乙女の憧れ、つまっています ~平凡OLは非凡な日常~

らがまふぃん

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協定

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 日向透子ひむかいとうこは、引く手数多あまただった。世界トップクラスの財閥たちも、こぞって彼女を専属にしたがる。しかし、護衛を司る組織がそれを許可しない。大抵の場合は引き抜き可能だが、トップクラスの護衛は世界の至宝。本人が望まない限り、専属は叶わない。透子はもちろんトップクラス。四大財閥の人間でさえ、振り向いてもらえない。どれほどの額を積まれようと、透子は苦笑するだけだった。

 「護衛として欲しいのではない。私の側にいて欲しいのだ」

 世界のセレブが集まる、とあるパーティー。ジーン・ヴァンタインの言葉に、その場の全員が注目をした。ヴァンタインだけではない。四大財閥の人間が、みんながこぞって欲しがる日向透子を囲んでいる。

 「ヴァンタインに先を越されたのは面白くありませんが、私もトーコ、あなた自身を望みます。どうか、私の妻に」

 ノーマ・ミュゲルが、切なげな顔で透子を見つめる。

 「トーコ。私の側で、ずっと一緒に笑って暮らそう?」

 マリノ・アスカーノが騎士のようにひざまずいて見上げる。

 「トーコの望みはすべて叶えるよ。だから、私のところへおいで?」

 エドガー・ロベロニアの目に宿る熱が、本気を物語る。

 四人の言葉に、護衛として配置されている透子は、困ったような顔をした。

 「私はこれから一年ほど、火の本国ひのもとこくでの仕事となります」

 その言葉に、四人は衝撃を受ける。そして透子は、少しの逡巡しゅんじゅんの後、言葉を重ねた。

 「一年後も、お気持ちが変わらないようでしたら、考えさせていただきます」

 四人の顔が明るくなる。だが、さらに透子は続ける。

 「ですが正直なところ、そのお気持ちに、応えられない可能性が高いのです。一年待って、そこからスタートなのですよ。何年もの時間を無駄にする可能性が高いです。出来れば、他を当たっていただきたいのですが」

 逡巡の理由はこれだった。透子はそういうことをまったく考えることが出来なかった。興味がないということではない。本当に頭に恋愛というカテゴリーが無いのだ。

 「可能性はゼロではないのだろう?」

 ジーンがすがるように言った。

 「ゼロではないのなら諦めない」

 ジーンが真っ直ぐに見つめる。

 「トーコ。キミへの時間に無駄なことなどないんだよ」

 マリノが微笑む。

 「何年かかろうと、諦めなければいつかあなたを手に入れられるかもしれないのでしょう?ならば、挑戦せずにはいられないではないですか」

 ノーマがフンスとやる気を見せる。

 「トーコ以外に考えられないんだよ。私の愛に、トーコが諦めることになるよ」

 エドガーは楽しそうにそう言った。



*~*~*~*~*



 至って単純。

 ・一年間、トーコとの接触禁止。

 都合で火の本国へ行っても、トーコに会うことは叶わない。これが、四人が結んだ協定。



 「今日もトーコは可愛いな」

 自室の巨大スクリーンに映し出された透子の姿に、ジーンはくちづけた。



 「トーコ。動画だけでは満足出来ません。早くあなたに会いたい」

 執務室に備え付けられた巨大スクリーンに映る透子に、ノーマはうっとりと話しかけた。



 「あー、ホント凄いね、トーコ。よく気付くなあ。でも、ふふ。目が合ったみたいで嬉しいよ」

 寝室の巨大スクリーンの中の透子にそっと触れる。その時偶然、透子が苦笑した。自分が触れたことを許してくれたように感じて、エドガーはひどく満ち足りた気分を味わえた。



 「こんなに綺麗になったら汚い男共の欲の対象になっちゃう。しっかりお掃除しないといけないね。愛してるよ、トーコ」

 リビングに設置された巨大スクリーンには、呆れたような透子。マリノは寄り添うように、スクリーンの透子に全身を預けた。



 接触は、していない。ただ、外から透子を盗撮もとい、観察しているだけだ。オフィスで透子が時々外をジッと見つめるのは、彼らのドローンに気付いていたからだった。




*つづく*
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