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ⅩⅡ
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紆余曲折あったが、何とかチヴェッタ殿の夫という席に収まることが出来た。そして一つ屋根の下、毎朝「おはよう」「おやすみ」をかわし、俺の作った朝食を「おいしい」と笑顔で残さず食べてくれ、俺が仕事を探しに出かける際には「いってらっしゃい」と声をかけてくれる。
妻帯者の友人達が「家に帰りたい」とぼやいていた気持ちがやっとわかった。わかったのだが……。
はぁ、と溜息を吐き出す。書類の整理をしていた手を止め、眉間を押さえた。
「なんだいロート、新婚のくせに溜息なんて」
同じく書類整理をしていた領主ヘルラーがロートに問いかけた。
この町はいたって平和で、騎士という存在は正直必要最低限。町の人は副業として自警団をやっている状況だ。そのためレオーネの職探しは難航していたところ、領主ヘルラーが声をかけ、短期ではあるが仕事をさせてもらっている。
チヴェッタはレオーネに「働かなくても小遣いくらい渡しますけど。ご迷惑かけてるの私だし」と毎日金を渡してくる。いるいらないでひと悶着し、結局はレオーネが折れて金を受け取っているが、使わずに貯めている。
また、今まで使っていた寝室をレオーネに譲り、チヴェッタは作業場で寝ている。レオーネが覚悟を決めて「一緒に寝よう」とチヴェッタに声をかけたが「あー、仕事があるので先に寝ていて下さい」と逃げられた。それ以来レオーネはチヴェッタを誘えないでいた。
完全に客人扱いされている。紙の上では夫婦となったが、心と体は全く夫婦からほど遠い。
「ヘルラー様、どうしたら新婚夫婦になれますか」
「いや、既に新婚夫婦だろう? なんだ、早くも倦怠期か?」
「違います。ただ、チヴェッタ殿が……いえ、何でもありません」
「何でもありそうだが、まぁそれよりも結婚したのに家名で呼んでいるのか?」
「名前で呼んでやったらどうだ?」と書類整理に飽きたらしいヘルラーが言うと、「名前で呼ぶなと釘を刺されまして」とレオーネは力なく答えた。
「うーん、ルーチェも頑固だなぁ。近くに男を置いただけ軟化はしているとは思うが」
「……どういうことです?」
「本当はルーチェから聞いた方がいいとは思うが、」
「ルーチェは、人と関わることを避けているようだ」とヘルラーが語り始める。
「生い立ちがこれまた複雑でな。人間不信気味だったのをマーリンが時間をかけて解いていったんだが、面倒臭がり屋なのも災いして、相手に何も期待をしないほうが楽だと思ったらしい」
「それでロートとの距離を置いているのだと思うぞ」と自身で淹れた紅茶をすするヘルラーに、レオーネは『結婚四か条』と書かれた紙の内容を思い出す。
あの契約書には別れる前提の内容しか書かれていなかった。成程、チヴェッタ殿は俺が絶対離れると思っているのか。
陛下の求婚から逃れるための結婚ではあるが、俺が懇願したということをチヴェッタ殿は忘れているようだ。
「ヘルラー様、本日は早めに帰宅することは可能でしょうか?」
「好きにしなさい」と微笑むヘルラーは「ルーチェも素直になればいいものを」と心の中で呟いていた。
そうして、いつもより数時間早く仕事を切り上げ帰宅したレオーネだったが、テーブルの上のメモをみて落胆する。
メモにはこう書かれていた。
『友人宅に行ってきます。夕飯はいりません。先に寝ていて下さい』
友人とは誰だ。まずそこからわからないとレオーネは溜息を吐く。
チヴェッタ殿は町の人たちに慕われているが、友人とも呼べるほど仲の良い人はいない筈。人付き合いを避けているという話を先ほど聞いたばかりだからこそ、友人という言葉に疑問を覚えた。
