のらりくらりと、

沢庵

文字の大きさ
1 / 5

いきませう。

しおりを挟む

 闇の帳が降りた、そして夜が始まる。



 どこの小説の一節だと頭の中でツッコミを入れる私は現在進行形で始まった夜の中にいるのだけれど、もう帰っていいだろうか。

 ガヤガヤと人の声がかなり煩い全国チェーンの居酒屋は田舎の市民にとっても便利で、貧乏学生の懐に優しい。
 今回は会費の半分ほどしかお金を出していないのだが、ただの数合わせと可愛い女の子達を引き立てる為に呼ばれただけなので、それに見合ったお金しか出すつもりはない。因みに給料日前の為大目にみてもらっているのは内緒。

 引き立てるもなにも、端の方で、一人で飲んでる時点で、自分に課せられた仕事をしていないが。出したお金の分は飲まさせて頂きます。学生は金欠病を万年患っているのですよ。

 店員さんお勧めの甘ったるいお酒をチビチビ飲みながら、何故私ははここにいるのだっけと過去の記憶を引っ張り出す。


 事の始まりは通っている大学のサークルの幽霊部員として久しぶりに顔を出した事から始まった。

 アルバイトが急に忙しくなり、レポートも溜めに溜めてしまったツケが回ってきたのだろう。ここ数ヶ月忙しかった、死にかけた、大げさではない。
 全てを終わらせて力が抜けたのだろう、熱を出して一週間寝込んでしまった。

 そんなこんなで疎かにしてしまっていたサークル活動に、申し訳ない気持ち一杯の顔で様子を見に行ったのだが。

「相葉、今週の金曜暇? 暇ね!」

 扉を開けた瞬間聞かれることはそれか。私は小さくお久しぶりです。と頭を下げ扉を閉める。

 その間も「暇? 暇?」と何度も聞いてくるのは同じ文学部でも英文科の富谷咲子。お姉さん留学していたんじゃなかったかしら? 
 オーストラリアに。コアラには出会えたかい?

そんなあたしの思考に気づいたのか、花の様な笑みを一瞬曇らせ「オーストラリアにいい男いたんだけど、ゲッチュウできなかったのよ!」

 富谷姉さん、ゲッチュウは死語です。

 そして始まる富谷のオーストラリア恋愛戦記物語を聞きたくないと、近くにいたサークルの女部長に視線で助けを求めるが「無理」と首を振られた。
 そう言わずに助けてやってください、病み上がりで色々キツイのですよ。

とりあえず話の話を変えようと、拳を作り力説している富谷に私はは話題を振る。

「そういえば、さっきの金曜がなんちゃらって?」
「そう! 一番重要なことを忘れてた!」

 今週の金曜日の夜暇ね!? 
 勢いよく、いや勢い有り過ぎて渡すの胸倉つかまないでやってください。苦しいです。

 話の提供物を間違えたと悟ったが、既に遅い。

「今週の金曜って明日なんだけど」
「いいから暇なの暇じゃないの!?」
「暇っす! はい!!」

 般若顔の美人に問いただされたら誰もが正直に答えるだろう。
 私も負けてしまったが。まぁ、バイトも休みだし花の金曜と言ったって男が居るわけでもないし、予定もない。

「明日の講義は?」
「午前の二コマ以外ないけど……?」

 合い、わかった。大げさに頷く富谷に「どこの王様だ、ドットの王か」とよくわからないツッコミを入れる。

「明日講義終わったら正門に集合ね。」
「なんで?」
「合コンだもの、それなりの格好をしなくちゃ!」
「郷右近? 誰それ? 殺虫剤?」
「脳内変換を間違えるな。それに黒く光る神速の生き物を倒す神器
でもないわよ。」
「中二?」
「暇。と私に伝えた時点でアウト、諦めて現実逃避やめなさい」

