う様子のマリーナに、侯爵は頷くことしか出来なかった。
 「城へ使いをやるのが精一杯でしたの。ですが、ひと言誰かに伝えてから出るべきでしたわ。申し訳ございませんでした」
 「あ、ああ、そう、だな。気を付けろよ」
 「はい。ご忠告ありがとうございます。では、城へ向かいます。しばらくお会い出来ませんが、ご自愛下さいませ。わたくしのを、立派に努めて参ります」



*つづく*
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