……チヴェッタ殿のことを俺は何も知らない。チヴェッタ殿も俺のことは何も知らないだろう。
「まずは、知り合うところから始めなくては」
そして知ってもらわなくては、俺はチヴェッタ殿の前からいなくなったりしないということを。
「あぁ、でもいくつか知っていることがあったな」
食べることが好きで、極度の面倒臭がり屋。だが行動力は人一倍、自分の命を投げてでも他人を助けることのできる度胸の持ち主。
惚れた影響なのだろう、そのすべてが愛おしく思える。東の大陸に確か「恋は盲目」という言葉があるそうだが、うまいことをいうな。
「さて、チヴェッタ殿の好物でも作って待つとするか」
そして、簡単そうで難しい「会話」を交わし、心も体も夫婦となりたい。
*
もう少しで夕方という頃、町で唯一の医者はいつもより早めの店じまいをした。
適当に店じまいをした医者カルブは隠していた酒をすべて出し、眠そうな顔で食べ物を机の上に並べる友人をみる。
机の上には串鳥、ミートパイ、サラダや焼いた芋。甘いものとして屋台のナッツの蜂蜜漬けやらパンケーキやらドライフルーツが並び、紅茶の入ったポットと酒の入った瓶が数本。二人で飲み食べきれる量ではないと理解しながらも、これでもかと机に並べたのは二人とも疲れているからなのかもしれない。
「それで? 新妻が男の家にいていいのか?」
「友人の家兼職場と言ってよ。てか結婚はしたけど恋愛じゃないしー? あっちもあっちでお楽しみでしょうしー?」
「何言ってんだよ、騎士様は完全にルーチェに惚れてんぞ。だからお前との結婚は棚から牡丹餅」
「どっちかといえば棚からかびた饅頭、あと何ヶ月かしたら正気に戻るでしょ。綺麗なお姉さんたちに飽きたときに偶々毛色の違う女がいて、危なさそうだったから正義感振りかざして結婚してやっただけ」
「めんどくせぇなお前」
「おう、そうやって生きて来たからな!」
「自信もって言うことじゃない」と溜息をつくカルブ対しにケタケタ笑う。
私に結婚なんて向いている筈が無い。あぁでも毎朝ご飯が出てきて「おはよう」と言ってもらえるのは、少し手放しがたいかな。
「カルブこそ、アンナと連絡取ってるの?」
「……取ってるというか、手紙が毎週来る」
「差しさわりない内容で返事を書いているけど、どうしたらいいのかわからん。助けて」と頭を抱え始めたカルブに私は首を傾げた。
「あれ、カルブってアンナのこと好きだよね? ロリコンだよね?」
「ロリコンじゃねぇ!! たまたまいいなと思った子が子どもだっただけだし……正直見てるだけでよかったのに、何でこうなった」
「あの年頃の子は年上に憧れるからねぇ、手ぇ出すなよ」
「出さねぇよっ!」
「あぁもう自棄酒だ!!」と酒を一気飲みするカルブを「いい飲みっぷりだ!」と煽りながら私も酒を一口。そういえば酒を飲むのはやめようとか思っていたような気がするけど、まぁいいか!
「ルーチェ! 今日は飲むぞ! んで食うぞ!!」
「よっしゃ! 明日は休業だ!!」
「休業! 何て素敵な響きだ!!」
「それな!」
二人でゲラゲラ笑いながら、夜は更けていく……。
そうして、気がついた時にはカルブと一緒に床に寝転んでいた。
はっ、と目を覚まし自分の姿を確認。よし、衣服に乱れ無し。
何故か酒ビンを抱えて寝ていたみたいだけど貞操は守った。第一カルブと間違いなんて起こすことは絶対ないと思うけど、前歴があるので正直自分が信じられない。
隣にいるカルブを見れば、酒ビンを抱えながら大きないびきをかいている。何だか苛立ったので鼻をつまんでやると「ふがっ」と鳴いた。
カルブに診療室から持ってきた毛布を掛け、今何時だろうと窓をみると空が少し白い。やばい、夜明けだ。
日付が変わる前に帰るつもりだったのに、名ばかりの結婚とはいえ外面的によろしくない。私が悪く言われるのは結構だが、騎士様が悪く言われるのはよろしくないぞ!