 無理。と答えるあたしの返答は予想通りだったのだろう。

 てか、合コンなんてこの世にあったのですか。漫画とか小説の中だけだと思ってましたよ。


 ……そして現在に至るわけだ。今日の授業後の回想なんてしていたら卒論並の文量になるからやめておきましょう。
 富谷が怖かったとかじゃないからね、違うからね。

 別に飲み会の空気は嫌いじゃない。だが親しい人達の場合に限る。

 着飾って男の視線に一喜一憂してたら酔えないだろう。折角のお酒が勿体ない。

 ちなみに今回のお相手は年上の公務員らしい。
 あの恋愛マスター富谷が親戚のコネを使いに使って成り立った合コンなのだからレベルは相当高いと思ってはいたけど。

 何人かがテーブルの真ん中に集まって盛り上がっている、その中の数人は私から見ても整っていると断言できる。
 それに公務員、何の公務員かは知らないけど田舎の公務員といえば「将来安定、給料良し、頭良い」の三つイメージがある。
 親は子が公務員になったら自慢しに行くほどだ、田舎基準だけども。

 結論、公務員と結婚したらきゃっほい! なのだ。

 まぁ現実はそうでもないらしいが、安定という言葉は大切だよね、今のご時世。

 にしても、枝豆がうまい。そして酒もうまい、チェーン店の癖にやりおる。単に私が貧乏舌なだけなのもあると思うが。


 ひとりもっさもっさと枝豆と焼酎を交互に飲み食いしていれば、盛り上がっている輪から抜け出してきた人が私の前へ座った。

 珍しい、男でも狩りモードならあの輪から抜け出して来ないはず。
 そしてまさかの、髪型、髪色、顔の造り、年上特有の落ち着きは、ド・ストライク。現実でここまでグッと来たのは久しぶりだ、前は高校の時だったかな、道ですれ違ったあの人、格好よかったなぁ……。

 とりあえず、眼福ご馳走様です。これで来週の実技講義を頑張れそうです、はい。

「……相葉さん、だっけ?」

 まさかまさか、声もストライーック! 本当にご馳走様です!!
 なんて思ってる場合じゃねぇよ。脳内のめくりめくる妄想を顔に出さぬようにバイトで培った作った笑顔を渡しは浮かべた。

「はい、そうですが……えっと、」
「桜木です。それよりも、よく飲みますね、大丈夫ですか?」

 はい? と返事をして、気づく。

 私の前のテーブルには、ビールジョッキ二つ、チューハイ三つ、焼酎三つ、計八つ。空のコップが並んでいる。これらすべてを空にしたのは何を隠そう、私だ。
 目がーじゃなくて、酔いがーとか言えれば可愛げがあるのだろう。しかし、現状は酔っぱらって
いないのだから取り繕ったって意味がない。そして早く店員さんに回収してもらわねば、グラス足りなくて裏で大騒ぎしていないかしら。なんていらない心配をしてしまう。

「はい、大丈夫です」
「へぇ、かなりいける口か」

 俺の周りにも強い奴いればなぁ。呟く桜木さんの手には焼酎があるから、この人もかなり強いのだろうか?

 なんて考えてたらまだ飲みたくなってきた、帰りのことも考えるとこれ以上飲んじゃいけないから我慢するが。

「相葉さんって家でよく飲む?」
「はい。ただ大学があるので今日みたいな金曜日にしか飲みません」
「あ、そっか。まだ学生か。……大学三年だっけ?」
「はい、桜木さんはお幾つですか?」

 年齢を聞くと狩りモードになっていると勘違いするかもなーとは思ったが、今日のみの縁だ、どう思われようと知ったこっちゃない。

 それに情報という名のものを剥ぎ取りさせていただきたい。そして売らさせていただく、主に富谷にだ。富谷と私の男の好みは似てるからこれは売れるはず。

 私の企みを知らない桜木さんはニコリ笑い

「二十九歳、君達からみればおっさんかな?」
「おっさんの基準は人それぞれですよ、それにおっさん好きも世の中のはいますし」
「へー、んなの居るの。因みに相葉さんは?」

 おっさんと若者どっち派? 笑顔で問う桜木さんにあたしも釣られてニコりと笑う。
 同い年にときめいた事など一度もないので、結論は出ている。だが普段は適当に合わせて話すだろう、だが今日は流石の私も酔っぱらっていたらしく、口が正直ものになっていた。

「おっさん好きです」
「なんで?」
「年下と同い年にはない余裕、でも好きな女の前では余裕がなくなる。とかあったらもう最高ですね。あと歳を取った分だけの色気がありますからね、若い奴らと比べるまでもないでしょう」

 まだありますけど、言います? 新しく頼んだ烏龍茶に口を付けながら言えば、目の前の男は小刻みに震えている。

「別にいいじゃないですか、年上美味しいじゃないですか」

 と言えば我慢できなくなったのか声を出して笑い始めた。
 何事だと会話に花を咲かせていた数人が振り返るが、桜木さんの笑顔をみた瞬間、何故か男数名の顔から血の気が引いた。

