乙女の憧れ、つまっています ~平凡OLは非凡な日常~

らがまふぃん

文字の大きさ
15 / 26

―エドガーの恋―

しおりを挟む
 何もかも、勝手が違う。

 華やかな世界、誰もが羨む地位、虚飾にまみれたこの上流階級せかいで、生き抜くためのすべを身に付けて。
 どう言えばどう反応するのか。権謀術数けんぼうじゅっすうけていく中、一人の女性と出会う。

 もううに三十路を越えている。周囲の声もうるさくなっている。早く跡継ぎの顔を見せろと、口を開けばそればかり。秋波を送ってくる女性も後を絶たない。どうせ誰を選んでも変わらない。言い寄る者たちの容姿なんて、みんな同じ。違いなんてわからない。ならば、一番自分にメリットのある者を。

 そう思っていたのに。

 時々見かけるだけの護衛が、なぜこんなにも気になるのだろう。初めて会ったあの日から。

 あの、目を見た時から。

 護衛がつくたび、彼女の姿を探している。彼女がいないと落胆し、その姿を見つけると胸に広がる何か。

 「やあ、トーコ。今日はよろしくね」

 必ず声をかける。トーコは、よろしくお願いします、と頭を下げるだけで、すぐに離れて行こうとする。だから私は話を振り続ける。迷惑そうにするでもなく、だからと言って嬉しそうにするでもなく。ただ淡々と答えるトーコに、いつからだろう、笑って欲しいと思うようになったのは。

 自分の半分ほどしか生きていないトーコ。

 今まで接してきた女性たちと、生きている世界がまったく違うトーコ。女性の喜ぶ言葉を口にしても、喜ぶ行動をしても、反応は薄い。

 何をすれば喜ぶの。

 何をすれば反応するの。

 何をすれば笑ってくれるの。


 どうすれば、好きになってくれるの。


 数えるくらいしか会ったことがないのに、どうしてこんなにも惹かれるのだろう。

 トーコとの話題作りのために、トーコの国のことを調べて。何が好きなのか、乏しい表情から読み取って。トーコをこの手に出来るなら、どんな努力も惜しまない。

 いつだったか、ある女性に言われた。

 “手に入らないから欲しがっているだけなのよ。”

 私がその女性になびかない悔し紛れからか、そう言われたことがある。

 そうなのだろうか。

 この気持ちは、そんな子どものような感情なのだろうか。
 手に入ったら、途端にいらなくなるような。

 だけど、トーコが笑うと、滅多にないけれど、トーコが笑うと、すごく、すごく幸せな気持ちになるんだ。トーコの凜々しい姿に、年甲斐もなく心臓が跳ねる。らしくもなく、恥ずかしくて目を合わせられないときだってある。それでも、カッコイイと思われたくて、余裕のある大人だと思われたくて。それなのに、トーコが見ていると思うと、いつも出来ていることさえ出来なくなって。ダメな大人だって思われてしまうような場面ばかりを見せてしまって。

 ああ、本当にままならないよ。

 ねえ、トーコ。それでも呆れず、私の気持ちを聞いて欲しいんだ。




*つづく*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...