まだみんな寝てる頃だし、いける! と「カルブカルブ!」とカルブを激しく揺らし起こせば「あああああ吐く、やめろはくからゆらさないでっ」と完全な二日酔いに悩まされているカルブに「帰るからね! 二日酔いの薬飲めよ!!」と早口でいう。
「がんばれよーあとふつかよいのくすりとどけてくらさい……」というカルブの見送りに手を振り、微かに明るい道を走り出す。
騎士様は夜が明けきってから起きる筈。まだギリギリ間に合うし、作業場で寝てたから裏口から入ってしまえばバレないだろう。
あとは、バレてしまった時の為に言い訳も考えなくては……そうだな、仕事の話をしていたら盛り上がったとか、国王の手先から逃げてたらこんな時間になったとか。
「あ、でも友人の家にいくってメモを置いて行ったんだし、大丈夫か」
そういやそうだった、いっか。と走ることをやめ、のんびりと歩く方へ切り替える。
このまま誰とも会わずに帰れば、外聞的には大丈夫。騎士様も私の事なんぞ心配していないだろう。むしろ「変に強い女を襲う奴なんていないだろう」と気持ちよく寝ているんじゃないだろうか。
ずるい、私もベットで寝たい。作業部屋で寝るのは意外と身体にきてたし、さっきまで床で寝ていた所為か腰が痛い。
そんなこんな考えていると見慣れた家が見えてきて、ほっと息を吐く。
表の入り口に「本日休業」のプレートをかけ、裏口へとまわり魔法で鍵を開ける。
そろり、抜き足差し足忍び足なんて心の中で唱えながら暗い廊下を歩き、作業部屋へ向かおうとすると、何かにぶつかった。
あれ、こんなところに柱なんてあったっけ。しかも太くて、生温くて、低音で「おかえり」と言う柱なんてありませんでしたよね!?
「あ、え、っと、ただいまです」
「どこにいた」
「ゆ、友人の家に」
「こんな時間まで?」
「す、すみませんっ気がついたら寝てました!」
「本当は日付が変わる前に帰るつもりでした!!」と頭を下げれば「はぁ」と溜息を吐かれた後、顔を上げさせられてぎゅっと抱きしめられる。
え、待って、何でこうなる? 師匠だったら頭を叩いた後に正座させられて三時間程説教を聞かされるのに。
「無事でよかった。てっきり陛下の部下にでも捕まったのかと思ったぞ」
酒飲んで爆睡してました。とは言えません。
ずっと起きて待っていてくれたのだろう、騎士様の顔には疲れが見える。申し訳ない事をしたなと反省し、「すみません」ともう一度謝った。
「寝ててよかったのに、メモにも書いてましたよね?」
「書いてはいたが、チヴェッタ殿とちゃんと話をしたいと思ってな」
「ところで、チヴェッタ殿の友人とは誰だ?」と聞いてくる騎士様にギクリと身体を震わせる。
カルブとは友達で、男女という括りなんてないつもりだが、他人からみたらそうでないことくらい理解はしている。男女間の友情なんぞないという人もいることも理解している。だからこそ、言いにくい。どうやってはぐらかそうか。
いや、はっきり言っちゃった方がいいのか? あーもう頭が働かない! めんどくさいしいいや!