 初めて見たよそんな瞬間、目で見えるもんなのね。

「くっくっく、相葉さんって面白いわ」
「褒め言葉として受け取りますが」
「どうぞ、どうぞ。で、おっさん好きなら俺も大丈夫?」
「えぇ、直球ドストライクです、眼福ありがとうございます。」

 心から思ってることを言えば、また桜木さんが爆笑し始める。好きなくらい笑ってどうぞーと思っているあたしは唐揚げに手を伸ばした。

「そういえば、相葉さん今日は数合わせ?」

 笑いが少し収まったらしい桜木さんは、機嫌がいいのか笑顔で聞いてくる。
 話しかけてきた時の笑顔は余所行きの笑顔だったので、これが素なのだろう。素をみせていいのかいおじさま。まぁ私は勘違いなんてしないから安心して。

「はい、あそこにいる富谷さんに連れられて」
「あぁ、あいつか。それじゃ俺らの職業も知らない?」
「公務員としか教えてくれなくて」

 何故か公務員としか教えてくれなかった、別に数合わせだから深く聞いても意味ないかーと思っていたから気にも留めてなかったけれど。

「余計な情報を言うな。って俺が言ったんだ。偏見が多少なりともあるからな」
「それじゃ此処にいる女の子皆知らないんですか?」
「いや、多分何人かは聞かれて警察官って答えてるよ」

 本気で狙うならこっちもそれなりにね。そう言って笑う桜木さんに「恋の駆け引きってすごいですねー……」なんて呟いた。
 本当に恋愛って面倒臭そうだ。何故世の中の人達はそんなことに時間を使えるのだろうか、あたしなら寝るよ勿体ない。

 にしても、この人警察官か。似合うな。
 どちらかと言えば制服よりスーツの方が似合いそう、黒のスーツは細身でお願いします。で、冬は黒いコートに黒い皮の手袋で……うん、帰る前にDVD借りに行こうかな。刑事もの借りてこようかな。

「警察官の桜木さんに質問、いいですか?」
「何でもどうぞ。答えられる範囲ならだけど」

 警察の機密なんて聞いても学生は持て余すだけなので聞きません。
 そんな機密よりも気になるのは、この間たまたま観た再放送の刑事ドラマで気になったシー
ン。これなら聞いても差し支えないだろうと質問する。

「えーっと、取り調べの時カツ丼って食べれるんですか?」
「……食べれると思う?」
「カツ丼よりラーメンとかなら食べてそうですね」
「そうきたか……基本的には食べないというか駄目だね。取り調べ中に丼ぶりとか投げて逃げたりしたらたまったもんじゃないし。仮に頼んでも被疑者の自腹」
「現実身溢れるご回答ありがとうございます」

 やっぱりそうか、ドラマと現実は違うよな。テレビと現実の違いを再確認。
 しかしラーメン食べたくなってきたな、締めはラーメン! おっさん化が始まっているね! 帰りはDVD借りに行ってコンビニでカップ麺買って帰ろうか!

 ずずっと音を立て、残りのサワーをストローで飲み干しながら帰路の計画を立てている私は、桜木さんの視線に気づいていなかった。

 気づいていたとしても回避できるかは不明だけどね。
   





「相葉さん」
「はい?」

 居酒屋からぞろぞろと外へ出る。これから二次会に繰り出していく人が大半なのだろうが、私はこの辺でお暇しようと富谷に声を掛ける。
 前に、あたしが桜木さんに声を掛けられた。

「二次会行く?」
「いえ、行きませんが?」
「あー……それじゃ俺と飲み直さない?」

 前髪を掻き上げながら言う桜木さんからのまさかのお誘い。

 いやちょいまて、落ち着けまず有り得ないから。多分あの子に話しかけられなかったから紹介して欲しいという旨を話したいのだろう。

 だがしかし、あたしはお人好しじゃない。それに正直私は男が苦手なのだ。桜木さんと普通に話せたのはこの人安全だ、と勝手に解釈していたのと、酔っぱらっていたのだろう、珍しく。

 夜風が酔いを醒ましてくれた。さぁ、DVD借りて、カップ麺買って帰ろう。

「ごめんなさい、明日も早いので」
「土曜は何もない時の金曜にしか飲まないって言ってたけど、明日は休みじゃないの?」

 言いましたね、そういえば。
 金曜日でも次の日にバイトがない、講義がない日にしか飲まないと言いましたね確かに!!

