乙女の憧れ、つまっています ~平凡OLは非凡な日常~

らがまふぃん

文字の大きさ
21 / 26

ラフランス国 前編

しおりを挟む
 芸術に富んだラフランス国。あらゆる分野の芸術が、このラフランス国では見られる。美術館が点在し、誰もの目を楽しませ、感動を呼び、時には恐れ、涙を誘う。



 「本当にままならないですね」

 船上のカフェテラスで、ノーマは溜め息をいた。

 「毎度の事ながら、肝心のトーコがいないのに、なんでこの面子メンツでテーブル囲うんだろうね」

 マリノも溜め息をく。

 穏やかな海の上。天気もいいし、獰猛な海洋生物、キメラも今はいない。そんなわけで、お馴染み四人はデッキに用意されたカフェテラスで、お茶を楽しんでいた。

 島が点在するラフランス国でも、五指に入る美しい島を目指している。

 「今の任務が終わったら、こっちに向かってくれるとは言っていたけれど」

 エドガーが紅茶に口をつける。

 「時間が合わないにもほどがあるな。これではアプローチのしようがない」

 ジーンも難しそうに眉を寄せた。

 「火の本国は、どうしてトーコを一年も拘束出来たのかな」
 「ああ、マリノは知らないんだね。S級以上の出身国は、自国優先の特権が与えられるんだ」

 マリノの疑問に、エドガーが答えてくれる。

 「えっ、そうなの?それなら、ずっと国を守れって言われたらどうするの?」
 「S級以上は世界の宝ですからね。特権自体に制約は存在しますよ」
 「そう。細かいことは置いておいて、最大で連続一年、拘束可能だ」

 補足するノーマとジーンに、マリノはなるほど、と頷く。

 「だからヴァンタインでさえ大人しくトーコを行かせたんだね」
 「おい。おまえは私を何だと思っているんだ」

 そんな他愛のない会話をしながら、暫くしてそれは起こった。

 護衛たちの動きが慌ただしくなり、外にいる人々に中に入るよう促している。それからすぐに、緊急の警報が鳴り響く。海洋生物やキメラが現れる合図だ。みんなが緊張しつつも、護衛たちの指示に従い、落ち着いて行動を取る。

 しかし。

 「ダメだ!速い!みんな伏せろぉ!!」

 護衛の叫び声に、みんなが一斉に床に伏せた瞬間、下から突き上げるような衝撃が襲った。あちこちから上がる悲鳴の中、目と鼻の先に、巨大な海洋生物がいた。深海の生物は、滅多に水面に揚がってこない。しかも、凄まじい水圧により、その体は小さい。ある程度の大きさでないと、船のソナーが探知出来ない。深海の生物は、浮上してくると水圧が緩み、体が大きくなる。そのため、探知出来る頃には、かなり近くに迫っていることになる。それでも、これ程までに速いとは。

 「みなさん、急いで中へ!」

 護衛がそう叫んだ時だ。

 深海生物から触手のようなものが伸び、何人かの護衛を纏めて捕らえた。そしてそのまま海に引きずり込む。さらに反対側からも別の触手が迫り、応戦するも押し切られ、何人かがまた捕らえられる。

 「ミュゲル!!」

 最初の衝撃で、護衛の薄いところに弾かれてしまっていたノーマが、その中にいた。気付いたエドガーが叫ぶも、どうすることも出来ない。護衛は直ぐさま救助に向かうが、何本もある触手が邪魔で、思うようにいかない。

 「お願いします!部屋に戻ってください!」

 まだ外に残っている人たちを庇いながらの戦闘は厳しい。護衛たちは、とにかく避難を急かす。

 その時だ。

 深海生物の右側頭部から煙が上がった。そして、ゆっくりと傾く。一本だった煙が、二本三本と増えていく。
 何が起きているのだろう、と、全員の動きが止まっている。

 「救助は私に任せろ。みんなの安全確保を」




*つづく*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

白い結婚のはずでしたが、いつの間にか選ぶ側になっていました

ふわふわ
恋愛
王太子アレクシオンとの婚約を、 「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で破棄された 侯爵令嬢リオネッタ・ラーヴェンシュタイン。 涙を流しながらも、彼女の内心は静かだった。 ――これで、ようやく“選ばれる人生”から解放される。 新たに提示されたのは、冷徹無比と名高い公爵アレスト・グラーフとの 白い結婚という契約。 干渉せず、縛られず、期待もしない―― それは、リオネッタにとって理想的な条件だった。 しかし、穏やかな日々の中で、 彼女は少しずつ気づいていく。 誰かに価値を決められる人生ではなく、 自分で選び、立ち、並ぶという生き方に。 一方、彼女を切り捨てた王太子と王城は、 静かに、しかし確実に崩れていく。 これは、派手な復讐ではない。 何も奪わず、すべてを手に入れた令嬢の物語。

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

処理中です...