「えっと、カルブ・ドゥトールという医者知ってますか?」
「……あの男の医者か? まさか二人きりだったとは言わないよな?」
「あー、えーっと、すみません。二人でお酒飲んでました。でも酒飲んで話してただけなので変な事なんて有りませんし第一カルブと間違いなんて絶対置きませんから! ほら証拠に服も特に乱れてないですし!」
「ね!」とクルリ姿をみせるようにその場で回れば、わかってくれたのか騎士様は「そうか」と呟いた。
よっしゃ、今日は話が通じているぞ。と、思ったのは一瞬だけでした。
「そんなに俺が嫌か。ならば、別れてやる。だが今日一日抱かせろ。そしたら別れてやる。」
「はい!?」
妻帯者の友人達が「家に帰りたい」とぼやいていた気持ちがやっとわかった。わかったのだが……。
はぁ、と溜息を吐き出す。書類の整理をしていた手を止め、眉間を押さえた。
「なんだいロート、新婚のくせに溜息なんて」
同じく書類整理をしていた領主ヘルラーがロートに問いかけた。
この町はいたって平和で、騎士という存在は正直必要最低限。町の人は副業として自警団をやっている状況だ。そのためレオーネの職探しは難航していたところ、領主ヘルラーが声をかけ、短期ではあるが仕事をさせてもらっている。
チヴェッタはレオーネに「働かなくても小遣いくらい渡しますけど。ご迷惑かけてるの私だし」と毎日金を渡してくる。いるいらないでひと悶着し、結局はレオーネが折れて金を受け取っているが、使わずに貯めている。
また、今まで使っていた寝室をレオーネに譲り、チヴェッタは作業場で寝ている。レオーネが覚悟を決めて「一緒に寝よう」とチヴェッタに声をかけたが「あー、仕事があるので先に寝ていて下さい」と逃げられた。それ以来レオーネはチヴェッタを誘えないでいた。
完全に客人扱いされている。紙の上では夫婦となったが、心と体は全く夫婦からほど遠い。
「ヘルラー様、どうしたら新婚夫婦になれますか」
「いや、既に新婚夫婦だろう? なんだ、早くも倦怠期か?」
「違います。ただ、チヴェッタ殿が……いえ、何でもありません」
「何でもありそうだが、まぁそれよりも結婚したのに家名で呼んでいるのか?」
「名前で呼んでやったらどうだ?」と書類整理に飽きたらしいヘルラーが言うと、「名前で呼ぶなと釘を刺されまして」とレオーネは力なく答えた。
「うーん、ルーチェも頑固だなぁ。近くに男を置いただけ軟化はしているとは思うが」
「……どういうことです?」
「本当はルーチェから聞いた方がいいとは思うが、」
「ルーチェは、人と関わることを避けているようだ」とヘルラーが語り始める。
「生い立ちがこれまた複雑でな。人間不信気味だったのをマーリンが時間をかけて解いていったんだが、面倒臭がり屋なのも災いして、相手に何も期待をしないほうが楽だと思ったらしい」
「それでロートとの距離を置いているのだと思うぞ」と自身で淹れた紅茶をすするヘルラーに、レオーネは『結婚四か条』と書かれた紙の内容を思い出す。
あの契約書には別れる前提の内容しか書かれていなかった。成程、チヴェッタ殿は俺が絶対離れると思っているのか。
陛下の求婚から逃れるための結婚ではあるが、俺が懇願したということをチヴェッタ殿は忘れているようだ。
「ヘルラー様、本日は早めに帰宅することは可能でしょうか?」
「好きにしなさい」と微笑むヘルラーは「ルーチェも素直になればいいものを」と心の中で呟いていた。
そうして、いつもより数時間早く仕事を切り上げ帰宅したレオーネだったが、テーブルの上のメモをみて落胆する。
メモにはこう書かれていた。
『友人宅に行ってきます。夕飯はいりません。先に寝ていて下さい』
友人とは誰だ。まずそこからわからないとレオーネは溜息を吐く。
チヴェッタ殿は町の人たちに慕われているが、友人とも呼べるほど仲の良い人はいない筈。人付き合いを避けているという話を先ほど聞いたばかりだからこそ、友人という言葉に疑問を覚えた。