 チッ。と心の中で舌打ちをして、少しだけ被っていた猫を外してやろうと思い立つ。
 素さえみせれば男はすぐに逃げる。結局男は可愛子ちゃんが好きなのだ。彼氏居ない歴二十一年の経験と弟が言っていたのだから確かな情報ですよ。

「桜木さんの後ろでそわそわ待ってる女の子が数名います、その人達とどうぞ。私は帰ります、DVD観ながらラーメン食べるんです。」
「締めのラーメン? いいね、付き合うよ」
「結構です。富谷ごめん、先帰るね」

 ヒールのおかげでいつもより高い位置にある富谷の耳元で言えば「わかった、今日はありがと」笑顔で手を振る富谷。

 ごめんあたし酒飲んでただけだわ。バイト代が入ったらケーキを奢ろう、うん。

「送ってくよ」
「大丈夫です、それに電車なので」
「どこまで?」
「本線を二千円分程」

 しれっ。と言い放てば桜木さんの頬がひきつった。そらそうだ、本線で二千円といえば県外だ。奥州王で有名な地域から毘沙門天で有名の地域にいってしまう程だ。
 今は地下鉄で十数分、徒歩数十分の大学周辺に独り暮らし中だなので大嘘なのだけど、嘘も方便ということで。

「それでは、失礼します。今日は桜木さんのお蔭で楽しかったです」

 これは本音。前から数合わせで合コンもどき(飲み会という名義だった筈なのに知らないうちに出会いの場になっていた。)に連れていかれることはあったがこんなに話したのは初めてだ。

 やはり年上はいいね!
 本日何度目かのご馳走様です。を心の中で言えば、はぁ。と桜木さんが溜息を吐く。そして前髪を掻き上げ、考え込んだ後真剣なな顔で私を見てくるものだから鼻血、鼻
血が出る。やばい、ティッシュはどこですか!?

 桜木さんの急に現れた色気と格闘していれば「ん。」と突き渡された長方形の白い紙。

「……あの?」
「今日は諦める、だから家に着いたらその番号に連絡して」
「……はい?」
「いいから連絡しろ、な?」

 有無を言わせぬ、笑顔の圧力に負けたあたしはその長方形の紙片手に帰った。レンタル屋とコンビニに行くの忘れたのは言うまでもない。

 しかし、携帯電話片手に数時間悩むことになろうとは。

 だって男にメールなんてバイト関係と弟を除くと、したことがないからさ、悩むに決まっているよね。
 
 
 *

 聞き慣れた洋楽の音が遠くで聞こえた。携帯電話のアラームだ。
 どこに行った携帯、すまーとふぉん。と布団から手だけを出し捜索、発見の後、すとっぷ。と画面に表示されたボタンを左へとタップすれば音が止まる。

「……ねむ」

 休みの日なのにいつも通り七時起床。中学から培ってきた体内時計は夜更かししても狂わないらしい。だが、圧倒的に睡眠が足りない。

 寝ついたのは今日の朝四時だよ。下手すると働きに出ていく人がいる時間だよ。

 携帯電話を枕元に投げ飛ばし、二度寝しようと再び布団にもぐり込んだ。

 が、ピピピピピピ。電子音が鳴り響く、煩い寝かせろ。布団を被り直し耳を塞ぐ。
 すると今度はピンポーン。と玄関のチャイムの音が鳴り響いた。

 音で溢れかえってる。ってのはこの事を表しているのですね、わかったから寝かせろ。

 しかし、そんな私の願いも虚しく鳴りやまない着信音と来客を告げるチャイムの音。「誰だよ、くそう」と言いながら着信の方から片づけるつもりで携帯電話を布団の中へと引きずり込んだ。

 どうせ来客も電話も富谷だろう。朝から私に用事のある奴なんて富谷くらいだもの。といつもの調子で電話に出た。

「はい、四十秒で要件を」
「……あ。ごめん、寝てた?」
「あい?」

 聞き覚えのある声だけど誰かわからない。一度耳元から携帯電話を離す。ディスプレイには知らない携帯番号。やばい、富谷じゃないんだけど。

 そんな私の様子を寝ぼけているのだと思ったのか、知らない番号の主は電話の向こうで溜息を吐いた。

「昨夜お世話になった桜木です」
「あ……昨日はどうもありがとうございました」

 微妙に寝ぼけている頭をフル回転させ、桜木さんには見えないのに布団の上で頭を下げた。
 にしても、引っかかる点があるのですが、私はまだ寝ぼけているのでしょうか?

「あの、」
「ん?」

 うおああああ! 寝起きに「ん?」とか耳福ありがとうございます、ハスキーボイスありがとうございます! お蔭で目が覚めました!
 そして問題点に改めて気づきましたとも!!

「何故私の電話番号を桜木さんが知っているのでしょうか?」

 そう、昨日桜木さんはあたしに連絡先を渡してくれたが私は渡してない。そして頂いた連絡先に電話はおろかメールすらしていないのだ。

 悩みに悩んで出した結果は、「どうせ連絡しなきゃ切れる縁だからいいか」である。

 いや、本当はした方が礼儀というかマナーというか、「メールしろ」と言われた時点でしなくてはいけないのだろう。
 しかしながら、あたしはチキン野郎でして。しかも男にメールとか、ハードルが高すぎまして。……何かイライラしてきたから今日の夕飯は親子丼にして鳥を食べ倒そう。

 警察官と言っても個人情報の電話番号なんて調べることはできても、持ち出すことなんてできないだろう。
 なのに何故私の携帯番号を知っているのでしょうか!?
 それに悪いことなんてしていません! したことがあるのは弟のお菓子を横取りくらいです! 信じてください!!

 私の疑問は予想想定内だったのだろう、電話の向こうで桜木さんは笑う。何となく声が黒色を帯びているような気がするのは気のせいだろうか? 腹黒そうな、こう、いじめっ子が玩具に対して話
しかけるそんな声色。

「咲子に聞いたんだ、ごめんね? でも、相葉さんも悪い子だね連絡してって言ったのに」

 俺、連絡来るの待ってたんだよ? なんて何処の乙女ゲームのセリフです
か。

 そして、さっきの予感的中しました。この人絶対にドがつくSだ。あと富谷は後でしばく。思わぬところで繋がりがあったか、絶対しばき倒す。

「その件については申し訳御座いません、家に帰ってすぐに寝てしまいまして」
「何てメールすればいいか分からなくて諦めた、とかじゃなくて?」

図星ですがなにか? 可笑しいな、嘘をつくのは下手な方でもないんだけど……いや、普段はつきませんのでご安心を。

 黙り込んだあたしに「当たり?」と電話の向こうで笑う桜木さん。
 くそう、大人の余裕というか、振り回されているというか。

「連絡しなかったことは本当に申し訳ございません。お詫びは富谷に渡しますので。では、失礼しま「申し訳ないと思ってるのならちょっと付き合ってよ」

 「失礼します」と電話を切るつもりだったのに、どうしてどこかの小説のようなテンプレのセリフがでてくるのですか。

 「はい?」言葉の意味が分からず思考を飛ばしている間に電話の向こうの桜木さんは話を続ける。

「十二時、東口に集合ね、ご飯は食べてこなくていいよ」
「はい? え、東口?」
「あ、なんなら家に迎えに行こうか?」

 家、市内でしょう? バレてる、昨日嘘ついたことが全部バレてるー! なんで!? って情報源は富谷か! あいつ本当にしばくわマジで!! ラリアットでもくらわせてやる!

 「けけけ、結構です!」慌てながら断れば「残念」と笑いながら言う桜木さん。
 そして「東口だからね」と念を押され、通話終了。

 くそう、やられた。やはり年上を相手にするには構えておかなくては負ける。

 そして、玄関をピンポンピンポンドンドンドンドン叩いていた富谷咲子に着せ替え人形の如く余所行きの服を着せられ(ラリアットを喰らわせた)

 隙をみて逃げようとすれば、颯爽と現れた桜木春臣にとっ捕まり(現職の警察官様に色んな意味合いで捕まるとか洒落にならんですが)

 いつの間にか、桜木桜になっておりました。
 珍妙な名前になっちゃったよもう!


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

正妻の座を奪い取った公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹のソフィアは姉から婚約者を奪うことに成功した。もう一つのサイドストーリー。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...