……チヴェッタ殿のことを俺は何も知らない。チヴェッタ殿も俺のことは何も知らないだろう。
「まずは、知り合うところから始めなくては」
そして知ってもらわなくては、俺はチヴェッタ殿の前からいなくなったりしないということを。
「あぁ、でもいくつか知っていることがあったな」
食べることが好きで、極度の面倒臭がり屋。だが行動力は人一倍、自分の命を投げてでも他人を助けることのできる度胸の持ち主。
惚れた影響なのだろう、そのすべてが愛おしく思える。東の大陸に確か「恋は盲目」という言葉があるそうだが、うまいことをいうな。
「さて、チヴェッタ殿の好物でも作って待つとするか」
そして、簡単そうで難しい「会話」を交わし、心も体も夫婦となりたい。
*
もう少しで夕方という頃、町で唯一の医者はいつもより早めの店じまいをした。
適当に店じまいをした医者カルブは隠していた酒をすべて出し、眠そうな顔で食べ物を机の上に並べる友人をみる。
机の上には串鳥、ミートパイ、サラダや焼いた芋。甘いものとして屋台のナッツの蜂蜜漬けやらパンケーキやらドライフルーツが並び、紅茶の入ったポットと酒の入った瓶が数本。二人で飲み食べきれる量ではないと理解しながらも、これでもかと机に並べたのは二人とも疲れているからなのかもしれない。
「それで? 新妻が男の家にいていいのか?」
「友人の家兼職場と言ってよ。てか結婚はしたけど恋愛じゃないしー? あっちもあっちでお楽しみでしょうしー?」
「何言ってんだよ、騎士様は完全にルーチェに惚れてんぞ。だからお前との結婚は棚から牡丹餅」
「どっちかといえば棚からかびた饅頭、あと何ヶ月かしたら正気に戻るでしょ。綺麗なお姉さんたちに飽きたときに偶々毛色の違う女がいて、危なさそうだったから正義感振りかざして結婚してやっただけ」
「めんどくせぇなお前」
「おう、そうやって生きて来たからな!」
「自信もって言うことじゃない」と溜息をつくカルブ対しにケタケタ笑う。
私に結婚なんて向いている筈が無い。あぁでも毎朝ご飯が出てきて「おはよう」と言ってもらえるのは、少し手放しがたいかな。
「カルブこそ、アンナと連絡取ってるの?」
「……取ってるというか、手紙が毎週来る」
「差しさわりない内容で返事を書いているけど、どうしたらいいのかわからん。助けて」と頭を抱え始めたカルブに私は首を傾げた。
「あれ、カルブってアンナのこと好きだよね? ロリコンだよね?」
「ロリコンじゃねぇ!! たまたまいいなと思った子が子どもだっただけだし……正直見てるだけでよかったのに、何でこうなった」
「あの年頃の子は年上に憧れるからねぇ、手ぇ出すなよ」
「出さねぇよっ!」
「あぁもう自棄酒だ!!」と酒を一気飲みするカルブを「いい飲みっぷりだ!」と煽りながら私も酒を一口。そういえば酒を飲むのはやめようとか思っていたような気がするけど、まぁいいか!
「ルーチェ! 今日は飲むぞ! んで食うぞ!!」
「よっしゃ! 明日は休業だ!!」
「休業! 何て素敵な響きだ!!」
「それな!」
二人でゲラゲラ笑いながら、夜は更けていく……。
そうして、気がついた時にはカルブと一緒に床に寝転んでいた。
はっ、と目を覚まし自分の姿を確認。よし、衣服に乱れ無し。
何故か酒ビンを抱えて寝ていたみたいだけど貞操は守った。第一カルブと間違いなんて起こすことは絶対ないと思うけど、前歴があるので正直自分が信じられない。
隣にいるカルブを見れば、酒ビンを抱えながら大きないびきをかいている。何だか苛立ったので鼻をつまんでやると「ふがっ」と鳴いた。
カルブに診療室から持ってきた毛布を掛け、今何時だろうと窓をみると空が少し白い。やばい、夜明けだ。
日付が変わる前に帰るつもりだったのに、名ばかりの結婚とはいえ外面的によろしくない。私が悪く言われるのは結構だが、騎士様が悪く言われるのはよろしくないぞ!
まだみんな寝てる頃だし、いける! と「カルブカルブ!」とカルブを激しく揺らし起こせば「あああああ吐く、やめろはくからゆらさないでっ」と完全な二日酔いに悩まされているカルブに「帰るからね! 二日酔いの薬飲めよ!!」と早口でいう。
「がんばれよーあとふつかよいのくすりとどけてくらさい……」というカルブの見送りに手を振り、微かに明るい道を走り出す。
騎士様は夜が明けきってから起きる筈。まだギリギリ間に合うし、作業場で寝てたから裏口から入ってしまえばバレないだろう。
あとは、バレてしまった時の為に言い訳も考えなくては……そうだな、仕事の話をしていたら盛り上がったとか、国王の手先から逃げてたらこんな時間になったとか。
「あ、でも友人の家にいくってメモを置いて行ったんだし、大丈夫か」
そういやそうだった、いっか。と走ることをやめ、のんびりと歩く方へ切り替える。
このまま誰とも会わずに帰れば、外聞的には大丈夫。騎士様も私の事なんぞ心配していないだろう。むしろ「変に強い女を襲う奴なんていないだろう」と気持ちよく寝ているんじゃないだろうか。
ずるい、私もベットで寝たい。作業部屋で寝るのは意外と身体にきてたし、さっきまで床で寝ていた所為か腰が痛い。
そんなこんな考えていると見慣れた家が見えてきて、ほっと息を吐く。
表の入り口に「本日休業」のプレートをかけ、裏口へとまわり魔法で鍵を開ける。
そろり、抜き足差し足忍び足なんて心の中で唱えながら暗い廊下を歩き、作業部屋へ向かおうとすると、何かにぶつかった。
あれ、こんなところに柱なんてあったっけ。しかも太くて、生温くて、低音で「おかえり」と言う柱なんてありませんでしたよね!?
「あ、え、っと、ただいまです」
「どこにいた」
「ゆ、友人の家に」
「こんな時間まで?」
「す、すみませんっ気がついたら寝てました!」
「本当は日付が変わる前に帰るつもりでした!!」と頭を下げれば「はぁ」と溜息を吐かれた後、顔を上げさせられてぎゅっと抱きしめられる。
え、待って、何でこうなる? 師匠だったら頭を叩いた後に正座させられて三時間程説教を聞かされるのに。
「無事でよかった。てっきり陛下の部下にでも捕まったのかと思ったぞ」
酒飲んで爆睡してました。とは言えません。
ずっと起きて待っていてくれたのだろう、騎士様の顔には疲れが見える。申し訳ない事をしたなと反省し、「すみません」ともう一度謝った。
「寝ててよかったのに、メモにも書いてましたよね?」
「書いてはいたが、チヴェッタ殿とちゃんと話をしたいと思ってな」
「ところで、チヴェッタ殿の友人とは誰だ?」と聞いてくる騎士様にギクリと身体を震わせる。
カルブとは友達で、男女という括りなんてないつもりだが、他人からみたらそうでないことくらい理解はしている。男女間の友情なんぞないという人もいることも理解している。だからこそ、言いにくい。どうやってはぐらかそうか。
いや、はっきり言っちゃった方がいいのか? あーもう頭が働かない! めんどくさいしいいや!
「えっと、カルブ・ドゥトールという医者知ってますか?」
「……あの男の医者か? まさか二人きりだったとは言わないよな?」
「あー、えーっと、すみません。二人でお酒飲んでました。でも酒飲んで話してただけなので変な事なんて有りませんし第一カルブと間違いなんて絶対置きませんから! ほら証拠に服も特に乱れてないですし!」
「ね!」とクルリ姿をみせるようにその場で回れば、わかってくれたのか騎士様は「そうか」と呟いた。
よっしゃ、今日は話が通じているぞ。と、思ったのは一瞬だけでした。
「そんなに俺が嫌か。ならば、別れてやる。だが今日一日抱かせろ。そしたら別れてやる。」
「はい!?」
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